PERSONA-B   作:社畜野郎

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 生きてます。


#2初登校

202X年 4月 17日【雨】昼→夜

 

 窓や屋根を叩く雨音で目覚める。

 どうやら、ぐずついていた天気は陽が落ちてから完全に悪化した様だ…。

 

(…変な夢を見た気がする、電車の中で見たのとはまた別モノな感じだけども…)

 

???『ただいま、すまん遅くなった』

 

 玄関の方から呼びかけられる、どうやら宇月さんが帰って来た様だ。寝惚けてる場合じゃ無い挨拶に行かなければ。

 

 

 階下に降りるとそこには、毅然とした雰囲気の女性がいた。

 この人が“宇月 志音”さん、俺の遠縁の親戚にあたる人物。電話やSNSでのやり取りはあるが、こうして実際に会うのは初めてだ。

 お世辞抜きに美人と呼べるその容姿に内心ドキっとする…。

 

志音『長旅お疲れ様。こうして面と向かい合うのは初めてだな、宇月 志音だ。オマエが…』

 

慶『はい。慶です、伊吹 慶。これからお世話になります』

 

 宇月さんに続く形になってしまったが、改めて自分の名前を告げる。

 

志音『ハハハ、これから一緒に暮らすんだ、そう畏まるな。少し遅くなったが引越し祝いも兼ねた晩飯にしよう』

 

 そう言うと宇月さんは片手に携えていたビニール袋を掲げてみせる。袋には“大吉寿司”の文言がプリントされていた。という事は…。

 

志音『今夜は寿司だ。ここいらでも有名な店だぞ』

 

 

 寿司の余韻に浸りつつ茶の間に据えられたテレビで天気予報を流し観る。どうやら綿陽市周辺は明日いっぱい雨模様らしい。

 

志音『明日は登校初日だというのに、災難だな』

 

 確かに、土地勘の無い場所を出歩くにしては最悪のコンディションだ。明日の朝はなるべく早く起きて家を出る事にしよう…。

 

志音『さて、食事も済んだ事だし、ココでの生活について話しておこう』

 

 宇月さんはそう言うと、飲みかけの缶ビールを傍に置きこちらを見る。

 

志音『わたしは仕事の都合上この家に居ない事が多い。つまり食事の用意や洗濯などはオマエ自身でなんとかしてもらう必要がある』

 

 なるほど、自分の尻は自分で拭けということか。元より居候の身。一から十まで世話になりっぱなしというワケにもいかないし、何よりその方が気が楽だ。

 

志音『保護者として面目ない…。しかし、あまり心配してはいない、ある程度の家事は一人でこなせると義兄さんから聞いているからな』

 

慶『まあ、身に付けざるを得なかったというか』

 

 義兄さんというのは俺の父親の事。

 そう、長らく父との二人暮らしだった俺はそれなりに家事スキルを習得していた。

 と、自負している…。

 

志音『だとしても、その歳で大したものだ』

 

 うぅん、素直に褒められるとむず痒いな…。

 

慶『そう言えば、宇月さんって何の仕事されてるんです?結構忙しそうでしたけど』

 

 小っ恥ずかしさを紛らわすため話題を変える。

 

志音『そう言えば伝えてなかったか、わたしは医者だ。地元の総合病院に勤めてる』

 

 医者か。

 なるほど多忙なわけだ、今はどこも医療従事者不足だと聞くし。

 

志音『あまり話し込むと夜も更けてしまうな。明日に響く、風呂を済ませて今日はもう寝なさい』

 

慶『ですね、そうします』

 

 宇月さんの助言を大人しく聞き入れ、今日はもう大人しく休む事にしよう…。

 

 

202X年 4月 18日【雨】朝

 

 昨夜の予報は外れる事なく、生憎の雨。さすが気象予報士いい仕事してるねー。

 安物のビニール傘片手に、着慣れぬ学ランを身に纏い通学路を歩む。中学の制服はブレザータイプだったから少し窮屈に感じる…。

 

(自分で言うのもなんだけど、なかなか様になっているんじゃないか、うん)

 

 などと考えている内に、周囲に自分と同じ制服を着た学生達がチラホラ現れだす。…ということは、そろそろ学校が近いのかな。

 

???『おぉっとッ!ゴメン避けて!!』

 

 背後から切羽詰まった声と、キィィという金属音が響く。その声音がした方向に顔を向けると、自転車に跨った人物がこちら目掛けて突進して来ていた。

 瞬間、俺の脳は認識する。回避不可能と。

 盛大な衝突音と共に、俺と自転車の人物は道端にあるゴミ置き場に突っ込んだ。

 

 

???『ゴメンなさい!ブレーキ故障しちゃったみたいで、怪我はない?』

 

 飛散したゴミを体の所々に纏い、自転車を運転していた人物であるフードパーカーを着た少女は俺に謝罪した。

 パーカーの下から覗くセーラー服は、俺が着ている学ランと対となる同じ高校の制服だった。

 

(…?どこかで会った事があるような…)

 

