許してください! なんでもしますから!
いや、違うんですよ? 社会人2年目で仕事の難易度が強制的にハードモードになって忙しかったんですよホントだよ?
今回もレイ側の話です。わりとイチャついてます(読者視点では)
そういえばガンソがパチスロになるらしいですね。まぁギャンブルはやらない主義なんで、俺はやらないでしょうが
それでは、どうぞ
episode XⅤ 『さよならのありか』 ④
「くそ……酷い目にあった。あのイギリス人の料理はなんだ? 確実に劇物だぞ……おのれ『ガンソードのヴァン』め……あの様なふざけた代物を無理やり食わせるなど……」
場所はIS学園の保健室。セシリアが製作したサンドウィッチによる飯テロ(味)の炸裂により、一夏とラウラは断末魔をあげた後に保健室へ担ぎ込まれた。
それから数十分程経過し意識を取りどしたラウラは意識を失う前に千冬がレイを追って退出した事を思いだし、こうしてはいられないと保健室を出たのだが……。
「あ、脚が震える……たかがサンドウィッチを食っただけで、ここまでダメージを受けるとはどうなっているのだ!?」
足取りが覚束ないラウラは、自分にそれ程のダメージを与えたセシリアの料理の存在に戦慄する。正直、千冬の件と隣のベッドに大嫌いな一夏が寝ているという問題が無ければ、ベッドで横になっていたかったといのがラウラの心境だ。
「恐るべしイギリス料理……噂には聞いていたがこれ程とはな……」
神妙な顔で言葉を漏らすラウラ。本人は至って真剣なつもりなのだが、側から見れば彼女の言葉も大概ズレている。
「しかし、教官はどこに? ……とりあえず、食堂に向かう前にレイ・ラングレンと話した場所へ行ってみるか……」
この学園に来たばかりのラウラには、千冬やレイがどう行動するのかわからない、ならば行動あるのみだとラウラは歩きだそうとするが……。
「…い……着……来いと…って…る!」
「! この声は、教官の!」
廊下の向こう側、丁度、曲がり角になっている所からラウラにとって聞き覚えのある声が僅かに聞こえた。ラウラの立っている場所は曲がり角からかなり距離があり、それこそ顔の判別が難しいほどの距離なのだが、それでも千冬の声を拾うあたり、彼女の千冬への敬愛っぷりは相当なものだ。
そしてラウラの言葉どおり曲がり角から織斑千冬は現れた。黒い女性用のスーツを着こなし、長い黒髪を束ねたその姿を千冬を尊敬しているラウラが遠目とはいえ見間違える筈がない。千冬の姿を見てラウラは表情を明るくし駆け寄ろうとする。しかし…
「いた! 教か……ん」
ラウラから出た言葉はすぐに小さくなり千冬へと届く事はなかった。曲がり角から現れたのは千冬だけではなかった。ラウラが今一番会いたくない男、レイ・ラングレンが千冬に続き曲がり角から現れたのだ。しかも、ただ一緒に現れただけでは無い。距離が遠くてよく見えないが千冬はレイと手を繋ぎ彼を引っ張って歩く様に現れたように見える。そして足を止めると振り向いてレイと何かを話している。そして話を終えた千冬は保健室の方向へ向きを変え……
「……ッ!」
千冬の視界に捉えられる前にラウラは自分でもよくわからないまま保健室の隣の部屋へ身を隠していた。
__________________________________
レイ・ラングレンは顰めっ面で抗議をしていた。しかし彼の手を掴み前を歩く女性、織斑千冬は、一向に彼の言葉を聞こうとしない。
「……千冬」
「……なんだ?」
「……手を離せ」
「……イヤだ」
「……」
「……」
レイ自身、ここに来るまでに、もう何度目になるかわからないやりとりだった。その原因は先程の整備室での昔話の際にできた、彼の左手の怪我にある。
拳に力を込め過ぎて、爪が皮膚を裂いた怪我。レイ自身は後で自分の手で手当てをするつもりだったのだが、その意見を千冬が却下した。そして、面倒だと渋るレイの手を掴むと彼を保健室へ連れて行く為に無理矢理、連行し始めたのだ。
