いや、仕事が忙しくて時間無くてですね……
今回の話はレイと千冬メインです
レイの過去に関してはドラマCDネタ+作者の妄想ですので御容赦ください
では、どうぞ
episode XⅣ 『さよならのありか』③
「PIC、脚部補助ブースター正常に起動……ハイパーセンサー、異常無し……量子化した武装、各種、問題無く使用可能……」
薄暗い部屋。一部の職員のみが入室を許されているIS学園の地下に作られた、整備室。その中でレイ・ラングレンはコンソールに映された各種データを読み上げながら、それらに異常が無いかを確認していた。
「これで、大方の改修は完了か……済まないシノ……まだまだ、ヴォルケインを休ませてはやれそうにない……」
そう告げる彼の表情は普段の感情を表に出さない冷たいものではなく憂いを帯びている。そんなレイの視線の先には、彼の愛機、ヴォルケインが静かに佇んでいた。
真耶がヴァンの過去を知り、話を終えた場面より時間を少し遡り、ラウラを歓迎会へと送り出したレイは、食堂へ戻らず、この地下にある整備室へと赴いていた。
元々、この地下施設は、IS学園で機密レベルの高い物を取り扱う為の設備の一つなのだが、レイは、この学園で働く際の条件として、この地下施設の一部の使用許可を学園のトップである轡木 十蔵に求めていた。
彼の愛機であるヴォルケインは自動的に整備されるダン・オブ・サーズデイと違い定期的なメンテナンスを行う必要性があるのだが、自身のヨロイの情報の漏洩を可能な限り防止しておきたかったレイは、外部から隔絶された整備室を必要としていたからだ。地下に存在するこの施設は、普段地下で待機しているヴォルケインにはうってつけであり、さらに轡木による措置により、学園のアリーナ等の各所や、地下へ、この整備室から移動用ポッドであるジングウでの発進も可能なように、地下のライフラインの位置なども整備されているという至れり尽くせりの対応がなされている。
もっとも、必要とあらば例え、学園の施設に被害が及ぼうと、気にせず地下からヴォルケインを呼び出すのがレイという男なのだが……。
ともあれ、轡木の対応により、レイはヴォルケインを整備する為にベストな環境を手に入れたのだが……。
「すぐに戻ると言っておきながら、こんな所で何、油を売っている? なぁ、レイ?」
レイの背後より、少し不機嫌な女性の声が彼に投げかけられた。
「千冬か……どうした?」
だが、声をかけられたレイは眉ひとつ動かさず、視線を表示されたデータに向けたまま返事をする。
「どうした……?どうしただと? それはこっちのセリフだ! 」
そんなレイの態度にわなわなと声を震わせる千冬。だが、原因であるレイはそれに気づかず作業を続けている。
「ラウラを歓迎会に参加させてくれた事は礼を言うがな……何故、歓迎会の主役であるお前が、何時までも戻らず、こんな所で機体の整備をしているんだろうなぁ? え? どうなんだレイ?」
怒っている事を隠そうともせずにレイを問いただす千冬。しかし、レイの態度が変わる事は無い。
「俺が食堂に戻れば、ボーデヴィッヒは、また、出て行きかねない。なら、歓迎会が終わるまでは、戻るべきではないだろう。心配しなくとも片付けには参加する」
淡々と告げるレイの態度に千冬は思わず、頭を抱えたくなるが、何とか気をとりなおし語りかける。
「ハァ……そういうことじゃない……。そもそも、お前は今回、歓迎される側なのだから片付けには参加しなくていい。私が言いたいのは、そうゆう態度を取っていると周りから余計な誤解を受けると言う事だ」
ラウラが歓迎会に参加して、周囲からの印象の悪化が軽減したのは良いが、その代わりに、姿を眩ませたレイの印象が悪くなっては千冬としては良い気はしない。二人とも参加していてほしいというのが千冬の本心だ。
「別に俺は気にしな「だから、それが良くないと言っているんだ」む……」
他人にどう評価されようが、興味は無いと告げようとする言葉を千冬に遮られレイは言葉を止め千冬へと視線を向ける。
「お前は少なくとも一夏が卒業するまでの3年間は、学園で勤めるつもりなのだろう? なら、進んで悪印象を持たれることもないだろうに。それに、何よりも私が、お前が周囲の者達にそんな風に思われて欲しくない……お前にとっては勝手な話かもしれないがな」
「……」
辛そうな表情でそう告げる千冬に対して、レイは何も言わず黙り込む。千冬の言葉を迷惑に感じている訳では無い。只、復讐の旅を終えてからも自分の事に関して省みない面が治らない彼としては、織斑姉弟のストレートな言葉に、どう反応していいのか、出会ってから五年経過した今でも、よくわからないのだ。
