その幼馴染は夢を見たい   作:紅乃 晴@小説アカ

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雨の日の訪問者とトラブルと

 

 

 

7月。

 

初夏の木漏れ日が心地よいと思っていたら梅雨である。農家や渇水地域には恵みの雨の時期であるが花の高校生男子や青春を謳歌するスポーツ部活を嗜む者たちにとってはどんよりとした気分になる時期である。だって外で思いっきり運動はできないし、塗料は乾きにくいし、湿気が多くて台紙はくるくると変形するし。あ、後半はものづくり職人の愚痴だったわ。

 

花の高校生といいつつも、相変わらず職人の卵である俺は帰宅部である。就業のチャイムとクラスメイトと挨拶することもなく共に下駄箱へ直行し、帰路へと着くのだが……。

 

「うひぃ〜〜!」

 

絶賛俺は激しい雨に打たれていた。とりあえず鞄から引っ張り出した体操着で鞄は死守しつつもなんとか五条人形店の軒先に逃げ込む。え、なんで自宅の竹崎武具店では無いかって?近所ではあるが五条人形店のほうが学校から近いのだ。

 

「あーくそぉ、ゲリラ豪雨なんてついてねぇ……わっちゃんの忠告真面目に聞くべきだった」

 

体操着で包んだ鞄は特に濡れていないので一安心。カバンの中には大事なデザインノートが入っているので濡れたら大惨事なのである。その分、俺の制服やインナーが大惨事となっているのだが。

 

ちなみに今朝、新菜と登校していたとき。

 

『あ、しーちゃん!傘!』

 

『こんなに晴れてるんだから傘なんて必要ないでしょ〜!』

 

折りたたみ傘の予備を渡そうとしてくれた新菜にそう返してしまった今朝の自分をぶん殴ってやりたい。幼馴染の新菜は今日は日直の仕事があるので遅れて帰ってくるはずだ。さてどうしたものかと軒先で悩んでいると自宅用の玄関の引き戸が開いた音が聞こえた。

 

「お、志信じゃねーか。雨宿りか?」

 

「あ、じっちゃん。どもっす!雨に降られたのもありますけど、この後わっちゃんとデザイン画とか色々しようかと思ってて」

 

これは本当。新菜も喜多川さんの衣装作りがひと段落ついたので、面相描きや五月人形の衣装作りを再開していて、俺も金物の打ち込みが終わっているのでしばらくは時間がある。なので学校が終われば新菜の家で金物のデザインを起こして、家に帰ってから金板の叩き込みと削り、彫刻をしたりしている。

 

……あれ?打ち込みしていた頃とそんな変わんない生活してないか?まぁいいか!(職人脳)

 

「だっはっはっ。志信は相変わらずだなぁ。どうだい?新菜みたいに女の子と仲良くしてみたら」

 

そうおおらかに言う新菜の祖父。あのコスプレイベント後も喜多川さんはアレコレとお気に入りのアニメを若菜の家に持ってきたり、晩御飯をご馳走になったりと合流を続けているようだ。

 

俺?俺は空気が読めない幼馴染じゃありませーん!喜多川さんが来ることがわかっている日はなるべく近寄らないようにしたりしてる。なぜか?雛人形に脳を焼かれ、心も奪われた親友に三次元の女友達ができたのだ。我が幼馴染の春に水を刺すほど俺は人間をやめていないぞ!JOJO〜!

 

まぁ喜多川さんはいい人だし、人の好きなものを馬鹿にしないし、真剣なことには真摯に向き合ってくれる人なので、ちょっと頭のネジ飛んでる新菜にはちょうどいい相手なんじゃないかって思ってるのも事実。

 

ただ、喜多川さんが持ってきたアニメを文句を言わず真剣に見る新菜。その横にいる喜多川さんの目を見た時に確信したね。あれは沼に落とすオタクの鏡の姿であると。

 

あと喜多川さんのお気に入りアニメ(R18を含む)を見せられているので、新菜の性癖はヌル女履修していた頃より複雑怪奇かつ複雑骨折、こじれにこじれた癖になっていないかだけが幼馴染は心配である。

