初めて男性コスプレイヤーがこういった会場に出るという噂は先ほどの事もあってかかなりの信憑性を得ていた。
タクはこういったの初めてのはず……エスコートは女性の役目よシャーロット!!気をしっかりしなさい!
「緊張しなくて大丈夫よ。今さっきのようにしてれば大丈夫のはずよ」
「ああ。シャーロットこそ緊張しなくて大丈夫」
緊張というより心配なんだけどね。なんかいい気がしないわこれ。お母さんが私が初めての映画に出演するのを過剰に心配してた気持ちがよくわかるわ。
「ありがとう。でもまさかこんなに集まるとは想定してなかったわね」
「でも映画の前には良いウォーミングアップかも」
「あの話OKしてくれたの?」
「まだ。さ、行こう」
タクが進み始める。堂々と歩く姿はまるで私が憧れていたハリウッドスターにソックリだった。
一定の歩幅で進み、笑顔で人を惹きつけ虜にする。
予告されていた通り現れた男性コスプレイヤーに会場は沸いた。100人以上は居るカメラマンのシャッター音が鳴り止まない。カメラマンの中には先程出会ったばっかりの私の同僚まで紛れ込んでいた。完全に仕事モードで1番美しい所を奪い合っていた。
完全に周囲を囲まれているタク。多分私ですら怯えてしまう圧力の中でタクはポーズを完璧に再現するかのように取り続ける。日本らしい清楚な優しそうな顔をしたかと思えば徐々にサディスティックな雰囲気になっていく。
人を道具かのように見下す顔をすればカメラマンは下へ下へとカメラを下げる争いになり、祈るようなポーズをしたら今度は真正面や斜め前が激戦区になる。だが突然後ろを振り返ったかと思いきやニッコリと笑顔になり後ろ姿を撮っていたカメラマンが激戦区の中心になったりと破茶滅茶な感じだ。
男だからってだけじゃない。それ以上になにか才能のようなものがあった。
私がタクに見惚れていると突然こっちを向いた。目線が合う。ダイヤモンドのような輝きを放つ黒髪に奥深くに吸い込まれそうな綺麗な黒い瞳。
瞬きすら許してはくれないタクの元気な笑顔を見た私は確信した。『欲しい』
タクが欲しい。思えば私はタクに一目惚れしてしまう一人の少女なのだ。
中学生のような甘過ぎる恋かもしれない。高校生のような酸っぱさが目立つ青春かもしれない。大学生のようなすこし複雑な苦い恋かもしれない。
それでも、私は欲しい。タクが欲しい。
初めて知ったのだ。18年間生きて初めて知ったのだ。突き動かされるような激しい欲望は。
まさか出会って二日でこんな思いになるなんて過去の私は思いもしなかっただろう。
でも恋するなら1日もあれば十分だっていつかの映画で言ってた。ただのセリフだけど。
そうよね。なら良いじゃない。
軽い気持ちでなったんじゃないもの。決まりね。
タクを堕とす。私の彼氏にする。多分これから沢山のライバルが出てくるのかもしてないし難攻不落かもしれない。
でもやるのよシャーロット。例え幾千万もの敗北を知ったとしても一度勝てばこちらのものよ!!
そう覚悟を決めた途端に彼の甘い微笑みを見てしまい背中に昨晩のような快感が走る。多分だがこれが敗北感なのかもしれないとシャーロットは勘違いした。いや、あながち間違いではないのだろけど。
だが、嫌いな敗北感ではなかった。どんな映画に出て男性俳優と演技してもこうはならなかった。
胸のときめきも、欲しいという欲望も全て初めての事。
そしてこの独占欲も……
大会が終わり監督たちも何かしていたようでホクホク顔で戻ってきた。
フォロワーは2万人にも増えており絶好調である。
「お疲れタク」
「シャーロットもありがと。監督……たちもお疲れ様です」
「ありがとう。あ、シャーロット?あとでちょっとお話しがあるからお願いね。さて、皆様お疲れ様。あとで飲みに行くから参加する人だけ残ってて」
話を聞いてる感じだとお疲れ様会があるらしい。シャーロットが行くなら行ってみるのも良いのかもしれない。
「タクはどうする?シャーロットは行くみたいだけど」
「なら私もお邪魔させていただきます」
「日本人ってなんだか謙虚すぎるのよねぇ……もっと無礼講?で良いのよ」
「なら、タダ飯食わせていただきます!!」
「よし!!そう来なくっちゃ!!」
ということでお誘いに乗らさせていただく。日本だと居酒屋貸切とかだが、そんなのここには無いので酒場でビリヤードなどをしながらゆったりしていくみたいだ。参加した人数が意外に多いからか嫌な顔をされたが俺の顔を見たら一瞬でニッコリして通してくれた。
自分は未成年だからモクテル。つまりノンアルコールカクテルを楽しんでいる。
しっかしなんだか誰もこっちに来ないなぁ……
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもない。ちょっと浮かれてる感じがしてた」
「そう?」
う〜ん。シャーロットから見たことのないオーラが出てるんだが……これがハリウッド女優か。
「タクはあの話覚えてる?」
「あ〜……短編映画のやつ?」
前に話をしていた映画に出るやつ話のようだ。本当にするとは思わなかったが。
「別に無理して出なくて大丈夫よ。強制ではないしこの程度で関係性が変わるわけではないもの」
シャーロットは多分俺が無理して出ないように勧めているのだろう。今回監督が来たのは主に俺のせいである。あとで知った話なのだが男性コスプレイヤーが来るなんて誰も信じてなく、しかももし本当だとしたらそれは逆に色々と大変になる。
