IS×SWORD   作:フジ

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遅くなりました。

最新話です。

では、どうぞ


episode XⅠ 復讐するは我にあり ⑧

episodeXⅠ 『復讐するは我にあり』⑧

 

「さいってい! 女の子の一世一代の告白の返事を『忘れた』ってアンタねぇ!」

 

口火を切ったのは鈴。彼女自身、学園に転入してから一夏との約束について色々と揉めたことがあるからか、プリシラに対して、共感しているようで、かなり怒った口調である。

 

「ヴァンさん……流石にそれはどうかと思いますわよ」

 

「あまり、人の恋路に口を挟む物ではないのだろうが女性の告白の返事を忘れるといのは……」

 

「ヴァンヴァンの女泣かせ〜」

 

「(何でしょう、複雑な心境です……)」

 

「(……何で僕はホッとしてるんだろう?)」

 

続くセシリアと箒、そして本音。真耶はプリシラの告白の結果について安心と同情の感情の板挟みという複雑な心境になり、シャルロットは先ほどからヴァンとの会話で揺れ動く自身の感情に疑問を抱いた。

 

その一方で周囲の生徒達も『それは、ないわー』とヴァンに対して冷たい視線を向けている。その視線にヴァンも流石に少し焦って弁解する。

 

「まてまて! 確かに返事は忘れたが、それはアレがアレだったというか…… 断ったのがプリシラに上手く伝わらなかったのが原因でだな!」

 

ヴァンとしては、プリシラが自分に抱いていた好意自体には否定的な感情は無かったが、それでも恋愛対象としてプリシラを見ることはできなかった。彼の心の中には既に最愛の女性がいたから……。しかし、告白された際に、それを上手く伝えることができず、ダンの宇宙への打ち上げを目前に控えていたこともあり、プリシラは宇宙から帰ってきたら返事を聞かせて欲しいとヴァンに告げたのだ。打ち上げは無事に成功し、その後、最終決戦の舞台に宇宙から帰還したヴァンは直後にカギ爪の男との戦闘に突入し、遂に仇討ちを果たした彼は目的を達成した事により、宙ぶらりんになった気持ちのまま、新たな生きる目的を求めて、プリシラと言葉を交わすことの無いまま旅立ってしまったのだ。

 

「アンタねぇ……伝わってなかったら意味ないでしょうが! 」

 

「いや……まぁ……その通りだがな……」

 

鈴の追撃に言葉を詰まらせるヴァン。

 

ヴァン自身、プリシラとの約束を軽視していた訳では無い。ただ、自身の全てを賭した仇討ちの旅の決着は彼にとって、それを吹き飛ばしてしまう程の物だったのだ。

 

「まったく、次に会ったらしっかりとアンタの口から返事を伝えてあげなさいよ。」

 

「あぁ、そうするさ」

 

ヴァンとて約束をほっぽり出してしまったことに罪悪感を感じていない訳では無い。元の世界に、戻ったら一度、プリシラに会いに行こうと心に決めつつ、鈴の言葉にヴァンは、答える。鈴もその言葉に満足したのかそれ以上の踏み込んでは来なかった。

 

「な、なには兎も角、これで写真の方の話は全員分ですよね! 」

 

話をほじくり返した自分が原因で、わざわざ旅の話をしてくれたヴァンが周りから責められてしまったことに申し訳なさを感じたのか、薫子は少し焦りながら、話を纏める方向へ持って行こうとする。

 

「あぁ、そうだな。 結構長くなっちまったが、余り面白い話でも無かっただろ?」

 

自虐気味に語るヴァン。それを聞いた薫子は慌てて否定する。

 

「そんなこと無いですよ! ヴァンさんの旅の話は私達にとっては、とても刺激的で面白かったです! 勿論、仲間の方達の話もです!」

 

そう言って真剣にヴァンに返答する薫子だが、言われたヴァンの表情は、何処か微妙である。

 

「仲間ねぇ……そんな大層なもんだったかは微妙な所だぞ」

 

「えぇ〜? そんなこと無いと思いますけど? 現に皆さんで仲良く集合写真なんて、撮ってるじゃないですか〜」

 

写真に写る者達は普段と同じく脱力気味のヴァンと視線を逸らしているレイ、眠っているカルロスを除けば皆笑顔を浮かべている。少なくとも嫌々、一緒にいる者の表情ではないと薫子には思えた。