 

「ところでじっちゃんはどこかにいくの?」

 

「あぁ、商工会の理事長に呼び出されてな。あ、そうそう。新菜の友達も来てるみたいだから。先に通しといたぞ」

 

ニコニコとした顔でそう言って傘をさしたじっちゃんは「新菜が帰ってきたらよろしくと伝えてくれ」とだけ言って雨天の中出ていってしまった。

 

え、いや、じっちゃん……俺が居なかったらその子一人にして家空けるつもりやったんか……?さすがに不用心すぎないかね。

 

「わっちゃんの友達……?喜多川さんか?」

 

玄関を確認したけど女子高生用のローファーがひとつ。うちの高校は靴の指定はないし、ローファーなんてある程度似たようなデザインばっかりだし……第一に、俺は喜多川さんの靴をそこまで見たことがなかったため、一目見たローファー=喜多川さんの靴と脳が処理してしまった。

 

……今思えばここでサイズ感さえわかっていれば、あんなことになってなかったと思う。

 

「とりあえずシャワー借りよ……うへぇ服気持ち悪……」

 

五条人形店は俺にとって二つ目のホームグラウンドである。

 

泊まりに来たことなんて数え切れず、脱衣所の収納棚には手ぶらできた時用の最低限の着替えも入っているので、俺は特に何も考えずに濡れてべちゃべちょになったシャツとインナーを脱ぎつつ五条家の脱衣所へと入った。

 

「脱衣所に誰か……ん?」

 

ふと扉を開けた瞬間に灯りがついていることに気づく。そして浴室の扉にも灯りが付いているのが見えた。人影が映っていることも。ブワッと濡れた体の気持ち悪さが消し飛び、体感温度が下がり、変な汗が出てくる。

 

もし、喜多川さんが浴室にいるなら?

 

おいおいおいおいおいおいおい。ヤッベェぞ。

 

何がって……とにかくヤッベェぞ!!!!

 

とりあえずいち早く脱衣所から出ねばと思ったと同じ。閉ざされていた浴室の扉が開いた。

 

「ぎっ」

 

「あっ」

 

手遅れであった。そのとき、わずかでも浴室に入っていた相手がタオル等を体に身につけていればよかったのだが、生憎体を拭くタオルは浴室の入り口に置かれていたため、浴室にいた相手は何も身につけない状態でタオルを取るしか方法はなかった。

 

そして、そんな浴室を開けた相手の身体を、四肢を、竹崎 志信は目撃してしまったのだった。

 

「お、おんなの……こ……?」

 

「まさか泥棒!?」

 

「「あ」」

 

フリーズする二人の空気の中、志信に僅か遅れて帰ってきた新菜が勢いよく脱衣所の扉を開いた。ちなみに喜多川さんは別クラスメイトとお茶してから帰るとのことで、新菜とは別行動である。

 

つまり、志信が思い込んでいた来訪者は……喜多川さんではなかったのだった。

 

浴室の扉のところにいるすっぽんぽんの女の子、それを見てしまった志信、そして祖父を騙して家に上がり込んだ相手を確認するために脱衣所にきた新菜。

 

重すぎる……非常に重すぎる空気が漂う中。

 

「しーちゃん……さすがに小学生は犯罪だと思うよ。俺」

 

新菜。場を更なる地獄へと変える。あんまりな言い草に志信……ではなく、浴室にいた女の子が文句を言おうと足を踏み出したのだが、運悪く姿勢を崩してしまって……。

 

「わー!馬鹿馬鹿っ!」

 

目の前にいた志信に倒れ込んだのだ。しかもすっぽんぽんのままである。もつれあって倒れる二人。ふと、女の子は視線を自分の胸元に向ける。そこには転倒を支えるために咄嗟に出した志信の手があって、その手はしっかりと女の子の胸を捉えてしまっていた……。

 

乾 紗寿叶。

 

エスカレーター方式の女子校である桜ノ宮女子高に通う彼女にとって、男性経験は皆無。そんな彼女にとって、風呂上がりの姿を見られたどころか、倒れ込んで男性に覆い被さり、挙げ句の果てに胸に手を当てられた……完全にキャパオーバーである。

