のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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67.きさらぎの鏡

 

「くそ、逃げられた」

 

 悪態をつき、地団駄を踏むカタリン。しかし女神ローナは逃げたわけではない、普通に体力不足で帰っただけである。もちろんそんな事は知りようもないので、カタリンはやっぱり無闇矢鱈に地団駄を踏む。さながらタップダンスのようであり、現場にはなんで急に踊りだしたんだ……みたいな微妙な雰囲気が流れる。すると突然ステラが声を上げた。

 

「ウワーッ!! 情緒がめちゃくちゃですよぉーーー!!」

 

 唐突に大声を上げて泣き始めるステラに一同は面食らった。しかし泣くのも無理はない、彼女はこの短時間で強姦未遂、持ち物の喪失、親しい者の死と復活を経験しており、その間ずっとユニコーンの角の粉末の効果により冷静な状態を強制されていたのである。ようやく粉末の効能が切れ、一気に感情が吹き出した。そんな彼女にアカネは寄り添う。

 

「大丈夫、もう全部終わったよステラ」

「いや、これは始まりに過ぎないのです……」

 

 こんな状態でもしっかり胡乱な事を言うステラ。案外平気だったりするのではないかとアカネは思ったが、縋り付いて泣き腫らす彼女を見て、黙って背中をさすった。

 

「さて、それで……状況を整理しようか。まずはそこの稀人と股間ツルツル野郎を拘束する」

 

 カタリンの提言に従い、ヨカゲと股間ツルツル野郎は抵抗する気もなくしたようで大人しく縄で縛られていた。

 

「もう俺は糞詰まりで死ぬしか無いんだ……」

「性犯罪者に相応しい最期だな」

 

 嘆く股間ツルツル野郎にヨカゲは吐き捨てる。

 

「股間ツルツル野郎くん、残念だけど、僕には擁護は出来そうにない」

 

 サンダーアックス将軍は悲しげな表情で言った。

 

「俺の名前はもう股間ツルツル野郎で決定なの……?」

 

 相応しい名前だと思うけど……ともかく、一同は何があったのかをお互いに話し始めた。きさらぎの鏡を求めたヨカゲたちとカタリン、そして暇なのでノコノコ現れたジロたち一行、アカネを助けるためにやってきたサヤカ、ジロを探しに来たナムヒ。

 

「ちょっと呆れるな」

「そうだね……アカネ……」

「うっ、そんな目で見ないで……!」

 

 特に理由があるというでもないのにわざわざ罠に引っ掛かりに来たジロたちにその他の面子は呆れ果てた。しかもジロは死にかけたというか一度死んでいる。実際馬鹿である。

 

「でも、仕方ないじゃん! 物語の都合上!」

「物語って言わないで」

 

 アカネの言い分はサヤカにシャットアウトされる。粉末の効果は切れたのか冷静さは失っていた。次に尋問されるのはヨカゲたちであった。

 

「俺たち……俺は、この人殺ししか出来ない能力とは別の能力を手に入れたかった、女神にきさらぎの鏡を渡してな」

「では、女神の企みは知っているか」

 

 カタリンが問いただすも、彼は首を振った。

 

「いや、鏡を持って来いとだけ」

「……本当に知らなそうだな。まあ、女神は狡猾だ、お前ら木っ端のゴミに計画を教えたりはしないだろう」

「口悪っ」

 

 彼女もエルフの例に漏れず、まあまあ性格が悪かった。

 

「俺はもう人殺しはしない。この稲を出す能力を使って人助けでもするよ」

「いや、これまでの罪は別に帳消しにはならない」

「えっ」

 

 カタリンは俄に彼に巻かれた縄を掴むと、そのまま抱え上げ、崖の下に放り投げた。声を上げることすらままならず、彼は落ちて行った。

 

「ひゅーっ、やるねえやるねえ」

 

 ナムヒは崖下を覗き込んで、口笛を鳴らすが、そんな様子を見ていた稀人たちは唖然としていた。そしてこの世界が未だ中世であることを再認識した。

 

「ていうか、ジロさんが残機使った相手がこんな最期でいいんですか?」

「残機って言わないの!」

 

 ヨカゲの結末を見た股間ツルツル野郎は焦燥し、命乞いをする。

 

「な、ま、待ってくれ、俺も投げるのか!? 十分罰は受けただろ!」

「そうだな、お前はそのまま糞塗れになって苦しんで死ぬがいい」

 

 彼はカタリンの感情無き一言に怯えて座り込む。

 

「では、アカネさんとやら、きさらぎの鏡を渡してくれるかな」

「えっと、その前に、これって何なの? どういうものかは知ってるけど、どうして作られたのかなって……」

 