 

「目的もバラバラで碌に面識も無かった連中の集まりだぞ? 俺と同じ目的を持ってた奴なんざレイの野郎くらいだ。正直な所、今思い返してもすぐに解散にならなかったのが不思議だよ」

 

碌な繋がりも無かったあの連中が何故、あんな風に集まったのかヴァンは今でもよくわからない。そんな彼の様子を見つめていた真耶は、思わず苦笑する。

 

「フフッ♪」

 

「あ? なんだよ真耶」

 

そんな真耶の態度が気になったヴァンは彼女に問いかける。

 

「いえ、なんでもないですよ♪」

 

彼女は気づいたのだ。この写真に写っている者達を繋げたものが何なのか。

 

「(まったく、自分の影響力には鈍いんですから……)」

 

頭が良いわけでもなければ、人当たりが良いわけでも無いこの男は、それでも愚直で純粋で真っ直ぐで確固たる自分を持って生きている。自分がそうだったように、彼女達もそんな彼の姿に思うところがあったのだろう。その事に気付いていない子供のような彼の姿が、微笑ましく真耶はついつい笑顔を浮かべた。

 

「急にニヤついて妙な奴だな……いつにも増して」

 

そんな彼女の想いなど知らないヴァンは、真耶の表情に、またもデリカシーの感想を述べた。

 

「な!? いつにも増してって、どういう意味ですか!?」

 

その言葉に頬を膨らませて反論する真耶。

 

「そのまんまの意味だよ」

 

「私が普段から変ってことですか!?」

 

「それなりにな」

 

「前々から思ってましたけど、ヴァンさんは、もう少し言い方というものを……」

 

不用意に失言をしてしまったヴァンに対して真耶の説教が始まる。漫才染みたやりとりをする二人だが、そこに割って入る者が一人……。

 

「フン……要は、こんな、何処の馬の骨ともわからん得体の知れない一般人に手を借りなければならない程度の実力しか持っていないわけか、貴様もレイ・ラングレンも」

 

仲間との馴れ合いというものが気に食わなかったのか辛辣な言葉を放つラウラ。そんな彼女の言葉に周りにいた、癒子と清香は慌ててラウラを止めに入る。

 

「ちょ!? ボーデヴィッヒさん!? やめときなよ!」

 

「そうだよ! 折角、わざわざヴァンさんが話してくれたんだからさ!」

 

だが、ラウラの態度は変わらない。

 

「年寄りや子供に助力して貰わなければ目的も碌に達成できなかったのだろ? ハッ! ヨロイとかいう聞いたことも無い兵器や旅での戦いとやらも何処までが本当の話なのやら」

 

遠回しにヴァンの話を信用出来ないと言うラウラだが、言われたヴァンは無気力な態度を変えない。

 

「まぁ、信じるかどうかはお前の勝手だよ。 連中に助けられちまったのも事実だ。別にそれでお前にどう思われようと、俺としてはどうでもいい……」

 

挑発の意図も込めたセリフをあっさりと流されたラウラら少しイラつきながらも言葉を続ける。

 

「ッ……! フン、やはり貴様もレイ・ラングレンもその程度の存在か、そのような奴も、それを慕う奴も器が知れる」

 

辛辣な物言いを続ける彼女にレイを馬鹿にされたことが頭に来たのか、怒りを感じさせる口調で鈴が会話に割って入る。

 

「アンタねぇ……言っちゃいけないことくらいわかりなさいよ。一夏! アンタも黙って無いでコイツに何か言ってや「からぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁい!」……は?」

慕っているレイを馬鹿にされた事に怒り、一夏にも声を掛けた鈴だが、返ってきたのは一夏の絶叫。困惑した鈴は、間の抜けた声を出しつつ一夏の方へと視線をむける。

そこには……

 

「い、一夏ァ! 大丈夫か!? 傷は浅いぞ!」

 

「一夏さんったら……意識を飛ばす程、わたくしの料理を喜んでいただけるなんて」

 

「ポジティブか貴様ァ! どう見てもダメージを受けているだろうが!」

 

セシリアのサンドウィッチを食べて意識を飛ばした一夏と、それを見て言い争う箒とセシリアの姿があった。

 

