その狩人、死にたがりにつき 作:匿名のハンター
───まだ、百竜夜行の被害に人々が喘いでいた頃。その赤子は里長フゲンに拾われた。旅人ふたりの亡骸に寄り添うように、その子がいた。
───可哀想に、まだ赤子ではないか。
───その子は? 育てるのか。
───それが良いだろう。責任を持って、な。
整備が滞った挙句に人が居なくなり、狩場と化してしまった大社の名残に、きっと迷い込んだのだろう。哀れな子どもを見つけられた事だけが、幸運だった。
時は飛んで、二十と余年。
赤子は少女となり、少女は青年となり、青年は狩人───ハンターとなったのだ。
く〜ん、きゅう〜ん…。
オトモガルクの鳴き声が聞こえ、それで目を覚ました。振り向けば、幼い頃からずっと懐いてくれていたガルク、濃緑色の綺麗な毛並みを持つ《リョク》が鼻先で身体を揺さぶっていた。
リョクを撫でてやっているところ、外から足音がする。時間もちょうど良い。アイテムボックスの中から装備を引っ張り出し、身につけていく。
自宅の桶に貯めた水を覗けば、そこには青い鱗の生え揃った皮を繋ぎ合わせ、カブレライトやグラシスメタルといった鉱石を使って作られた金属具で要所を固めた、兜には貴重な鳥竜玉をさえ使ったバギィSシリーズに身を包んだ、灰の髪を持つ女が己を覗いていた。
女の名は、セレ。ハンターだ。
「おはようセレ先輩」
そして声が外から聞こえてくる。カムラノ装一式に身を包み、同じくこの里で作られたカムラノ鉄大剣Ⅰを背負うハンター見習い。
まだ正式に狩場へ出る許可が無い彼女もまた、もうすぐハンターになることが出来、そうなればカムラの里には二人のハンターが生まれるのだ。
彼女の名前は、ミズミ。セレの後輩に当たる。
「先輩はいいな。私も早く自分の家が欲しいよ」
「そう………なら、早くハンターになることね」
「もちろん! 見ていてくれたまえ、私の成長を!」
ミズミが高々に笑う。
雑談もそこそこに、家の外に立てかけてあったライトボウガン、火竜Ⅰを担いでミズミと別れ、加工屋をやっているハモンと軽く挨拶を交わし、里長フゲンに会いに行く。
たたら場の前、いつもの場所に彼はいる。大きな太刀の傍らで背に双剣を負ったその姿は、今でも現役のハンターと見紛うほどの貫禄を放っている。
「おお、セレか。よく来たな」
「お呼びでしたか、里長」
フゲンは自らのフクズクを使ってセレに、この時間に来るよう呼び出していた。要件は凡そ想像がつくのだが、念の為にも確認しておこうと考えた、
「例の…件、ですよね」
「ウム。前回からもうじき五十年になる。いつ来るかもわからん以上、偵察は前以て出しておきたい。頼めるか?」
百竜夜行。
これまでカムラの里を幾度となく、何百年にも渡って脅かしてきた、無数のモンスター…即ち百竜の行進。それの再来を危惧するフゲンによって偵察を出す案が出されていた。
その候補となるのが若手であるセレと、そしてセレの同期であるウツシの二人だった。
若手で同期と言っても、精々が上級止まりのセレと違ってウツシは天才だ。全ての武器に精通し、翔虫を使った戦法も高い評価を得ている。
尊敬する傍ら、ある種の劣等感も抱いていた。
「なら、私が最適でしょう。ウツシはミズミの教官でもありますし」
「おお!頼まれてくれるか! かたじけないな、セレ! 思えばお前はずっと里に貢献してくれていたな…」
「それが拾ってくださった恩を少しでも返すためです。では早速行って参ります」
「ウム! 気を付けるのだぞ!!」
フゲンへ一礼をし、カムラの里を後にする。
──偵察の為やってきた場所は、カムラの里から程近い大社跡。程近いとは言うものの、距離が無いわけじゃなく、更に言うなら起伏の激しい地形を進まなくてはならないため、物資輸送には些か難がある。故にこそ、この大社跡はモンスターが蔓延りやすい。
百竜夜行は、嵐吹き荒み雷雲現れ、そしてそれらが全て去った後、百竜が群れを成して襲い来るのだとか。
ぽつり、ぽつりと小雨が降ってくる。
フゲンから聞いていた百竜夜行の発生条件を思い出していたセレは、不吉な予感を覚える。すなわち、竜達の行進の予感を。
───グルルゥォォオオオオッ……!!
その咆哮を聞いて振り返る。紫の甲殻に包まれ、体内からガスを放出しながらこちらに向かって悠々と歩いてくる、大型のモンスター。鳥の見た目ではないし、翼も無いから、恐らくは牙竜種だ。
これは、このモンスターは…!?
