その幼馴染は夢を見たい   作:紅乃 晴@小説アカ

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幼馴染の濡れ場は勘弁してくれ

 

 

 

春がそこそこ終わり、これから暑い時期が始まろうとしている頃。

 

入学後の浮ついた雰囲気がなくなり、人間関係も落ち着き始めているはずなのに、俺はいまだにクラスメイトの顔と覚えていない事態に陥っていた。

 

「ヤバいヤバいヤバい……通知来てるけど、誰だコイツ……名前と顔が全く一致しねぇ」

 

スマホの前で絶望したように唸る。メッセージアプリに送られてきたのはクラスの面子で土日に遊びに行かないか?という誘いだった。

 

ウチのクラス……というか、ウチの学校はなんというか、団結力が凄まじい。クラスごとの催し物とか、クラス対抗のテスト対決とか、何かとクラス同士で火花を散らしているからか、クラス全体の結束力が半端じゃないのだ。

 

新菜も同じような環境下だろうが、俺は特にクラスメイトに気を使わせてしまっている。なぜかって?俺がここ最近、帰宅部の活動を邁進しまくった結果だからですね!!

 

我が住まいである竹崎武具甲冑は、現在絶賛過渡期なのだ。理由は簡単で来年納品予定の鎧兜の制作が始まったからだ。え、時期的には5月が忙しいんじゃ?その頃に忙しいとか納期遅れで氏ぬ以外の何者でもないんじゃ。

 

基本的に5月のこどもの日以降、6月くらいから来年の受注分の金打ちがはじまる。ウチの鎧は金属製だ。直角などの部分はプレスで作れるが、曲線や金材については叩く、削り、研磨がデフォだ。

 

曲線の台に鉄板を置いてひたすら叩いて曲面を出す。筋彫りや曲げではできない箇所は削って、叩いて凹んだ箇所はひたすら磨く。そうやって甲冑の部品は作られていく。

 

夏が終わる頃には納品分の打ち込みを終えておかないと、秋から始まる装飾職人さんの仕事が遅れるし、漆塗りとか金箔貼りとか、もろもろがどんどん後ろ倒しになっていく。なので、この時期の金打ちがいかにスケジュール通り終わるかがキモになってくるわけだ。

 

もちろん、俺はまだ見習いなので兜の金打ちとかはさせてもらえないが、甲冑の一部などは徐々に任せてもらえつつある。

 

そのせいもあって、ゴールデンウィーク後の俺のスケジュールはお亡くなりになりました。家に帰って切り出された金物を叩きまくって、削りまくって、磨きまくる生活を強いられたのだ。まぁ職人になるため自ら望んだ仕事でもある。

 

それに加えて、ウチの商売の大筋である剣道で使う防具や竹刀の生産もある。

 

区内の小、中、高、大学で活動している剣道部などに降ろすモノも用意しないといけないし、老舗ということもあるのか、大学や社会人の人も買いに求めにくることもある。

 

最近は中華製も増えてきて、安い竹を接合しただけの防具とかも出回っているが、それでもウチのものを愛用して求めてくれるだけでも嬉しい限りでもあるのだが、過渡期にこれら商品の納品がバッティングするとやばい。

 

そして先日までヤバい状態だったのだ。ふふふ、氏ねるぜ。

 

それに、たまに古流武術の方が使う真剣の手直しや、研ぎ、試し斬りで使う巻藁を拵えたりもするので、日本刀道連盟の職人さんとも連絡を取り合わなきゃならないし、俺は基本的にそう言った仕事の手伝いで方々へ駆けずり回っていたのだ。

 

そして、気がつけば俺はクラスから完全に孤立。

 

学校が終わればハヤテのごとく居なくなり、次の日は遅刻ギリギリでやってきての繰り返しをしていたところ、クラスのリーダー格が見かねて遊びに誘ってくれるようになったのだ。

 

おやっさんからは「ウチのことはいいから、クラスメイトとあそでこい」って言われてるけど……けどなぁ。

 

入学式から馴染めてない上に、ここ最近学校と家の仕事を往復する脳死状態な生活をしていた俺に、ほぼ初見に近いクラスメイトと遊ぶなんて……嫌な予感しかしない。

 

過去の中学での嫌な思い出が蘇る。

 

