ねえ、知ってる? ヤマタノオロチってさ……   作:麦わらぼうし

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オリキャラ、オリ設定などで好き勝手に書いているので注意!


その怪物の名は

 唐突だが、1つ問題を出そう。

 

 日本神話に登場する最大の怪物と言われるヤマタノオロチの種族は何かな?

 

 災害の化身であり、その姿が(わか)れた川を(あらわ)すから、水属性の蛇神?

 

 分霊とされる伊吹山の山神が零落して、それが伊吹童子という鬼になったから妖怪か?

 

 それとも特異な能力を持っていただけの、生命の系統樹に則って生まれた、ただ強いだけの生物だったのか?

 

 なに、難しく考える必要はない。

 

 要するに、天属性か? 地属性か? 人属性か? と、そのどれに一番近いのかを聞いているようなものだ。

 

 さて、ここからは私の与太話だ。

 

 事実無根で、証明するものなど何もない妄想を()れ流しているとでも思ってくれたまえ。

 

 では、最初の質問に戻ろう。

 

 ヤマタノオロチの種族―――(すなわ)ち、分類は何か?

 

 

 

 まず考えられるのは『神』だ。

 

 分霊が伊吹山の山神であることから神性を持っていてもおかしくはない。水神として(まつ)られていることからも、自然災害――特に水害を(つかさど)っていた荒魂(あらみたま)だったのかもしれない。

 

 

 

 次に『妖怪』としての可能性だ。

 

 日本における三大妖怪の一体とされる酒吞童子は、伊吹童子と同一の存在である。日本では、神と動物ではない強大なモノは妖怪とされていたことから、おそらく幻想種も妖怪と言われていた筈だ。

 

 つまり災害竜と呼ばれていたヤマタノオロチは、竜が幻想種であることから妖怪の類だったのかもしれない。

 

 

 

 最後に普通の生物だった可能性。

 

 ここで日本神話におけるヤマタノオロチの描写を確認しよう。

 

 眼はホオズキのように赤く、大きさは八つの峰と八つの谷をまたがるほど巨大で、背中には苔や木が生え、腹は血でただれている。

 

 おや? 身体が白い、という記述は無いのか。結構目立つ配色なのに意外だね?

 

 それはさておき、基準としている峰と谷の大きさが載っていないので具体的な大きさが分からないけど、相当大きいのは間違いないだろう。

 

 少なくとも現代の物理法則では、自重に耐えられず潰れてしまう可能性が高い。

 

 だが、ヤマタノオロチが生きていたのは神代の話だ。その頃と現代の物理法則を同じと考えてはいけない。

 

 特に日本神話でヤマタノオロチが登場して殺されるまでに、人間は一切登場しない。ヤマタノオロチに娘を喰われた老夫婦ですら神だ。

 

 まだ人間が誕生していないのか、それとも話に関わりが無いから載っていないのかは不明だね。

 

 だが、神が地上に住んでいることから神代なのは間違いないだろう。となると、神代に適応していた生物だった可能性は否定しきれない訳だ。

 

 え? それは幻想種じゃないのか、って?

 

 あははっ! 君は、現代より強靭な肉体を持っていた神代の人間を幻想種と呼ぶのかい?

 

 まぁ、コレは先程も言った通り、私の与太話だ。真剣に考える必要はないよ?

 

 だが、もしヤマタノオロチが普通の生物だったのならば、とても女神を喰い殺せるほど強いとは思えない。

 

 だが、スサノオノミコトがやって来るまで、土地神の娘たちは喰われ続けた。

 

 この事から、少なくとも神が娘を無抵抗で差し出すしかないほどの圧倒的な力の差があったと考えるのが自然だろう。

 

 では、何がヤマタノオロチを強大な存在とする要因になったのか?

 

 巨大な身体による質量差の暴力? そんなので全盛期として活動できる神代の神たちに勝てるのだろうか? ちょっと、私は納得できないね。

 

 さて、ここでもう一度、日本神話を確認してみよう。

 

 酒で眠らせたヤマタノオロチは、スサノオノミコトに斬り刻まれた。

 

 しかし、尻尾を斬っていた時に使っていた天羽々斬(アマハバキリ)の刃が欠けてしまい、その中から剣が出てきたという。

 

 この剣が、のちに天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)草薙剣(クサナギノツルギ)都牟刈大刀(ツムカリノタチ)八重垣剣(ヤエガキノツルギ)沓薙剣(クツナギノツルギ)と呼ばれている。日本における、最上位の剣なのは間違いないだろう。

 

 だが、ここで少し疑問に思うことは無いかい?

