一行が変態と対峙していた頃。リブシェは書庫にいた。実のところ、女神については既に調査中であった。彼女がここ数年で怪しげな動きをしているのはエルフ諸族内で共有されていた。彼らは自分たちの事を世界の守護者と思っている節がある傲慢な連中だが、故にこういう有事の時には率先して立ち上がる。
「伝承によれば、毛深いくせに際どい下着を履いていると云われている……」
クッソどうでもいい情報は集まるが、ぶちのめし方とか重要な情報についてはさっぱりであった。ちなみに眉毛と同じ色らしい。
「やはり探すべきはもう一つの方の手がかりか……しかし困難を極める」
彼女が当たりを付けているのは、女神ではなく女神の妹とされる
「まあ別にいいでしょう。ドチャクソドエロトラップダンジョンということは黙っておけば」
リブシェも平均的エルフ程度にはアレな人物であった。一応友人の娘もいるのに。ドチャクソドエロトラップダンジョンとは、読んで字の如きドチャクソドエロトラップが張り巡らされているダンジョンのことである。不名誉なことにチェヘマ族領に存在し、浮世に存在するものの中でも最高難易度を誇る迷宮である。立ち入るにはチェヘマ族長の許可が必要であった。
「これを機に仲直りでもしてくれればいいのですが」
ハーメルが何か情報を知っている可能性は高いとリブシェは考えており、同時に可愛がっていたステラと友人エミーリアとの仲についても案じている。ステラは、自身は母親エミーリアに見捨てられた子供であると考えている。彼女は産まれた時代が悪かった。東西戦争の真っ只中にあり、あまり構ってやることが出来なかったのだろう。加えて、彼女には武具職人の才能が無かった。弓矢や錬金術の才能はリブシェが発見していたが、ステラにもエミーリアにもあまり意味も無いものであった。そして、彼女の姉と妹にはしっかりと才能が受け継がれていたのも災いした。特に戦後生まれの妹は母からの愛情も十分に受け、才能にも恵まれ、そしてステラを見下した、姉も同様である。ステラの居場所は家にはなかった。なのでリブシェの家に頻繁に入り浸っていた。エミーリアも母親として何もしてあげなかったわけではないが、彼女は寡黙な性分であり、愛情が伝わることはなかったのである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
さて、一行は
「男を襲った場合の刑罰は晒し刑だが、ここまでの数は前代未聞だ」
「少数だと晒し刑で済むのかい!? こわ〜……北方でもまだマシな法作るねぇ……」
衛兵たちは頭を悩ませていたが、比較的後進的な地域である北方の部族社会出身の幼女強姦魔本人はドン引きしていた。男性の軽視もここまで来るとちょっと迫力がある。
「とりあえず族長の判断を仰ぐしかあるまい」
そういうわけで翌日。リブシェと再び面会する。
「仕事が早くて助かります」
彼女はもう既に族長エミーリア宛の書状をしたためていた。
「それで、女神の情報について何か進展はあったか」
「そんな一朝一夕でわかると思いますか? ……と見せかけて、ジャン!」
妙に勿体つけたような感じで、彼女は資料をまとめた書類の束を用意していた。
「し、シゴデキ〜〜!」
アカネが感嘆の声を上げる。そう、彼女は伊達に占領地総督を任されているわけではないのである。しかしまあ、先述の通り以前から調べていた情報をまとめたやつを出しただけなのだが、彼女は肯定も否定もせずドヤ顔するのであった。
「これらの書類と書状を持ち、ヴルタハへと向かってください。書状を読めば然るべき場所へと案内してくれるはずです」
「……今更なんですけど、ホントに行くんですか?」
ステラはすげー嫌そうな顔をしている。しかしながら、少し前とは違って行く用事が出来てしまった。リブシェは彼女を抱きしめる。
「頑張って、ステラ様。きっと仲直り出来るはずですよ」
「仲直りなんて無理だし、しなくていいですよ別に……」
ボソリと帰ってきたその言葉に、リブシェは今すぐ泣いてしまいたいような気持ちになった。しかしそのことはおくびにも出さずに身体を離すと、ステラに貨幣の入った革袋を渡す。
「路銀の足しにしてください。あなたが出奔した時、渡せなかったから」
「貰えるもんなら貰いますけどね! 仲直りなんて期待しないでくださいよ!」
目の色を変えてその袋を分捕ると、彼女はすぐさま出口へと歩き始める。
「さあ、臨時収入も入ったことだし、酒場にでも行きますよ!」
「お、いいねえ」
ナムヒは同調し、ステラの後を追って歩き出す。
「色々と助かった、リブシェ」
「本当にありがとうございます!」
ジロとアカネは呆れたような表情でため息を吐いた後、リブシェに向き直り礼を言った。
「いえ、私の方こそ、ステラ様をここまで連れてきていただきありがとうございます。またいつでもいらしてくださいね」
リブシェは笑顔でそう言うと、二人に向かって丁寧に頭を下げた。
「あと狼人はくたばれ」
「聞こえてるぞ」
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