体育祭後、なんとなくで帰り道が一緒になったクラスメイトに「お前、誰?なんでいんの?」って異物を見るような目で見られたこと。金細工のデザイン画を描いたノートを見られて「らくがきしてる!」って揶揄われたこと。新菜はそこらへん上手く隠してたけど、俺はそういうのが下手くそだったのかもしれない。

 

というわけで、学校のクラスメイトからの誘いは実家の手伝いが忙しいからと断った。

 

しかし、おやっさんに誘われているのを知られている手前、家に引きこもって作業していると心配もかけてしまうため、久々に外出をすることに決まった。

 

「おぉ〜!志信」

 

「あ、じっちゃん!」

 

目的に向かう道中。コンビニで仕入れた菓子をぶら下げて歩いていると、路地から出てきたのは新菜の祖父である五条 薫……じっちゃんとばったり鉢合わせた。

 

「どこかの帰りかい?」

 

「打ち込み終わったからプチお疲れ様会しようと思って、わっちゃんの部屋に乗り込むつもり」

 

じっちゃんもかき入れ時を乗り越えてのんびりしているようで、知り合いの職人さんに会いに行ってきた帰りだったようだ。コンビニ袋を見せると、じっちゃんはいつものように愉快そうな声で笑った。

 

「だっはっはっはっ!そりゃいい、アイツも最近小難しい顔してっからなぁ」

 

小難しい顔?面相書き以外で?五条人形店に向かいながら、そう聞き返すと、じっちゃんはうーんと唸って複雑そうな表情をしていた。

 

「上の空っつーか……なんつーか、気が入って無いっつーか……」

 

新菜と一緒にいる時間は、ここ最近減ってしまっている。理由はさっきの通り、過渡期のクソ忙しさで帰りも一緒に帰ることもできなくなってしまっていたのだ。

 

「ふーん、しかしわっちゃんが面相書き以外で考え事かぁ。それとなく聞いてみるっすよ」

 

「助かるわ。ありがとな、志信が新菜の友達で良かったわ」

 

へへ〜、ま、それほどでもあるんすけど。じっちゃんの感謝を受け取りつつ、到着した五条人形店に入る。勝手知ったるなんとやらで、俺はじっちゃんについていく形で階段を登り、新菜の自室へと向か……。

 

『あぁ〜〜ん♡』

 

「!?!?」

 

な、なんか聞こえた!!なんか聞こえたぞ!?思わずじっちゃんの方を見ると、そっちも聞こえたようで若干……いや、かなり絶句していた。そして、その音源がどこかすぐにわかった。新菜の自室である。近づくにつれて若い女性の喘ぎ声が徐々に大きくなってくる。

 

うおぉおい!マジかマジかマジか!?付き合って十年以上だが、幼馴染の濡れ場に遭遇するのか!?マジなのか!?んなもん見ちまったら気まずいどころの話じゃねぇーぞ!?

 

ダラダラと変な汗をかきながら一人パニクっていると、じっちゃんがそっと部屋の襖を開ける。え、開けるのマジで?

 

そして、中では……。

 

『はぁ〜〜ん♡ご、ごしゅじんしゃまぁ〜〜♡』

 

ストロベリーな画面と、それを前にメモを取る新菜がいた。え、なに、どんな状況?うわ、エッグ……そんな画像がストロベリーな画面に流れているのに、新菜は「なるほどなるほど」と言いながらメモをしていく。なんの研究してんの!?え、どんなプレイ!?

 

「ま、まぁ……新菜も年頃だし……なぁ?」

 

じっちゃんのフォローするような声が静かに聞こえた。あかん、これはじっちゃんには……刺激が強すぎるッッ

 

スパァンと半開きの襖を開けて、俺はそのまま両足を地面から離した。

 

「何しとんのじゃボケェエエエエ!!!」

 

「うわぁあああああ!?し、しのぶぅうう!?」

 

困った時の幼馴染フライングボディプレスである。

ドターン、という音と共に薄暗かった部屋に明かり灯った。そして、テレビには今もなお、ストロベリーな画面が映っていたのだった。

 

 

 

 

「で?これはどういうことだ?あん?」

 

