ねえ、知ってる? ヤマタノオロチってさ……   作:麦わらぼうし

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思っていた以上に読まれていて、びっくりしました。


本当の理由

 やぁ、また会ったね。

 

 正直、もう一度会えるとは思っていなかったよ。

 

 どうしてか、って?

 

 どうも私は、あまり人からの印象が良くないみたいだからね。

 

 まったく、人と夢魔のハーフだから、って『グランドクソ野郎』はひどくないかな? 私はこれでも、有名なキングメーカーで、優秀な魔術師なんだよ?

 

 でも、そんな私の所に君は会いに来てくれた。

 

 まさか前回の話で、私の正体が分からなかった筈はないだろう? ……ないよね?

 

 それならば、私もまた無駄話に花を咲かせようじゃないか!

 

 

 さて、まずは前回の振り返りから始めようか。

 

 ヤマタノオロチが神代の生物だった場合、神を圧倒できる異能を持っていた筈だということ。

 

 そして、その異能とは『究極の一となる剣を創る固有結界』だった。

 

 そしてヤマタノオロチが女神を喰っていたのは、究極の剣を創る為の魔力を欲していたから。

 

 

 というのが、前回の前半部分だったね?

 

 さて、前回はあえてスルーしたけど、この部分にも少し疑問が出てくるね。

 

 なにが、って?

 

 ヤマタノオロチが剣を創る為に魔力を欲していたのなら、その時点ではまだ『究極の剣』は完成していないことになるだろう?

 

 つまり、究極の剣を使えないヤマタノオロチが神を圧倒するには、その固有結界そのモノが、そうとう強力なモノじゃないと理屈に合わない。

 

 そうなると彼の固有結界には、その特性に(のっと)った別の性質があったとしても不思議ではない訳だ。

 

 今回は、その部分について話をしていこうか。

 

 

 まず注目するべき点は、ヤマタノオロチの強さは、どのぐらいだったのか?

 

 残念ながら、日本神話で彼が戦ったという記述は無い。

 

 酒を飲んで寝てしまった所をスサノオノミコトに斬り殺された、とあるだけだ。

 

 これをスサノオノミコトが、正面から戦えないほどヤマタノオロチが強かったのか、それとも何か別の理由があったのかは不明だね。

 

 でもスサノオノミコトは、ヤマタノオロチと唯一対峙(ゆいいつ たいじ)した神だ。

 

 ならば、そのスサノオノミコトの強さは、どのぐらいだったのか?

 

 ここでまた日本神話を確認してみよう。

 

 スサノオノミコトは高天原(たかまがはら)を追放される時、姉であるアマテラスオオミカミに挨拶していこうとした。

 

 しかし、これにアマテラスオオミカミは、スサノオノミコトが攻めて来たのだと思い、武装して出迎えたという。

 

 この事からスサノオノミコトは、アマテラスオオミカミが武器を手にする必要がある程度には、力を持っていたのは間違いないだろう。

 

 実際に戦ってはいないことから、どちらが強いのかは不明だが、アマテラスオオミカミ――いや、彼女を知っている君なら、かの太陽神に武器を取らせることを選択させたスサノオノミコトが、どれだけ強大な神であったかは想像できるかな?

 

 まぁ、スサノオノミコトは、とても強い神だった。

 

 それだけ理解できれば十分だよ。

 

 重要なのは、ヤマタノオロチの強さだろう?

 

 しかし、結局は戦っていない以上、ヤマタノオロチとスサノオノミコトのどちらが強かったのかは判断できない。

 

 先程も、アマテラスオオミカミとスサノオノミコトの優劣は不明と言ったように、戦って勝敗が明記されていない以上、私たちでは断言することは出来ないからね。

 

 それをどう考えるかは、受け取り手の自由さ。

 

 だから、ここでは()えて「スサノオノミコトが、ヤマタノオロチを酒で眠らせて斬り殺したのは、何か別の理由があった」という方向で、話を進めてみることにしよう。

 

 突然だけど、君は『ヤマタノオロチ』を漢字で書くことは出来るかい?

