とりあえずキリよくGⅠ勝つまではやります
『お父さま、お母さま。私のトレーナーはこの方ですっ! 素晴らしいご慧眼の持ち主で。ですからどうか承認を―――!』
『気持ちは分かるが、さすがに実力も見ずに、認めるわけにはいかない。したがって、ある試験を受けて貰おう。君には……いや、2人には』
という流れで、芝2400でのメジロマックイーンとの模擬レース。身体ができあがっていない今のダイヤにそんな総合力を示させるのは正直なところ無理な話。2000mに照準を合わせて、それだけに徹することで覚悟を示す――――という流れのはずなのだが。
「お父さま、お母さま。というわけで、トレーナーを引き受けていただくことになりました」
「そうか。……では、ダイヤを――――どうかサトノの至宝を、よろしくお願いします」
あれぇ?
「うそでしょ――――いや、ダイヤちゃんのお父さん! 見ず知らずのトレーナーに大事な娘さんを預けて良いんですか!?」
「いや、うん。まあ見ず知らずならばテストの一つでも受けてもらうところだが――――」
「そうですよね! 怪しげな新人トレーナーなんかには―――」
「とはいえ君の場合、カペラでアルバイトをしてもらっただろう?」
調教助手ならぬ、アシスタントトレーナー。
トレーナー試験に落ちて留年した俺は、ダイヤちゃんのコネによってサトノと縁が深いチームカペラでアルバイトをさせてもらい。その経験もあってなんとか試験に合格できたという流れがあったりする。
なので実はダイヤちゃんのお父さんには頭が上がらなかったりするので余計に来たくなかったのだが―――。
「クラウン、アラジン、ノブレス――――皆、君を高く評価していたよ。それにライスシャワーやマルゼンスキー、ミホノブルボンらのスターウマ娘達ともつながりがあるとか」
「え。いや、まあちょっとした繋がりですが……」
「この業界、人の繋がりというのは貴重な物だ。その年でそれを理解しているのは十分に将来有望だと思うよ」
この人いい人なんだよなぁ!
くっ、なんかもう押し負ける気しかしないし、こうなったら――――。
と、考えたところでめちゃめちゃイイ笑顔のダイヤがぐいぐいと出口に向けて押してきた。
「ありがとうございます、お父さま! さあ、トレーナーさん? 早速トレーニングについて相談させて下さいね!」
「くっ、ダイヤ!? ヤメロォ! ウマ娘のパワーで押すな! すみません失礼しましたぁ!」
――――――――――――――――
「全く、娘の成長というのは早いものだな……」
昔なら形振り構わず「この人がトレーナーさんです!」と押し通そうとしてきただろうに、今回は先に母親経由で説得してきた。
『……今回のトレーナー選抜トライアルで色々なトレーナーさんを見ました。GⅠの栄冠を手にした人も、過去有力なウマ娘を育てた人もいました。ですが――――“運命を変えられる”、そう私に思わせたのはあの人だけなんです』
『そうね。カペラのトレーナーからも推薦をもらっているし……良いのではないかしら?』
突飛かつ独創的な練習を考案する傾向にあるも、確かに効果を認める―――そのなんともいえない独特な雰囲気。それにサトノ家の当主として多くの人間を見てきた身として、とあるトレーナーに近しいものを感じる。
「サトノのジンクスを……いや、あるいはもっと……だがしかし……」
初めは喧嘩ばかりだったのに、いつの間にか年の離れた兄妹のような――――本人が自覚しているかはさておいて懐いた男をトレーナーにすると言われて正直、思うところはある。それでも娘の想いを優先するあたり、優しい父親で。
「――――だが結婚は認めん。少なくともGⅠを……いや、年度代表ウマ娘を取って引退するくらいでなければ……」
「でもあなた、ダイヤについてこられる殿方はあまりいないのでは……」
「…………」
「………ね?」
ふとした思いつきでバレンタインに人間クレーンゲームを開催する娘である。
まあ割と容赦なく周囲の人間を巻き込むし、その中に自分の手作りチョコを混ぜておくのはいいのだが、もし取られなかったら落ち込んだだろうと親としては気が気じゃなかった。
「くっ……だがダイヤを幸せにできると証明しなければ……」
「昔は天真爛漫だったあの子が、また元気を取り戻してくれたのは彼のお陰ですし……」
それを言うと、天真爛漫の暴走特急にして手に負えなくしたのも件の彼なのだが。
マッチポンプでは?
