サトノダイヤモンドが砕けたら   作:アマシロ

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ライスとお兄さま

 

 

 

 

 

 

――――不幸なことには慣れていた。

 

 

 走ろうとしたら信号が全部赤信号になったり、お出かけしようとしたら雨になったり。

 ライスにとってはいつものことだから、気にしていなかったけれど。ライスの近くにいる人にとっては不幸なことで。

 

 誰かを不幸にしちゃうライスは、だからこそ『しあわせの青いバラ』に憧れたの。

 

 

 

 

『―――凄かったぞー、ライス!』

 

 

 

 

 初めてその人にあったのは、地元であった小さなレースで。

 お兄さまはきっと覚えていないかもしれないけれど、いっぱい応援してくれていたのも、勝てた時にすごく喜んでくれていたのも気づいていた。

 

 メイクデビューでも、その後のレースでも。全部のレースじゃなかったけど、ずっとライスを応援してくれていた。

 

 

 

 皐月賞でも、日本ダービーでも。

 あんなに強いブルボンさんじゃなくて、ライスを。皐月賞ではバックダンサーだったけれど、ダービーで2着になった時は青いサイリウムを振ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、菊花賞でも。

 

 

 

 

 悪目立ちしていても、周りにどんな目で見られても、お兄さまは変わらなかった。

 たった一つだけの青い光。それがあったから、ライスはここに居てもいいんだって思えた。めいっぱい応援するお兄さまに釣られるように、まばらに増えた青色が、どれだけ嬉しかったかお兄さまには分からないかもしれないけれど。

 

 

 

 

『ライス出ます、天皇賞に。マックイーンさんにも負けません』

 

 

 

 

 

 誰に何と言われても良かった。しあわせの青いバラになれなくても、お兄さまの応援に応えたいと思った。

 

 

 

 

 だから―――だから、ね。

 お兄さまが、ウララちゃんが、マルゼンさんが、ブルボンさんが――――みんなが応援に来てくれて、精一杯声を出してくれて。本当に嬉しかったの。

 

 

 あの時、本当にしあわせの青いバラに近づけたみたいに感じたから。

 

 

 

 

 

 

 

 最強ステイヤーと呼ばれたマックイーンさんに勝って、今度はBNWでも最強と言われたビワハヤヒデさんに勝って春の天皇賞を連覇して。そして今度はライスが夢を叶える側になれた。

 

 春の天皇賞三連覇がかかったレース――――みんながライスの勝利を願っているなんて初めてで。マックイーンさんが背負っていた期待はライスには重くて。悩んでいたライスが偶然出会ったのが、トレセン学園でアシスタントトレーナーとして勉強しているお兄さまだった。

 

 

 

 

「GⅠが怖いか。そっか、ずっとずっと頑張ってきたもんな」

 

 

 

 ちょうどサトノ家の子が、GⅠに勝てないジンクスと期待に応えたい思いの板挟みになっていて。その相談に乗っていたのがお兄さまだった。

 ほんとはこっそり聞いちゃうのはいけないことだと思ったけれど、どうしても気になってしまって。

 

 

 

「うん。期待に応えられないのも、勝てないと努力が無駄になるかもしれなくて怖いか。そうだな、確かにそんな風に思うよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄さまは、ずっとお話を聞いていた。

 何が不安なのか、どうしてそう思ったのか。相槌を打って、一緒に悩んだ。

 

 それで最後に、笑顔で言った。

 

 

 

 

「――――勝てなくてもいい。お前の頑張りを、次に活かして勝てるようにするのが俺の……というかトレーナーの仕事だ。今のお前にできる分だけやればいいんだ。どうしてもダメだったら俺が一緒に泣いてやる」

 

 

 

 

「今のライスに、できる分だけ―――」

 

 

 

 

 期待を裏切っちゃったらどうしよう。せっかく応援してもらえるようになったのに、やっぱりライスはみんなを不幸にしちゃうんじゃないか。そう思ってた。

 

 

 でも、違った。

 

 

 

 少なくともお兄さまは、ライスが負けても失望したりしない。

 よく頑張ったねって。また頑張ろうって言ってくれる。本当にダメだったら、一緒に泣いてくれる。そう思えたから。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――さあ春の天皇賞最後の直線に入って先頭はライスシャワーだ! 三連覇のかかるライスシャワー早くも先頭に立った! 大外からステージチャンプも上がってくる!』

 

 

 

 

 

 

 京都の直線が、今までよりもずっと長く感じた。

 もうライスの前には、目標になるブルボンさんはいない。マックイーンさんもいない。

 

 ついてく相手もなく、抜かれる側のプレッシャーを感じながら、それでも。

 

 

 

 

 

「ライスー――――!」

 

 

「頑張れ、ライスシャワー!」

「ライスちゃーん!」

「ライスさん!」

 

 

 

 

 

 目の前に目標になる人はいないけれど。

 でも、ゴールでお兄さまが待ってるから。

 

 

 

 

 声が背中を押す。

 想いが脚に宿る。

 

 ライスはもう、ヒールじゃない。

 

 

 

 

 

 ううん、ライスが気づいてなかっただけで。

 きっと、なれてたよね。お兄さまのヒーローに。

 

 

 

 

 

 

『――――ライスシャワーだ! ライスシャワー完全に先頭! 差が開いた! これは届かない! ライスシャワー先頭で今、ゴール! ミホノブルボンを、メジロマックイーンを、ビワハヤヒデを破った最強ステイヤーライスシャワー! 今ここに新たな伝説を打ち立てました! 恐らく、ミホノブルボン達も喜んでいることでしょう』