 

「き、きゃあああああああああああ」

 

「あああああああああ」

 

女性特有の甲高い悲鳴と共に急所である鳩尾を抑え込まれ、志信もまた鈍い悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

「……じっちゃんが新菜の友達と勘違いして、雨に降られたからシャワーを貸して、その間にじっちゃんは商工会の呼び出しに出ちまったと……」

 

「すいません、うちの祖父が……」

 

とりあえず野郎2人は早々に脱衣所から脱出。新菜の祖父が用意しただろう予備の服に袖を通した相手を交えて、色々と落ち着くために五条家の食事をする部屋で腰を下ろす。

 

とりあえず女の子、俺、新菜のそれぞれの見解を話し、原因は何も聞かずに女の子を家にあげて、濡れてるからと言ってシャワーまで貸した新菜の祖父が大きな要因なのだが……あの人から見たら全員孫みたいな歳だからな……にしても警戒心なさすぎて心配になるけど。

 

「まぁじっちゃんは仕事以外ではおおらかな人だからな。適当なところもあるけど」

 

「ははは……」

 

俺の叔父であるおやっさんも割と適当だからな。夜に晩酌やった後、鍵もかけずに居間で爆睡決めたりするのだが、泥棒が入ったら大惨事間違いなしだ。俺が住むようになってから戸締りはきっちりやるようにしているのだが、放っておくとすぐに鍵全開にするから……。職人はあれなのか?ステータス全振りするからそう言ったところがガバガバになるんか?

 

「んで?えーと……」

 

とりあえず、俺と新菜の視線は少し離れたところで女の子座りしている相手に向けられる。視線に気づいた彼女は少し視線を泳がせてから小さな声で視線に答えた。

 

「い、乾 紗寿叶よ」

 

「乾さんは、どうしてウチに?」

 

「衣装を作って欲しくて……」

 

「雛人形の?」

 

「どうして雛人形なのよ」

 

ジト目でそう言い返してくる乾さん……?に俺は飾られている雛人形のモデルを指さす。

 

「だってここ、五条人形店だし」

 

あ、というような顔をする乾さん。その時点で人形店と知って尋ねてきたわけではなさそうであった。隣の新菜を見るとみるみると顔色を悪くしているのがわかる。

 

「で、でも!この衣装!貴方が作ったんでしょ!?」

 

そう言って自身のスマホ画面をずいっと見せつけてくる乾さん。その画面には喜多川さんが扮したヌル女の雫たんのコスプレ姿が映っていた。画像的にはたぶん俺が来る前に新菜の自室で撮ったコスプレ写真なのだろう。それを見せつけられて新菜はワタワタと手を身振りしながら答える。

 

「た、たしかに俺が作りましたけど、商売としてやっているわけじゃ……」

 

「わっちゃん」

 

俺は新菜の肩に手を置く。この乾さんという女性は新菜の作ったコスを見て、どう言う経緯かこうやって作った本人である新菜の元へとやってきたわけだ。それはつまり……。

 

「お前の作った衣装がこの子のハートを射止めたってことなんダゼ⭐︎」

 

「しーちゃん……!」

 

職人を目指す者にとって自分の作り上げたものを認め、求めてくれることは何よりの誉である。まずはその事実を喜ぼうじゃないか!

 

「あの、友情を噛み締め合うのはいいんだけど、どうなのよ」

 

「やっほーごじょーくん!あっそびにきたよー!」

 

「ああこれ以上に状況がややこしいことに!?」

 

同級生とお茶し終えた喜多川さんがアポイントなく突撃してくることについて新菜はとくにツッコミを入れることはなかったけれど、とりあえずめちゃくちゃ喜多川さんに事情を説明する羽目になった。

 

その間、俺は何故か乾さんからすげぇ睨みつけられていた。心当たりは……あり過ぎるからとても困る。武士の情けか、新菜はそこの部分だけはあまり説明しないでくれた。

 

うん、幼馴染のその優しさ、とても胸に沁みるよ……めちゃ痛いけどな……!

 

 

 

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