まあダイヤが元々暴走特急なのがそもそもの始まりか…。
親の苦悩は続く。
――――――――――――――――
「――――さあ、トレーナーさん。まずは何の練習からいたしましょうか!」
「いややる気があるのは結構だけどさ……うーん、とりあえず目標は皐月賞でいいのか?」
「そうですね。デビュー時期によってはホープフルステークスなども視野に入れたいところですが―――…」
「まあ間に合わないだろ」
成長が遅くて、本当はキタサンブラックと同じ年にデビューしたいのにと、主治医にゴネていたのは知っている。胸だけ立派に……げふんげふん。まあジュニア級はせいぜい2レースくらい走れればいいだろう。
「むむっ。間に合わせてくれてもいいんですよ?」
「変なリスク背負わせたくないから却下。で、まあ皐月賞だけど――――不利を受けにくい技術が欲しいかなぁ。サトイモは後方からだろうし」
実際、他がヨレた不利を受けつつレコードでぶっちぎられて負けるだが。なければ勝ってた、とは言えないが勝っていたかもしれない。
ふんす、と気合は十分らしいダイヤはまあ可愛らしいが――――。
「イモ……あの、トレーナーさん? 何ですか、その……」
「サト(ノダ)イ(ヤ)モ(ンド)だな」
どっかの先頭民族と違って不利なんて普通にある。
オペラオーの包囲網じゃあないが、外走らされてロスとか、前壁とか。徹底マークで実力を発揮できないとか。
「トレーナーさん、普通にダイヤって呼んでくれませんか…?」
「ダイヤル膝接手」
「……むぅー」
「ともかく、サトイモは実戦経験が足りない。必然的にそういう小手先の技術も足りない。仕方ないのでGⅠ級のウマ娘たちに併走をお願いしてきた」
「えっ?」
「ハァーイ! 可愛い後輩ちゃんのためなら頑張っちゃうわよ?」
まず一人目、マルゼンスキー。
ライス応援団でも大活躍してくれたチョベリグなお姉さんだが、可愛がっているライスの春天で笑顔にした礼として何か協力してくれると言う話なので呼んでみた。
「えっと、ライス、がんばるね!」
二人目、ライスシャワー。
言わずと知れた最強ステイヤー、メジロマックイーンを打ち破った漆黒のステイヤー。なんでかお礼がしたいらしいので併走を頼んだ。
「わーい、みんなよろしくねー!」
三人目、ハルウララ。
なんか来た。
「全く仕方ないわね、この一流のキングの走り――――とくと参考にするがいいわ!」
四人目、ウララの保護者?としてついてきたキングヘイロー。
馬の方はともかくこっちのキングは割と助かる。
「オペレーション受諾。逃げであればお任せ下さい」
五人目、なんかライスシャワーが連れて来てくれたミホノブルボン。
対キタサンブラックを想定するなら割とアリ。
「いやー、なんか錚々たる面子が揃ったね」
六人目、サトノクラウン。
まあ普通に呼んだ。助かる。
「やはり人脈とは得難いもの―――サトノさん、順調のようですわね」
「ま、マックイーンさんっ!? も、もしかしてマックイーンさんも併走を!?」
七人目……なんでマックイーンが!?
「少々目立っておりましたので、気になって――――ぜひ参加させていただきたいのですが」
まあこの面々なら気になるか…。
と、言いたいところだが多分自分を慕う後輩が気になったツンデレか何かだろう。
「で、マックイーンが走るなら僕も混ぜてもらおうかなー」
トウカイテイオーが来た。トウカイテイオーが来た!?
なんでここにテイオーが!?
