IS×SWORD   作:フジ

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割と難産気味だった10話目。

描写が必要なキャラが増えて中々、話が進まない。

それと、地味に一夏の強化具合について言及していたりします。

因みに、ガンソを知らない人は前回のシャルのラストのセリフについて、なんじゃそりゃと思ったかもしれませんが、第一話のBパート開始数分で、メインヒロインがお嫁さん宣言して主人公が童貞宣言するアニメ、それがガン×ソードです。

では、どうぞ。


episode Ⅲ ツインズ・ガード ③

episode Ⅲ 『ツインズ・ガード』 ③

 

 

 

IS学園の放課後、校舎から学生寮へ向かう道中、夕日に照らされながら金髪の男と黒髮の女の二名が歩きながら会話を交わしていた。

 

「それで? 話しておきたい事というのは何だレイ? 」

 

女性、織斑千冬は隣を歩く男、レイ・ラングレンへ質問する。

 

「あぁ、シャルル・デュノアの事だ」

 

「レイ……やはりデュノアは……」

 

「あぁ、一ヶ月前にお前から二人目の男性操者の入学について聞いた時に疑問に思い過去の情報を色々と調べて見たが、やはりデュノア社の社長が二年前に実子として引き取った子供は男では無く女だ。加えて、その情報もその後、隠蔽・偽装されている。最早、間違い無いだろう。失敗を警戒しているのか、二人目の男性操者として世界に名乗りを上げることは現状では行わずにいるようだがな」

 

「そうか……大方、学園での情報収集と会社の広告あたりが目的なんだろうが、良いように利用されて不憫な子だ……」

 

そう言って顔を顰める千冬にレイは表情を変えずに問いかける。

 

「優しいことだ……恐らくは、男性操者である一夏に擦り寄り利用する為の男装だぞ。頭にこないのか?」

 

「私の家族やこの学園を利用しようとしていることには怒りを感じているさ。だが、私も親の都合で苦しまされる事がどうゆう物か知らないわけじゃないからな……」

 

「……そうか」

 

「甘いか?」

 

「あぁ、甘いな……だが、嫌いではない。お前と一夏の甘さが俺に『昔の俺』を思い出させてくれた。感謝しているさ」

 

そのレイの言葉に千冬は表情を綻ばせる。

 

「お互い様だ。わ、私もお前には、その……助けられているし……か、感謝している」

 

照れながらも千冬はレイに感謝の言葉を伝える。

 

「俺は大したことはしてやれていない……現に一夏が入試の会場でISを起動した時も、先日のクラス対抗戦の時も、俺は近くにいなかった結果何もしてやれなかった」

 

そう言って、自傷するレイに千冬は反論する。

 

「お前が私達の為に動いてくれていたことはわかっている。 後はタイミングの問題だ。お前の性じゃない」

 

「だが、あの入試での一夏のIS起動も対抗戦での無人機の襲撃も偶発的なものでなく一夏を狙ったものなのは間違い無いだろう……後手に回った俺のミスだ」

 

「お前はしっかりと私達の力になってくれているよ。それらの件は恐らく束の差し金だろうが、それに対応出来なかったのは私も同じだ。お前1人が責任を感じる必要なんて無い」

 

「だが……」

 

「それに、だ。お前に鍛えられた影響で一夏はかなり腕を上げている。クラス代表の座を、賭けたオルコットとの勝負では引き分けてみせたし。 クラス対抗戦での凰との戦いでも不可視の衝撃砲を初見で回避して見せていた。聞いた話では、剣道で篠ノ之の奴にも勝ってみせたらしい。 まったく……私に秘密でいつの間に……代表決定戦の後に問い詰めて漸く知ったんだぞ……」

 

一夏を鍛えていた事に関して千冬には秘密にしていた為、除け者にされたように感じ面白く無さそうな千冬。

 

「拗ねるな……鍛える約束をしたのはお前がドイツに向かう時の空港でだ」

 

「あぁ……あの時か」

 

四年前の空港でのやりとりを思い出し納得する千冬。

 

「まぁ、鍛えるといっても、基本的なトレーニングと剣での実戦形式での打ち合いをしていたぐらいだがな。俺の本来の得物が銃なこともあって、一夏の剣技に関しては、お前の動きを参考にさせたが」

