その狩人、死にたがりにつき 作:匿名のハンター
全ての訓練過程を終え、ウツシ教官からのお墨付きまで貰って。全部が上手くいっていた。憧れの先輩二人に肩を並べたかった。教官のように、いつか後輩を教えたかった。先輩のようにクールに狩りをしたかった。
でも、それはもう叶わないのかもしれない。
───セレ先輩! 私だ、ミズミだ!
───先輩?そう。貴女は私の後輩なんですね。
───っ! …せん、ぱい……。
完全に消沈してしまい、心ここに在らずといったミズミの様子を見かねたウツシがふと口を開く。慰めの言葉は彼女に毒、そう思って事実のみを述べる。
「セレは多分、俗に言う記憶喪失というやつなんだろうね。俺達の事を何も覚えていないし、フゲン様の事すら忘れてる」
「…………」
何も口にしていない。もう二日ほどだ。あの人が大好きで、あの人のようにクールなハンターになりたかった。だからウツシ教官に教えを乞い、厳しい修行にも耐えてきた。
今までの自信に溢れていたミズミからは想像もできないほど弱々しい声が漏れ出ていた。ウツシはその姿を見るのが酷く悲しかった。
「先輩……もう、戻らないのだろうか…」
「信じるんだ、愛弟子。セレはきっと戻ってくるさ」
「……ああ…」
見るに堪えないミズミの姿を見てしまい、たまらず慰めの言葉をかけてやるも、完全に上の空で、もう何をするにも手が付かないといった様相だ。
しかし、それでも生計を立てて、里の役に立つためにはハンターとなる必要があった。もはや憧れの存在は無くとも、カムラの里の一員なればこそ、その心意気であったのだ。
ある時、ミズミは知る。
セレの痛々しい傷痕に残されたモンスターの痕跡は、近隣に住まう他のモンスターとは規格外だった事を。
肩を並べたかった人の仇。そのヒントをひとつ得たミズミは、いよいよ以て復讐を決意するのであった。
ハンターとなって初めての仕事は、ジャグラス数頭の討伐だ。ジャグラスは陸棲の小型モンスターで、いくつかの小規模な群れを成して生活する。食性は肉食。無害な草食竜のアプトノスだって襲うし、人でさえ襲い、被害をもたらす。
今回哀れにも被害に遭ったのは、流れの行商人だ。
自身は這う這うの体で逃げてきたものの、雇っていた下位ハンターはジャグラスからの攻撃で怪我をして逃げ出してしまい、荷物の食料品も戻ってきた時には殆ど食い荒らされてしまっていたとのことだ。
悔しさ半分、憎さ半分で貯金を切り崩し、近隣にあったカムラの里に依頼を飛ばしたという経緯がある。
「気を付けてね愛弟子! ジャグラスは一匹一匹はそこまで強くはない。けれど、弱点を補うために群れる賢さを持っている! 囲まれれば痛手は避けられないぞ!!」
「わかったよ、教官。見ていてくれたまえ、私の初デビューを。ああ、それと帰ったら私がセレ先輩に聞かせるから、教官からは言わないでくれ」
「ああ、わかった! それじゃあ俺は遠くから見守っているから、行ってらっしゃい!」
先輩に置いていかれたという共通点を持つオトモガルク、リョクに跨って、先輩と同じライトボウガン、ハンターライフルⅠの重さを感じてエリア1へと飛び出した。
エリア1を流れる穏やかな渓流を超える。
大切な私だけのフクズク、ミミズを飛ばして偵察させてしばらく待つと、ミミズからいくつかの位置情報が共有される。
ジャグラスはエリア1にも少数ながらはぐれた個体が存在するようだが、最も数が多く危険なのはエリア3から4にかけての雑木林と獣道、3から7に行くまでの坂道。
3匹から4匹の小規模な群れが幾つも転々としていて、大社跡は形容するならばジャグラスの巣だ。
リョクがジャグラスの臭いを嗅ぎつけ、私が指示すると同時に駆け出す。このオトモガルクは先輩が我が子のように可愛がっていたガルクで、忘れられた者同士気が合ったのか、他人には懐かないとさえ言われていたリョクが私を乗せてくれていた。
先輩との共通点が増えた。とっても…嬉しい。