というわけで五条人形店のリビングで緊急家族会議です。気まずそうなじっちゃんの横で仁王立ちで新菜を見下ろす俺、そして正座して青い顔をしている被疑者。

 

おそらく、さっきの状況を客観的に見て、じっちゃんへの心的衝撃や俺のブチギレフライングボディプレスの意味を理解したのだろう。側から見ればエロアニメを薄暗い部屋で見る肉欲を持て余した男子高校生だもんな!それを見せられたこっちの身にもなれコノヤロー。

 

「し……資料作り……です」

 

恐る恐る出た言葉に、俺もじっちゃんも首を傾げる。資料つくり?あの如何わしいやつが?ウッソだろお前……。

 

(如何わしいのは擁護できない……)

 

なんたってあれは年齢制限ありのガチエロである。

 

ちなみに新菜が見ていたのはアニメ版なため、PC版より表現がマイルドだったりする。貸してくれた本人からはPC版も借りているので、先にそれを見た新菜には若干の耐性ができていたが、無関係な人から見るとその衝撃は計り知れなかった。

 

あれこれ言い訳してもいらない心配と邪推をされるだろうな、と考えた新菜は「じ、実は……」と本当のことを話すことにした。

 

「「クラスメイトにコスプレ作りを頼まれたぁ!?」」

 

色々なことを端折って説明した新菜に、俺とじっちゃんは驚きの声をあげた。なにやらアニメ好きなクラスメイトから、さっきのストロベリーなアニメに登場するキャラの衣装を作って欲しいと依頼を受けたらしい。

 

そして、衣装の造形を確認するために一人であのストロベリーなアニメを見て、キャラの衣装の細部を確認していたとのこと。なるほど、だからメモをしていたのか。パッと見はかなり異常な感じでドン引きしたけど。

 

(さ、さすがに喜多川さんの名前を出すわけにはいかない……)

 

祖父だけなら話していたかもだが、幼馴染の志信は新菜と同じ学校に通う身だ。何か揶揄う……というわけではないが、普通に考えて個人の趣向を安易に口にするものではないだろう。まぁ数日後にすぐにバレることとなるが。

 

「よく新菜がそういう技術持ってるって知ったなぁ」

 

「たまたま被服室でミシンを使ってるところを見られて……そのまま流れで」

 

なるほど、と納得するじっちゃん。聞くとこれまで使っていたミシンが壊れてしまい、今は電気ミシンを使っているらしい。

 

しかしまぁ、その流れでコス作りを受けるってどういう展開……?

 

とりあえず、喘ぎ声が響く部屋にいた新菜にぶったまげた俺とじっちゃんは安堵のため息をついた。

 

「ま、それなら納得だな」

 

「おう、ちっとビビったがな、わっはっはっ!俺はとうとう新菜が大人の階段を登ったのかと……」

 

「わわわ!や、やめてよじいちゃん!」

 

「でもコイツ、じっちゃんの雛人形に一目惚れしてるから相当面食いすよ」

 

「しーちゃんも何言ってんの……!!」

 

顔を真っ赤にしてそう言う新菜。その様子を見て、俺もじっちゃんも笑った。それにしてもコスプレ作りか。思わぬところから殴られたような感覚だ。しかし気持ちはわかる。よくわかる。

 

「まぁ、わっちゃんが納得して進める決意をしたなら俺らは反対しないって。そういうのも経験だしな」

 

「そういうのって、志信も何か経験したのかい?」

 

「え゛っ!いや!まぁ、あれっすよ!おやっさんの受け売りみたいな?」

 

じっちゃんの言葉に思わず声がうわずる。まぁ経験にはなるかるな!コスプレ作りも、そのほか色々も!一度咳払いしてから、俺はふと気になったことを新菜に聞いた。

 

「ところで、さっきのアニメってなんだったんだ?」

 

「聖♡ヌルヌル女学園 〜お嬢様は恥辱倶楽部ハレンチミラクルライフ2〜だよ」

 

「「なんだって?」」

 

その後、衣装詳細を研究するため、新菜の部屋で俺もヌル女の視聴を強制された。衣装5割、話の内容5割であったが、話の内容見た俺から言わせて欲しい。

 

わっちゃん、おめぇ……これ見たら性癖ゆがまねえ?大丈夫?

 

 

 

 

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