 

「成る程、私の動きと重なる部分があると感じてはいたが道理でな。だが、防御の際に度々、剣を逆手持ちに切り替えていたんだがアレは?」

 

「一夏の奴……妙な癖がつくから止めろと言ったんだがな……」

 

自分の動きを真似しようとする一夏にレイは鍛錬中に注意はしたのだが、一夏は結局、逆手持ちでの剣術の練習をやめなかった。

 

「ということはアレはお前の動きを参考にしているのか」

 

「俺の銃のマガジン部分は、近接戦で使用できるようになっているんでな。 あくまで、接近された際の対処手段であって正確にいえば剣術と言えるような代物ではないが」

 

レイ自身は、こう言っているが、ガンマンでありながら彼の近接戦闘への対応力は高い。嘗ての旅の中ではヴァンの斬撃を見事に捌いた程である。

 

「フッ……まぁ、そう言うな。慕われている証拠のようなものだ。最近は、白式に収納不能の外付け武装でいいから銃器を持たせられないか開発元の倉持技研に相談したらしいからな」

 

「白式には、射撃用のセンサーリンクシステムが搭載されていないと聞いたが? 何より、アイツに射撃は向いてないだろう……」

 

「私も、お前に射撃は向いてないと言ったんだが……」

 

手のかかる弟に嘆息する2人

 

「まったく、アイツは……」

 

「だが、悪い気はしないだろう?」

 

どこか、からかう様な笑顔で訪ねる千冬。

 

「……」

 

それに対して、レイは黙り込む。

 

「冗談だ、だからそう仏頂面になるな。……まったく、一夏に対しては本当に甘いなお前は。デュノアの奴をヴァンの同室に仕向けたのも、一夏を守る為か?」

 

「奴の人間性がわからん以上、用心するに越したことはない」

 

「厄介事を押し付けられたヴァンの、心配はしなくてもいいのか?」

 

「心配? ハッ、面白い冗談だ」

 

真顔で返答するレイに千冬は思わず頭を抱える。

 

「いや、だがなレイ……」

 

「教師の俺達より、仕事量も少ないんだ。これくらいしてもバチは当たらん。それに、アレで奴は、女、子供には甘い。手荒な真似はしないだろう。デュノアへの対応はとりあえず奴に押し付けて俺達はデュノア社の動向に注意を向けておけばいい」

 

「随分とあの男を信用しているんだな」

 

「……」

 

「わかった。私が悪かったからその表情をやめろ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で無言を貫くレイに、今後、この話題でレイをからかうのをやめようと千冬は胸中で誓う。

 

そして、2人は学生寮へと到着する。

 

「着いたか、どうするレイ? 夕食前に夜間の見回りなどの仕事の説明をするから、それまで時間が空くが?」

 

千冬の問いにレイは少しばかり思案し答える。

 

「そうだな、お前の部屋に行きたい」

 

瞬間、千冬の顔が真っ赤に染まった。

 

「お、お、お前! 一体何を言って! だ、ダメだぞ! 学生寮で教師である私達が……その……そんなことをするのは! ふ、ふしだらだ!」

 

何を想像したのかテンパりまくる千冬。だがレイは表情を、変えずに冷静に告げる。

 

「お前は、何を言っている……俺は唯、1人で生活しているお前の部屋の状態が心配だから確認しておきたいだけだ」

 

そのレイの言葉に千冬の顔から冷や汗が流れ始める。

 

「だ、大丈夫だぞ! 片付いているとも! 決して缶ビールや着替えや下着など床に散乱してなどいないぞ!」

 

「ハァ……散らかっているんだな」

 

らしくもない下手くそな嘘にレイはため息をつく。

 

「いい機会だ、空いた時間で片付けるぞ」

 

そう言ってレイ 寮長室へと歩みを進める。

 

「ま、待てレイ。 せめて服の片付けだけは私がだな!」

 

その背中を慌てた千冬が追いかけて行く。

 

「(さて、デュノアの正体には気付いていたようだがあの男は、どう対応するか)」

 