「なにやってんだお前ら」

 

そんな彼女達に呆れたヴァンが声をかける。

 

「いえ、わたくし実は、一夏さんに料理を作ってきてたのですが……」

 

「なんだ? 渡しそびれてたのか?」

 

そういえば一夏を狙って三人が牽制しあっていたことを思いだすヴァン。

 

「ええ、ヴァンさんのお話が終わったので、キリが良いと思って一夏さんに食べていただいて……」

 

「白目を剥いて倒れたのか……大袈裟だな、サンドウィッチだろ? 」

 

料理で人が倒れるなどあり得ないだろうというヴァンの言葉に少し箒に責められ凹み気味だったセシリアは少し元気を取り戻す。

 

「で、ですわよね! 私はしっかり完成品の写真を見て作りましたもの!」

 

「あ? 写真だ? よくわからんが見た目も普通だしヤバイようには見えないが」

 

「油断するなヴァンさん! それは罠だ! そもそも料理をする際に一番に見るべきなのは完成品の写真ではない!」

 

外見も悪くないセシリアのサンドウィッチを見てヴァンは素直な感想を述べるが、箒は警戒するように忠告する。その気迫はまるで爆弾処理班か何かのようだ。

 

「もう! 失礼ですわよ箒さん! あ、ヴァンさんも宜しければ、お食べになります?」

 

箒の言葉に憤慨しつつも、残ったサンドウィッチをヴァンに勧めるセシリア。ヴァンはそれに警戒することなく了承する。

 

「お、いいのか? じゃあ調味料を「そのまま召し上がってくださいます?」……はい」

 

いつも通り調味料を取ろうとするヴァンだが、まるで目が笑っていないセシリアの圧力に断念する。

 

「やめろヴァンさん! 自殺行為だ!」

 

「アンタ、そんなに死にたいの!」

 

「お前らは何を言ってるんだ……」

 

必死に止めようする箒と鈴だがヴァンは、「大袈裟過ぎだろ……」と言わんばかりに受け流しサンドウィッチを、口に入れた。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

「うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

 

絶賛の声が彼の口から放たれた。

 

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?』

 

 

その反応に驚愕の声をあげる生徒達。

 

「なんだよお嬢様、あまり期待しちゃいなかったんだがやるなオイ」

 

珍しく明るい表情でセシリアへ賛辞を送るヴァン。当のセシリアも満更では無いのか嬉しそうに答える。

 

「え、えぇ! そうでしょうとも! わたくしの渾身の作品ですもの、美味しくないはずありませんわ」

 

実は料理のことで他人から褒められるのは初めてなのだが、その事を悟らせずドヤ顔を決めるセシリア。内心ではかなり安堵していたりする。

 

「あ、ありえないわよアンタ! よりによってセシリアの料理を美味しいなんて!」

 

「あぁ……そういえばヴァンさんの味覚って……」

 

セシリアのメシマズっぷりを知っている鈴は驚愕し、先程のヴァンの食事風景を見ていた清香は何かを察した表情をする。

鈴が驚愕するのも無理は無い。セシリアの料理は、正しい材料と手順で作られたものではなく、セシリアが料理の写真をみて、材料の事を一切考慮せずに見た目だけ完璧に仕上げるという闇鍋仕様の代物なのだ。つまり、絵の具感覚で食材や調味料を混ぜて写真の料理の色合いを再現しているのである。当然、常人にとって旨く感じるものが出来上がる筈もない。だが、今回それを食べたのは他でも無い、あのヴァンである。元から調味料をぶちまける彼にとって、セシリアの料理はデフォで、とても食べやすい仕上がりとなっていた。

 

「……オルコットさん、料理のレシピを教えていただいても宜しいでしょうか」

 

「や、山田先生?」

 

そんな中、セシリアに対して真剣な表情でレシピを尋ねる真耶。今後の参考にするつもりらしい。まぁ、確かに気合を入れて作った料理に調味料をぶちまけられグロテスクにされるくらいなら、例え常人にとって危険物であろうと作った状態のまま食べて「美味しい」と言って貰える方が嬉しいだろう。

 

一同が、てんやわんやになる中、そんな光景を見ていたラウラは小馬鹿したような表情を浮かべ口を開く。

 

「ふん……たかが料理で気絶するなど情けない。そうは思いませんか教官? ……教官?」

 

