のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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84.陰謀の天幕

 

「なんというか、ご苦労様だな」

 

 アカネとエルヴィンは団子屋で黒糖団子を買い、その店の前の縁台に座り食べていた。

 

「ホントだよもう。あの二人すぐふざけるんだから。ナムヒもどっか行っちゃうし」

 

 不満げな表情で団子を頬張るアカネ。エルヴィンもその嘴で団子を啄む。

 

「これは美味いな」

「そうだね。もっと食べようかな」

 

 すると、店から店員らしき人物が出てきた。扶桑には珍しく、人類種の男性である。

 

「お気に召しもしたか、こん特製団子を!」

 

 鹿児島弁で喋る男、見るからに稀人であった。そう、この者こそ、島津豊久その人であった!

 

「そう、じゃねーよ! 唐突が過ぎるよ!?」

 

 しかし、店の奥からの女性の声が彼を怒鳴りつける。

 

「トヨヒサ! 何やってんだい! 駄弁っている暇はないよ!」

「ご、ごめんよぉ〜!」

「しかもめっちゃ尻に敷かれてる!?」

 

 死後、突如この世界に呼び出された豊久は、空腹に耐えかね、団子屋で食い逃げを働いた。しかし団子屋の娘、オユキに捕まり折檻された後、夫として娶られてしまったのである。コワイ! おそらく島津豊久界隈でも最弱の島津豊久であろう。彼は慌てて店の中に戻り、しばらくした後再び店の前に出てきた。

 

「おはんも稀人とお見受けする。少し聞きたいのじゃっどん、おはんのよな稀人とこん扶桑の何処かで出会たこちゃあいもすか?」

「えっと……この国で稀人に会ったことがあるかってこと?」

 

 アカネがそう答えると、彼は頷く。しかしながら、彼女はまだこの国に来たばかりであった。彼女たちは事情を説明した。

 

「ううむ……おいは死んでからこけ飛ばされたから、かった部下や親父たちが来ちょらんかと思て」

「なるほど……確かにあり得るかも……」

「女神は稀人を尖兵としている、兵士たちを大量に揃えられては手を焼くだろうな」

 

 エルヴィンの懸念は尤もであった。単なる少年少女や社会人であれば戦う覚悟など最初からは持ち得ないだろうが、軍人や前近代の人間であれば、大いなる力を容易に戦いや我欲の為に行使するであろう。

 

「もし相対した時は、島津豊久がこのシジマにいることを伝えてくれもす~」

「確かに承った」

「最後だけ方言適当だ……うん、無駄に争いはしたくないもんね」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 その頃、ナムヒはと言うと、ハーメリアを引き摺って場内をブラブラしていた。彼女には気になることがあった。

 

「だいたいこういうサーカスってのは狡ズルいこと裏でやってんだよな」

「それは偏見よ!」

 

 とはいえ彼女の偏見通り、このサーカスには裏があった。厳重な警備の先にある、見るからに異様な雰囲気の老若男女がぞろぞろと向かうテントを発見。警備を容易くくぐり抜け中を覗くと、人類種の年端もいかぬような少年少女らが食い物とされていた。見たところ、肌が綺麗で栄養状態が良さそうなふうであり、これは稀人の特徴である。女神にしてみれば、いわゆるクラス転移の搾りかすの有効活用であった。

 

「お、やってんな」

「やってんなじゃないわよ、どうするのこんなの見つけちゃって!」

 

 ナムヒは根っからの中世人であった。彼女は自身のコミュニティに被害が及ばないのであれば、その外の人間がどうなろうと知ったことではないし、何なら見物して楽しむことさえある。これは彼女が悪人だからではなく、この時代の人間らしさと言える。

 

「他にもなんかありそうだな」

 

 とはいえ、義侠心が無いわけではないし、放っておいたらきっとアカネが怒るであろうという気持ちと、単なる好奇心も大きかった。というか、大部分は好奇心である。彼女は警備を警戒しつつ探りを入れ続ける。そうしていると、何やら来賓をもてなすような内装のテントを発見する。

 

「これはアレだろ、闇取引する部屋だ」

「そうかしらねぇ……」

 

 忍び込み、内装の家具などを入れていたと思われる箱の中に隠れる。

 

「見つかっちゃったらどうするの」

「見つからないだろ、多分……」

 

 結構呑気な気持ちで彼女は箱に隠れた。そして一時間ほど経過した。

 

「来ないな」

「こういう時は日程とか確認しなきゃ」

「その手があったか……」

 

 二人が言い合っていると、テントの外から人の話し声が聞こえてきた。ナムヒは聞き耳を立てる。

 

「……オオトモ殿、こちらへ」

「うむ」

 

 男性二人の声がして、その足音が近づいてくる。

 

「手筈通り、稀人奴隷と金貨をご用意しました」

「うむ、確かに。タヌマロ殿にもよろしく言っておいてくれ。しかしここ十年、汚職放題で笑いが止まらんわ」

「ふふ、そのようですね。我々徳川組にも景気の良い話が多い」

「例の女神とかいうやつか」

「はい。あの女神が異界から稀人のガキを寄越すことで我々は無料で無尽蔵に奴隷を仕入れることが出来ます、領民どもの機嫌も取らずに済む……事件後の役人大量雇用で潜り込んだあなたのような不良役人たちに端金を渡すだけでドー国は監査を逃れることができ、我々の不正は公にはならない」

「めちゃくちゃ喋るなこいつ。不良役人言うな」

「ゆくゆくはこの扶桑にクスリとならず者を溢れさせ政府を機能不全に陥れば、中央の威信は失墜、自力救済の世となれば我々の土俵。指定暴力団徳川組は安泰というわけです」

「全部喋りおった……まあ良い、我々の奴隷取引も好調だ。連中は若くて肌艶もいいし、貧弱で従順だ。それに人類種なら奴隷法に抵触しない。今は香辛諸島にしか販路が無いが、そのうち大陸の他の国に販路を伸ばせる」

「ええ。では、一杯やりましょうか」

「そう来なくてはな」

 

 そうして、飲食と雑談の物音を立てる二人組。ナムヒとハーメリアは箱の中でその会話に戦慄した。

 

「困るな、治安が悪くなったらあたしとお兄の夢のイチャイチャライフが……」

「そこなの!?」

「そりゃそうだろ。だが参ったな、ここでくっちゃべられちゃ出られない」

「ぶちのめせばいいのに」

「あー……騒ぎを起こしたらめんどくさいな」

 

 結局二人は、外の気配が消えるまで待つことにした。

 




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