「……確か、今日は保険医は出払っていただろう? 保健室に行く必要は無いと思うが? 」
一身上の都合で保険医が今日は休みだと言っていた筈だと思い出したレイは保健室に行く意味が無いと言う。レイとしては、少し掌を切った程度で手当てなど大袈裟だというのが正直な所なのだ。旅をしていた頃はそういった手当ても自分1人で行っていたし、何より根本的に他人に弱みを見せるタイプの性格では無いというのもある。しかし、レイの言葉に対しての千冬の返答は彼の予想外だった。
「あぁ、保険医は出払っている。だから私が手当てする」
「………………お前がか?」
「なんだ? その間は? 私に手当てされることに何か不満でもあるのか?」
あからさまに、台詞に間を空けたレイの反応に千冬はムッとした顔をする。
「いや、不満は無いがこの程度なら自分で処置できるんだがな……」
「うるさい……お前の昔話を聞いて怪我の原因を作った私の自己満足だ。黙って付いて来い」
「俺は別に気にしていな「いいから着いて来いと言っている!」……ハァ……勝手にしろ」
テコでも言うことを曲げないという反応を見せる千冬にレイは観念して従う事にした。
「(しかし、千冬の手当てか……何故だ? 想像できん……)」
普通に考えれば、千冬はIS学園という実質的には兵器の訓練校と言える場所で働いている人間だ。当然、生徒が負傷した際に対応できるように緊急時の応急手当てなどは一通りできるのだろうが、どうにもレイにはその光景が想像できなかった。
「その表情は何だ? まさか、お前は、私が軽い怪我の手当ても出来ないガサツな女だと思っているんじゃないだろうな?」
保健室付近の曲がり角に差し掛かった千冬は脚を止め振り返り、レイの心中を察知したかのように質問を飛ばす。ジト目の上目遣いでレイを見上げる千冬は明らかに不機嫌そうだ。
「別にそういう訳じゃない……まぁ、手当てをするイメージが湧かないのは否定しないが」
そんな不機嫌な千冬の言葉をレイは否定するが彼の発言の後半部分に千冬はさらに不機嫌さを増した。
「ふん……どうせ刀を振り回してるイメージしかないんだろう? 」
「そこまでは言っていない。ただ、どちらかというとお前は一夏に手当てをして貰っている印象がな……以前、一夏の言葉にムキになって料理に挑戦した時に、酷い事になっただろう」
「うっ……! それは……」
「まぁ、アレはアレで意外だったがな。まさかお前が刃物の扱いをしくじるとは思わなかった」
「……刀と包丁じゃ勝手が違うんだ」
ドイツでの指導役を終えて日本に、千冬が帰ってきてからの生活の一幕を思いだすレイ。普段は行わない家事に無謀にも挑戦した千冬が手をぼろぼろにし、最終的に一夏に手当てをしてもらうことになったのだが、当時の事を思い出した千冬は恥ずかしそうに目を逸らす。
「あの時の印象が今だに残っていてな。そもそもお前が態々手当てをしなくてはいけない事態など早々無いんだ。イメージし辛いのは仕方ないだろう」
「ふん……なら今からその印象を塗り替えてやる。行くぞレイ」
半ば拗ね気味の千冬だが、こうなれば意地でもレイの中の印象を変えてやると再びレイを引っ張りながら歩き始める。
「? 何をムキになっている?」
「ムキになどなっていない」
「だが「な っ て い な い」……そうか」
暗に「これ以上何も言うな」という意味を込めた千冬の言葉にレイは藪蛇だったかと黙る事にする。ハッキリ言えば千冬がムキになる原因を作っているのは彼自身であり、過去の料理の失敗も含めて意中の男性であるレイにガサツな女と思われたくないという千冬の一心から来る行動だったのだが、それに気づいていないレイには千冬の機嫌が下降中な理由が理解できなかった。