 

 

 

 

 

 

「―――ラーイース! ラーイスー!」

 

 

 

 

 

 笑顔で手を振ってくれる、マックイーンさんとブルボンさんと目が合って。小さく手を振り返すと観客席からすごい歓声があがってびっくりしてしまう。

 

 

 

 

 

「ふぇええ!?」

 

 

 

 

 困惑しながらもなんとかマックイーンさんやブルボンさんを思い出してぎこちなくファンサービスをすると、それでもみんな笑顔で喜んでくれて。

 

 お兄さまも先頭で泣きながら声を出してくれていた。

 

 

 

 

「うぅっ、良かったなライスシャワー……」

「団長もお疲れ様です。この後ライスさんのお疲れ様会があるのですが、団長も如何ですか」

 

 

 

 

 

――――ブルボンさんっ!? お兄さまを誘うの…!?

 

 

 

 

「……いや、急に知らない団長が来てもアレだし遠慮しとく。あ、そうだ。花束だけ渡しておいてくれるかな?」

 

 

 

 

 恥ずかしさ半分、期待半分くらいのライスの気持ちは残念ながらダメダメで。

 

 

 

 

「ライスさんも喜ぶと思いますが……というか、意外と応援は気づいているものですわよ? 特に貴方の場合、菊花賞もありますし」

「あれは目立っていましたね」

 

 

 

 

 マックイーンさん! そうだよね! 気づくよね!

 さすがマックイーンさん!

 

 うんうんと頷くブルボンさんの後押しもあって――――。

 

 

 

「でも遠慮しとく。とりあえずウイニングライブに全力で」

 

 

 

 

 

 そんなことないよ! って言いたかった。もし今ライスもお兄さまの近くにいたら言えたけど。でも今はターフの上で――――。

 ダメだった……やっぱりライス、ダメな子だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 送られた花束は、青いバラだった。

 ありがとう、お兄さま。ライス、次の宝塚記念も頑張るね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

「お姉さま! 今日ね、ライスお兄さまに会えたの! サイン下さいって言われて……」

「え、噂のお兄さまに!?」

 

 

 

 

 

 私の担当、ライスにはお兄さまがいる。

 私が名誉お姉さま……特段血縁関係とかも無いのと同じで、ライスが素敵だなって思って勝手に呼んでいるだけみたいだけれど。

 

 

 メイクデビューどころか、地元のレースにも応援に来ていたらしい。私より古参というか、ライス公認のファン一号…?

 

 

 

 

「というかアシスタントトレーナーやってたって聞いたけど、トレーナーなれたんだ」

「うん! 凄いよね、お兄さま!」

 

 

 

 

 ライスの笑顔が今日も眩しい…。

 最初はライスを騙す悪い男じゃないかと疑う気持ちもあったのだけれど。菊花賞でも必死に声援を送ってくれる姿には私も白旗を上げたものである。あれだけ一途に好かれたら嬉しいだろうなーと。

 

 春の天皇賞の応援団なんて、トレーナーになったら諸々の立場の関係もあってできないことなのでとても助かった。ライスの笑顔が尊い。

 

 菊花賞もトレーナーじゃなかったら青サイリウムを全力でぶん回していただろうに。

 というかキレちらかす自信があった―――実際はまあ悔しすぎて泣いてたけど。ごめんライス。

 

 

 

 

 

「……はっ、そうだ。じゃあトレーナー交流会でもやろっか。そこにライスがゲストで来るみたいな……」

「ふえええ!?」

 

 

 

「で、でもお兄さまに迷惑じゃ――――」

「お姉さまに任せなさい。迷惑にならないようにマトモなトレーナーを集めるから! 桐生院ちゃんに頼めば多分サイレンススズカのトレーナーも来てくれるし、その縁でおハナさんとかスピカのトレーナーも呼べるハズ……!」

 

 

 

 

「お姉さま、すごい…!」

「ふふん、ライスのお姉さまだもの!」

 

 

 

 

 

 

 

 そして――――決戦の火蓋は切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






どうでもいい後書き



♢トレーナー

もともとライスを推してたらマックイーン推しの♢と喧嘩になったので、ライスのファンとしてはかなり古参。地元でたまたま見たライスのレースにビビっときて“知識”こと前世の知識を思い出す。




ライスシャワー

春の天皇賞(対マックイーン)後にスランプになったりもせず、テイオーの有マでも善戦、史実では怪我で出られなかった春の天皇賞(ビワハヤヒデ)にも勝利。三連覇の偉業を成し遂げた最強ステイヤー。宝塚記念も勝った。つよい。




スズカトレーナー

前作?主人公。生徒に手を出すと犯罪なので、桐生院トレーナーと仲良くなりたかった時期があった。受験生のスズカを放って二人でカラオケに行ったのを未だに根に持たれている。ウマの記憶力は良い。



サイレンススズカ(ワキちゃん)

原作の寂しがり屋属性なサイレンススズカことワキちゃん(幼名)。
寂しがり屋すぎて不眠になり弥生賞でゲートを潜る。犬猫と一緒で匂いのついたもので安眠できるのではとトレーナーに思われた。ひどい。でも奪った布団が凄く良かったので枕も強請った。




おハナさん

常勝集団(比較的穏やかな表現)リギルの女ボス。昔の因縁?からかスピカトレに思わせぶりな態度をとることもしばしば



スピカトレ

沖スズはいいぞ。
正妻ポジのスズカさんもまたヨシ

 
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