 

 普通の生物の体内から、剣なんて出て来る筈がないじゃないか。

 

 やはりヤマタノオロチは幻想種、もしくは零落した神だったのかな?

 

 でも、此処ではあえて生物であったと仮定して考えてみよう。

 

 そうなると、こう考えることは出来ないかな?

 

 ヤマタノオロチは、起源が『剣』の特性を持った固有結界を使える生物だった、とかね?

 

 そして彼の固有結界の性質は、究極(きゅうきょく)(いち)となる剣を(つく)る世界を内包すること、とか?

 

 すると、ヤマタノオロチが女神を喰っていたのは、剣を創るための魔力を欲していた、というのはどうだろう?

 

 どうだい、なかなか面白い考えだろう?

 

 う~む。

 

 でも、この考えだと、ある疑問が生まれてしまうね……ん? 何が疑問なのか、って?

 

 この考えだとヤマタノオロチは、剣を創る魔力を欲して女神を喰おうとして、最後にスサノオノミコトに殺されることになるだろう?

 

 

 つまり天叢雲剣は、魔力が足りない状態で出来てしまった『未完成品』と言えるじゃないか!

 

 

 もし、(かり)にヤマタノオロチに天叢雲剣を返そうとしたら―――

 

「こんな欠陥品(ガラクタ)なんざ いらん!」

 

 ――って言われるかもしれないね?

 

 おっと、話が脱線してしまったね。とりあえず、ヤマタノオロチが普通の生物であった可能性としては、こんなところだろうか?

 

 

 さて、長々と語ったが、ここで最終的な結論を言おうか。

 

 ヤマタノオロチの正体とは結局何なのか?

 

 その答えは―――

 

 

 

 

 

 ―――ごめんね。

 

 もったいぶった言い方をしたけど、実は彼は『定義づけ』が出来ないんだ。

 

 あはは。悪かったって、そんなに怒らないでくれたまえ。

 

 

 ………ただね?

 

 

 1つだけ言えることがあるんだ。

 

 最初に言ったけど、ヤマタノオロチは「怪物」と呼ばれていたんだ。

 

 そして怪物と呼ばれるには3つの条件がある。

 

『怪物は言葉を喋ってはならない』

『怪物は正体不明でなければいけない』

『怪物は不死身でなければ意味が無い』

 

 少なくとも、生前のヤマタノオロチは、この3つの条件を満たしていたんだ。

 

 そして、スサノオノミコトに殺されたことで、彼は怪物ではなくなってしまったのさ。

 

 怪物でなくなった以上、彼は言葉を喋るかもしれない。

 

 自分ではない誰かと会話をするかもしれない。

 

 恋をする可能性すらある。

 

 人外にとって、恋はバグだ。

 

 バグってしまった彼は、とても愉快な性格になるかもね?

 

 バラバラに斬り殺されてバグってしまったヤマタノオロチ。

 

 もしそんな可能性があるのなら、私も少し見てみたいけど。流石に私も馬に―――いや、燕に蹴られたくはないから自重して置こう。

 

 君も死にたくなかったら、あまり変に首を突っ込まないようにね? お兄さんとの約束だよ?

 

 なんてね、ここまで私の無駄話に付き合ってくれてありがとう。久しぶりに『王の話』以外のことを語った気がしたよ。

 

 え? どうして突然、こんな話をしだしたのか、って?

 

 ふふふ……。

 

 

 だって、事前知識は大事だろう?