同意を得ようと背後にいた筈の千冬へと声を掛けたラウラだが返事が無いことに疑問を覚え、振り返るとそこに千冬の姿は無い。

 

「何を一人でブツブツ言ってるんだチンチクリン。あの女ならさっき食堂から出て行ったぞ」

 

困惑しているラウラへ千冬が退室したことを伝えるヴァン。

 

「な、なに!? いつ出て行かれたのだ!?」

 

「レイの話が終わったあたりだよ。なんか辛気臭い顔をして行っちまったな」

 

「な、何故それを早く教えない!」

 

「いや、知らねぇよ。気になるなら自分でしっかり見張ってろって」

 

レイについての話が終わったあたりで何か思うところがあったのか、千冬は周りに悟られないように静かに退室していた。周りの生徒達はヴァンの話に集中していて、それに気づいていなかったが、ヴァンの目には暗い表情で退室する千冬の姿が映っていた。大方、レイについてのことなのだろうがヴァンとしては、特に興味が無いのでスルーしたのだが、目の前のチンチクリンは、そのことが気に入らないらしい。

 

「まさか、教官はレイ・ラングレンのところに! チッ、こうしてはいられ……うぐぅ!」

 

憧れの女性が現在、気に入らない奴ランキングブッチ切り1位の男に会いに行ったと考えたラウラは、すぐに後を追おうとするが、ヴァンに襟首を掴まれ止められ、苦しげな声をあげる。

 

「まぁ、落ち着けチンチクリン」

 

「何をする貴様ぁ!」

 

「……人の話を聞けよ……お前、面倒くさい奴だな」

 

「やかましい! いいから放せ!」

 

「そうイライラするな。ほれ、これでも食って落ち着け。なかなかイケるぞ」

 

そう言ったヴァンの手に握られていたのはセシリアのサンドウィッチだ。

 

「な!? おいやめろ! それは……ムグッ!!」

 

ヴァンに対し抵抗を試みたラウラだが、時既に遅く。その小さな口にセシリアのサンドウィッチがねじ込まれた。

 

その結果……

 

 

 

 

「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

 

ラウラは一夏と同様に絶叫しぶっ倒れた。

 

「ボーデヴィッヒさん!?」

 

「大変よ! ボーデヴィッヒさんがセシリアの犠牲に!」

 

「わたくしが悪いんですの!?」

 

「衛生兵! 早く衛生兵を!」

 

「ちょっ! ヴァン!? 何をしてるの!? ボーデヴィッヒさんが気絶しちゃってるよ!?」

 

ぶっ倒れたラウラを心配するクラスメート達と、その原因となったヴァンに詰め寄るシャルロット。だが、ヴァンの態度は、どこ吹く風といった有様だ。

 

「大袈裟だな。こんなに美味いのに……あ、お前も食うか?」

 

「遠慮するよ! というか何で落ち着いてるの!? ボーデヴィッヒさんの悲鳴は最早、味についての内容じゃなかったよ!? 断末魔の類だよ!!」

 

「いや、だってアイツが何かイライラしてるから、つい……」

 

焦るシャルロットとは対象的にマイペースを崩さないヴァン。

 

「つい……じゃないよ! 見なよ! ボーデヴィッヒさんのダメージは深刻だよ!? すぐには立ち直れないって!」

 

そんなヴァンの態度にツッコミをいれるヴァンだが、とうの本人はその言葉を聞くと、滅多に見せない爽やか笑みを浮かべると……。

 

「素晴らしいじゃないか。このまま寝かせておこう」

 

面倒なのが減ったと言わんばかりの台詞を宣った。

 

「何その笑顔!? そんな表情、初めてみたよ!? 」

 

無駄に爽やかな笑みを浮かべたヴァンに対して翻弄されるシャルロット。常識人である彼女からするとヴァンのノリは予測不可能なのだ。ヴァンに対してツッコミ疲れを見せるシャルロットだが、そこにラウラと一夏を保健室へ送る手筈を整えた真耶が参戦する

 

「ヴァンさん!! 何てことをしてるんですか!!」

 

「いや、食い物を食わせただけだろ」

 

何時もの説教モードと化した真耶の勢いに苦い顔をするヴァン。

 

「食べ物で人が気絶する訳ないじゃないですか!? そんな刺激物を人に食べさせないでください!」

 