 彼女の言葉に、アカネは質問を返した。彼女は顎に手を当てて、少し唸ってから説明を始める。

 

「きさらぎの鏡、対日(稀人ぶっ殺し)兵器零号はかつて稀人との戦争中に開発された、稀人の『本土』を攻撃するための移動手段だ」

 

 つまるところ、この鏡に十分な魔力を注ぐと、世界を跨ぎ地球世界へと移動できる。これは先のカクリヨノヤチホコノアメノカガチが説明した通りである。

 

「……ではエルフはどうしてそれが欲しいんです?」

 

 ステラが質問する。それにはバツの悪そうな顔をするカタリン。

 

「それはな、マジャーリー族長が、昔稀人に娘を惨殺されたことを未だに恨んでおられるからだ」

「『昔』、エルフがその言葉を使うというのは相当な昔ですよ?」

「そう、つまり稀人との戦争での出来事だ、族長は報復を望んでおられるのだ」

 

 大昔、だいたい1000年ほど前、この世界では転移者転生者たち稀人の連合と現地住民たちとの戦争が起きていた。稀人たちは人類種、そしてアンデットを率いて、その他の種族を攻撃、虐殺をしていた。だが神龍たちの助力や浄化爆弾などの発明、一部人類種の寝返りによりなんとか敵性の稀人を駆逐することが出来た、しかしながら、被害は甚大であった。特にエルフの女性は度々稀人による凌辱を受けた。エルフの女性の美貌は稀人たち(つまるところ我々)の想像の通りだったからである。マジャーリー族長の娘もその被害者の一人だった。

 

「しかしカタリンとやら、お前さんはそれを望んでないように見える」

 

 ジロはカタリンの態度と口ぶりに疑問を抱き、彼女に問いかけた。

 

「事が起きれば大きな戦争になる、巻き込まれるのは私達のような稀人との戦争なんて知らない若い世代だ。馬鹿げている……族長にとっては昨日の事なのだろうし、心中は察するが」

 

 さっき人一人を崖下にぶん投げたばかりなのに平和主義的な事を言う彼女に稀人一同は若干迫力を感じつつも同意した。大きな爪痕を残し、今なおその後遺症に苦しんでいる者たちがいるとはいえ、そのような大昔の戦争は今の稀人には知る由もない事である。ましてやつい最近転移転生した者たちには。そうして、彼女は荷物からあるものを取り出した。

 

「これが欲しかったのだろう。鏡の起動に必要なクソデカ魔石だ」

「これが……」

 

 アカネはそれは受け取る。クソデカという割には手のひらサイズだが、これは魔力の含有量、純度のようなものがクソデカであり、サイズの問題ではないということである。多分。

 

「でも、任務は……」

「どうせ誰も見てやいないだろ、たぶん……なんかてきとうに言い訳をしておく」

 

 受け取るのが若干不安になるアカネであったが、他に手掛かりも持たないのでそのまま受け取った。そして、それをきさらぎの鏡の窪み部分に嵌め込む。すると鏡面が輝き、向こうの風景を映し出した。地球世界、いわゆるシン・浮世と繋がったのである。

 

「……じゃあ、私、帰るね」

「アカネ……」

 

 サヤカが、アカネの元へと駆け寄る。

 

「アカネ、その……私、ずっと謝りたいって思ってた。ごめんなさい」

「サヤカ……」

 

 アカネはニコリと広角を上げ、サヤカの肩をポンポンと叩く。

 

「そういう時は、ありがとうって言うものだよ、サヤカ」

「アカネ……ありがとう……」

「うん、元気で……それからジロさんとステラも、ここまで一緒に来てくれてありがとう」

 

 ジロとステラの方にも向き、アカネはお礼を言う。

 

「これからこの作品にツッコミ役がいなくなるのは心配だな」

「ですね」

「この作品言うな! ……んもう、別れだっていうのに、相変わらずなんだから」

「湿っぽいのは無し、だろ」

「そうですよ、私達が誓い合った座右の銘じゃないですか!」

「そんなの誓った覚えないけど……でも、そうだね、笑顔でお別れしよ! 他のみんなも、ありがとね!」

 

 彼女のことをよく知らないので適当に愛想よく手を振るその他の面々。サヤカは、再び彼女に駆け寄り、手を握った。

 

「アカネ、本当にありがとう。私の家族にもよろしくね。さようなら、私の親友」

「うん、さようなら。……親友」

 

 アカネはサヤカの手を握り返し、それから、その手を離し、きさらぎの鏡へと飛び込んだ。

 




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