のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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76.謁見

 

 ステラたちがヴルタハへと向かっていることは、既に早馬でエミーリア知らされていた。

 

「……」

 

 エミーリア・シュコダ。金色の長髪を靡かせる美しいハイエルフの女性であり、ステラの母親にしてチェへマ族の族長である。

 

(ステラが生きてて、帰って来る)

 

 娘の息災と帰還に内心大喜びであった。エミーリアは族長としてではなく、娘を持つ母としての心情で、娘の帰還に喜ぶ。私室で一人小躍りしていた。彼女が出奔してから行方知れずとなっており、何度も使いを出していたがその動向を追うことは出来なくなっていた。同じタイミングで女神が動き始めたのも間が悪く、諜報のリソースはそちらに割かれていたのである。彼女は部屋を出ると、宰相に歓待の準備を指示する。

 

「予算をいくらかけてもよい、ステラを喜ばせなさい」

「ははあーっ、普通に考えて常識的な金額にいたします!」

 

 一方で、ステラが戻ることを良く思わない人物もいた。ステラの姉妹である。

 

「あのボンクラが帰ってくるですって? 冗談じゃない」

「せっかく相続について決まりかけていたのに」

 

 ステラの姉ルドミラと妹ゾラであった。彼女らはステラとは違い、母親の才能を受け継いだ武具職人となっていた。武具に関しては何も出来ないステラを彼女たちは見下していたし、出奔した時もさほど気に留めずむしろ清々したくらいであった。二人は財産の相続について再び揉めることを嫌った。

 

「どうするお姉様、亡き者にする?」

「いや亡き者にはしないけど、お母様は大喜びで財産相続の事を話すでしょうね。そうなると厄介……」

 

 ではなぜ、まだ母親がそう老いてはいない状況で相続について決めているのか。それはこの一族の作る武具に使われる素材に秘密があった。門外不出の秘伝のレシピで作られた漆黒の素材はエルフの特殊部隊黒軍が装備する武具にも使われている。しかしその製造は危険の伴うものであり、エミーリアは長期間その作業を行っていたせいで体を病んでいたのである。元よりハイエルフにしては短命な一族であったが、それはこの素材の製造過程に原因がある。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 故郷で大喜びしていたり何やら企んでいる人がいるとはつゆ知らず、ステラは馬車に揺られアンニュイな気持ちになっていた。

 

「私、エルフの里は嫌いです。そんな自分も好きじゃありません。嫌なことだけじゃなくて優しくされたり楽しい思い出もあったはずなのに、どうしてそっちは忘れちゃうんだろう」

「何?」

「私はエルフの里が嫌いなんです、でも楽しい思い出があったはずなのになんでそっちは忘れちゃうんでしょうねって」

「お昼何食べるって?」

「全然聞いてくれない……!」

 

 しかし、ステラのアンニュイな気持ちを誰も受け取ってはくれなかった……ジロを除いては。

 

「……俺も、トモエと楽しい思い出があったはずなのに、彼女が死んでからはあまり思い出せなくてな」

「あ、そこまで重い感じではないですかね」

 

 こいつ……ともかく、一行はヴルタハへの道を進んでいた。彼女は家族とはあまり良い関係ではなかったが、故郷に戻り謁見するとなると顔を合わせないというのは難しい。ステラの気は重かった。しかしながらそんな思いとは関係なく、一行はヴルタハに辿り着いた。チェヘマ族領の首都であり、エルフらしからぬ城塞と石造建築の家屋が建ち並ぶ、西方世界有数の大都市である。市場には様々な品物が陳列されており、その多様さはこの都市がエルフ、ドワーフ、獣人、人類、東部オークの文化圏の中心に位置し、東方世界との交易も行われている国際都市でもあるということを伺わせる。したがって、住みたい都市ランキング、住みやすい都市ランキング、旅行で行きたい都市ランキング、巡礼途中に寄りたい都市ランキング、征服したい都市ランキング、略奪したい都市ランキングなど、様々なランキングで上位に位置する。