部屋の片付けを止めようとする千冬の言葉を聞き流しながら。レイは、厄介事を押し付けられて不機嫌であろうヴァンのことを想像し、薄く笑った。

 

 

 

 

----------------------------------------------------------

そして場面は、ヴァン達の部屋へと戻る。

 

 

「僕……僕……貴方の……お嫁さんになってあげる!」

 

シャルルの意を決した言葉により部屋は、静寂に包まれる。

 

そして……

 

「うえぇぇえぇえええぇぇ!? 何だそれは!?」

 

「お、お、お、お、お嫁さんって、急に何を言い出してるんですかデュノアさん!! 」

 

それを聞いた大人2名は見事に取り乱していた。

 

「だから! お嫁さんになってあげるって!」

 

顔を赤くしヤケクソ気味に叫ぶシャルル。

 

「いや、お嫁さんって……そういうことじゃなくて……」

 

「そうです! いきなり、そんなのズルい!……じゃなくて……羨ま……でもなくてぇぇぇぇぇ! そう! 不健全です! 不純異性交遊でぇぇす!」

 

何か、別の方向で暴走し始める真耶。だがシャルルは怯まない。

 

「お嫁さんを見捨てて、行っちゃうの!?」

 

「お嫁さんがどうゆうもんか知ってんのか!」 

 

「し、知ってるよ!……半分くらい」

 

「半分じゃダメだろ!」

 

「残りは勉強する!」

 

「誰が教えるんだ!」

 

言い返すヴァンだがシャルルは食い下がる。それに耐えかねたヴァンは大声で叫ぶ。

 

「う……俺は童貞だ!」

 

「ぼ、僕だって!「だから言うな!はしたない!」」

 

いつかの真耶とのやりとり同様、暴走して危険なワードを口にしようとするシャルルをヴァンが止める。

 

「そもそも、なんでさっきまでの会話の流れでそうなるんだ!」

 

「だ、だって……自分の選択の責任は自分で負うものだって……助けて貰う対価に僕個人がヴァンさんに支払えるものなんて、それくらいしか無いし……」

 

そう言うシャルルに対してヴァンは諭す様に声をかける。

 

「あのなぁ、責任だとか対価だとかそういうものじゃないんだ、お嫁さんってのは「『幸せで、幸せで、幸せの絶頂の時になるもの』ですよね ♪ ヴァンさん?」 オイ……」

 

途中で台詞を掠め取った真耶をジト目で睨むヴァン。

 

「いいじゃないですか ♪ 一度言って見たかったんですよ」

 

「そんな、経験も相手も無いだろ……」

 

「なぁ!? ヒドイですヴァンさん!デリカシーに欠けています!」

 

「ヴァンさん……今のは僕もどうかと思うな」

 

「あ? 俺は唯、事実をだな……」

 

「「ヴァンさん?」」

 

「スイマセン……」

 

手を組み非難してくる女性2人に、謝りながらも「何で、女ってのはこういう時に無駄に仲良しなんだ」と、思うヴァン。

 

「兎に角、お嫁さん云々は却下だ。俺には間に合ってる」

 

「そ、そうだよね……騙そうとしといて、助けて欲しいなんて虫がいい話だよね……大人しく、正体を名乗りでるよ……僕自身の責任だもんね……」

 

「デュノアさん、そんなこと!」

 

「ありがとうございます山田先生、でもいいんです。ヴァンさんも、大切な機体のデータを盗もうとして済みませんでした」

 

そう言って俯くシャルルにヴァンは困ったような顔で返答する。

 

「あー……お前何か勘違いしてないか?」

 

「え?」

 

「俺は別に責任負って牢屋送りになれっていってるんじゃないぞ?」

 

「どういう……」

 

「俺は別に法律だのルールだのの責任のことを言ってるんじゃ無い。俺は唯、お前が選んだ事にはお前成りのやり方で筋を通せと言ってるんだ」

 

そもそも、嘗て自身の為だけの復讐に生きたヴァンにとって大衆のルールとしての責任や義務などを語る気は微塵も無い。

 

「お前が自分の選んだ道に対して筋を通すのなら、お前がどこで、どうしようと、その先でどうなろうと俺は、そのことに口出しする気は無い」

 

