のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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65.黒い鎧の怪しいやつ

 

 ところで時間は遡り、西方世界各地での事。かつてジロたちが旅をしたログレスのキャメロット城では、サヤカが夫リチャードと共に客人の応対をしていた。彼女をある一人のクラスメイトが訪ねたのである。

 

「アカネなら旅に出てるよ。行き先は知らない」

「そうか。お前も女神様の話聞いただろ?」

「ええ、まあ……」

「すげー報酬が貰えんだろ、探しに行こうぜ」

 

 どうやらこの人物は女神の布告を聞き、自身のクラスメイトでもあったアカネを女神に引き渡すつもりのようであった。

 

「クラスメイトだよ? それをあの胡散臭い女神に引き渡すの?」

「別に悪いようにはしないだろ、女神も」

「そう……それじゃあ、手伝ってあげる」

「そうか、ありがとよ」

 

 彼が礼を言った瞬間、その胸に大穴が空いた。

 

「ひょっ……!?」

 

 即座に息絶えた。祝福(チート)を使う間もなかった。

 

「アカネを狙うなんて不届き千万。彼女は私が守る、そのために修行を積んできた」

 

 これはサヤカの仕業であった。彼女の爆発する拳の祝福(チート)の応用である。サヤカは、アカネへの友情を極めた豪傑となっていた! 自身の能力を使いこなすために修行をこなし、また男児も一人しっかりと産んでおり跡継ぎもとりあえず今のところは問題なかった。

 

「あの子を探さないとね。きっと本人には知らされていないはず。クラスメイトでさえも信用できないなら……リチャード」

「ああ、行っておいで……でも必ず帰ってきてくれよ、愛する妻よ」

「もちろん。アカネが作ってくれた幸せを壊したりはしない」

 

 彼女は窓から飛び出すと、足からロケット噴射を吹かし飛び上がった。そして空を飛びながら、女神の言っていたサヤカの場所を目指す。

 

(アカネは人生を賭して私を助けてくれた。なら、私も人生を懸けてアカネを助ける……!)

 

 そしてその一方、西方世界の東部、ステラの故郷のある地域の南のエルフの氏族、マジャーリー部族領の領都、ブレダペッシオンの宮廷にて。

 

「日本人どもがかの邪神からお告げを聞いたというのは本当かね」

 

 族長が宰相に問いかける。

 

「それは事実でございます、長。各地からの情報によれば、稀人の一部はセプティマーニュへと移動を始めております。また、お告げについて隠しもしない者もいるとのことです」

「全く、日本人らしい軽薄さだ」

 

 それはさながら、豚が生ゴミや糞便に群がるのを目前で見ているかのような、侮蔑的な声色だった。どういう声色だよ。

 

「つまり、きさらぎの鏡……対日(稀人ぶっ殺し)兵器零号の存在も事実なのか」

 

 対日(稀人ぶっ殺し)兵器、いつぞやの浄化爆弾などの、かつての大国が作った稀人たち転移転生者に対抗するための七種類の超兵器である。つまるところ、きさらぎの鏡は存在しないとされていた欠番、言わば第零号であった! ……まだ二号の浄化爆弾しか明らかになってないのに、もう零号とかが出てきてしまって大丈夫なのだろうか。

 

「ええ、間違いございません。あの女神が食いついたのですから。複数の証言があります。しかし、使用可能か、または使用されたか、という点につきましてはまだなんとも」

「……黒軍を出せ」

「めっちゃめちゃかしこまり~☆ 衛兵、すぐに伝令を出せ」

「えぇ、今のやつなんなん……?(ハッ、直ちに)」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 時と場所は戻り、ノコノコとアカネとステラが広間に戻ってきた。

 

「わっ! ジロさん負けてる!」

 

 アカネが慌てて彼の方へと駆け寄る。そして、彼がピクリとも動かない事に気付くと顔を青ざめさせた。

 

「ちょ、ちょっと! これってまさか……死んでる……またまたぁ、いつもの冗談でしょ?」

 

 彼女は返事がないことを確認すると泣きそうな顔になりながら彼の体を揺さぶる。

 

「ねぇ、起きてよぉ……こんな所で寝たら風邪引くよスペイン風邪、ほら、起きなってば!」

「その犬は死んだ……俺の祝福(チート)でな」

 