 

 うん。『(やっ)』つに『(わか)』れた『(おお)』きな『(へび)』と書いて『八岐大蛇(やまたのおろち)』だ。

 

 多少の表記揺(ひようき ゆ)れは有るだろうが、今回はこの文字で、話を進めさせてもらうよ。

 

 ん? このことに何の意味があるのか分からない、という顔だね?

 

 無論、大有りだよ。

 

 ヤマタノオロチが持つ異能は固有結界、(すなわ)ち魔術だ。そして魔術において、名前とはとても重要な意味を持つ。

 

 さて、その意味は何なのか? それを1つずつ考察していこう。

 

 

 まず最初に『八』という文字。

 言葉をそのまま見れば数字の8だ。

 

 しかし古代において8という数は「沢山」という意味で使われる事もある字だ。

 魔術的にはむしろ、こちらの可能性があるかもね?

 

 

 次に『岐』という文字。

 神話を見るに、ヤマタノオロチは首と尾が八つに岐れていたらしい。

 

 しかし、普通に考えれば首と尾で、それぞれが八つに岐れていたのならば、岐れた数は十六になる筈だ。

 なのに名前に「八岐」が付く? 魔術的にどうも変だ。

 

 やはり「八」は「沢山」の意味の方が考えやすいね。

 

 また神話には、ヤマタノオロチは八つの峰と谷をまたがるほど巨大だったという。

 

 峰とは、高い山のことだ。

 

 しかし、山と谷の具体的な大きさの記述がないことから、先程と同じように「山」と「谷」にも別の意味があるとも考えられないかな?

 

 そうだね……「山」は1つの生態系の縮図と言ってもいい。つまり「山」は「小さな1つの世界」とも考えられる。

 

 そして「谷」は、場所と場所の(みぞ)であり「境界線」とも言える。

 

 これらを組み合わせるとヤマタノオロチの『八岐』とは――

 

 

『沢山の平行世界に(わか)れて存在する』

 

 

 ――と、言い換えることが出来るかもしれないね?

 

 ……自分で言っておいて何だが、この考え通りならヤマタノオロチは、本当にとんでもない怪物だね。

 

 

 さて、次は後半の2文字について考えよう。

 

 3つ目の文字である『大』

 単純に「大きい」というのは、魔術的にもシンプルだけど。名前としている以上、なにか別の意味合いを持たせられていると考えても不思議ではないね。

 

 ヤマタノオロチの魔術は固有結界。

 

 そして「大」という字を考えてみるに……ヤマタノオロチが巨大だった本当の理由は――

 

『八つの峰と谷をまたがるほど巨大』

 

 ――ではなく

 

『固有結界という、1つの世界を体内で展開できるほど巨大』

 

 ――って、意味だったのかもしれないね?

 

 これだったらヤマタノオロチが大きかったことにも説明がつく。

 

 

 さて、いよいよ最後の『蛇』の文字についてだ。

 この「蛇」も、ヤマタノオロチが蛇の頭を持っていたからと考えることもできるけど、魔術的に「蛇」は「不死」と「再生」そして「輪廻」の象徴だ。

 

 つまりヤマタノオロチは、不死身と思えるほど死なない生命体だったと考えることができる。

 

 そして、これまでの考えを全てまとめると、ヤマタノオロチの特性は、こう言うことができそうだね?

 

 

『ヤマタノオロチは、常に体内で固有結界を展開させられる程に巨大であり。固有結界を通して、沢山の平行世界で同時に存在することができる。

 そして、どこかの世界でヤマタノオロチが存在ごと消されたとしても、平行世界に居るヤマタノオロチが存在証明となって復活する』

 

 ――とかね?

 

 あっはっは!

