のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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69.アカネ、もう出立

 

 一行が地球世界に来てから半年、ステラは動画配信者になっていた。

 

「はい! ではナーロッパユニバーサリス、今回は地下魔導帝国を初期ラッシュ縛りでプレイしていきます! まずは人種政策を少しでもマシにしていきましょう! この国は第一種族がアンデットになっているのですが、この種族は消費財を殆ど買いません。なので経済発展するには他種族を連れてくるしか無いのですが、連れてきたところで現在の政策では奴隷階級か被差別階級にしかなれず、雇用や収入にキツい制限がかかります。結果として経済のみならず文化はもちろん科学でも大幅に遅れを取ります。なので実は最強なのは序盤だけで、他国が火砲を発明した途端に戦闘で勝利することが難しくなります。なので行政改革を行いますが、残念ながらこの国の政府、指導者の所属する勢力の一強なのです。しかも種別が貴族階級、古臭い法律ばかり支持します。法律の変更が難しい、ですらなく、そもそも立案が出来ません。有用な法律もいくつか制定されていますが、この状態で変更すると元に戻せませんので注意。ではどうすべきか。臣下が死ぬか戦争に負けるかすると起きる内部対立のバッドイベントを無理やり発生させます! そうすると臣下の一部が知識層と軍部に分かれ、多少なりとも立法が可能になるんですね! では、一番の忠臣に暗殺コマンドを実行したところで、時間を進めていきましょう! 隣に『悪徳令嬢の裏の顔』のローゼン・グラント領が湧いていますね。数少ない地下魔導帝国を序盤で蹴散らすアンチユニットならぬアンチ勢力です。一旦リセットしましょう」

「また難しいゲームして……」

「シッ、今収録中です!」

 

 なんか色んなところに怒られそうなゲームを実況していた! ステラとジロの二人は現代日本に結構馴染んでしまっていたが、特にステラは目を見張るものであった。見た目は美しいエルフであるし、悪知恵が回るっちゃあ回る方なのでインターネットの荒波に乗ってサーフィンをしているのである。しかしそんな彼女にも悩みがあった。

 

「ううむ……」

「どうしたの、ステラ」

「アカネさん。時々DMで性器の写真が送られてくるのですが、これは伝統的な日本文化なのでしょうか?」

「それはね、全地球人の習性だよ……悲しい事に……」

 

 現代の社会病理であった。みんなはそんな事、絶対にやってはいけないよ。ガチでね。

 

「ステラにはジロさんがいるってことをみんなに教えてあげたら?」

「いえ、アカネさん。ジロさんのことはどうかご内密に。女性配信者は男性の存在を匂わせてはいけませんから。客前でタバコを吸う飲食店の店主がどこに居ましょうか」

「この子、現代文化の理解とプロ意識が高い!」

 

 動画配信者として順調に成長していくステラであった……。

 一方、ジロはというと、近所のコンビニでバイトをしたり、図書館に入り浸っていたりしていた。

 

「この棚は全部読んだな、次だ」

 

 彼が元々お侍であり、官僚であるということを思わせる行動であったが、ステラと比べると面白みに欠けていた。

 

「いや面白いとかそういうのじゃないし……」

 

 独り言を呟きながら本を物色する。最初図書館に訪れた時は司書にたいそうビビられたが、今では顔なじみである。ちなみに常時コスプレしている異常者だと思われている。コンビニや近所付き合いでも同様であった。隣のおばちゃんとは今や世間話をする仲だ。とはいえ、この世界に腰を落ち着ける気は毛頭ない。彼はこの世界の知識を自分たちの世界に持ち帰ろうと考えていた。当然、迎えが来るものだと信じていたのである。もちろん、帰る手段についての情報も調べはしたが、この世界に魔法が存在しない、あるいは失伝している事を知るとそれについてはすぐに調査を打ち切った。その筋の人(タチが悪い方のケモナー)によく絡まれる事を除けば、現代日本の生活を満喫していた。しかしそんな彼にも悩みがあった。

 

「俺の方が長時間働いている気がするのに、ステラの配信の方が稼ぎがいい……」

「その、ドンマイ……」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 そんな毎日が続いていたある日。ついに、見守りカメラに動きが見られた。鏡面が揺れ、異世界と繋がっていたのである。

 

「ついに帰る時が来たか……これは昨晩の出来事なのか?」

「ごめんなさい、この映像二週間前なの」

「二週間も放置してたの!? 誰か気付こうよ! 私もだけど!」

 

 せっかく繋いだのに二週間も放置され、異世界側の人達は大層ご立腹であったが、今の彼らには知る由もない、そう、鏡を使うまでは。しかしながら、こちらで出来た繋がりもある。

 

「……司書さんに、礼を言ってこなくてはな」

「引退配信しなくちゃいけませんね!」

「なんやかんやで適応できてるのすごいよね……流石は向こうの上流階級」

 

 そうして、二人は各々の繋がりを持った人物たちに別れを告げた。そして現代日本での最後の夜。

 

「……色々と、世話になったな。カエデ」

「はい……」

「なんでジロさんお母さんのこと呼び捨てなの?」

「こちらで貯めたお金は自由に使ってください。ざっと1000万ほどしかありませんが……」

「半年で1000万!? 配信者天職じゃん! 税金のあれとかめんどくさそうだけど……」

 

 しんみりとした雰囲気の中、酒を飲みながら最後の挨拶を交わし合う。

 

「今度こそ、本当にお別れだね、二人とも」

「そうだな……アカネ」

「寂しくなりますね」

 

 なんのけなしにも思えるジロとステラの返答に、アカネは目をウルウルさせる。

 

「っ……や、やだぁ! 離れたくない! もっと寂しそうにして! もっと名残惜しそうに!」

「ちゃんと寂しいから、心配するな」

「そうですよ、私も寂しいです。ガチで」

「そういうおどけた言い方するからぁ~~~!」

 

 アカネは二人に飛びつき、泣いてしまう。ジロとステラはそんなアカネを優しく撫でて慰める。

 

「二度と会えなくたって、ずっと友達だよ。ジロさん、ステラ」

「ああ、もちろんだ。アカネ」

「はい!」

 

 四人は最後の夜を過ごし、そして翌朝。浴室にて。

 

「あっちでも使えそうなものは全部まとめた。では、いくぞ」

「はい」

 

 ジロとステラは大きな荷物を鏡の中に入れようとする。入らない。詰め込み過ぎである。

 

「クソっ!!!!!!!!!!」

「うわっ!? ジロさんのガチ苛つき初めて見ましたっ!」

 

 アカネとカエデ親子は浴室からその様子を眺めていた。

 

「本当に、いっちゃうんだね」

「そうね……」

 

 感慨深い心地で二人の背中を見守る親子。しかし、カエデの、特にジロへの視線はなにやら含みの有りそうなものであった。

 

「はぁ……ジロさん……忘れないわ、お腹の子といっしょに、ずっとあなたを想い続ける」

「は? ちょっと待ってお母さん、お腹の子って?」

「……」

「……はぁ!?」

 

 凄まじい形相で浴室内に顔を向けるアカネ。しかし既に二人は鏡に飛び込んだ後であり、鏡面に波紋が描かれていた。頭に血が昇り上がったアカネは、母の手を引きその鏡の中へと飛び込んでしまう。 

 

「きゃっ」

「待ちやがれボケ犬!! 責任を取れぇーーーッ!!」

 

 叫び声の余韻が浴室に響いた。

 




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