そんなやり取り行いながら保健室に到着した2人。千冬はレイを椅子に座らせると消毒液や包帯等の必要な物を棚から取り出すしレイの正面の椅子に自身も座りこみテキパキと処置を始め、左手の掌の傷口を手早く消毒しガーゼで保護するとその上から包帯を巻いていく。
「これでよし……思ったより傷が深かったからあまり動かさないようにしておけ。」
包帯を手の動きを阻害しない程度に巻き固定した千冬は、レイに注意をしつつ片付けを始める。レイは左手を少し動かし包帯がしっかりと巻かれているか確認する。そんな彼の動きを見た千冬は、「もしかして、上手く巻けていなかっただろうか?」と不安に思いレイに声をかける。
「どうした? 上手く巻けていなかったか?」
「いや……しっかり巻けている」
「ふん……当然だ。この程度の事も出来ない女とは流石に思われたくないぞ」
先程のレイの言葉を引き合いにだす千冬にレイは左手を見つめたまま調子を変えずに返答する。
「……お前も意外に根に持つ女だな」
「うるさい馬鹿……相手がお前なんだ……気にもするだろう」
徐々に声を小さくしていく千冬に対して内心でレイは首を傾げるが、今までの経験上、これ以上迂闊に踏み込んだ場合、千冬が顔を赤くして怒り始めるパターンになると判断し、元より聞くつもりだった件について千冬へ問いかけた。
「……とりあえず、手当てに関しては問題無い。礼を言うぞ千冬。それで、先程お前に聞こうとしたボーデヴィッヒの件なんだが……」
「今の流れで、話を切るのかお前は……。まぁ、確かに話すとは言ったがな……」
「手間を取らせて悪いとは思っている。だが、先程ボーデヴィッヒと話をして、少し認識が変わってな。奴の事情を聞いておく必要があると判断した。無理強いするつもりは無いが可能ならお前とボーデヴィッヒの関係について聞いておきたい」
千冬は話をぶった切られた事に若干、ムッとした表情をするも真剣なレイの眼差しを見てすぐに表情を引き締める。
「私とラウラの?」
「あぁ、ボーデヴィッヒがお前を尊敬している事は昨日の態度で理解していたが、ハッキリ言って奴のお前への執着は度が過ぎている。アレは最早、尊敬を通り越して崇拝に近い」
ラウラ・ボーデヴィッヒは自分の中の『織斑千冬』を否定するものに敵対心を露わにしていた。そして、レイとの会話の中で垣間見せた、子供特有の無自覚な独占欲の片鱗。いくら、ラウラが1年間、千冬から指導を受けたとは言え、それだけであそこまで執着するとは思えない。だからこそレイは千冬にラウラの過去を尋ねた。
「……そうだな。一組を担当するお前や山田先生には話しておくべきかもしれん。だが、他言はしないで欲しい。ラウラの境遇はかなり特殊でな、あまり言いふらしていいような内容じゃないんだ」
少し考え込む仕草をみせた千冬は、注意をした上でラウラの事を話し始める。
「まず、お前はラウラについてどれだけ知っている?」
「お前がドイツで教官をしていた頃に受け持った内の一人で、現在はドイツの代表候補生だという位だな」
「あぁ……そしてラウラはドイツのIS配備特殊部隊『シュヴァルツ・ハーゼ』の隊長を務めている」
千冬のその言葉にレイは少しだけ意外そうな表情をする。
「ほう、あの年齢で部隊の隊長とはな。幼少期から特殊な訓練を受けていた類か」
「まぁ、強ち間違いではないな」
「含みのある言い方だな?」
「特殊な境遇だと言っただろう。アイツは……ラウラは『遺伝子強化試験体』としてドイツ軍によって生み出された」
表情を暗くしながら告げる千冬に対してレイ眉を顰める。
「なるほど、要は生体兵器として人口的に作られた存在という訳か」
「……あまり驚かないんだな」
驚くどころか合点がいったという反応を見せるレイに千冬は意外そうな表情を浮かべる。
「似たような研究なら昔、見た事があるからな……それで?」
「……ラウラはその計画の完成形として生み出され、戦う為の道具として従来の兵器の知識や戦闘技術を学び、その全てで高い成績を修めていた……だが」
