翌日。特に何もなくソファーの上から朝日を拝む。
「………」
まだシャーロットは起きていない。
「シャーロット……朝だよ」
寝ぼけながらシャーロットの居る寝室へ向かい体を叩く。
「まだ神様も起きてないよママ……」
「………シャーロット。もう7時。そろそろ会場に行かないと遅刻するよ?」
今日がオフ会当日。そろそろ身支度しないと朝食を摂る時間も無くなる。
「んん……」
仕方ないと思い布団をバサァと浮かせる。
が、その後手を挙げた状態で固まることになる。
「……………」
赤面し言葉を無くす。いや、誰でもこうなってしまうでしょ……
「シャーロット!!」
「ウヒャア⁉︎」
「ねぇまだ怒ってるの?」
「怒ってない」
「嘘。タクこっち向いてくれない。なんで怒ってるの?」
「……………」
昨日送ってもらった車の中で少しお怒り状態の拓海とシャーロットがなんとか身支度を済ませていた。
「もしかして手伝ってもらったから?」
「違う。別にあの程度どうってことない。初めてだったけど」
「じゃあー野菜を食べてもらったから?」
「アボカドとピーマン以外は好きだ。次は食べないけど」
「じゃあ何?」
言いたいけど言えないのに尋問されるのでどうなっても知らないと決めて一つ質問をした。
「………まだ気が付かないの?」
「え?うん」
その返答に決心が着いたのか耳まで赤くして言う。
「朝起こしてからずっと居たでしょ。流石に男と一緒なんだからもう少し危機感持って欲しかった」
「………ッ!!」
瞬間頭が真っ赤になり湯気でも出てるんじゃないかと思うほどに恥ずかしがるシャーロット。拓海も同じように耳先まで恥ずかしがっている。
「あ、でもそうなるとタクは私の身を案じて怒ってくれてるんだ。あと嫉妬とか?」
確認するためにこっちに顔を向けるシャーロット。妙に赤い顔がエッチに見えて身惚れたが、すぐに顔を背けて無言を貫く。
「へ〜………そっか。嬉しいな。大丈夫。タクが初めてだから」
こんなにも甘い空間が今まであっただろうか?
ちなみに余波として運転手は甘いカフェオレを選んだ過去の自分を恨み砂糖製造機と化していた。
さて、朝のちょっとした事件は上手いこと幕を閉じ、オフ会の話へ移った。
「ああ、オフ会の詳細は伝えてなかったわね。日本の同人誌即売会みたいな感じよ。私の関係者とかも出るんだけど、別に運営は私達じゃないから気楽に接してくれて大丈夫」
「シャーロットは?」
「私はタクのボディーガードよ。男の人がコスプレして出るのって何げに世界初よ?」
「へ〜……」
あまりそこの世界初には興味は無いが、知名度稼ぐには良さそうだとまずは思った。
そして、とても楽しみだと。
会場は野外で街から少し離れた場所にテントを張っている所だ。風が涼しくて気持ちい。
「こっちよ」
シャーロットに案内された先には沢山の女性の人が居た。いや、まず周囲に男性が居ないのだが。
「……拉致?」
「招待よ!!じゃあ自己紹介してもらってもいいかしら?」
「はい。風間拓海です。SNSではタクという名前で活動してます。よろしくお願いします」
唖然としている人達。その中で部長的立場の人が真っ先に言葉を返してくれた。
「本当に男の人が来るとは思わなかったわ。私は監督業を生業としているジェニーよ。気楽に監督って呼んで。名前で呼ばれるのは慣れてないの」
「はい。よろしくお願いしますMs.監督」
ピッ
「ん?今何か音が」
「気のせいよ。さ、他のみんなを紹介するわ。部下よ。以上!!」
「ふざけるなー!!」
「名前くらい言わせろ〜!!」
「いくら監督でも許さんぞ!!」
「訴えてやるー!!」
突然の裏切りにギャーギャーと反抗する人達。その姿にシャーロットは徐々に見たことがない鬼の形相に。俺は苦笑いをするしか無かった。
「はいはい。あとで時間あるでしょ?さっさと着替えてきなさい。Mr.カザマでいいかしら?」
「タクミで大丈夫です」
「なら私も監督で大丈夫よ。タクミは男性だから特別に一つ開けておいた更衣室があるわ。荷物もそこで大丈夫だから」
「わかりました。ありがとうございます」
案内された更衣室は一人にしてはとてつもなく広かった。まあ、つまり元々ここは予備更衣室なのだろう。
「でも本当に男性が居ないなんてびっくりだな、っと。これだよね?神主衣装と狐のしっぽ」