見た事のない相手ながら、さりとて自分も上位ハンターの端くれ。例え負けるかも、死ぬかも知れずとも、モンスターが目の前にいるのならば、戦う覚悟はある。
ハンターノートにも記載することの無い、全く新種のモンスター。禍々しい見た目に巨大な体躯からは、似つかわしくないほどに高速で動く。
前脚による殴打をステップ回避し、火竜砲Ⅰにレベル1の火炎弾を装填して連射する。3点バーストで放たれる弾丸は、並のモンスターなら耐えられずに怯む程の威力を持つ。
しかし、相手はその
「!!」
咄嗟に横に逸れて回避しようとするも、顔を除く左半身にそれが掠ったてしまう。隠れていなかった顔に熱気が、軽量化のため防御されていない太ももの一部が熱波に直撃してしまい、酷い火傷を負う。
身体の節々から痛みと、それに伴う苦しさと熱を感じた。炎にやられたか、そう思ってウチケシの実を齧るが、身体に纏った嫌な痛みは消えない。それを晴らすべく地面を幾度か転がることでようやく熱は去ったが、それで終わりでは無い。
もちろんモンスターの存在が残る。
奴の火力は、殆どのモンスターを凌駕し、下手をすれば火竜リオレウスに匹敵するか、あるいは上回りかねない程の威力を秘めていた。火属性に対して弱いバギィSシリーズなのも向かい風だろう。
迫る次の攻撃を翔虫から伸ばした鉄糸で横に大きく逸れる事で回避するが、その時の起き上がりがけにバースト射撃を二度撃ち込んだ以降は反撃に移ることもままならないほどの攻撃に襲われる。
右前脚による殴打、巨躯を活かしたタックル、ガスとそれに伴う熱炎。逃げられるその前に何人のハンターを歯牙にかけてきたのか。その戦いぶりは相当に洗練されており、それだけで存在自体が危険だと感じさせる。
また、殴打が来る───!
「……なっ!?」
そこにあったのは、拳ではない。前脚から付け根にかけて生え伸びたような、鋭利な爪。言わば刃のようなそれは、目測を見誤った獲物を容易く切り裂いた。
バギィSメイルがまるで布のように裂け、また刃を押し当てられ力の限り殴りつけられたセレは、大きく吹き飛び、竹林の中に頭から突っ込む。ヘルムが歪み、鎧に使われた鱗など悲惨な程に爪痕を残して、既にその役割を果たせない。
「ぁ…が、ふ、ぅ…ぅう……」
腹部からとめどなく鮮血が流れる。秘薬を齧る気力さえ無い。このモンスターの存在を、みんなに知らせなくては。せめて、ここにいるのが私でなくウツシであったなら。
無念を晴らせず、セレの意識は途絶えた。
目覚める。ここはどこだろう?
身体を起こそうとして、お腹に激痛が走る。見てみれば、インナーの上から包帯がぐるぐると巻かれていた。私は
必死に思い出そうとするも、何があったか、何が理由かも思い出せない。けれど、こんなに大きな傷だ、賊か何かに襲われたのだろうか。そして、誰かが助けてくれた。きっとそうだろう。
足音だ。外から誰かが来る。
その足音の主は、私を見るや否や駆け寄ってくる。
「おっ! 起きたのかい!? 良かった、意識が無かったから心配したよ!!
本当に酷い怪我だったんだよ、良く生き延びて…」
口許を鎖帷子で覆い隠し、目元にタトゥーを入れる青年が大袈裟な身振り手振りで伝える。やはり傍から見ても致命傷だったようだ。運良くこの好青年に拾われなければ、きっと死んでいた。
「あの…助けてくれたのは、貴方でしょうか?」
「え? …そりゃあ当たり前だ、君が居ないと里は寂し────待ってくれ、今、なんて…」
「え…ですから、貴方が助けてくれたのですか、と──」
「待ってくれ。セレ、俺を覚えていないのかい?」
好青年はあからさまに動揺する。そうは言われても、覚えていないものは覚えていない。会った事があるのかどうかも疑わしい。それに───。
「あの…セレ、ってどなたですか? 私は……あれ?」
自分の名前を言えなかった。
セレ
ウツシと同じ時期にハンターになった。わずか一年足らずでハンターランク上位クラスと認められるが、ハンターランク自体は伸び悩んでいる。
ソロ活動よりもタッグを組んだ際の援護を得意とし、また慎重を期す性格のために狩場の偵察やモンスターの情報整理は怠らない。
赤ん坊の頃、まだ現役ハンターだったフゲン達に拾われた経緯を持つ。
ミズミ
ウツシを教官として、日々ハンター認定を目指す見習い。離れにある訓練場で日夜厳しい修練に励んでおり、セレの事も先輩として慕っている。
ウツシの強烈なしごきを受け、全ての武器を一通り使いこなせるが、まだまだ修行の身らしく、自信家な性格とは反対に動きがまだ荒削り。
カムラの里の全員で大切に育てられた。