 

 

 

     ◆

 

 

 

 カーン、カーン……

 

 光の差し込まない暗闇の部屋の中で、鉄を打つような音だけが周囲に響き渡る。

 

 ここは、現世(うつしよ)でも常世(とこよ)でもない特殊な固有結界の中だった。

 

 その世界の(あるじ)である者が、暗闇の中で一心不乱に腕を振り下ろし、火花を散らせている。

 

「クソが、また失敗だ……」

 

 年若い男。即ち少年のような声が暗闇に響くと共に、いつの間にか彼の手に収められていた1本の剣が無造作に遠くへ投げられた。

 

 見れば周りには、無数の剣がゴミのように捨てられており、それぞれに宿らせた力が落ちている場所を溶岩に変え、氷点下に凍り付き、雷が天井に上り、嵐が吹き荒れていた。

 

 それだと言うのに、その男の周囲だけは暗闇に覆われており影響が全く出ていない。ただただ、彼のホオズキのような真っ赤な瞳だけが闇の中で爛々(らんらん)と輝いていた。

 

天地開闢(てんちかいびゃく)が出来る程度(・・)の神造兵装なんざ、いくら創っても意味ねえんだよ……」

 

 神造兵装を程度と言い切ったこの少年。

 

 彼は、かつて現世で怪物と呼ばれていた存在の「頭脳体」である。

 

 暗闇の中に居るので注意しないと見えないが、赤い和服の上に木の模様があしらわれた白い羽織を着けており、童顔だが白髪で、周囲に雲が(ただよ)っている。

 

 本来の姿に比べて、彼の身長は167㎝程度しかない小柄な見た目をしていた。

 

「はぁ……やめだ」

 

 怪物の頭脳体である彼は、おもむろに両足を前に投げ出して後ろに寝転んだ。

 

「どうせ作ったところで、使い手が居ねえんだ。このまま(オレ)が創っても、アレの同じようなモンになっちまう……」

 

 彼の頭に浮かぶのは、ある神から人間の手に渡った神造兵装の剣。

 

 あの剣と同じようなモノしか創れない現状に、彼は腹立たしくて仕方が無かった。

 

得物(えもの)が使い手を選ぶぐらいならともかく。使い手を無理矢理に神の領域にまで押し上げて使えるようにするなんざ、欠陥品(ガラクタ)以外のなんだってんだ……」

 

 彼が、その剣を許せない理由はソコだった。

 

 もちろん。人の身で行使するには不可能な莫大な力を、その身に宿らせるのだから、ソレに耐えられる素養が無くてはいけない前提はあるのだが。

 

 彼としては、ソイツが自力で辿り着けないような、身の丈に合わない力を振るわせる出刃切り包丁としか認識していなかった。

 

「使い手のいない剣に意味はねえ。使い手(ソイツ)に剣を合わせるのは(オレ)の仕事だ」

 

 ソレは彼が剣を創る者としての吟味(ぎんみ)である。

 

 別に彼は、天叢雲剣を手にした人間の使い手を(あなど)っている訳でも、(けな)している訳でもない。

 

 自身が創る究極の一となる剣―――即ち、唯一絶対となる剣の頂点が、現状の天叢雲剣クラスでは納得できないのだ。

 

「そもそも、剣は1人に対して1振り。得物と(にな)()を合わせて1つの剣だ。どっちか片方が圧倒的に強いなんて、ソレなら究極になんざ絶対に届かねえ」

 

 その呟きは、彼の本心を表していた。

 

 分かりやすく言えば

 

『武器は戦う者に「鋭い牙と爪」を与えるようなモノなのに、非力な者でも殺す力を与えられる「銃」を創って、鍛治(かぬち)本懐(ほんかい)()げられる訳がない』

 

 と言っているのである。

 

 ならば、彼が求める強さのレベルはどのくらいなのか?

 

 少なくとも、生前のヤマタノオロチを自力で、真正面から打ち倒せるぐらいは最低条件だと考えている。

 

 なので彼は正直、スサノオノミコトも担い手としては認めていない。

 

 人間に関しては論外だ。

 

 強い弱い以前に、彼は誕生から死亡まで、人間との(かかわ)りが無い。つまり彼は、言葉としてしか人間を知らないのである。

 

 だからこそ、彼は欠陥品(ガラクタ)を持っていかれたことに思うことは無かった。

 

 その辺に捨てた木の棒を、たまたま通りかかった奴に拾われたような感覚なのである。

 

「いっそのこと(オレ)が、担い手に成れるまでダレカを育ててみるか? つっても候補が居ねえな……」

 

 悲しきかな。彼は、生前は怪物と言われていた通り、言葉を喋らなかった。というより、意思疎通ができるほど明確な自我を持っていなかったのである。

 

 剣の担い手候補以前に、そもそも知り合いと呼べるような間柄の存在が居なかった。

 

「………いや、あいつは無理だろ」

 

 たった1人――いや、たった1匹を(のぞ)いて

 

