いや、あのですね、リアルで不幸が重なりまして、漸くひと段落したんですが感想の返信も碌にしてなくて、ホント申し訳ないです。
今回は5000字程と短いですが勘弁してください。
では、どうぞ
episode Ⅸ『復讐するは我にあり』⑥
エルドラチームの話を終え、旅の話を続けるヴァンの口からレイの名が出た事に一番に食いついたのはやはり一夏だった。
「次はレイ兄の話か! どんな風に出会ったんです?」
続けて相槌を打つ鈴。
「レイさんって昔の話とか全然しないものね」
明るく言葉を交わす二人。だが、ヴァンの表情は普段の無気力なものとは別に険しくなっている。
「言っておくが奴が絡む話は聞いてて何も楽しくない話だぞ……切っ掛けを作ったのはカルメンだ」
「カルメンさんの仕事の紹介で出会ったってことですか?」
「あぁ、双子同士が父親の遺産を賭けて左右に分かれて争う妙な町の用心棒として雇われた。俺が右で奴は左だ」
その言葉に反応したのはラウラだ。
「つまり、お前とレイ・ラングレンは敵同士として雇われたといことか」
「そうなるな、俺と奴が戦って勝った側が遺産を手にする。実力の近い用心棒を手配することがカルメンの仕事だった」
深い谷に見捨てられたように存在した町、『ツインバレー』。そこでは父親の遺産を巡り双子同士が争いを繰り広げていた。しかし、決着はいつも引き分け。これ以上犠牲者を増やさない為の案として双方のトップを務める姉妹、『エル』と『アール』にレイとヴァンは雇われた。
「……何故、レイとお前は依頼を受けた? そういった他人の争いに首を突っ込むタイプとは思えないが?」
二人が金に執着する人間ではないと思った千冬はヴァンに問いかける。
「奴らの遺産の中に俺とレイが追っている奴の情報があるかもしれなかった。それだけだ」
その言葉に千冬の表情が一瞬だけ驚きに染まる。
「っ!! (レイと同じ男を追っていただと!? 当時のレイが追っていた男は……まさか……この男も?)」
おおまかではあるがレイの過去を聞かされている千冬はレイが追っていた男がレイから何を奪ったのか知っている。同じ人物を追うヴァンの旅の理由を彼女は勘づき始めていた。
「ラングレン先生もヴァンと同じで旅をしていたんですね! それでお二人の決闘はどうなったんですか!」
二人の勝負に興味深々の生徒達、彼女達はあくまでISと同じく試合形式での勝負を想像しているからだろう。実際の所は本気の殺し合いなのだが、彼女達にはそんな考えなど、浮かんでいない。それほど、ヴァン達と彼女達の住んでいた世界には差があるのだ。
「どうもこうも無い、あの野郎が言いたい放題言って。やりたい放題やって。結果は、目当ての情報も無い骨折れ損。それで
終わりだ」
『お前の復讐は随分と優しいな』
復讐の旅の中でも自分の掟を曲げようとしないヴァンに対し、レイはその甘さを指摘し、ヴァンにはカギ爪の男を殺せないといい放つ、そして決闘の当日……。
「え、それで終わり? アンタね、レイさんと仲悪いのは知ってるけど幾ら何でもそれは露骨に適当過ぎじゃ……」
露骨に話を端折ったヴァンに対して鈴は不満気な表情をする。
「俺はあの野郎が嫌いなんでな。別に話してもいいが、奴は「やめろ!」……だとさ」
不満そうな鈴に対して躊躇い無く事実を告げようとした瞬間、その言葉を千冬が鋭い声で遮る。一夏以外の生徒達は見たことのない、千冬の余裕の無い表情に目を丸くする。
「ち、千冬姉? どうしたんだよ急に?」
声を荒げた姉に困惑する一夏。
「な、何でもない……そ、それより、気になっていたのだがこの写真に、写っている金髪の少年、もしかして彼がレイの弟なのか?」
レイ自身から聞かされた過去からレイのやったことを何となく察したのだろう。ヴァンの言葉を遮った千冬は無理矢理話を逸らす。その勘は間違ってはいない。
決闘の日、レイは約束を破りアールを不意打ちし重傷を負わせ、遺産への扉を開く為の鍵を強奪、エルとアールを除く町の人間を地下に待機させたヴォルケインを使用し天井を崩落させ圧殺した。悲劇はそれだけで終わらず、父の残した遺言で町の双子は全て『ある計画』の為の実験サンプルでしかなかった事を知り錯乱し縋り付くエルにもレイは重傷を負わせ、最後は父の残したヨロイ『ツイン・ロック』に乗り暴走する姉妹を容赦なくヴォルケインを使い始末し姿を眩ませた。それがツインバレーの結末である。