「ISの台頭か……」
「そうだ、ドイツ軍はIS配備特殊部隊『シュバルツ・ハーゼ』を設立し、そのメンバーには当然ラウラも含まれた。そして、問題が起きたんだ」
「……問題?」
「『シュバルツ・ハーゼ』のメンバーはISの適合性向上の為に『ヴォーダン・オージェ』という擬似ハイパーセンサーを瞳に移植し、視覚信号の伝達速度や動体反射を向上する処置を行っていた。理論上、不適合によるリスクは無いとされていたが……」
「所詮は理論上の話だった……という訳か」
「あぁ、ラウラの左目は不適合により金色に変色し、ヴォーダン・オージェは制御不能となり、その結果ラウラは、あらゆる訓練において遅れをとることになってしまった」
「視覚の不調か……戦闘においては致命的だな」
嘗て、カギ爪の男との最終決戦の際に両目が失明寸前の状態だったレイには片目とは言え視覚でのハンデキャップを負う事がどれ程のものか理解できる。
そして、ラウラ・ボーデヴィッヒは苦悩することになった筈だとレイは思う。優れた兵士になる事だけを目的として生まれ、生きてきたというのに、結果を出すことができなければ、彼女には出来損ないの烙印が押される。それはラウラ・ボーデヴィッヒにとってアイデンティティーの喪失と言えるのだがら。
「初めて会った時のアイツの顔は今でも忘れない……何もかも諦めて絶望した表情……一夏と歳の変わらない子供のする表情じゃなかった……」
当時を思い出し、険しい表情で言葉を紡ぐ千冬。
「だから、救おうと思ったのか ? 話の流れや、ボーデヴィッヒの態度からして、おそらくは、お前の指導の影響でラウラは隊長の座に返り咲いたんだろう?」
「そんな大層な事はしていない。アイツが部隊のトップへ返り咲いたのは、他ならぬアイツ自身の力だ。私は少しばかり力添えをしただけに過ぎない。まぁ、少しばかり贔屓はしたかもしれないがな」
「珍しいな、お前が個人的に入れ込むというのは。ドイツ軍での教導は乗り気ではなかっただろう」
レイが知る限り、織斑千冬という女は、冷徹という訳では無いが、一部の身内以外には一定の距離を置いて接するタイプだ。根がお節介で気さくな面も一応あるが、弟の一夏のように誰に対してでもという訳ではない。おそらく、そうなった理由の根本は、千冬が子供の頃から一夏を守る為に奔走し、弟を守る事を第一にしていたからだろう。だからこそ、レイはドイツ軍での教導に内心乗り気では無かった千冬が、ラウラに入れ込んだことを意外に思ったのだ。
「らしくない真似をしたとは思っているさ……それに、ラウラを助けたいと思ったのも善意からという訳でも無いんだ……最初は寧ろ同情や贖罪の気持ちが大きかった……」
「贖罪?」
「私は束と共にISの台頭に関与した人間だ……だから」
「ボーデヴィッヒが置かれてた状況にも無関係では無い。そう考えたのか」
「あぁ……ラウラは私を慕ってくれているが、アイツが苦しむ事になる原因を作ったのは……本当はラウラに尊敬される資格など私には無い」
俯きながら表情を暗くする千冬。彼女の顔には自己嫌悪の感情が滲んでいた。そんな彼女にレイは一つの問いを投げかける。
「前から気になってはいたが……千冬、お前は何故、教師になろうと思ったんだ?」
「……え?」
急にラウラの事から離れた質問をしたレイに千冬は目を丸くするが、レイは構わず質問を続ける。
「お前にとってISというものは『手段』だった筈だ。お前一人で一夏を守っていく為のな……そして、お前はISで世界最強の肩書きを手に入れた。今の世の中でお前の名前を知らない人間など殆どいないだろう」
「……」
「お前がその気になれば、一夏と一緒にいる時間を持ちながら楽に金を稼ぐ方法などいくらでもあっただろう」