「報酬はちみーでいいですか」
「え、奢ってくれるの? やったー! じゃあ固め濃いめ多めね!」
「トレーナーさん、どうしたんですか急に?」
どうしたもこうしたもあるか。
皐月賞といえば中山レース場2000m、上手いこと抜け出せなくて、不利を受けてそのまま負けるサトノダイヤモンドにとって一番必要かもしれない教師だぞ。
「いいかダイ――――サトイモ。ある程度以上の距離があるならメジロマックイーンのロングスパートが参考になる。けど、中山の短い直線でのあのトウカイテイオーの芸術的な抜け出しはマジでお前に一番必要なものだから」
「今ダイヤって言いかけましたよね?」
「GⅠ勝ててない今のお前なんてサトイモで十分だ。とりあえずクラシックの秋までにはイモは卒業するだろうけど――――それより早くなるかはお前の頑張り次第だ!」
「………むぅー。とりあえず皆さんにも報酬はご用意させて下さい」
マックイーンはメロンパフェとかでいいんじゃなかろうか。
というか基本的に女子は甘いものが好きなのでスイーツなら間違いない。例外もある。
「あ、マックイーンさん。すみません、垂れウマ回避がめちゃくちゃ巧そうなウオッカとか呼べませんか? スピカのトレーナーさんにはこっちからお願いしますから」
スピカの後輩だし。マックイーンが呼んだら来てくれそう。
「……まあ、聞いてみるくらいは構いませんわ」
「ありがとうございます!」
よっし、あとはスピカのトレーナーこと沖野トレに頼むだけだな!
SSトレも友情トレーニングも、アプリウマ娘の育成要素らしいが―――そりゃあ先達がいるんだから教えて貰った方が強くなれるに決まっている。
これならもしかしたら、もしかするかもしれない―――。
――――――――――――――――――――――
メジロマックイーンにとってテイオーはライバルであり、走る理由でもある。が、それはそれとして自分を完膚なきまでに打ち破ったライスシャワーもまた、好敵手であると認めるところだ。
彼女は彼女で、ミホノブルボンという一番のライバルがいるわけだが。
まあそんなわけで、ライスシャワーとミホノブルボンどころかマルゼンスキーやらキングヘイローやらサトノクラウンやらと有名どころが模擬レースの準備をしていればそれはもう目立つ。
何かのイベントか、と疑問に思うくらいにはメンバーが豪華すぎた。
「ライスさん、今日はどうしたんですの?」
「あ、マックイーンさん。えっと、実はね。お兄さまに担当の子のために模擬レースをしてほしいってお願いされて」
「???」
仮にもGⅠウマ娘、マックイーンにも勝ったライスシャワーを併走に呼びつける…?
けっこうとんでもないことをやらかしているのだが、何が変かというと、それだけならライスシャワーを顎で使うトレーナーに他の面々が怒りそうなものだが気にした様子がないところだろうか。
ライバルであるミホノブルボンも、
「まあ、あの方は団長ですから」
「だんちょう」
何の団なのか、と気になって視線をマルゼンスキーに向けると、他の説明不足を補うように丁寧に説明してくれた。
要はライスシャワーの走りにしっかりと声援をくれるように、そのトレーナーは、まだ学生の頃にライスシャワー応援団を結成したのだとか。
菊花賞で心無い観客によって傷つき、春の天皇賞を走りたがらなかったライスに走る決心をさせ―――ついでに同じ考えの同志を集めて声援を送った、と。
……春の天皇賞、前人未到の三連覇という条件であの空気を作ってしまったマックイーンとしては微妙に肩身が狭い思いである。
そんなわけで、借りを返すというわけではないが一応参加しようと思い―――テイオーもついてきた。
テイオーの方が歓迎されていたのはちょっと微妙な気持ちだったが。
そこはサトノさんが喜んでくれたのでまあ…。
………しかしなんというか、こうして大勢で併走してみるとレースさながらの緊張感や駆け引きができて学びが多い。意外と盲点だったかもしれない。
まあこんな豪華な面子を集められるのは、それこそスピカやリギルくらいのものかもしれないが。
イチャイチャ成分まだですか……(セルフ供給失敗)
誰かダイヤちゃんとイチャイチャする話書いて♡