 生前の彼にしつこく付きまとっていた存在を、彼は思い出した。

 

 その存在は、1匹の『(つばめ)の幻想種』だった。

 

 巨大な彼の周りを常に飛びながら、返答も無いのに彼に話し続けてくる小娘だった。

 

 ヤマタノオロチが女神を喰うことを知ったからか、いつの日からか人型の女に変化(へんげ)して、抱き着いてきたり、木の実を取ってきたりと忙しい奴だった。

 

 だが、生前の彼と唯一、共に居続けたのは彼女ぐらいだ。

 

 ただの1幻想種。

 

 それも昔の日本に複数居た燕の幻想種の中で、彼女は飛び抜けて強かった訳でもない。ある意味、彼からすれば吹けば飛ぶ程度の存在だったからこそ、敵とも味方とも判断されず、一緒に居ることが出来たのである。

 

 なんせ彼女の同種族は、名も無い農民に刀で斬られてしまうぐらい弱い種族だから……。

 

「この姿の(オレ)より小さくて、剣どころか風を(つか)むのが精々な嬢ちゃんだぞ? 星の寿命が先に終わるわ……」

 

 幻想種であることから彼女の寿命は長いが、流石に才能が全くない奴を鍛え上げるには、途方もない時間が掛かる。

 

 そこまでしてやれるほど、彼は彼女に対して興味が無かった。

 

「せめて、今の(オレ)がいる固有結界(ここ)まで、やって来れるような奴じゃないとな」

 

 それは、この暗闇の閉め切った部屋。

 

 彼の中心部である場所まで入り、失敗作としてその辺に捨てた剣が巻き起こす天変地異を潜り抜ける必要のある行為。

 

 言わば、(おの)が身1つで大自然の驚異全てを乗り越えろとでも言うべき要求であった。

 

「……そう言えば、あの嬢ちゃん。呼べさえすれば、必ず会いに行くとか言っていたな?」

 

 彼は生前の頃、旅に行った彼女が自身に向けて言った最後の言葉を、なんとなく思い出して呟いた。

 

「はっ。だったら、(オレ)()にまで来てみろ、ってんだ……」

 

 剣を創る自分は(さや)だ。

 

 ならば、その中に(おさ)まりに来るのは、それこそ『剣』に違いないだろう。

 

 怪物だった自分の元に戻って来る筈がない。

 

 そう、思っていた……。

 

「やっと見つけたぁあああああ!」

 

 スパーン! と小気味よい音と共に、彼の正面にあった(ふすま)が開け放たれた。

 

 その音を聞いた彼は、上半身だけを起こして、まるで尻もちをついているような体勢で、声の発生源に目を向ける。

 

「なんでもっと早く呼んでくれないの! 現世から常世まで、あっちこっち探し回ったんだからね!?」

 

 そこに居たのは、ボロボロになった青い和服を着た、涙目の碧眼と美しい金髪の少女の姿をした―――彼の友達が居た。

 

「は、はは、ははははははっ!!!」

 

 彼は少女の姿を見た途端、笑い声をあげる。

 

 たった一瞥(いちべつ)しただけで、彼は全てを理解したのだ。

 

 少女は(つばめ)の幻想種。

 

 燕は渡り鳥であり、古代では「あの世とこの世を行き来する鳥」と考えられていたこともある鳥だ。

 

 その幻想種である彼女は、世界を渡る力があった。

 

 だがそれでも、固有結界の中に居た彼を見つけることが出来ず、少女はボロボロになりながらも世界中を探し続け、もはや呟きとしか言いようのない彼の声を聞き取ってやって来た。

 

 それほどまでに、少女は彼に会いたかったのだ……。

 

「そうか……そうだったのか……」

 

 そのことを全て理解した(少年)は、(あらた)めて彼女(少女)に視線を向ける。

 

 生前を含めて、初めて2匹の目が合った瞬間だった。

 

 暗闇の中で倒れたように座り込んで見上げる童顔の少年

 月のように優しく差し込む光を背にした金髪碧眼の少女

 

 その何もかもが幻想的で、美しくて

 

「お前が、(オレ)の運命だったんだな」

「ほえ?」

 

 その日、怪物(少年)は運命と出会った

 




皆さんは、型月の「ヤマタノオロチ」って、どんな存在だと思いますか?
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