「それって……」

 

「デュノアさん、ヴァンさんは貴方に此処にいて良いって言ってるんです。そして自分の力で足掻いた先で幸せになっても良いって……それを、邪魔するつもりは無いって」

 

ヴァンの言いたい事を察した真耶は優しい声でシャルルにそのことを伝える。

 

「選ぶのはお前の勝手だ。此処に残るのも、此処から去るのも、足掻くのも、諦めるのも、幸せになるのも、不幸になるのも、お前自身のな……」

 

「勿論、私は貴方の力になりますよ! 貴方は私の生徒で、私は貴方の先生なんですから! それが私の助ける『理由』です!」

 

二人の言葉から感じた温かさにシャルルはいつの間にか自分の視界が滲んでいることに気づく。

 

「いいのかな?……いろんな人を騙して利用しようとしていた僕が、今更幸せになろうなんて、身勝手じゃないのかな?」

 

震える声でそう言うシャルルにヴァンは、つまらないことを聞くな、と言うように返答する。

 

「何度も言わせるなって……お前が自分の決めたことに筋を通すのなら、俺から言うことは何も無い。それに、これは『お前の人生』だろ? お前がお前の勝手にして何が悪いんだ」

 

「あはは……ヴァンさんらしい理屈ですね……。焦ることはないですよ、デュノアさん、国際規約により、学園に所属している関係者への機関や国家の干渉は原則禁止とされています。勿論、絶対的なものとはいきませんが、少なくとも簡単に貴方に手出しはできないはずです。」

 

「だとさ、ダンのデータを盗む気がないなら同室にも文句は無い。時間もあるんだ。 正体についても黙っててやるから自分が、どうするのか、もう一度しっかり考えてみろ」

 

そう言う真耶とヴァンの言葉にシャルルは、始めて作り物じゃない笑顔を浮かべた。

 

「は、はい! これからよろしくお願いします! それとお二人に教えておきたいことがあるんですけど……」

 

「なんですか? デュノアさん?」

 

「シャルロット・デュノア……母さんから貰った僕の本当の名前です。 2人には、知っておいて欲しくて……」

 

それを聞いた真耶は笑顔で答える。

 

「はい! 改めてよろしくお願いしますね! シャルロットさん!」

 

「……あぁ」

 

それに比べヴァンのテンションは低い。

 

「え、えっと……」

 

そのヴァンの様子に困惑するシャルロットに真耶がすかさず、フォローをいれる。

 

「あ、シャルロットさん、気にしないで下さい。ヴァンさんは女性の名前を覚えるのが苦手なんです。私も名前を覚えてもらえるまで一ヶ月かかりましたし、別に名前で呼ばないからと言って、貴方の事が嫌いという訳ではないですから」

 

「そ、そうなんですか……」

 

戸惑いながらも納得するシャルロット。そこに時計を見た真耶から声があがる。

 

「あ、もうこんな時間です! 今日はヴァンさんに夜の施設の巡回ルートについて説明することになっているので、申し訳ないですがヴァンさんは、一時間後に校舎の入口に集合していただいてよろしいですか? 私も、他の仕事を片付けてから向かいますので」

 

「一時間後に校舎の入口だな。わかった」

 

ヴァンが了解したことを確認し真耶は部屋から出て行く。

 

「え、えっとヴァンさん、改めてよろしくお願いし「その喋り方はやめろ」え?」

 

シャルロットとして改めて挨拶をしようとした彼女の言葉をヴァンは遮る。その言葉にシャルロットは戸惑った表情を浮かべる。

 

「真耶と違ってお前のその喋り方は、無理してる感じがしてやり辛いんだよ。もっと普通に喋れ」

 

「え? でもヴァンさんは歳上ですし……」

 

「別に気にしない」

 

「え、えっと、じゃあ……これからよろしくね、ヴァン」

 

「あぁ、ヨロシク。えぇっと……なんだっけ?」

 

「シャルロットだよ!」

 

「スイマセン……」

 

そんなヴァンの態度にシャルロットは頬を膨らませて怒った表情になる。

 

「もう、レディに対して失礼だよヴァン……」

 

「ガキが何をいってるんだか……」

 