 

 なんだこれ? 彼に、人間と関わりが無いから「ビースト」にならないことに安堵(あんど)しかないよ。

 

 でもこう考えると、スサノオノミコトが、ヤマタノオロチを眠らせたのは、不意討(ふいう)ちをする為じゃなくて、平行世界に居る自分以外のスサノオノミコトと、攻撃するタイミングを合わせる為だったのかもしれないね?

 

 そして、うん。

 

 この通りだったら『天叢雲剣』は「未完成」どころか「欠陥品(ガラクタ)」と言われても仕方ないね!

 

 え? なんで、って?

 

 この考えの通りなら、ヤマタノオロチは平行世界の自分と協力して「究極の一となる剣を創る固有結界」を展開していたことになるだろう?

 

 つまり、本来ヤマタノオロチが創る剣は、彼が居る平行世界の全体の中で、1本だけになる筈だったんだ。

 

 なのに天叢雲剣は、ヤマタノオロチが殺された世界に1本ずつ出現している。

 

 ということはだよ?

 

 天叢雲剣は「未完成」なうえに、更に「平行世界の数」だけ分割された程度の力しか残っていない、ってことになるじゃないか!

 

 こんなのヤマタノオロチからしたら、欠陥品(ガラクタ)と言って新しく剣を創りたくもなるよ!

 

 ……ふぅ。

 

 さて、今回も長々と無駄話に付き合ってくれてありがとう。

 

 改めて言うけど、この話は事実無根な私の妄想だ。本気で考える必要はないよ。

 

 ただ、ここは無限に等しい時間があるからね。

 

 君とこうやって顔を合わせて話をするのは、中々に楽しいものだよ。

 

 だから、もしまた無駄話を聞きたいのなら、この私が幽閉されている塔まで来てくれると嬉しいな。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 ガキンッ!

 

 (かた)いモノ同士が打つかるような音が、周囲に響く。

 

 ここは少年の固有結界の中にある開けた空間の一部。燕の幻想種である少女が全力で飛び回っても問題ない程度の広場だった。

 

 今ここには、少年と少女の2匹しか居ない。

 

 少年の方は、以前と同じように赤い和服の上に白い羽織りを着て腕を組んで立っている。

 

 対して少女の方は、以前のボロボロだった青い和服がキレイに直されており、少年の羽織りと同じような木の模様が加えられていた。

 さらに、少女の頭には子安貝(こやすがい)で作られた髪飾りが付けられており、風を圧縮して作った剣を両手で握っている。

 

 そんな彼らが向かい合って、全力で戦っていた。

 

 

「いったーい!」

 

 

 訂正

 少女が一方的に負けていた。

 

「おいおい……なんで斬り掛かって来たお前の方がダメージを受けてんだ……」

 

 更に訂正

 少年の方は攻撃どころか防御すらしていなかった。

 

 少女が斬り掛かって、何もせずに立っていた少年に剣が当たって、その反動で痛がっていただけだった。

 

「ヤーくんの概念防御が強すぎるんだよ! 何さ、全てのダメージを8分の1にする、って!」

 

 少女は痛む手をさすりながら、涙目で声を上げる。それを聞いた少年は、小さく溜息をついた。

 

「アホか。今の(オレ)は、本体より何もかも弱いんだぞ……」

 

「え? そうなの?」

 

 少年の言葉を聞いた少女は、目を丸くする。

 

「今の(オレ)は、精々が首1つ(分霊)より、ちょっと(神、一柱(かみ ひとはしら)ぐらい)強い程度だ。本体に戻れば、今よりも硬いし、力も強いわ……」

 

「えーと……具体的に、どれくらい?」

 

「あ? そうだな……力は今の8乗倍(じょうばい)、概念防御も8の8乗倍分(じょうばい ぶん)の1になるな」

 

「………はい?」

 

 あまり強化具合に、少女は咄嗟に反応することが出来なかった。

 

