のんきなエルフとくたびれオオカミ   作:ターキィ

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89.雇いの悪漢

 

 「ではトキジロー様、我々の見つけた戦力を御覧ください」

 

 そう言って、ジゴローとスヱコはジロたちを連れ出した。そこには、二人の狼人の女侍が立っていた。

 

「私は流浪の剣客、キン」

「同じくギン」

 

 彼女たちは姉妹で剣客をやっている二人組みであった。立ち振舞から実力者であることが読み取れる。が。

 

「……ジゴロー、この二人だけか?」

「トキジロー様……あの、ホントに申し訳ございません」

「もうダメだ〜〜〜〜!」

 

 珍しく頭を抱えて泣き言を言うジロ。

 

「ですが、この二人はなかなかに強者ですので、あの、なんとかなりませんかね!?」

「なる。なあ姉上」

「うむ」

 

 姉妹は自信満々であった! でも二人だし……とジロは呆れた表情に変わる。

 

「流石にならないと思うが……」

「私も戦うよ叔父上!」

「ダメだ。大人しくしてなさい」

 

 こんな調子だし、兵力も少ないし、賛同してくれる大名も現時点ではそう多くはないので、東征とか無理じゃない? という空気になっていたが、それを打開する者たちがいた。サエら稀人たちである。

 

「姉御! 僕達の力をお貸しするって言ったでしょう!」

 

 サエの魔術札と彼らの現代知識は実際有用ではあったのだが、サエ以外にまともな戦闘員はいなかった。多くの者が能力を取り上げられたか、下っ端のカス能力だったからである。しかし手からビフテキが出る能力の少年は重宝された。しかも和風ソースである。ともあれ軍事教練を行うようになったが、行進はともかく戦闘訓練はなかなか上手くいかない様子である。

 

「こいつら、集団行動とかはめちゃくちゃキビキビしてるのになんで戦闘はへなちょこなんだ?」

 

 ナムヒの疑問も尤もであるが、それは日本の体育教育の賜物である。富国強兵政策万歳! 稀人たちの多くは日本人であった。

 同時に、ジロたちの方も鍛錬に勤しんでいた。

 

「もう一度、手合わせ願おう」

「ああ」

 

 ジロとエルヴィンは剣の打ち合いをしていた。木剣を手に上半身裸でその筋骨隆々の肉体を晒す様は宮廷の女中らの語り草となる。

 

「え、シコ過ぎ……」

「バチクソシコいわ」

「シコいとか言う女中嫌過ぎる」

 

 帝もそう思ったのか、彼女らは謹慎処分となった。とはいえそんな周りの状況など無視し、二人に加えてナムヒやキンギン姉妹は訓練に没頭する。一方でアカネも新たな魔術の開発に取り組んだりと次なる戦いに備えていた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 そんな中で、特に何も取り組んでいない者がいた。ステラである。彼女はいつも通り呑気に飲んだくれていた。最近は影も薄いしいいとこも全然ないからである。

 

「ら、ラップは良かったわよ」

 

 ハーメリアの気遣いにもう~う~と唸って返事をし、街の居酒屋のテーブルに突っ伏したままのステラ。

 

「みなさんの妖力は3000を越えています、しかし、私の妖力はたったの230……」

「え、ちょ、何、妖力!? 知らない知らない何その単位!?」

 

 急に生えてきた謎の設定に困惑するハーメリア。そこへ、見るからにガラの悪い狼人たちがやってきた。

 

「おいおい、トガリミミのねーちゃん、そこは俺の席だぜ」

「へへ、ゴーダさんに目をつけられたらおしまいだからね! お前のものはゴーダさんの物!」

「なんか聞いたことあるわね」

 

 ハーメリアが呟いた。大男の隣にいる小さな男が彼を持て囃すも、大男は窘める。

 

「まあまあチェダー、そう言うなよ」

「チーズの方かよ」

「とにかく、お前ら他所もんは出すもん出せって話だ、俺の妖力は300だぜ?」

「その単位流行ってんの!?」

 

 妖力300とは、テルモピュライの戦いのスパルタ重装歩兵の兵員数と同数である!

 

「何の意味があるのこの単位には!」

 

 そうこうと彼らが揉めているところに、横槍を入れる人物がいた。

 

「トガリミミ女にチビドラゴン、見つけたぜ〜〜」

 

 見るからに柄の悪いチンピラのような狼人が稀人らしき少年を引き連れて現れた。少年は首輪が繋がれて、まるで奴隷扱いされていた。

 

「タヌマロとかいうのに渡されたこの奴隷なかなか役に立つぜ、丁重に扱わないとな」

「何あんたたち!」

 

 ハーメリアが叫ぶと、チンピラが凄む。

 

「見ての通り、通りすがりの雇いの悪漢だぜ。お前らを始末しに来た、まあジロってやつと戦いたかったが、しょうがない、お前らでも金は貰えるし」

 

 そう言って、手頃なテーブルをひっくり返す。酒瓶や食器がぶちまけられて辺りに散らばる中、更にステラとハーメリアの前に立つものがいた。

 