「……はぁ……奴から弟の事を聞いたのか?」
視線で必死にヴァンへと何かを訴える千冬に対して、ヴァンは一度視線を逸らして溜息を吐くと彼女の話に合わせ始める。
「あ、あぁ! 確かジョシュア・ラングレンという名前だったな」
「あぁ、レイの奴を連れ戻す為に追っていたらしいが、奴とは真反対の騒がしくて馴れ馴れしい奴だよ。所々、空気が読めないし。そう考えると、割とお前の弟に似てるかもな」
出会ったばかりだが、それでも一夏のレイへの懐きっぷりはヴァンも理解している。その姿は、レイの身を案じていた彼の姿と重なって見えた。
『やめて兄さん! こんなことを続けて、これ以上シノさんを悲しませないで!』
復讐の道を突き進むレイの身を案じ、彼を連れ戻そうとするジョシュア。だが、彼の言葉はレイへと届くことは無かった。
『ジョッシュ、シノは喜びも悲しみも無い世界に行ってしまったよ。そして、俺もあの日からそんな世界に片足を突っ込んでいる。そうしなければ、シノと一緒に居られない……アイツの仇をとれないんだ……』
『さらばだジョッシュ……いや、ジョシュア』
自身の復讐に弟を巻き込まない為に、彼を振り切りレイは去っていった。思えば、そこで始めてレイの人間らしい面を見たような気がする。もっとも、弟は弟で、その程度で諦める玉じゃなかったのだが……。
ヴァンが告げた言葉に一夏はムッとした表情になった。
「……俺だって空気くらい読めます」
その態度に鈴がニヤけながら話しかける。
「いーちーかー? 何を拗ねてんのよ。レイさんの弟分としては、比べられて面白くないの〜? ブラコンも大概にしときなさいって」
「な!? ち、違う! 拗ねてなんか!」
反論する一夏を尻目に、ラウラは写真に写るジョシュアを見つめていた。
「どうしたチンチクリン?」
「貴様はまた……まぁいい、それで? どんな奴なんだこいつは?」
ナチュラルに煽ってくるヴァンに対して、一瞬イラつくものの、気になったのかジョシュアについてヴァンに問うラウラ。
「どうって、ヨロイとかに関しては優秀な奴だったぞ……ムカつくけど」
「他には?」
「ヨロイ以外でも頭は良かったな。宇宙に行かなきゃならない時もかなり世話になったし……ムカつくけど」
「……他には?」
「一度怪我をした時にチャンスだと思って置いていったんだが、追いついてきやがった。無駄に元気で積極的な奴だよ……ムカつくだろ?」
「どれだけムカつくんだ! 同意なんぞ求められても私はソイツのことなど知らん!」
ヴァンのペースに再び調子を崩されるラウラ。
「あー、考えてみるとお前もあいつに近い所があるかもな、 自分が原因で周りの空気が変になってる事に気付かないタイプだろお前」
「? 何を言っている? 変な空気になったことなどないだろう?」
真顔で答えるラウラ。それに対しヴァンは呆れた表情で告げる。
「お前……友達いないだろ?」
「ああ!」
何故か良い返事をするラウラに「こいつやっぱ同類だわ」という視線を向けるヴァン。それに気づかずラウラは質問を続ける。
「それで? レイ・ラングレンの弟は結局、どうしたんだ? 話を聞く限り、この写真を撮る前に、お前達に合流するように
「知らん」
その言葉にラウラがずっこける。
「おい!なんだそれは!」
「仕方ないだろ、その時は俺は色々と余裕が無かったんだよ。それからしばらく留守にして戻ってきたらレイの奴はいなくなってたんだ。あの兄弟に何があったのかなんて知らないんだよ。俺が知ってるのは、アイツがレイの野郎を止めるのを諦めて協力してたことだけだ」
兄であるレイに生きていて欲しい、その一心でジョシュアはレイの復讐を手伝う事を決意する。そして死闘を経てレイの復讐は果たされた。レイの存在と引き換えに……。
「……レイの弟は今、何をしているんだ?」
ヴァンを除き、唯一レイの過去を知っている千冬は、同じ弟を持つ人間として気になるのかジョシュアのその後について問い掛ける。
