のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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62.オークの家にお泊りしよう

 

「町の市場に行くのなら〜♪」

「パセリ、セージ、ローズマリー、ラベンダー、クレソン、リーリエ、わさび、ミント、パクチー、オレガノ、ベルガモット、レモンバーベナ、大葉…」

「ハーブのくだり長過ぎるよ!」

 

 呑気に歌いながら城までの道を馬車を伴って進む。港町からは少し距離があり、急がなければ三昼夜はかかるらしい。平野には畑が広がっており、東洋から輸入されたと思しき中華風の装飾がついた犂を体格の良いオークが引いていた。またオリーブやオレンジ、ぶどうなどの木が植えられている農地もあり、農民たちは勤勉に働いているようだ。

 

「牧歌的な風景だなぁ、もう見飽きたけど」

 

 アカネは欠伸混じりに言った。巡回している衛兵たちと時々すれ違うが、彼らは特に何も言ってこない。とても盗賊が近くに住み着いているとは思えないほどだ。実際、そのような噂は道中でも聞かなかった。みな、もう行くのやめようかな……と思い始めたが、途中でやめてもしょうがないので旅を続ける。やがて日が傾き始め、農民の家に泊めてもらえることとなった。

 

「お邪魔しちゃってすみません」

「構わん。農民やってると他所の人との交流の機会が少なくてな」

 

 オークの農夫はそう言って豪快に笑った。彼の妻は夕食の準備をしており、2歳ぐらいの娘が家の中を駆け回っており、元気いっぱいだった。本当にひたすら家の中を駆け回っていた。

 

「このぐらいの歳の子はこんなものですよ! 私、実は妹の世話もしたことありますから!」

 

 そう言ってステラが彼女を抱えようとすると、引っぱたかれた上に腕に噛みつかれてしまった。

 

「ぐわああああああ!」

「暴れん坊だな」

「こらエリザ、噛むなら頸動脈といつも言ってるだろ!」

「ひぃぃ! オーク(戦闘種族)の英才教育ですかぁ!」

 

 娘が暴れまわっている間に、ジロたち一行が持ち込んだ食材で料理が作られていく。この地域のオークは東隣のロタール王国との関わりが強く、そちらの食文化が流入しているようだ。

 

「すごくイタリア料理っぽい……!」

 

 農夫の妻のお手伝いをしながら、アカネは感動に打ち震えていた。平麺に絡められたソースはバターとニンニクのいい香りがする。

 

「オークは小麦粉を練った生地をひたすら叩く。岩投げの的にしたり、巨岩で踏み潰したり。そうしてコシの強い平麺が出来るんだよ」

 

 オーク文化圏に麺がもたらされた際、手の大きいオークは細い麺を作るのを面倒くさがり、平らに伸ばして切るだけの平麺が一般的となったらしい。これは獣人が多く住むロタール王国南部の麺の形状に似ている。

 

「はい、お待ちどお。ステーキ麺だよ」

 

 が、その美味しそうなパスタの上に牛赤身肉のステーキがバターとハーブの香りを漂わせ、鎮座していた。

 

「すごくアメリカ料理っぽい……」

 

 アカネは少しだけガッカリしたが、見た目通りの味だったので結局とても喜んで食べた。白インゲンの煮物も並べられ、豪華な晩餐である。

 

「盗賊なんて、ここ数年見てねえなぁ」

「そうか」

 

 食事中にジロがそれとなく訊いてみたところ、そんな答えが返ってきた。

 

「だがその、目的地の山城についてなら少し知っている。あそこは昔、貴族が住んでいたんだが、女神信仰を匿っていたそうだ」

「女神信仰?」

「ああ、なんでも、ローナって女神を称える宗教さ。子供の頃よくあの山に登って遊びに行った、とっくに誰も住んでなかったからな。かなりボロボロになってたから、多分神龍教徒に見つかって敗れ去ったんだろうな」

 

 彼は懐かしそうにそう言った。

 

「女神……私ときさらぎの鏡を追っているのは一体なぜなんだろう」

 

 アカネが呟くと、ジロは少し考え込んだ後言った。

 

「きっと碌なことではない。やましいことがなければ直接取りに来ればいい、だのにそうはしなかった」

「確かそれは言えてるかも」

 

 ジロの言葉に一同頷いた。翌日、一行は農夫たちに礼を言い、馬車に乗って出発する。

 

「こらエリザ! エルフのお姉ちゃんを離しなさい!」

「ぐえぇ〜〜! 首がもげる〜〜〜〜!!」

 

 ステラは農夫の娘に何故か懐かれてしまったようで、頭にしがみつかれたまま引き剥がすことが出来ずにいた。なんとか引き剥がし、ようやく出発出来たものの、彼女はぐったりして荷台に寝転んでいた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 山の麓の集落でも一泊した翌朝、ジロたちは山道へと入った。

 

「ここからは降りて歩こう、馬への負担を軽減するんだ」

 

 ジロの提案に女子二人はとても嫌そうな顔をする。

 

「えぇーっ! 嫌ですぅー! アカネさんもそう思いますよね!?」

「本音を言うとそうだけど……」

「これまで散々お世話になったんだから、少しぐらい労ってあげてもいいだろう。なあ、ウマ吉。ソーダヨオリテヨ。ほらな」

「ジロさんの裏声じゃん!」

 

 馬が喋れるわけもなく、ただ鼻を鳴らすだけである。

 

「はぁ~あ、わかりましたよぉ」

 

 渋々と言った様子で二人は馬車から降りて歩き始めた。馬車がギリギリ通るぐらいの整備もされていない細い道を上がっていく。雑草が生い茂っているが、朽ちた立て札などの人工物も転がっており、確かに人が通っていた事を伺わせる。やがて山頂付近の道に出ると、城壁が見えてきた。

 

「昔の人って、よくもまあこんなところに城を建てるよね……」

 

 たまには現代人らしい事を言うアカネ。何しろここは断崖絶壁の上であり、岩山の上にそのまま城壁と城が乗っかっているような構造をしていた。門の前では、洗濯物を干している虎獣人のおっさんがいた。

 

「洗濯物を干すぞ♪ お日様ぽかぽかいい天気♪」

「歌まで歌っている……!」

 

 一行はしばらくそれを眺めていたが、見られているのに気がついたおっさんは慌てて城壁の中へと走り、数分後に鎧と斧を装備した姿で再び現れた。

 

「待っていたぞ、アカネ……! お前たちが来るのをずっと見てたぞ!」

「嘘つけ、洗濯物干してたじゃん!」

「いや、転生者って元々は子供とかが多いから家事とかあまりしてくれないんだよ……僕はおっさんだから、僕がみんなの分をやってるんだ」

「そこまでしてあげる必要ないでしょ!?」

 

 アカネが思わずつっこんだが、虎獣人のおっさんは首を横に振った。

 

「いや、あの子たちを見ていると、この世界に転生する前にいた子供たちを思い出してね……つい」

 

 おっさんは感慨深そうに空を見上げる。その目は潤んでいるようにも見えた。そして彼は一同に向き直ると、おもむろに斧を構える。

 

「それはともかくだ、きさらぎの鏡を渡してもらう」

 

 一行に緊張が走る。さぁ、戦いだ!

 




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