「お前のピンチも俺のものだぜ!」

「いい人、なのか……!?」

 

 ゴーダが彼女たちを庇ったお陰で二人は無傷であった。が、次の瞬間には酒瓶で頭を強打されて昏倒していた。

 

「ダメだった……」

「こういう時はやることは一つです、逃げましょう!」

 

 ステラの決断力は高い、特に逃げる時は。ぴゃっとハーメリアの首根っこを掴んで酒場の入口へと走り出す。

 

「ぐえっ、ぐるじ〜〜〜!」

 

 騒ぎに怯えた他の客たちが、荷物を纏めて逃げ出しており、その流れに従って彼女らも逃亡を試みた。すると後ろから客の一人が飛んできて、ステラの真横の床に叩きつけられた。

 

「暴れるから外れちゃったじゃん」

「ひぃっ! こいつヤバいです!」

 

 今彼女たちは武器を持っていない丸腰の状態であり戦う術は徒手空拳しかないが、訓練など受けているはずもない。無駄に頑丈ではあるが。だから今は逃げるしかなかった。酒場から出ると、騒ぎを聞きつけた衛兵たちがやってきていた。

 

「この酒場の中にまだいます!」

「ええ、へい」

 

 刀を抜いた衛兵たちが中に突入する。その隙に、ステラたちは走った。

 

「えっほえっほ伝えなきゃ、みんなに危険が迫ってるって伝えなきゃです!」

「そのミームもう陳腐化してるわよ」

 

 インターネットミームの流行の変遷の早さは恐ろしいのぉ! てかすぐ余計なのが便乗するのが本当に良くないし、そもそも……それはとにかくステラはジロたちのいる宮廷に急いでいた。だが、当然それを許してくれるような相手ではない。雇いの悪漢は後ろから追いすがってきた。

 

「ま、待てよ〜〜〜!」

「ひぃぃぃ! 来たぁぁぁ! って結構ボロボロ!」

 

 悪漢は血まみれになっていた。衛兵に手酷く痛めつけられたがなんとか撃退して追いかけてきていたのである。そりゃ、首都の衛兵が弱いわけがない。とはいえ、今は周りに衛兵もいないし、次第に距離を詰められている。ここはステラとハーメリア二人で何とかする他ない。幸い、相手は弱っている。

 

「やるわよステラ!」

「あなたの無敵の神龍パワーでなんとかしてくださいよ!」

 

 ステラの言うことも尤もなことであるが、今のハーメリアにそんなパワーはない。とはいえ、なんとかしなくてはならない状況であった。

 

「もう終わりも近いですし、無駄に話数が増えて話を伸ばしたくはないですからね!」

「そういう事言うのやめなさいよ!」

 

 このダメエルフに戦う能力はな……いや、一つだけある。それはジロから預かった大弓であった! いつの間にかフェードアウトしてたっていうか使うタイミングがなかったっていうか……とにかく今がそのタイミングである!

 

「私は弓は使えるんですが、宿に置いてきてしまいましたね」

「このおバカ!!」

 

 そうこう揉めているうちに、雇いの悪漢は既に目の前まで迫っていた。手には大斧が握られており、高く振り上げる。

 

「ごちゃごちゃ言ってないで早く死んでよ〜〜〜〜〜!」

「ひぃぃ、もうダメです〜〜!」

 

 大斧の刃はステラの頭頂部にめり込み、血が吹き出した。しかし、それ以上深く刺さることはなかった。

 

「間に合ったか」

「間に合ってませんが?」

 

 ジロが刀で大斧の持ち手を食い止めていたのである。そう、流石はこの物語の主人公だ。ヒロインのピンチにはすぐに駆けつけるのである!

 

「街が騒ぎになっていると聞いて、もしやと思って駆けつけた。間に合ってよかった」

「間に合ってませんが?」

 

 彼の刀は大斧を弾き飛ばす。雇いの悪漢は仰け反り体勢を崩した。

 

「お前がジロか。強いんだろうな?」

「丸腰二人を追いかけ回すやつよりはな」

「それじゃあまるで、俺が悪党みてえじゃねえかよ〜〜〜!!」

 

 ジロのその一言に悪漢は激昂した。そして、怒りに任せて大斧を振り回した。しかし、実力の差はあまりにも歴然である。街一つぶっ潰そうと考えて鍛錬を積んでいる武者に、衛兵程度に苦戦するような悪党が敵うはずがない。瞬く間に四肢と首はその胴体から泣き別れの憂き目に遭い地面に転がった。

 

「大丈夫か、ハーメリア」

「トゥンク……う、うん……♡」

「まず私の心配ですよねジロさん!? あなたもメスの顔しないでください!!」

 

 かくして、身の危険が迫っていることを一行は知った。すぐに行動を起こさねば街を巻き込むこととなる。結局のところ、稀人部隊は簡単な訓練しか受けることは出来ず、東征を始めざるを得なくなったのである。

 




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