……そんなことを考えているうちに、エリア3へと到着する。リョクから降り、こっそりとジャグラスの群れへと近付く。ハンターライフルⅠには通常弾Lv1が装填されている。弾数は四発。ジャグラスへ対してどれだけ有効かは、これが先輩の握った初めてのライトボウガンである事からも証明済みだ。
即ち───
「リョク、撹乱!」
「ガウッ!!」
勇ましい返事と共に、ジャグラスのうち他の個体から離れていた一匹へと迫り、上位級モンスターの素材で作られたカムラガルノ鉄刀・覇を用いて鋭く切り付ける。
リョクに気付き、仲間を助けるため向かおうとする他のジャグラスに、通常弾を撃ち込んで援護する。
一発、二発目は掠るか或いは逸れるものの、三発目が頭蓋を正確に捉え、穿ち仕留める。続くもう一匹に照準を合わせ、近づいてくる前に数発を浴びせる。
しかし深手を負ったはずのジャグラスは、高い生命力にものを言わせて無理矢理突っ込んでくる。向こうは肉食竜、こちらはガンナー。近づかれた時に身を守る術などたかが知れている。
なら、逃げてやればいい。
上に翔蟲を放ち、蟲と繋がった鉄蟲糸を頼り上へと飛び出すように跳躍し、下のジャグラスに向かって一発、通常弾を発射した。それは吸い込まれるように敵へと命中し、残ったジャグラスは物言わぬ屍となった。
着地し、再装填を忘れずに終え、私もリョクも無事な事に一息つく。訓練は力になっている。その実感を、実戦を経験する事で確かに得られた気分だ。
「リョク! よくやったね」
「ウォフッ!」
目尻をへにゃりと和らげつつも、誇らしげに吠える姿が愛くるしい。上位のガルク用装備に身を包むリョクは、駆け出しハンターが二人で仕事をするよりもずっと頼りになる。
なにより、セレ先輩のオトモガルクだから。
でも私も、恐らくはリョクも…お互いが本当の意味で仲間になったとは思っていない。心の中には、今でもあの人がいる。それに───。
「……ああ、いけないね。さあ、ジャグラスを倒しに行こうか、リョク」
「ワンッ」
クエストから逸れた意識を戻し、残るジャグラスの掃討に専念しようと、気合いを入れて臨んだ。
「───というわけで、斯くしてジャグラスを討滅した私たちは、五体大満足! 華々しく帰還したというわけさ!」
無事に帰ってきたミズミは、記憶の無いセレに今回のクエストの仔細を熱弁していた。傷の療養も兼ねて布団に横になっていたセレも、今は身体を起こして彼女の冒険譚を楽しそうに聞いていた。
リョクも今は、セレの隣で静かに寝ている。
「へぇぇ……凄いのですね、ハンターさんは」
「っ! ……ああ、ハンターは皆凄いんだ! 貴女もかつては私よりずっと凄いハンターだったのだ。 …やはり思い出せそうには無いか? セレ先輩」
再三確認した事実だが、セレが自身のことを全て忘れていることが酷く胸に突き刺さる。何かの折に思い出して欲しい、そう考えたミズミが始めた会話だが、思い出してくれるかもという希望的観測よりも、今忘れられている事実というダメージの方が大きくて心が折れそうだった。
「私が? ……ああ、セレ…記憶を失う前の、私」
「そうだとも。……っとと、すまない先輩。もうじきヒノエからうさ団子の催促が来そうだ。そろそろ失礼するよ」
適当な言い訳をつけて自宅を後にする。本来ならばハンター認定のお祝いとしてミズミの家になるはずだったが、ミズミは以前の家屋に戻り、セレの記憶を取り戻したい彼女の提案で、元鞘に戻っていた。
或いは外見だけ本物だとしても、記憶を亡くして別人となってしまった彼女は、果たして本当のセレなのだろうか? よしんばそうだったとして、記憶を取り戻せなくなったとしたら、その時点で皆の記憶の中にしかいないセレは、今のセレの存在によって否定されるのだろうか?
ミズミの脳を、考えていたくない思いが焼いていた。
次はイズチを狩りに行こう。少しでも狩りの話をして、思い出して貰わなくては。
ミズミ
ハンター見習いから正式にカムラの里の下位ハンターとなった。装備はカムラノ装一式で、武器はハンターライフルⅠ。ボイスタイプは19。かなりの自信家。
リョク
セレのオトモガルク。今はミズミと共に狩りをするが、狩りが終わるとセレの傍に寄り添うことにしているようだ。