慶『ゴミがクッションになったおかげでなんとか』

 

 彼女と同じくゴミを被った俺は、それを払いながら自身の無事を告げる。

 しかし、彼女の愛車はそうではなかったようで、ライムグリーンの鮮やかなフレームは少し歪んでしまっていた。

 

???『良かった。ってゴミ山に突っ込ませといて言えることじゃないか…。ごめんなさい…』

 

 自転車少女は殊更申し訳なさそうに頭を下げる。なんだかコチラが居た堪れなくなってくるな、周囲の注目も集めてしまっているし。

 と、少し遠くからチャイムの音が聞こえる。

 間違いなく始業の予鈴だ。

 

慶『ほんとに大丈夫だから。それより今はお互い急いだ方が…』

 

自転車少女『遅刻!?』

 

 言うやいなや少女は愛車に跨り、ギコギコと異音を放ちながら走り去っていった…。

 

自転車少女『この埋め合わせは必ずするから〜!』

 

(慌ただしい子だな…)

 

 なんて言ってる場合じゃないな、登校初日から遅刻なんて御免被る。俺も急ごう。

 

 

 なんとかギリギリで学校に辿り着き職員室で担任の教師に軽く挨拶を済ませた後、俺は自分のクラスである1年B組の教室に居た。

 入学手続きの不備等によるゴタゴタでズレたタイミングでの参加となった俺に、クラスメイトの値踏みする様な視線が刺さる。

 転入生というわけではないので黒板前に立たされる事はなかったが、予め用意されていた自分の席(中央列最後部)にて起立し簡単な自己紹介を求められる。

 

慶『えっと、伊吹 慶。少し遅くなりましたが、これからヨロシクお願いします…』

 

担任教師『はい、ヨロシクぅ。お前ら、暖かな拍手!』

 

 どこかやる気の無さそうな中年に男性教師の言葉を受け、パチパチという疎な拍手が周囲から響く…。

 引越し続きで数多く経験してきたけど、周囲から向けられる独特の異物感はいつまで経っても慣れない。

 けど今回は今までとは違う、きっちり3年間この場所で高校生活を送るんだ。次第にこの雰囲気も無くなるはずだ。

 その為に父や宇月さんに我儘を言って、この綿陽市にやって来たのだから…。

 

 

202X年 4月 18日【雨】朝→午前→昼休み

 

 ようやくの昼休み。

 宇月さんから持たされた弁当(初日くらいは保護者らしい事をさせてほしいと、早起きして作ってくれたらしい)を広げようとした時、一人のメガネ男子が声をかけてきた。

 

メガネの男子生徒『やぁ伊吹くん!ようやくの昼休みだな!』

 

 やや暑苦しい雰囲気のその男子は、俺の前の空席にどかっと座り込む。…なんだいきなり。

 

信春『僕は“鷹里 信春”。このクラスの委員長を務めている』

 

慶『俺は、伊吹 慶…』

 

信春『知っているとも、今朝自己紹介を聞いたからな』

 

 鷹里と名乗った男子は何故か得意げに胸を張り、ボストン型フレームのメガネをクイといじる。そして徐に某コンビニのビニール袋を取り出し俺の机に置く。中身はカツサンドとナポリタンロールに茹で卵が1コ、そしてペットボトルのお茶だ。

 

慶『…なんのつもりだ?』

 

信春『何って、一緒に昼メシにしようと思っただけだが?』

 

 何故…?

 

信春『フフン、腑に落ちないといった表情だな。案ずるな!クラスに馴染めぬルーキーを気にかけ、緊張を解すのも委員長としての務めだ!』

 

 ルーキー、とはまず間違いなく俺の事だろう。

 いらぬ世話というか、お節介というか…。第一印象どおり暑苦しいヤツだな…。

 

慶『変なヤツだな…。でも、おかげで少し気が楽になったよ、ありがとう…』

 

信春『ッ!?伊吹くん!…なぁに礼など要らないさ!僕はクラス委員長!だからね!!』

 

 鷹里は何やら感動した風に身震いすると、大仰な仕草で自身の胸に掌を当てる。

 

(…うん、暑苦しい…)

 

 予想外の騒がしい昼休みになりそうだが、ともかく食事にしよう。そう考えて弁当箱の蓋を開ける。

 瞬間、溢れ出す名状し難き臭気!!

 それは紛れもなく、目の前にある自分の弁当箱から放たれている…。

 臭いはたちまち教室中に充満し、クラスメイト達が嗚咽と共に緊急避難する。

 

信春『い、伊吹くん…。その弁当は一体!?』

 

 俺と同じく至近距離で臭気を浴びたであろう鷹里は苦悶の表情で口元をおさえる。

 弁当の中身は残念ながら肉眼で確認することはできない…。まるで淀んだ臭気と共に空間が歪んでいるかのようだ。

 

(…宇月さん、料理苦手だったんだな。壊滅的に)

 

 かくして、俺の高校生活は最悪のスタートを切った。“暗黒弁当”という不名誉な字名と共に…。

 

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