織斑千冬は篠ノ之束と同じくIS関連に置いて最も名の売れている人間だ。彼女の影響力は間違いなく大きい。ISのパイロットの中には広告としてCMやモデルの仕事を請け負っている者も多い。容姿のレベルが高く女性として素晴らしいスタイルでありながら世界大会優勝の肩書きを持つ千冬ならば、ちょっとした仕事をするだけだ楽に大金を稼げるだろう。
「お前が見せ物にされるのが好きじゃないのは知っている。現役時代も広告やメディア関連の仕事を受ける事は殆ど無かった事もな。だが、それにしてもお前なら仕事は幾らでもあった筈だ。教師という職業を選ぶのは正直意外だった」
「それは……」
教師という職業を選んだ事で一夏と過ごす時間を蔑ろにしていると言われたのだと思い言葉を詰まらせる千冬だが、レイは彼女の考えを読んだのか、それを否定する。
「別に責めている訳じゃない。お前自身がやりたい事が見つかったというのならそれは俺としても好ましい事だ。大切にしていけばいい」
レイのその言葉に驚いたように俯いていた顔を上げる千冬。そしてその口から弱々しい声が溢れた。
「……お前の言う通り、私にとってISは手段だった。当時、武術が得意なだけの小娘でしかなかった私が一夏を守っていくためのな……」
生徒の前で見せる凛とした姿とは真逆に、自嘲するように千冬は言葉を紡いでいく。
「ISで勝ち続けて不動の地位を手に入れる。その為にひたすら勝ち続けて、気づけば世界最強などという肩書きまで手に入れた。だが、そこに満足感なんて無かった」
『出来る事』と『やりたい事』はイコールではない。一夏を守るという結果を得る為の手段でしかないISでどれだけ偉業を成し遂げても千冬にとってはそれらは興味の無い話だった。
「ドイツでの教導……長期間、誰かを指導する事は私にとって初めての経験だった。私にとってラウラというのは初めて受け持った生徒の様なものなんだ」
自身がIS操者の国家代表を務めていたこともありアドバイスを求められることや短期間の指導なら経験はあったものの、一年間という長い期間での教導というのは千冬にとっても初めてのことだった。
「欠陥品の烙印を押され、孤独に打ちひしがれるラウラの姿が一夏と重なった……他の隊員と違い身寄りのいないラウラを放っては置けなかった……」
同情と贖罪。それが千冬がラウラに助けようとした最初の理由だった。
だが……
「徐々に訓練での成績を上げていく内に、ラウラは私の前でだけだが、よく感情を出すようになっていった……出会った頃は、脱け殻のようだったアイツが生き生きと笑うようになったよ……それが嬉しかった。気づけば私は同情や贖罪という感情以外でラウラを鍛えていた」
その時、弟を守る為の手段だったISで千冬は初めて弟以外の人間を救った。
「ラウラの力になれた事が嬉しかった……ISに乗っていて初めて誇らしさを感じた。自己満足なんだろうが、それも悪くないと思えたんだ……」
嘗てを思い出し、千冬は優しげな笑顔を浮かべる。
「だから、教師を目指そうと思ったのか?」
「あぁ……それに世界を女尊男卑に歪めた責任もある。なら、ISに関わっていく子供達が集まるこのIS学園の教師になれば、教育を通して生徒達が偏った差別的な思想を持つ事の防止にも繋げて行けると思ったんだ。現役時代に得たブリュンヒルデとしての影響力も少しは役に立つだろうしな」
一夏を守る事を最優先として、押さえ込んでいた感情。ドイツでの一年間を通して、その感情と向き合い、千冬は変わり始めていた。
「一夏は大切な家族だ。だが、アイツも何時迄も守られるだけの子供じゃない。アイツが大人になって自分だけの道を見つけた時、姉である私が一夏を守る以外の生き方を見つけていなければ、それはアイツが自分の道を行く事の足枷になってしまう」
「その為の第一歩が教師という訳か」
「そうだ。まだ、人としても教師としても未熟な半人前だがな……。ラウラの現状も元はと言えば私の指導不足だ。戦い方だけでなく、精神的な部分でも私はラウラに教えてやるべき事が沢山あった筈なのにそれを怠ってしまった。これでは本当に只の自己満足だ……」