そこを監督があれこれしてくれたおかげで会場に入れ、コスプレを披露でき、SNSでも特に騒動が上がらずに済んだわけだ。
ということで色々としたからできれば今度の映画にヒロインとして出てほしいな〜というわけである。
「別に大丈夫だよ。映画を見てるとたまに思うんだ。自分がそこにいたら楽しいだろうなと」
「………わかったわ。私も覚悟を決めた」
「覚悟?」
そう言うシャーロットは何か嫌いなものを避けられなくて少しうんざりしたようになっていた。
「………私は人種差別をしないよう心がけてはいるわ。でもそれと同時に自分も大切にしてる。少し性格が悪い白猫が居るの。ロシアの人なんだけどね。私をライバル視しすぎてる人なの。少しうんざりするけど演技は確か。どんな人ともしっかり話せるのに私にだけは敵意剥き出し。そこまでされると流石にうんざりしちゃって………でも良い子なのは間違い無いのよ。プライドが少しだけ強い良い子。そう、なんだけどね……」
そう言うシャーロットは心の底から嫌いではなく、むしろ少し好きな人に向ける目のような気がした。
聞いた限り気の強い子なだけで根は良い子みたいだ。
「疲れたら頼って。じゃ、ビリヤードしてくるよ」
「あ、なら私も……」
「シャーロットはお客さん居るでしょ?」
シャーロットの後ろには監督が居た。話は聞いてたようで出ることは確定のようだ。
保護者的な立ち位置になろうとしてるシャーロットを気遣って話をこれから聞くのだろう。出来杉である。
「う………じゃあまたあとで」
「ああ」
ビリヤード台に行くと早速囲まれてしまった。なるほど。シャーロットが守ってくれてたわけか。
特にお持ち帰りを狙ってた人はおらず、普通に楽しく会話してその日は帰った。シャーロットは悩みの種がまた一つ出来たようだ。申し訳ねぇ……
この二日でかなり仲良く慣れたと思う。シャーロットは日本人に近い感じがしたりする。だからだろうか?親しくなりやすいのは。
「シャーロット」
ホテルに帰りつき明日は帰国の時。別に親に連絡はいらないだろうので帰って食べるお土産を残すのみとなった。
今日も自分がソファーでシャーロットがベットといこうと思ったのだが、意外に悩みの種は深いようである。目がぱっちり覚めてしまってるシャーロットが心配なので一つお礼をしようと思う。
「何?」
「今日は一緒に寝ないか?」
顔を真っ赤にするシャーロット。昨日のようになってるが今回はしっかり理解してるようで少し面白い。
「ど、え?あ、寝るって事?」
「それ以外に思い付いたのがあるの?」
「いやいやそんなことはないわ!!うん!!寝ましょう!!え?寝ましょう!?一緒に!?」
これはかなり混乱してるご様子。少し解さなくては……
「ほら、落ち着いて。深呼吸して」
そう言うとシャーロットは素直に深呼吸を始める。だがすぐにまた恥ずかしそうに頬を赤らめた。おおかた匂いに気がついたのだろう。臭いと言われなければいいが……
そう心配してたが必要なかったようである。いまさっきより大きな深呼吸を始めたシャーロットが落ち着いてきたのでゆっくりとハグを始める。
「いい子いい子。落ち着いてきたね。そのままベットで寝よっか」
そう言うと体をベットに横にし始める。手を腰に回してきて体が密着し始める。
「電気を消すよ。考え事は明日にして今日は眠っちゃおっか。頭も撫でてあげる。これ好きって言ってたもんね。ヨ〜シヨ〜シ……」
暗くなった視界。静かな世界で自分の声がシャーロットの耳に優しく語りかける。
シャーロットはよく甘々な映画の話を好んでいたのを覚えている。あまり悲劇的な終わりのは好みでないのも知ってる。
背中もさするとピクッと痙攣しているのがよくわかる。俺もASMRは好きだからわかるぞその感覚。多分こうやって囁かれ続けるのがいいのだろう。頭の撫で方も少しづつ理解してきたような気がする。頭頂部から後頭部をしっかり支えられるような撫でられ方が好きなんだろう。押し当ててくる感触がする。
「シャーロットはかわいいね。それにとても優しい。でも何かしら色々と溜め込んじゃってるでしょ?今日はそんなの全部忘れちゃっていいよ」
だんだんとシャーロットの締める力が強くなってくる。休憩室の事といいなんだか色々とため込んでいるシャーロットはやっぱ見過ごせない。時にはこうしたガス抜きも必要なはずだ。
「よしよ〜し。いい子いい子。いつも頑張ってえらいね〜」
一定のスピードで優しく囁き続ける。撫でる手もゆっくりと慈愛深く丹念に。背中も同じスピードでさすっていると人間は眠気に襲われてくる。少しづつ力が抜けていくシャーロット。深呼吸も忘れて一定のリズムで呼吸を始め目も閉じた。
さらに密着しようと体を少し動かしたりして1番良い位置を探し、完全に余分な力が抜け切っただらけたシャーロットの出来上がりである。
安心し切って寝ているシャーロットは可愛かった。多分今まで見てきた女性の中で。前世を合わせたとしてもこんなにかわいい顔は見たことがない。
多分シャーロットだからと言うのもあるのだろうけど、それでも忖度なしに可愛い。
「………おやすみ」
そろそろ自分も眠たくなったので寝ることにする。
起きた時は明日の自分に任せる。あとは頼んだぞ〜明日の自分!!
ASMRのせいで散髪のバリカン苦手になったんだけど同志居るかい?ヤンデレシチュボと耳舐めはスタンダードでしょ(多分違う)