そう言ってヴァンは立ち上がり扉に向かって歩き始める。

 

「まだ時間があるけどいいの?」

 

「少し風に当たりたいんだよ。ガキは、飯食ってさっさと寝とけ」

 

そう言ったヴァンの言葉にムッとしたシャルロットは反論する。

 

「子供扱いしないでよ! 何時だって、お、お嫁さんになれるんだから!」

 

頬を染めた彼女の言葉にヴァンは扉に向かいながら怒ったように返す。

 

「お前は何もわかっちゃいない! お嫁さんの風上にもおけない!」

 

「風上より隣がいい!」

 

そう言ったシャルロットの言葉に返答せずヴァンは扉を開けて出て行ってしまう。そんな子供っぽい彼の姿が微笑ましくて、シャルロットの顔が笑顔になる。

 

「フフ……こんな風に笑ったのは何時ぶりだろう」

 

母を失ったその日から、ずっと人の顔色を伺って作り笑いをして生きてきた。

 

その仮面を彼はこんなにもあっさりと壊してしまった。

 

「確か今は『ガンソードのヴァン』だっけ?」

 

今まで、シャルロットが出会ったことのない、しっかりとした『自分』を持った男。彼の存在にシャルロットは個人的な興味を持ち始める。

 

「そういえば、なんでタキシードなんだろう?」

 

そんな疑問がシャルロットの口から零れた。

 

 

 

----------------------------------------------------------

 

「あと30分って所か……」

 

日も沈み辺りが暗くなる中、一足早く、集合場所にやってきたヴァンは1人、空に浮かぶ月を見上げてた。

 

「月は同じに見えるが……違う星だってんだから笑えない話だよな」

 

強ち、ヴァンのその言葉は間違っていない。ヴァンは知らないが囚人惑星エンドレス・イリュージョンに存在した月は、元々、地球の衛星だった月を、改造・搬送したもので、囚人惑星でオリジナルセブンでも収集不能な反乱が起きた際にそれらを鎮圧するための機能であるプリズン・プラネット・デストロイヤーを内蔵した管理システムとしての、役割を持っていた。

 

「しかし、あの野郎が生きていたとはな……」

 

レイ・ラングレン、自分と同じくカギ爪の男に最愛の女性を殺され復讐を誓った男。

カギ爪との最終決戦に宇宙から舞い戻った時には既に死んだと聞かされていたが、それが異世界で教師の真似事をしているとは思わなかった。

 

「しかも、ハーバー・パレードのバカップルの片割れと似たような声をした女とその弟にえらく慕われてると来たもんだ」

 

今日一日、レイの行動には注意を向けていたヴァンだが、意外なことにレイは教師として真面目に働き、生徒達からの評価も悪くは無かった。特に、一夏や千冬は何かにつけてレイと親しげに会話しており、それは女、子供だろうと敵ならば容赦なく撃ち抜くヴァンの知るレイのイメージからあまりにかけ離れた姿だった。

 

「それで? いつまでそこで突っ立ってるつもりだ? 俺に聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 

その言葉に答えるように校舎の影からレイが姿を現した。

 

「……」

 

「何だんまり決め込んでいやがる」

 

「……一つ聞く」

 

「……なんだ?」

 

「奴は……カギ爪はどうなった?」

 

絞り出すような声、その言葉にどれだけの思いが込められているのかヴァンには理解できた。

 

「この手でキッチリ殺した。でなけりゃ、こんな所でのんびりしちゃいない」

 

「……そうか」

 

静かに納得するレイにヴァンは拍子抜けしたような顔になる。

 

「あ? 随分と落ち着いていやがるな。最悪ヨロイでも呼び出されるかと思ってたんだがな」

 

そんなヴァンの言葉にレイは変わらず静かに返答する。

 

「……それもそうだな……ならば八つ当たりでもさせてもらおうか」

 

そう言ってレイはアクセサリーを愛用の銃へと変化させる。

 

「テメェとの勝負は宇宙に行く前以来だな、ここいらでいい加減ケリをつけるか?」

 

ヴァンもそれに答えるように蛮刀を構える。2人の間の空気が張り詰め……

 

「せいっ!」

 

