のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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72.訳アリエルフと狼少女

 ブレダペッシオンにてのんびり過ごした後、一行は馬車に乗り北へと向かっていた。ステラは荷車の上で寝そべり具合が悪そうにしている。

 

「あー……行きたくない……」

「わかる。あれでしょ、旅行の日程決めるのは楽しいけど出発する日が近づくとだんだん行きたくなくなるやつ」

 

 アカネの言葉にそれではないと言いたかったステラであったが、返答すると鬱陶しそうなので無視を決め込んだ。そして目の前にあるフワフワした尻尾に顔を埋める。

 

「やめろエルフ」

 

 尻尾の持ち主であるナムヒは苛立ちを隠さずに冷たく言い放った。

 

「ところで、えっと、ナムヒ? のことちゃんと聞いてなかったけど、一体何者なの?」

 

 言われてみればそうである、彼女が登場してから何やらジロと何かありそうな感じを醸し出し、尚且つ今回から旅に同行している。この狼の耳と尾を持つ、東洋風の少女は一体何者なのか。作者も忘れかけているので今一度自己紹介してもらわないとならない。

 

「全くしょうがないな。あたしは見ての通りだよ」

「……いや、わかんないよ!」

 

 彼女はナムヒ・ペク。大陸東端に位置する半島出身の武家の娘である。この半島は狼耳と尻尾を生やした人類種のような種族、半獣人が支配している。東方の大国"華"や平原の遊牧エルフたちとの小競り合いが多い為、扶桑とも関係が深く、ペク家はその中でも特に扶桑に精通している一族である。10年前、ジロが大陸に落ち延びたのを拾ったのもこの家であり、ナムヒとジロはその時に出会った。その時、彼女は6歳であった。着の身着のまま、血と焦げ臭いニオイを漂わせながら小舟に乗って来たジロを彼らが匿った。

 

「お兄は、自分の方が大変なはずなのによくあたしに気にかけてくれた。食べ盛りだったあたしにご飯を分けてくれたりとか……絶対あたしのこと好きだろ!」

「うん、いやまあ……続けて」

 

 ある時、彼女は結婚の約束を提案した。幼い子供の年上に対する単なる憧れだろうと考えたのかジロは承諾した。そして程なくして彼女の前を去った。もちろん、彼女は荒れに荒れたのは言うまでもない。

 

「あたしは泣いた、産まれて初めて泣いた……そして決めた、あたしはお兄を追いかけるって」

 

 彼女はそれから修行を始めた。旅の知識を学び、稀人が持ち込んだ武術テコンドーを習得したのである。

 

「テコンドー! そっか、韓国の人が転移したんだ!」

「試しに使ってやるよ、波ァッ!!」

 

 ナムヒがそこらに転がっていた岩に手をかざし声を上げると、その手から魔力の帯びた光る熱線、つまるところビームが発射された。

 

「これがテコンドーだ」

「それはテコンドーではなくない?」

 

 実際のところ、テコンドーを持ち込んだ稀人である韓国人の青年は当初ビームが出たことにびっくりした。そしてそれはテコンドーではないと懸命に伝えたが、住民たちには聞き入れてもらえず、ビームもテコンドーということになったのである。以来テコンドーは蹴りと魔力を投射するビームを組み合わせた優れた武術ということになっている。青年は泣いた。泣いて縋ったがやっぱり聞き入れられることはなく、偉大な師として担がれてしまった。青年の枕はいつも湿っていたという。

 

「そして15歳の笄礼(けいれい)の日が終わってすぐ家を飛び出し、西へ西へと向かって、ようやく巡り会えたんだ。これはもう運命だろ」

「なんというか、あなたも愛に生きるタイプなんだね……」

 

 アカネは感心しきりであった。しかし、当人は目を伏せて深い溜め息をつく。

 

「だのにさぁ、この男は女侍らせて冷たくあしらうんだもんなぁ! なあトキジロー!」

「あしらってないし……」

 

 御者台に聞こえるようにわざと大声で言い放つナムヒ。ジロのボソッとした反論が帰ってきた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 ステラの故郷、チェヘマ族領へはマジャーリーから北上しなくてはならない。その途中には山岳地帯が存在し、やはりハイエルフの部族であり、麓に住むニトラルノ族と山の上に住むサモラヴァ族が暮らしている。チェヘマより更に北に向かえば人類種の土地シュレジェンスクが存在する。元々、チェヘマ、ニトラルノ、サモラヴァの三部族の関係は良好であったが、数十年前に発生した大陸の西と東の諸国連合がぶつかり合った東西戦争(単に大戦争と呼称されることもある)における外交姿勢の違いにより袂を分かつことになった。ニトラルノ族とサモラヴァ族は徹底抗戦に臨み国土と人民に大きな被害が生じたが、チェヘマ族は東軍西軍の両方に武器や装備など補給を融通することによって難を逃れたのである。これにより戦いが激化したという見方も存在し、戦後チェヘマはニトラルノ、サモラヴァ両族の復興支援に多くの出資を行ったが未だに裏切り者と思われている。一方で本土を戦火に見舞われることのなかったマジャーリー族には強かさを評価されているので特に悪感情はない。そしてチェヘマの外交方針を主導したのが、チェヘマ族族長にしてステラの母親でもある武器商人、エミーリア・シュコダであった。

 

「さらっと重要な情報が出なかった!?」

 

 目覚めた瞬間、アカネが叫んだ。現在一行はニトラルノ族領のとある宿屋に泊まっていた……正確には馬小屋にである。東洋人三人に裏切りエルフの一行がまともに宿に泊まれるはずもなく……。

 

「東洋人は昔の話だからともかくだ、チェヘマ族貴様だけは許さん」

「起きたらとっとと出ていきな! 命があるだけありがたいと思うんだね!」

 

 寝ぼけ眼で藁の上に寝転ぶ四人を宿屋の夫婦が罵った。しかしナムヒは気にせず再び藁に潜ろうとする。

 

「二度寝するか……」

「マジで!? この状況で!?」

 

 宿屋から叩き出された一行は困ったが、とりあえず先に進む事にした。これから確執やらなんやらのこれまでとは違った困難が待ち受けることを予感させ、第一、当のステラが黙りこくっているので、なんだかなあという感じの雰囲気になってしまった。

 

「ステラ、お前の元気がないと葬式みたいな雰囲気だ」

「うぅ〜〜〜……」

 

 ジロの手で着替えさせないとずっと寝巻きで過ごすぐらいには気落ちしていた。

 

「でも私が着替えさせようとすると『やっ!』とか言って拒絶するんだよ? 絶対甘えてるだけだよ」

「あたしもお兄に着替えさせられたい」

「えぇ……」

 

 若干見透かされていたが、気落ちしているのは本当である。とにかく一行はチェヘマ族領への道を急ぐのであった。

 




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