「……お前って偶に、素でキツイこと言うよな」

 

プンスカと何処か怖さを感じさせない調子で説教してくる彼真耶の背後で、彼女の素の言葉に見事に直撃し「……刺激物」と呟き崩れ落ちて凹んでいるセシリアを見つめるヴァン。まぁ、元はと言えば味見をしなかった彼女の自業自得なのだが。

 

「あはは♪ やっぱり面白いですねヴァンさんは♪」

 

そんなドタバタ劇を見ていた薫子は、どこ吹く風で呑気な事を言っている。

 

「面白いか? そもそも、騒がしいのは俺じゃなくて周りの連中だろ? 俺は、寧ろ騒がしいのは苦手なタチなんだが……」

 

「いやいや、ヴァンさんも大概だと思いますよ? あっ、もう一つ質問宜しいですか?」

 

何かを思い出したのか質問の追加の是非を問いかける薫子。

 

「まぁ、ここまできたら一つや二つ変わらないしな……構わないぞ」

 

「おぉ♪ ありがとうございます。いやぁ、実はですね。今、噂になっている学年別トーナメントの優勝商品についてどう思うのか質問したいなぁ、なんて思いまして」

 

その言葉に生徒達が、一部がびくりと反応する。

 

「噂? 優勝商品? なんのことだ? 知ってるか真耶?」

 

薫子の質問の内容がイマイチ理解できないヴァンは教師の真耶なら知っているだろうと問いかける。

 

「いえ? 私にもなんのことか……クラス対抗戦には優勝商品として食堂の甘味のフリーパスがありましたけど今回は、そう言った物もありませんし……」

 

一方で質問された真耶も何のことか分からず困惑する。

 

「あれ? 知らないんですか? 今度の学年別トーナメントに優勝すると織斑君と付き合えるって話。 生徒達の間では、この話題でもちきりですよ?」

 

あっけらかんとした薫子の答えに最初に反応したのは真耶だった。

 

「な、な、な、なんですかそれは! トーナメントは遊びじゃないんですよ! 浮ついた気持ちは事故に繋がります! そ、それに、景品みたいな気持ちで安易に……その……つ、付き合うというのは良くありません! そういうのは、しっかりと段階を踏んでですね……」

 

真耶は、薫子の告げた噂の内容について反対した。 年頃の少女達が異性に興味を持つ事は当然の事だと思うし、ましてや意中の男性への想いを完全に表に出さない事が難しい事は真耶自身、現在進行形で思い知らされている。それでも彼女は教師として仕事に臨む際は、ある程度の区別をつけている。浮ついた気持ちで生徒達に向き合うことは『自分の夢の続き』とそれを見届けると言ってくれた『彼の言葉』を踏みにじることになる。それに何よりも教師として生徒達の身の安全を心配したからこそのものだ。

 

だが、彼女のそんな想いは中々、上手く伝わらない。

 

「えぇ〜寧ろ、私達は気合が入りますけどぉ」

 

「こんなチャンスは、またとないですし」

 

「乗るしかない! このビッグウェーブに!」

 

「一夏を狙っている者は、こんなにいるのか……最早、是が非でも優勝しなくては」

 

「あらあら箒さん? 残念ですが、優勝はわたくしがさせていただきますわ」

 

「させないわよセシリア。悪いけど勝つのは私だから」

 

生徒達は一夏獲得の為に思い思いの言葉を口にする。

 

そんな彼女達に真耶が再び注意しようとした瞬間、真耶の隣で黙っていたヴァンが言葉を発した。

 

「なんだよ。そんな話か、しょうもねぇ」

 

心底、阿呆らしいと言わんばかりの声で、そう告げるヴァン。

 

その言葉を聞いた生徒達は、やはり面白くなさそうな表情を浮かべる。特に、一夏に想いを寄せる箒・鈴・セシリアの三人の表情は険しい。

 

「ヴァンさん。しょうもない、というのは言い過ぎでは無いのか?」

 

「そうですわ。人の恋路に、そのような物言いは、どうかと思います」

 

「そりゃあ、恋愛に興味無さそうなアンタからすれば、どうでもいいかもしれなけどねぇ……」

 

