「――――お兄さまっ!」
天気は雨が降りそうなどんよりとした曇り―――まあライスの不幸っぷりからそうなるだろうなと思っていたので、水族館である。
もし雨が降っても大丈夫だし、冬場でも安心。なんとなくライスはクラゲとかそういうのも好きそうなイメージあるし。
なんとなくアプリで見た“知識”はある例の私服(かわいい)ライス。もしかして効くかなと思って買っておいたお守りが良かったのか、特に遅刻などもなく到着したので一安心。
「……ごめんなさい、待ったよね…?」
「いいよ、俺が楽しみで早く来すぎただけだし。じゃあ行こうか」
「……うん! あ、お兄さま、チケット―――」
「はいよ」
もちろん待ってる間に買ってあるが。
「……ええっ!? ……あ、じゃあチケット代―――」
「悪いけど初めてのデートくらいは俺の自尊心のために奢られてくれ」
こんなんでも一応中央トレセンのトレーナー。給料はそれなりにいいのだ。使う暇ないけど。
ライスの方が稼いでる気はするけど、それでも年上として男として見栄を張りたい。せめて初デートくらいは。
まあライスはけっこう申し訳なさそうな顔だけど。
「……うんっ。あ、でもね! ライスお弁当作ってきたの!」
「ありがとう。それは楽しみだ」
ついでに弁当が台無しになるアクシデントも警戒しておくべきか。
と、そこでライスがそっと服の袖を掴んできた。小さく小首を傾げる動作つきで。
「お兄さま、その……ダメかな?」
かわいい。
はいもう何でも掴んでください、と言うべきところだが袖は持ちにくそうなので、止む無く――――決してライスに陥落したわけではないけれど、そっと手を繋ぐ。
「転ぶといけないから、エスコートさせてくれ」
「……うんっ、ありがとう、お兄さま…!」
かわいい(かわいい)。
もうこれライスが彼女になってくれたら幸せなんじゃ――――殺気!?
素早く振り返るが、誰もいない。少なくとも見知らぬ通行人がいるくらいだ。
でもなんとなく嫌な予感がするのでキタちゃんにメッセージを送ってみる。
『キタちゃん、今ってダイヤと一緒にいたりする?』
『いますよー。電話ですか? 代わります?』
……ダイヤじゃなかったか。
じゃあもしかしてライスのファンとかだろうか。それはまあ殺気の一つも飛ばそうと言うもの。もし危害を加えてくるようなら対暴れウマ用の護身術が火を噴くが。
『いや、ごめん。一緒に居るならいいんだ。ダイヤのことよろしく』
『まあ、あたしはダイヤちゃんの親友ですから』
何か気になる気もするが、今はライスとデート中なので。
入場口を通ると最初にあったのは水槽の中を通るようなエスカレーターで。周囲を魚に囲まれた空間になんとなく日常から離れた空気を感じる。
「わぁ、すごい…! お兄さま、お魚さんがいっぱい……あっ、エイさんだぁ…!」
ぱあっと輝くような笑顔になるライスは可愛い。
ついつい魚よりライスに視線が惹きつけられてしまうのだが、とりあえずデートを楽しんでもらえればいいだろう。
「お兄さま、イルカさんが手を振ってるの…! すごくかわいいよ!」
「ライスが可愛いからかな」
「……お兄さま!? そ、そんな………そんなこと、ないよ?」
「いやあるけど」
「でも、本当にそうなら――――お兄さまにそう思ってもらえるなら、ライスも嬉しいな」
ぎゅっと少しだけ強く握られた手をなるべく意識しないようにしつつ、とりあえずの目的であるイルカショーへ。絶対に濡れるのが目に見えているので、合羽も用意しておく。
でもやっぱりびしょ濡れになって。合羽を着ていたのに顔はしっかり濡れるあたりライスは筋金入りだと思う。俺もだが。
くせ毛がストレートになったライスが可愛いとかちょっと幽霊っぽいとか、そんなくだらないことで笑って。
濡れても死守した弁当箱から食べた山盛りの弁当(好きな物が分からないので沢山つくったらしい)を、頑張ってちょっとずつ食べて(残りはライスが全部平らげた)。
「……ライス、すごく楽しかったよ。ありがとう、お兄さま」
「俺も楽しかった。次のドリームトロフィーリーグのレース、応援してる」
帰り道。
トレセン学園の近くまで歩いてきたところで、これ以上は目立つので分かれて帰ろうかと思ったその時だった。
「が、がんばるぞ、おー!」
「どうした急に」
もう帰るだけだろう、と言うのは流石にボケ過ぎだろうか。
レースの出走前くらいの真剣さ、なんなら春天のオーラすら見えそうなライスが振り返って言った。
「………お兄さま、あのね。ライス、本当は春の天皇賞に出たくないって思ってたの」
「……ライス?」
それは――――知っている。
菊花賞で声援を貰えなくて、ブルボンの三冠を阻んだ刺客と呼ばれたライスシャワーは、今度はまたメジロマックイーンの三連覇を阻むことで誰かの夢を壊してしまうとレースに出たがらなかった――――そして、テイオーやブルボンの説得で出走を決めた、ハズ。
「でも、お兄さまが居てくれるって思ったから―――菊花賞で、お兄さまのサイリウムが見えて、ライスはここにいて良いんだって思えたから――――だから走れたの」
「………ライスね、お兄さまが―――いつも優しくて、一生懸命で、いつもライスのことを応援してくれたお兄さまのことが―――」
「――――好きです」
「――――ごめん」
「ライスは、俺の憧れだ。ステイヤーとして、無敗の三冠ウマ娘に迫ったブルボンにすら走り勝ってみせた。どんなに苦しくても走り抜けた。誰も勝てないと思ったマックイーンにすら勝った。不幸にも、どんな強敵にも、長い距離にも負けない君のその心根を、根性を、優しさを、俺は尊敬してる」
「でも―――約束したんだ。夢を叶えるって、誰よりも期待を背負って、それでも負けないように踏ん張ってる子に頼られたんだ」
「あの子の夢を叶えるまで、俺は止まれないから。――――だから、ごめん」
頭を下げる。
いつの間にか振り出した雨の中で、ライスは濡れた頬を拭って微笑んだ。
「うん。―――ライスも、そんなお兄さまが好きだから」
「ライス――――」
「―――でもね。嬉しかったの。雨が降っても、水にぬれても、不幸なんて感じなかった。お兄さまが居てくれて、笑ってくれたから――――だからそれでも、ライスはお兄さまが好きなの――――お兄さまが、ライスにとってのヒーローだから」
「ずっと待ってます。お兄さまが振り向いてくれるまで、諦めないから。だから――――」
頭を下げたままの俺に、ライスがそっと身体を寄せる。
柔らかなものが頬に触れて、そのまま走り去っていく。
きっと二人とも振り返らなくて。
何故かきっと、二人とも泣いていた。
「――――何、してるんだろうなぁ……俺」
泣かせたくなんて無かった。
二人とも、裏切りたくなんてなかったのに――――。
もう一度、ダイヤとこんなやり取りをするのかと思うと何もかも投げ出してしまいたくなるけれど。それでも。
全部終わったその時に、こんな男でも好きだと言ってくれると、そんな勝手な希望を抱いてもいいのだろうか。
どうでもいい後書き
うわあああなんか告白されたああああ!?
断りやがったあああああ!?
こいつやっぱり中央トレーナーですね()
次回、ダイヤとデート(予定)
ちょっと仕事が忙しいので更新遅れるかもしれません。三連勤いぇいいぇーぃ!
モチベはあるんですけどね! こちらも書かねば無作法と(以下略)
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