今回シャーロットに着て欲しいと言われたのは神社の道を箒で掃いているような印象の強い神主の衣装と狐の尻尾。しかも意外に尻尾が大きくて着るのは大丈夫そうだが着続けるのは辛そうだ。
「うんしょっ……後ろのところから差し込むのか」
尻尾を取り付けて着替えは終わった。あとは楽しむだけだ。
外ではもう始まっているらしく姦しい声が聞こえてくる。
「………よし!!」
外へ出る。
目の前に居た二人の女性がこちらを向いて口を開いて脳停止する。
「こんにちは」
笑顔で手を振り挨拶するとゆっくりと向こうも手を振って挨拶を返してくれた。
シャーロットがいなかったので先ほどのところに戻りつつ撮影などを受けていると身動きが取れなくなってしまった。
「こっちにも目線お願いします!!」
「い、いいんですかそのポーズ!?うわエッロ……」
元気系。大人しめ系。真面目系と様々なジャンルのポーズを変えていく。突然カメラマンの中からこちらに向かってきた一人の女の子。シャーロットでは無かった。
「あ、あの!!ツーショットをお願いしてもいいですか!!」
「うん、いいよ。ほら、こっちにおいで」
笑顔になる女の子に身を寄せるが少し大きな間がある。
「もっとこっちに……」
「え?いやいやこれ以上は!!」
「もう……ほい。はいチーズ!!押して!!」
次が待ってそうな感じなので腰に手を回して肩と肩がぶつかっている写真を撮った。
「よし、いい感じじゃない?あ、SNSしてるからよかったらフォローしてね!!じゃ、え〜っと。そこの列全員ツーショット希望者?oh…」
かなり多い列に驚いたがそれ以上に衣装が似合っているという嬉しさが勝りどんどん列を消化していった。
「あ、ありがとうございました!!」
「は〜い。じゃ、再開を……」
そして最後の一人を終えると待ってましたとカメラマンが即座にスタンバイした。ちょっと疲れたなと感じたところに見覚えのある髪色がこちらに迫った。
「シャーロット!!」
「タク!?どこに居るのかと思ったら………これ今撮影中?」
「うん。許可は取ってるよ」
「ならいいのだけど……その。早めに終わらせてね?」
「わかった」
「あと、似合ってるわ。あとでじっくり見せてね」
そう言われ撮影現場に戻る。なんだかざわざわしてるが何かあったのだろうか?
とりあえずポーズを取り始め撮影を再開した。
シャッター音は止まることはなく、カメラマンも増えるばかり。この時俺は世界の中心が自分のような錯覚がした。
恐怖心もあるが、それ以上にこんなにも多くの人が自分に注目してくれているという事実。だが、注目してほしい。頬を赤らめる人。目がギラギラしていて少し怖い人。
全員が興奮している。なんだかみんな新たな性癖に目覚めてくれているのかもしれない。
最後にドSみたいに加虐心に満ちた顔をすると数人が鼻血を垂らした。
「ちょっと疲れたから休憩。また後でやるからその時にね〜」
そう言い残し撮影現場から離れシャーロットに案内され椅子に座る。
「お疲れ様。あなたハリウッドでも十分いけそうね」
「演じることにはまだもう少し手は加えないといけない。もっと美しくできればなぁ……」
「私も常日頃そう考えるわ。結局完璧なんて無いのだけど」
そう言うシャーロットはなんだかかなり過去を辛く見ているようだった。
「……俺の前だけでも素で居てくれないか?」
「そんなに辛そうにしてた?」
「ああ。俺は友達が居ないから上手い慰め方は知らないけど、こうしたら気は休まることは知ってる」
そう言いハグをする。
「あ、え?タク⁉︎み、密着して……」
「委ねて」
そう耳元で言うとシャーロット身を震わした。幸いここには他に人は居ない。二人だけだ。
背中をさするとシャーロットも強く抱きしめ返してくれた。
ゆっくりと心臓の音が一定になる。それに合わせて背中を叩くとさらに抱き締める力が弱くなった。
「はい、ここまで!!シャーロット、離れて」
眠たくなりそうだったのでハグをやめると名残惜しい顔をしたシャーロットがそこに居た。
滅茶苦茶可愛い。ちょっと涙が流れたのか麗しく、少し乱れた髪の毛が肩に掛かっている。
「……後で時間作るよ」
「うん。ありがと。思ったより重かったのかもしれないわ」
先ほどより笑顔に輝きがあるシャーロットが立ち上がる。
「じゃ、次は私ね!!知名度を上げたいんでしょ!!ほら行こう!!」
そう言われ休憩室を後にする。