 

「誰がその統計取ってんのよ……」

「久々の故郷はどうだ、ステラ」

「……相変わらず、つまらない街です」

「そうか、そりゃ残念だ」

 

 屋台を見物しながら、チェヘマ族の政治の中枢ヴィシェフラド城塞へと向かった。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 一行は謁見の間にて、ステラの母、エミーリアと対面していた。

 

「待っていた」

 

 彼女は冷たい視線で一行を眺めているが、生まれつき目付きが鋭いだけで別に冷たい視線をしているつもりは本人には全然ない。むしろ、娘の同行者の話を聞きたくてワクワクしていた。書状を衛兵から受け取るとそれを開く。

 

「……ご苦労、これについては追って返答をする。今日は休め」

「はい、お母様」

 

 謁見の間は異様なほど静かだった。ジロとナムヒはエミーリアになんか勝手に気圧されて、アカネは普通に緊張していた。ステラは他人行儀だ。エミーリアは内心もっと話したがっているが、それを口に出すことはない。姉妹たちも同席していたが、彼女らは一行に敵意の目線を向けていた。

 

「え、何なんこの空気……」

 

 衛兵はこの何故か剣呑な雰囲気を不思議がっていた。母娘の再会じゃないの? とはいえ謁見は終わり、一行は宿泊する部屋に通された。

 

「すげぇ気を感じたぜ」

「戦闘民族東国人の血が騒ぐ」

「なんか急に変な設定が生えてきた!?」

 

 妙なことを言うジロとナムヒにアカネがツッコミを入れる。ステラはというとベッドに突っ伏していた。

 

「ふがふがふがふが」

「何言ってるかわかんないよ」

 

 最近のステラは大人しく、悩ましげなただの美少女エルフに成り下がってしまっている。とても良くない。アカネは声かけてみるが、完全に上の空だ。

 

「まあとにかく、例のダンジョンに行く準備をしよっか! 誰が行く?」

「そうだな」

 

 そうやって準備を整えているところ、扉を叩く音があった。アカネが扉を開けると、そこには衛兵が書状を手にしていた。

 

「ダンジョンに入る許可証だ。ただ、ステラ様が行くことは禁止である」

「まあそりゃそーだ」

 

 一同は納得する。好き好んで危険な場所に娘を送り出す母はいないだろう。ましてやドチャクソドエロトラップダンジョン。なお、ジロたちはそこがドチャクソドエロトラップダンジョンとはまだ知らなかった。衛兵が立ち去ると準備を再開する。

 

「じゃあ、三人になるか」

「あのう、誰か一人は一緒にいて欲しいんですけど……」

 

 ステラは恐る恐る手を挙げた。

 

「敵地ですし……」

「実家よ? んー、そう言うなら二人でもいいけど」

「まあ、冒険ならあたしに任せとけよ」

 

 ナムヒは耳と尻尾をピョコピョコと動かし、得意げな表情で胸を張る。

 

「そんで、お兄と一緒に行ってくるぜ」

「俺か。まあいいが」

「えー、私も冒険したいんだけど!」

「今まで一緒にいただろ、今回は譲れ」

「一緒だけど、ステラと三人だったし!」

 

 アカネとナムヒは言い争いを始め、ジロはニヤニヤしながらいやったらしい顔でそれを見つめていた。

 

「そんな顔してないし……」

「わかった、じゃんけんで決めよう!」

「はぁ? ジャンケンってなんだよ」

 

 彼女にじゃんけんのルールを説明。というわけで二人は、じゃんけんを始める。

 

「最初はグー!」

「ジャンケンポン!」

 

 ナムヒはチョキを出し、アカネがグーを出す。

 

「あちゃ〜〜あたしが負けか〜〜」

「ふふふ、じゃあ私はステラと残るから」

「この流れなのに負けた方が行くのか……」

 

 ジロはなんか梯子を外されたような気分になった……。

 




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