彼女達以外の生徒も同感なのかヴァンへと向ける表情は、あまり良いものではない。だが、ヴァンはそんな反応もどこ吹く風だ。

 

「はぁ……なら聞くがな。一夏の奴は、その話を知ってんのか?」

 

そのヴァンの問いかけを肯定する返事は無い。当然である。元はと言えば箒の告白に尾ひれの付いた噂話なのだ。一夏の了承など無いに決まっている。言葉に詰まる少女達にヴァンは言葉を続ける。

 

「おいおい、知らねぇのかよ……。だったら論外だ。そもそも恋人ってのは惚れた奴同士がなるもんだろ。そのトーナメントとやらに優勝する事とは何の関係も無いだろうが」

 

「そっそれは……」

 

ヴァンの言い分に言葉を詰まらせる箒。

 

「一夏の野郎に惚れてるのなら、やることなんて他に幾らでもあるだろ。恋人ってのは、景品じゃないんだ。恋人ってのは、優しく手を握ってソイツの世界を変えてくれる奴の事を言うんだ」

 

少なくともヴァンが愛した女はそうだった。

 

彼女は初めて自分を『人』として扱ってくれた。

 

彼女は、暴力だけで生きてきた自分を変えてくれた。

 

そして彼女は……自分を好きだと言ってくれた。

 

「チッ、説教臭くなっちまったな。まぁ、アレだ、何が言いたいかと言うとだな……勝手に盛り上がってないで一夏の奴をしっかり見てろってことだ。『アイツの世界』を変えられる奴になりたいのならな」

 

そう言ったヴァンの言葉に箒達は沈黙し、他の生徒達だけでなく食堂にいた教師達までも目を丸くしポカンとしてしまう。

 

「あ? どうした間の抜けたツラして?」

 

そこからいち早く復帰した薫子が返答する。

 

「いえ、その……ヴァンさんが恋愛について語るなんて少し意外だったもので」

 

「お前らは、俺の事をどう見てるんだ……」

 

薫子の言葉に気怠げな表情をするヴァン。

 

「それで? 今度こそ質問は終わりなのか?」

 

「あ、その……じゃあ、あと一つだけ」

 

「あぁ、なんだ?」

 

ヴァンの了承も得たので再び、薫子は崩れた調子を取り戻して最後の質問をする。

 

「おほん……ズバリ、どうしてずっとタキシードを着ているのか? です」

 

 

__________________________________

 

生徒達に『恋人』というものについて話しているヴァンを真耶は複雑な表情で見つめていた。他の者達は意外そうな表情をして驚いているが、真耶はヴァンの表情に見覚えがあった。嘗て、結婚について語っていた時のヴァンの真剣な表情だ。

 

やはり、彼の過去には何かをある。それを実感する度に、自分と目の前にいる彼の間にある距離の差を感じさせられ真耶を悲しい気持ちにさせ俯かせる。

 

そんな彼女の気持ちを他所に薫子はヴァンへ新しい質問をした。

 

「おほん……ズバリ、どうしてずっとタキシードを着ているのか? です」

 

その言葉を聞いた真耶、「そういえばタキシードについて深く聞いたことは無かったな」と思い視線をむける。

 

その質問をされたヴァンは一瞬、複雑そうな顔をした。

 

「……まぁ、学園(ここ)には長くいることになりそうだしな……いちいち質問されるくらいなら、ここらでハッキリ答えといた方が後が楽か……」

 

何かを決心したのか、ヴァンは薫子の質問に答え始める。

 

「このタキシードを着たのは俺が旅を始める事になった日だ」

 

その言葉に鈴が首を傾げる。

 

「旅ってさっき話してたやつのことよね? なんで旅に出るのにタキシードを着るのよ? おかしいでしょ?」

 

その疑問は当然だろう。真耶もヴァンの言葉の意図が読めず困惑する。そんな言葉にヴァンは返答する。

 

「そりゃあそうだ。俺は旅に出る予定なんか無かったからな」

 

その言葉に生徒達は更に困惑する。

 

「そう、旅に出る筈なんかじゃなかったんだ」

 

何処かいつもと違うヴァンの表情に真耶は不安を覚える。

 

そして……

 

 

 

 

「その日は俺とエレナの結婚式だったんだからな」

 

 

その言葉に真耶の頭の中は真っ白になった。

 

 

 




そしてこの地雷である
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