「そう思うのなら、尚更今がいい機会だろう。ボーデヴィッヒは学園に三年間在籍するんだ。今度こそ、大切な事を伝え損なわないようにすればいい」
「あぁ、そのつもりだ」
レイの言葉に千冬は力強く頷く。しかし、千冬は、そこで何かをふと思い出したのかレイへと問いかける。
「そういえば、レイ、何故ラウラの事について聞こうと思ったんだ?」
基本的に他人の過去に興味を持つタイプではないレイが、態々、時間を作ってまでラウラの過去について知ろうとしてきたことに、千冬は疑問を覚えた。
「……昔、戦った相手にボーデヴィッヒと似た子供がいた」
「ラウラに似た?」
「カギ爪の手先として現れた双子だ。それぞれがオリジナルセブンという特殊なヨロイに乗っていた」
「オリジナルセブン……確かヴァンのヨロイもそうだったな。だがラウラに似ているというのはどういう意味だ?」
「奴ら……というよりは双子の兄の方なのだろうが、詳しい事情までは知らんが、カギ爪の敵である俺達を排除すれば、奴から愛して貰えると言って襲ってきた。お前に執着するボーデヴィッヒからは、それに近い物を感じた」
合体機構を備えたオリジナルセブン『シン・オブ・フライデイ』と『セン・オブ・サタデイ』を駆る双子の兄妹『カロッサ』と『メリッサ』。カギ爪の男の理想に共感し賛同する他の敵対したオリジナルセブンとは異なり、『捨てられたくない』という愛情への執着からヴァン達に襲いかかってきたその姿がレイの中でラウラと重なった。
「……その言い方だと捨て子か何かだったのか、その双子は?」
「いや、ボーデヴィッヒと同じく人工的に作られた可能性がある」
その言葉に千冬の表情が険しくなる。
「先程言っていた『似たような研究』というのはそのことか」
「あぁ、俺がカギ爪を追う過程で立ち寄った双子同士が争う町で行われていた研究の完成系がおそらくあの2人だったんだろう」
「ヴァンがお前と出会った町か、双子しかいないというのは妙な話だと思っていたが……そういうことだったのか」
レイの言葉からヴァンが話した昔話を思い出した千冬は、町の正体が巨大な研究施設であったことを察し嫌悪感を露わにする。
「なぁ、レイ……お前はその双子を……」
「どうしたんだ?」そう聞こうとした千冬だが、言葉は続かなかった。千冬自身レイがどうしたのか感づいていたからだ。命を狙う敵として現れた以上、子供といえど当時のレイが手心を加える理由など何処にも無い。ましてや、カギ爪の男の計画についての情報も碌に持っておらず利用価値の無い相手なら尚更だ。そんな千冬の問いにレイは淡々と答える。
「殺した。利用価値も無い以上、障害は排除する。あの頃の俺にとってはそれだけの事だ」
千冬の予想通りの言葉がレイから放たれた。
「ッ! ……そうか」
千冬自身、レイの過去は理解はしてるが、それでもやはり気分のいい物ではないのか、千冬の内心は複雑だ。
しかし、レイの言葉はそれで終わりでは無かった。
「だが、今はそういう訳にもいかないからな、どうしたものかと考えて、まずは、お前にボーデヴィッヒの事を尋ねてみたが、やはり良い案は浮かびそうにない。俺も、教師としては半人前かそれ以下というわけだ」
その言葉に千冬は安堵した。
「(大丈夫だ…レイはもう復讐から解放されたんだから……)」
内心で自分に言い聞かせながらも、千冬はレイの言葉に返答する。
「レイ……ラウラの事なら私が……」
ラウラが今の考え方に至った責任は自分にあると考える千冬としては、レイに頼りすぎ負担をかける真似はしたく無い。だが、レイにその気は無かった。
「なら、お前にはボーデヴィッヒの現状に対して具体的な解決策でもあるのか?」
「それは……時間をかけて少しずつ変えていくしかないだろう……小細工は苦手だ。正面からぶつかっていくさ……何度でもな」