「……一生かけてでもやることができたんだとよ」
ヴァンから告げられたのは要領を得ない言葉だった。
「……それは、レイの為にか?」
「……いや、他の誰でも無い『アイツの夢』だ」
『どうするんだ? これから』
『兄さんとヴォルケインを引き上げるつもりです』
『あぁ? 何百年掛かるかわからないぞ』
『どれだけ掛かってもやります』
『……そうかい。まぁ、頑張れよ』
海底に沈んだレイとヴォルケインを見つけ出す。別れ際にヴァンと言葉を交わした彼の目に宿った意思は、過去に縋り付く人間のそれでは無く、前に進もうとする決意の篭ったものだった。だからこそ、ヴァンも彼を止めはしなかった。
「そうか、そのことをレイは?」
「知っている」
「……」
ヴァンの言葉を聞いた千冬は思う所があったのか、そのまま黙り込んでしまう。そんな彼女を見かねたのかヴァンはレイの話を打ち切るべく、話を続ける。
「さて、アイツの話はここら辺にしておくぞ」
「えっ! もう終わりなのか?」
あまりレイのことを教えてくれなかったことに少し不満気な一夏の問いにヴァンは面倒くさそうに答える。
「終わりも何もレイの野郎とは、旅の途中で何度か出くわしてた位の話しかないんだよ。最後にアイツが合流したのだって奴の弟が何とかしただけだ。 俺にとっちゃ今も昔も気に入らない奴以外の何者でもない」
ツインバレーでの出会い以降、まともに口を聞く機会があったのは2度の共闘と宇宙に旅立つ前の計三度程しかない。お互いの目的が目的なだけに必要以上に馴れ合うことは無かったので当然といえば当然の話である。
「わかったよ……」
その言葉に一夏は渋々納得する。
「さて、あと1人か、思ったより面倒だったな」
ヴァンはそう言いながら写真へと視線を移す。
「写真でヴァンさんと手を組んでる女の子の事ですね! いやぁ、実は一番気になってたんですよ!」
「いや、そんな期待するようなものは無いんだが……」
「それで!? 彼女はどんな方なんですか?!」
再び、テンションが上がってきた薫子に、面倒くさそうに返答するヴァン。その姿を山田真耶は複雑な表情で見つめていた。
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「(写真に写った方達の話にヴァンさんが言っていた『エレナさん』はまだ出てきてません……そうなると、やはりこの女の子が『エレナさん』なのでしょうか?)」
今までヴァンとの会話に何度か出てきた『エレナ』という名前、それを語る時の彼の表情は自分の見たことのないものだった。『エレナ』という人物が彼にとって特別な存在なのは間違い無いと真耶は思っている。
「(写真の方達の中でも積極的に見えますし……)」
写真に写る少女は笑顔でヴァンの左腕に手を絡めている。歳は高校生くらいだろうか
? 20代中盤あたりと思われるヴァンとは少し歳が離れているようにも思えるが、恋心の前にはそんなものは大した障害では無いのだということは異世界出身のヴァンに惹かれている真耶自身が身を持って理解している。
「(ヴァンさんのことをまだ全然知らないことはわかってました……けど……)」
少しずつ彼のことを知り、彼に自分のことを知ってもらおう……そう決めた筈だった。だけど、もし彼には既に恋人がいるんだとしたら? 最初から自分の想いなど届かない所に彼がいたんだとしたら?
「(私は……)」
ズキリと胸に痛みが走る。それは真耶にとって人生で初めて知る感情だ。
そんな彼女の想いに気づくことなくヴァンは薫子の質問に答えようとする。
「そいつは……」
その言葉に真耶は不安を覚えつつ耳を澄ます。
そして……
「『プリシラ』っていうヨロイ乗りなんだが」
彼の口から出てきた名前は全く別のものだった。
「……アレ?」
そんな肩透かしを食らった真耶の口から間の抜けた言葉が漏れた。
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歓迎会長ぇよと思う方もいるでしょうが、あと少しだけお付き合いください