「……迷惑か?」
不安げな表情で尋ねてくる千冬に対して、これ以上、黙っている訳にも行かなくなったレイは観念して返答する。
「ハァ……別に迷惑とは感じていない。まぁ……お前の言う通り、余計な問題を増やしても良いことは無いな。歓迎会が終わる前に顔を出しておく。必要なら生徒に謝罪もしよう」
珍しく素直なレイの態度に千冬は喜ぶ反面、意外そうな表情になる。
「そうか! 良かった……しかし、随分と素直な態度だなレイ?」
「これから3年間、誰かを守るなんていう、似合わない真似をしなくてはならないからな……マイナス要因は少ない方がいい。明確な敵がいるのなら、此方から排除しに行けばいいだけなんだがな……面倒な事だ」
面倒そうにぼやくレイ。元々は仇を付け狙っていた身としては、防衛側に回るというのは彼にとってやり辛いのだろう。
「……あまり、物騒な事を言うな。此処は、お前のいた世界とは違うんだ。お前が手を下さなくても、そういった連中を裁く機関がこの世界には存在する。お前が命を……奪う必要なんてない」
「……だといいがな」
エンドレス・イリュージョンと違い、法による裁きという土台がしっかりと存在している、この世界において、個人的な理由で命を奪うという行為は、法の名の下に禁止されている。罪人は捕らえられしかるべき罰を下されるのがこの世界なのだ。だが、レイ・ラングレンという男は素直にそれに従うような男とは言えない。もし、千冬や一夏を狙う連中が現れ、不殺という手段では彼等守れないというのなら、その時、彼は再び、その手を血に染めてでも躊躇わずに障害を排除するだろう。その結果、一夏や千冬の側に居ることができなくなってもだ。
そんな彼の危うさに薄々勘付いている千冬は、不安げな表情で釘を刺すが、レイははぐらかすように話を打ち切ってしまい、二人の間には沈黙が漂った。
「そ、そういえばヴォルケインの調子はどうなんだ? ここ数年、ISの技術を学び改修すると言っていたが、さっきまで、此処で調整していたんだろう」
沈黙に耐えられなかった千冬は、話題を変え、目の前に佇むヴォルケインについて問いかける。
「……あぁ、先程まで問題が無いか確認していたが、追加機能はどれも問題なく稼働する」
「そうか、具体的にどう改修したんだ?」
「PICと脚部に追加したブースターによる浮遊……まぁ、ホバリングのようなものだが、それによる空中の敵への対応と機動性・旋回能力の向上。ハイパーセンサーによる索敵能力の向上。武装の量子化と追加武装。あとは、ジングウのエネルギー変換効率の向上によるロングレンジビームランチャーのチャージ時間の短縮。他にも各部関節や装甲の強化など……まぁ、そんなところだ」
改修点を淡々と挙げていくレイだが、千冬はそれを聞き驚いた表情をする。
「私が紹介したIS研究所で地熱エネルギー変換の技術提供と引き換えに設備を使用していたのは知っていたが、独学でよくそこまでできたものだな……」
「これでも、元は技術者の端くれなんでな、四年もあればこれ位の事はできる。寧ろ、情報の漏洩に注意していた所為で余計な時間をかけてしまったくらいだ、ジョシュアなら一年もあれば仕上げていただろう。それにベースであるヴォルケインは殆ど変わっていない。ISの基本的な機能の一部を追加しただけで、元の機能も排さず残してある」
「追加したISの機能が使用不可になっても、最悪、改修前と同等の状態で戦う事ができるように、という事か?」
「あぁ、この学園に襲撃を仕掛ける以上、対ISを想定するのは当然だ。そうなれば、襲撃者はISの基本機能に異常を来たすような何かしらの手段を取る可能性が高い。ならば、完全にISの持つ機能のみに改修するのは危険だからな……元の機能を残していれば最悪、この学園のISが使用できなくなっても、俺と
ヴォルケインの改修についての理由を説明するレイに千冬の表情は曇っていく。
「……レイ、お前が警戒している相手は束か?」
「確証はない……だが、奴がきな臭いのが確かなのは四年前に一夏を誘拐した連中の言葉、そして、クラス代表戦での未登録のコアを持った無人機の襲撃からも明らかだ。奴がこれからも一夏に対して干渉してくる可能性は高い。篠ノ之束がブラックボックスであるISコアの事を世界で唯一把握している人間である以上、ISを完全に信用するのは危険だというのが俺の結論だ」
だが、その一方で一夏を守る以上、ISとの戦闘は避けられない。ISと戦う以上は、此方もそれに対応できる必要がある。今までのヴォルケインでは陸海空と戦う場所を選ばないISとやり合うのに問題があった。だからこそ、レイはこの四年間、ヴォルケインの改修を行っていたのだ。