その言葉を聞いてレイは僅かだが笑みを浮かべる。
「あぁ、お前や一夏はそれでいい。思うようにやれ、帳尻合わせは俺がする」
「い、いや…だがそれは……」
「ひとりで抱え込むなと前にも言った筈だ。……まぁ、教師としては半人前同士でも2人なら1人前分くらいの働きは何とかなるだろう……騙し騙しだがな」
そう言ったレイに千冬は観念したのか、小さくため息をつき、申し訳ないというような表情を浮かべる。
「……いつも助けられているな。私は……」
「……いつも言っている。俺はやりたいようにやっているだけだとな」
「済まな「謝罪なら受け取る気などないぞ」……そうか、それなら……ありがとう…レイ」
感謝の言葉と共に千冬は花が咲いたような満面の笑みを浮かべる。それを見たレイは何も言わずに立ち上がる。
「……そろそろ歓迎会も終わる時間だ、戻るぞ千冬」
出口に向け歩き出すレイを見て千冬は苦笑する。ストレートな感謝を受けるのに慣れていないのは変わらない彼の態度を見ていると自然と笑みが零れる。
「(変わらない物など無い。いつか一夏は大人になって自分の道を歩き始めるだろう。そして私も……)」
今までの三人での暮らしは悪くなかった。けどいつまでも、そういう訳には行かないだろう。家族といえども何れは別の道を行く事になる。それでも願わくば、笑いながらその道を歩んでいきたいと千冬は思う。
そして……
「(叶うならば、その時にも私の傍にお前がいてくれることを願うよ……レイ)」
新しい願いを胸に秘めて、千冬はレイの後を追い保険室の外へと歩みを進めた。
「なぁ、レイ。そういえば一つ気になってるんだが」
「なんだ?」
「私がモデルの仕事を断っていた事をなんで知っていたんだ?」
「あぁ……そのことか。一夏が言っていたぞ」
「一夏が?」
「あぁ、昔、弾と御手先と一緒になって、お前の現役時代の写真集とやらを見ていてな。その時にそんな事を言っていた」
「なに!? 馬鹿な!?アレは企画ごと握りつぶしてお蔵入りにした筈!?」
「……そう言えば、非売品だと言っていたな。その筋の関係者から手に入れたと」
「ぐ、愚弟が……余計な人脈を身につけおって」
「一夏の姉離れはまだまだ先の話になりそうだな……」
「ハァ……と、所でレイ、お前はどう思った? わ、私の写真集は?」
「どうでもいい……千冬なぜ怒る?」
「な ん で も な い!」
だがまぁ、この2人の関係はまだまだ変わらないだろう
__________________________________
千冬達は気づいていなかった。
ラウラ・ボーデヴィッヒが保険室の外から2人が話す姿を見ていた事を。
防音性に優れた設備の影響で話の内容はわからなかったものの、憧れであり、ラウラの中では完全無欠の存在である織斑千冬が、どこにでもいる女性のように弱った姿を見せ、そしてラウラの見たことのない明るい笑みをレイへと向ける姿を見て、それを認められず逃げるようにその場を去った事を。
千冬達は気づいていなかった。
保険室の閉じたカーテンの向こうにあるベッドの上で横になっていた織斑一夏が、レイが人を殺したという言葉を聞いて、動けなくなっていたことを……
そしてこの二枚抜きである。
この小説を読んでる方はお分かりでしょうが、基本的にISキャラはフジの独自解釈や趣味によるアレンジや改変が入っています。特に顕著なのは千冬ですね。
原作でのクールな最強キャラが好きな人には申し訳ないですが、この作品では、ヒロインということもあり人間くさい感じで描いています。それとラウラとの仲が強化されている感じです。原作ではラウラからの一方通行感がつよかったので少し変えてみました。
大人サイドを活躍させようというのが、この作品の地味なテーマだったりします
では次回は早く更新できるよう頑張りますんで、これからもよろしくお願いします。