 ヨカゲの冷たい声が響く。それを聞いたアカネは信じられないと言った様子で目を丸くした。

 

「そ、そんな……」

「俺の祝福(チート)、それは感染者を好きなときに抹殺することが出来るウィルスだ。感染した者は俺の一存で死ぬことになる。まぁ、ここにいる人間は全て、既に感染しているからもう手遅れだ」

「……」

 

 アカネはその場にへたり込んだ。彼女の目から涙が溢れ出す。一方で、その様子を見ていたステラの精神は落ち着いていた。まだユニコーンの角の効能が効き続けていたのである。

 

「アカネさん! 今後は『のんきなエルフとくたびれオオカミ』ではなく『のんきなエルフとやさぐれJK』の二人でなんとかやって行きましょう!」

「今はツッコミ出来ないよ……!」

 

 こんな状況でもステラは容赦なくボケる。とても過酷な現実であった。ヨカゲはそんなやり取りを無視し、アカネに近づく。

 

「さあ、きさらぎの鏡を渡せ。まぁそうだな、生き返らせる手段でも女神に貰って、蘇生してやってもいいが」

 

 彼はそう言いながら手を伸ばす。だが、アカネは顔を合わせもしなかった。

 

「もうどうでもいいよ……門の前の馬車に入ってるから勝手に持っていって……」

「……」

 

 どうやら諦めてしまったらしい。ヨカゲはその態度に異様に苛立ちを覚えたものの、言われた通りに門の方へと歩き始めた。

 

(このクソ女、まるで俺が悪人みたいじゃないか……!)

 

 心の中でそう毒づく。しかし、同時に彼はホッとしていた。もしここで戦いになれば、同じ日本人を殺すことになる。それには流石に抵抗があったのである。薄暗い通路を進み、大きな門の前に着いた。すると、そこでは三人の謎の人物たちが、壁に寄りかかって意識を失っているサンダーアックス将軍を心配そうに見つめていた。

 

「大丈夫、なのかな」

「ううむ、息はあるみたいだが」

「もうほっといてもいいんじゃないか。寝てるだけだろ、天気もいいし」

 

 お互いに面識がない上、目的もわからないので気まずい雰囲気になっていた。そこに、ヨカゲがやってくる。

 

「おい、お前たち、こんなところで何をしているんだ?」

 

 彼は訝しげに問いかける。それに対して、三人は顔を見合わせた後、一人が前に出た。黒い甲冑を身に纏っており、声からして女のようだ。

 

「私はきさらぎの鏡なるものを探している。何か知らないか?」

「……知らない」

「ではなぜこの城から出てきたんだ?」

「……それは、俺がこの城の城主だから」

 

 彼は咄嗟に嘘でごまかそうとする、しかし。

 

「ほう、お前がこのベロベロチュー城の城主だと」

「この城そんな名前なのか!?」

 

 ついツッコんでしまい、ヨカゲはハッとする。そして、しまったと思った時にはもう遅い。女はウォーピックを構える。

 

「お前、怪しいな」

「くっ、全身黒鎧のお前に言われたくはない!」

 

 両者の間に緊張が走る。このままでは戦う事になるだろう。それを察したのか、他の二人は慌てて止めに入る。

 

「まあ待て。待て、待てて。別にまだ争う必要はないだろ」

「そうだよ。まあでも、もしアカネたちに危害を加えていたら自動的に殺すけど」

 

 二人の言葉を聞いて、ヨカゲは内心舌打ちをする。やはり、こいつらもきさらぎの鏡を狙っているのだ。ならばどうするべきか。彼らのうちの一人、すなわちサヤカには、アカネのことを伝えることは出来ない。彼女の仲間を殺してしまったからだ。

 

「あ、それと、狼獣人の男を知らないか、ジロって言うやつだけど」

 

 獣耳の少女の発言を聞き、ヨカゲはこの場を切り抜けるには三人とも殺すしかないと考える。彼は覚悟を決めた。しかし、その雰囲気を感じ取ったのか、甲冑の女も腰のウォーピックに触れる。

 

「下手な動きをすると殺すぞ」

「っ!」

 

 一触即発の空気が漂う。そんな中、サンダーアックス将軍が目をゆっくり開けた。そして目の前の状況を見ると慌てて割って入る。

 

「君たち! 喧嘩はよくない!」

 




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