「そうだな……アイツが何を考えているのかはわからないが捕まえて問いただす必要がある。それに四年前の誘拐犯の依頼者とやらも一夏を狙ってくるかもしれない。どの道荒事は避けられないだろうな……済まないレイ」
これから振りかかるであろう出来事を予想する千冬は表情を曇らせ、唐突にレイへと謝罪する。その意図がわからずレイは眉を顰める。
「それは何の謝罪だ? もし、厄介ごとに俺を巻き込んでるとお前が思っているなら、それはお門違いだぞ。四年前にも言った筈だ。俺がお前達を守るのは、俺がそうしたいと思ったからだとな」
「それもある……もうひとつはヴォルケインの事だ」
「……どういう意味だ?」
ハッキリしない千冬の言い方に、レイは意味を問う。
「お前のヨロイは……お前の愛した女性……シノさんの形見なのだろう? 元々は戦いの為に作られた訳ではなかった物を……」
自分達の為にレイは最愛の女性の形見を更に兵器として改修している。それは彼の大切な思い出を穢す行為ではないのか? そう千冬 は思ってしまった。
「それこそ、お前が責任を感じる必要は無い。そもそも、復讐の為にヴォルケインを戦闘用に改造したのは俺自身だ。」
「だが、お前の復讐は終わっている……本当は、ヴォルケインを休ませてやりたいと思っていたんじゃないのか?」
「……そう考えていた頃も確かにあった。ヴォルケインが兵器として使われることをシノが望んでいないこともわかっている。いつか、アイツに会う時が来たら詫びるつもりだ……最も、人殺しの俺がシノと同じ場所に逝く事ができるかはわからないがな」
自嘲するレイの痛々しい姿に千冬は胸を痛める。
「……だが、迷っていては何も掴めない。その結果、またこの手から大切な物を取り零す事になるというのなら……俺はもう一度、銃をとる。 一夏の様に守るなどと大層なセリフを吐くつもりは無いが……もう二度と後悔する気も無い」
静かに、しかし確かな決意を込めてレイは千冬に宣言する。
「その先でいつかヴォルケインを休ませてやれたらと思っている。それで……漸くシノは……」
ヴォルケインを見つめながら静かに言葉を紡ぐレイ。そんな彼を見て千冬はずっと聞けなかった質問を彼にぶつけた。
「どんな人だったんだ? シノという人は?」
彼が復讐に至る動機と復讐の結末については大まかに知っている千冬だが、それでも彼の妻であるユキノ・シノについての話は知らなかった。いや、正確に言えば聞くことができなかったというのが正しい。想いを寄せる男が未だに愛し続けている女性の事を尋ねる事が千冬にはできなかった。シノの存在を妬ましいと思っている訳では無いが、レイの話を聞いてシノと自分の差を突きつけられることを心の何処かで避けていた。山田真耶がヴァンからエレナの事を聞かされた時に抱くことになる感情を千冬は五年間、ずっと胸に秘め続けていたのだ。しかし、先程の会話の中で千冬はレイの決意を知った、だからこそ聞いておきたかった。これからの彼を支える為に、彼の中にある1番大切な存在のことを……。
「……済まない。だがどうしても知りたいんだ。お前の過去を……お前の大切な人の事を」
真剣に見つめてくる千冬に
「優しい奴だった……人の命が簡単に奪われるあの世界で、他人の為に懸命になれる女だったんだ……」
「地下資源利用を目的としたヴォルケインの開発もその為だったのか?」
「あぁ、少しでもあの星に住む人達の生活を良くしたいと言っていた。ヴォルケインの開発責任者としてプロジェクトを引っ張っていたのもアイツだった」
「お前は、どうやってシノさんと?」
「俺はプロジェクトに参加していた技術者の一人だった。俺達はプロジェクトの成功の為にヴォルケインの開発を進めていた……だが、開発は難航しヴォルケインもまともに稼働することは無かった」
ヨロイを動かす程の効率的な地熱エネルギーの変換や地下での削岩を目的とした装備の開発と、やるべきことは山積みだった。
「やがて、先の見えないプロジェクトに見切りをつける者達が現れ始めた。シノも説得したが、それでもプロジェクトを抜けていく技術者は少しずつ増えていった……そして、ある事件が起きた」
「……事件?」
「技術者の一人、スレイ・フォックスという男がプロジェクトを抜ける際に利用価値のあるヴォルケインのデータのみを持ち逃げしたんだ。金の為にな」
「……ッ! 恥知らずが!」
人々の為にプロジェクトを興したシノの願いを踏みにじるような行為に千冬は嫌悪感を示す。