 ちなみに、少年の言う『首1つ』とは『神代に活動していた頃の分霊』を指している。

 

 人理の影法師であるサーヴァントより、圧倒的に強かった頃に、神を一柱(ひとはしら)分だけ力を追加して、ソレを8乗倍したぐらいの強さということだった。

 

「ちなみに将来的にお前には、その時の(オレ)を越えてもらうからな?」

 

「できる訳ないでしょー!?」

 

「出来る出来ないじゃねえ、やるんだよ」

 

「うわーん!」

 

 少年に『人のこころ』は無かった。人ではないので当たり前である。

 

 ガキンッ!

 

「いったーい!」

 

 再び少女は、風の剣で少年に斬り掛かるが、結果は先程と同じだった。

 

 少女の攻撃は、どうやっても少年には届かない。

 

「なんだかんだ言いながら、向かってくるのは褒めてやるよ」

 

 しかし、手応えは(まった)く感じないが、それでも剣を手放さない少女の姿に、少年は薄く笑う。

 それに対して、少女の方は涙目で少年を睨みつけていた。

 

「そうじゃ、ないんだよ!」

 

 ガキンッ!

 

 少女は、まだ手の痛みが引いていないにも関わらず、少年に斬り掛かるのを止めなかった。

 

「ヤーくんが大きな時から、僕はずっとヤーくんの周りを飛んでいたでしょ!」

 

「? 確かにそうだな。何が楽しいのか分からなかったが、ずっと目の前を飛んでいたのは覚えてるぞ」

 

 ガキンッ!

 

 少女がいくら剣を振るったところで、ソレが少年に届くことはない。

 

「僕たち、燕の幻想種にとって、同じ相手の近くで何度も飛び回るのは―――『私を射止めてください』って言う、求愛行動(・・・・)なんだよ!」

 

「はあ?」

 

 ガキンッ!

 

 攻撃は当たっているのに、少年は防御すらしていないのに、少女の大切なモノは何1つとして届いてはいない。

 

「それなのに全然、見向きもしてくれなくて! いくら話しかけても無視されて! それがすっごく悲しくて、泣きたくなって!」

 

「あー、それについてはすまん。あの時は、自我が殆ど無かったんだ。それでも、今はお前が(そば)に居てくれて良かったと思っているよ」

 

「―――ッ!」

 

 ガキンッ!

 

 腕が痛い……手が痺れて剣を握るのが痛い……だがそれ以上に、そんな思いを伝えられない自身の非力さが、少女には(くや)しくて(たま)らなかった。

 

「それでも! 飛び回る僕たちにとって、そんな相手を(とら)えることは! 『あなたの事が、大好きです』って言う! 好きな相手への、告白なんだよ!」

 

 ガッキーン!

 

 一際(ひときわ)大きな音を立てて、少女は最早(もはや)腕を上げられないほど、攻撃の反動で両手が痛みを訴えていた。

 

 肩で息をし、全身が汗だくになっている。しかしそれでも、剣を手放さないまま、顔を真っ赤にして、少年を見続けていた。

 

 そんな少女の様子を見て、少年は口を開く。

 

「ほう。お前たちには、そんな特徴があるのか。だが、それがどうかしたのか(・・・・・・・・・・)?」

 

 その言葉を聞いて、少女は顔を真っ赤にしたまま涙目になる。

 そのまま、しばらくの間、少女は無言のまま立っていると。やがて頬を(ふく)らませて、プルプルと(ふる)えだした。

 そして――

 

「ヤーくんのバカ―――!!!」

 

 少年に背を向けて、どこかに飛び去ってしまった。

 

「……なんなんだ、いったい?」

 

 かつて怪物だった少年に、まだ乙女心(おとめごころ)は分からなかった。




 人間と人外だけではなく、人外と人外でも、すれ違いは起きてしまうもの。

『種族差』って残酷ですね。
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