踏み込んだヴァンの袈裟斬りがレイへと振るわれる。

 

「ふっ!」

 

銃のマガジン部分でそれを防ぐレイ。

 

そして……

 

「腕だけは相変わらずのようだな」

 

「テメェこそ、腑抜けたかと思ったが安心したぜ」

 

互いの喉元と眉間に得物を突きつけた2人は、顔色を変えずに言葉を交わすが、やがて同時に武器を収める。

 

「随分と丸くなったもんだな」

 

「奴の命をこの手で奪えなかった事に何も感じていない訳ではない……だが、俺はあの時、奴の『夢』を殺し、奴に俺と同じ絶望を味合わせた。 それが最後に俺が選んだ復讐だ。俺の復讐は……終わった」

 

「ハッ! 人の復讐に優しいだのなんだのケチをつけた割りには、夢を奪うだけで済ますなんざ、テメェも随分とお優しいことだ……」

 

皮肉混じりに答えるヴァン。

 

「何とでも言え……だが、奴に絶望を与えたのは貴様では無く俺だ」

 

レイは知らないが、レイの最後の一撃はカギ爪の計画を破壊するまでには至らなかった。

レイの最期の一撃が作ったのは、1時間にも満たない計画発動までの延期時間のみ、最後に計画にトドメを刺したのは、宇宙から帰還したヴァンとレイの弟であるジョシュア達だ。

 

だが、ヴァンはその事をレイに教えるつもりは無い、虫が好かないとは言え、命を賭けた男の執念を嘲笑うような事を言う程、ヴァンは落ちぶれてはいない。

それに、レイがいなければ、ヴァンが帰還する前に世界が終わっていたこともまた事実だ。

 

それに、レイの言葉も強ち間違ってはいない。一時的とは言え、カギ爪の男に絶望の表情を作らせたのは、カギ爪の男の手を介して夢を破壊したレイ、唯一人だ。計画にトドメを刺したヴァン達にすら、カギ爪の男は、計画を1からやり直すと言い切り、笑顔と共に感謝の言葉を告げてみせた。そういう意味ではレイはカギ爪の命を奪ったヴァンですら出来なかった事を実現しているといえる。

 

「あぁ、そうかい……まったく、調子が狂うな」

 

「それと、もうひとつ聞きたい」

 

「あ? まだあるのか?」

 

「弟は……ジョッシュはどうなった?」

 

「生きてるよ。確か、海に沈んだお前とお前のヨロイを引き上げるとか言ってたな。何十年かけてでもやってみせるとさ」

 

その言葉にレイの表情が沈む。

 

「そうか……」

 

「言っておくが、罪悪感なんざ感じてるならそいつはお門違いだ。アレはアイツが選んだアイツの夢だ。正しかろうが間違っていようが、俺にも、お前にも、とやかく言う筋合いはない」

 

空気が読めず、馴れ馴れしくて、うざったい『友達』の意志の為にもヴァンはレイに釘を刺す。

 

「そうか……アイツは自分の夢を見つけたのか」

 

唯一、心残りだった弟の事を聞けてレイの表情が普段のものに戻っていく。

 

「もう聞くことは無いな……ならこれで終いだ」

 

「フン……そうだな貴様にもう用は無い」

 

「チッ……こっちのセリフだ。やっぱりテメェと関わるのは面倒だ。ガキの世話まで押し付けやがって」

 

「旅の時の連れの娘といい、子守は得意だろう? いや、どちらかと言えば子供に面倒を見てもらっていたか?」

 

「ぬかしやがれ」

 

それっきり、2人は黙り込む。

 

そして……

 

「お、真耶の奴が来たみたいだな」

 

「来たか、千冬」

 

アリーナの方から歩いてくる真耶とその反対側である学生寮から歩いてくる千冬にヴァンとレイが気付き、お互いに背を向けて自分を探す女性の、元へと歩きだす。

 

「一つ言っておく。俺はテメェに何があったのか聞く気は無いし興味もない、これから先、俺は俺で勝手にやらせてもらう。馴れ合うつもりは無い」

 

「フン……こちらのセリフだ」

 

そう言って離れていく2人の姿を頭上に浮かぶ月だけが静かに見つめていた。

 

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