「お陰で、プロジェクト一時凍結、全ての見直しを余儀なくされた。だが、シノはプロジェクトの再開を諦めなかった。そんなアイツに俺や残った技術者は協力した。ジョシュアが勝手にプロジェクトに顔を出し始めたのもこの頃だ、技術者達の注意を聞き流して、好き放題質問して、技術者達に俺やシノが頭を下げるのが日課になっていた」
凍結を言い渡されても一人諦めず、プロジェクト再開の為に行動するシノを皆、見捨てる事などできなかった。レイ自身もその一人であり、シノと共にプロジェクト再開の為に取り組んだ。共に困難を乗り越えながら、2人の距離は徐々に縮まっていった。
「そして、再開した開発プロジェクトは成功した。ヴォルケインは稼働し、操縦の腕を買われた俺はヴォルケインのテストパイロットになった。アイツが指揮をとり開発したジングウや削岩用の装備を俺が使用しデータを採る。プロジェクトを進める中で俺とシノは公私共にパートナーとなり、そして結婚した」
それは彼の人生の中で最も幸福な時間だった。
「俺には夢があった……愛した女と平和に穏やかに暮らしたい、たったそれだけの、ささやかでちっぽけな夢だった……だが、その夢は踏みにじられた」
「……」
「スレイが売り払ったデータによって俺達のプロジェクトは裏の世界に知れ渡り奴らに目をつけられた。そして……その果てに……シノは……ッ!」
力強く握りしめられるレイの拳。力が込められた爪が掌の皮膚を裂き、拳から血が流れ床に雫となり落ちていく。
「その男が、お前とヴァンの仇ということか」
その言葉にレイは少しばかり驚いた表情で千冬に視線を向ける。
「お前が抜けた後の歓迎会でヴァンの奴が旅の話をしてな、その中で、お前と同じ相手を追っていたと言っていたから、まさかと思っていたが……アイツも妻を?」
「あぁ……結婚式に花嫁を殺されたと言っていた」
「ッ! ……巫山戯た話だ。悪趣味にも程がある」
ヴァンとレイを繋ぐ共通点、その元凶とも言える存在に千冬は嫌悪感を覚えた。
「後は、昔話した通りだ。俺は復讐の為に旅に出て、その果てで、仇の夢を奪い、あの男は命を奪った」
そう言って話を打ち切るレイ。そんな彼に千冬は静かに問いかける。
「レイ、お前が昔言っていた向き合わなければならない女性というのは、やはり……」
「あぁ、シノのことだ」
「それは、どういう……?」
「俺は逃げたんだ……悲しみから。復讐に逃げ続けていた。そうしなければ、俺はシノを失った事実に耐えられなかった……臆病だったんだ……俺は」
弱々しい独白。だが、それは紛れも無い彼の本心だ。
「お前にとって……シノさんのいない現実は悪夢そのものだったんだな……」
「……あぁ」
その思いを千冬は少しだけ理解できた。彼女もまた、一夏とレイの3人での穏やかな日々が続く事を望んでいる。もし、それが失われてしまった時、正気を保てる自信は彼女には無い。
「最後に聞かせてくれレイ。お前にとって現実は今も変わらず悪夢のままなのか?」
その言葉にレイは握りしめていた拳の力を抜き千冬に視線を向けて答える。
「違う……お前達と出会って俺は昔の俺に戻れた。愛した女とも向き合う事ができた。だから、今の俺にとって現実は悪夢なんかじゃない」
その言葉を聞いた千冬は、柔らかい笑みを浮かべる。
「良かった……私達はお前の力になれていたんだな」
その事実が何よりも嬉しかった。例え、レイが未だにシノの事を愛しているのだとしても、自分や一夏の存在もまたレイにとっての支えになっていることを知ることができたから……。
「俺は、お前たちの事をお荷物だと思った事など一度も無いんだがな……」
さらりと言うレイだが、その言葉に千冬の口元は更に緩む。
「そうか……安心した」
「……俺はお前達を不安にさせていたのか?」
千冬が何に安心しているのかイマイチわからないレイは、自分が何かしでかしたのかと問いかける。
「フフ……気にするなこっちの話だ」
「む……そうか」
嬉しそうに笑いながら誤魔化す千冬にレイは良くわからないまま頷く。
「それよりもだ! さっきの話でできた手のケガの手当てをするから保健室へ行くぞ」
「……別にこの程度は「行くぞ!」……おい」
レイの言葉を聞かずに千冬はレイの腕を掴みエレベーターへと歩き出す。文句をいおうとするレイだが、話を受け付けなくなった千冬に観念したのか渋々従うことにした。
「……千冬、俺も一つ聞いておきたいことがあるんだが」
上昇するエレベーターの中でレイが千冬へ問いかける。
「保健室についたらな……因みに何を聞いておきたいんだ?」
その千冬の言葉にレイは静かに返答する。
「あぁ、ボーデヴィッヒの事についてだ」
Q 歓迎会で一夏とラウラは何処に運ばれましたか?