ねえ、知ってる? ヤマタノオロチってさ……   作:麦わらぼうし

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なんか評価に色付いてる!?


アナタはどなた?

 ふむふむ。

 

 なるほど……これは、随分(ずいぶん)と興味深い歴史を辿(たど)ったものだ。

 まさか、星の抑止力(ガイア)人の抑止力(アラヤ)がねぇ……。

 

 おっと、すまない。思考の海に潜り過ぎてしまったようだ。それで、せっかく私を訪ねて来た君に気が付かないなんて申し訳ない。

 

 お詫びに、この前 外に出掛けた時に手に入れた茶葉で、紅茶を入れてあげよう。

 まぁ、魔術でやるから私が入れる訳ではないけど、味は保証するよ。

 

 さて、またここに来てくれたと言うことは、無駄話の続きを聞きたいという認識でいいのかな?

 

 うむ、いいとも!

 

 君は素直で、いい子だね。

 

 しかし……こうして顔を合わせるのも3回目となると、いい加減に「君」と呼ぶのも少々味気ないな……。

 

 かと言って、伝達者(メッセンジャー)である君に、私が名をつける訳にもいかない……。

 

 うん。すまないが、役目を終えるまでは「君」と呼び続けるのは許してほしい。

 ソレが終わるまではどうか、ただの私の話し相手になってくれたまえ。

 

 さて、そろそろいつもの無駄話を始めようか。

 

 では、まずは前回からの おさらいだ。

 

 ヤマタノオロチの固有結界は『平行世界の自分たちとお互いに存在証明することで、全ての平行世界で同時に死ななければ復活する』という性質を持っている、という話の流れだったね。

 

 分かりやすく会話で(あらわ)せば――

 

「おい! A世界の(オレ!)

「なんだ? B世界の(オレ)?」

「ここに居る全員で、最強の剣を創ろうぜ!」

「お、いいな! C世界の(オレ)! D世界の(オレ)も一緒にやろうぜ?」

「おう! やろうやろう!」

「全員で力を合わせて、究極の剣を創ろうぜ!」

「じゃあ、途中で誰かが倒れた(死んだ)時は、他の誰かが起こして(復活させて)くれよな!」

「「「「了解!」」」」

 』

 

 ――と、こんな感じかな?

 

 実際には4匹じゃなくて、全部の平行世界の彼らが協力して、1本の剣を創っていたんだけど。まぁ、結局最期は全員同時に殺されたから些細なことたね!

 

 ただそれでも、世界を1つ内包(ないほう)する巨体が不死身なのは、とんでもない脅威であったのは間違いなかった筈だよ。

 

 不死身かつ、止まらない強者という存在を(あなど)ってはいけない。

 その1点だけを突き詰めれば、ヒト(・・)でさえ『極限の単独種』を打ち破ることすら出来る。

 

 おまけにヤマタノオロチは、執念深(しゅうねん ぶか)いと言われる『蛇』と名付けられるぐらいだ。どれだけ殺しても復活して襲って来る得体の知れない生物なんて、神々からしても恐怖に違いない。

 

 そしてこういう存在は、心を折るのが常套(じょうとう)手段だけど……たぶん生前のヤマタノオロチは、自我が(ほとん)ど無かったんじゃないかな?

 

 平行世界の自分とはいえ、何十体もの意識が同時に混在して活動していれば、いずれ内部分裂を起こしてしまう危険性がある。

 

 事実として、尻尾が自我を持って、本体とケンカした前例もあるしね?

 

 その点、ヤマタノオロチの分霊が生まれたのは死後だ。

 

 つまり逆に考えれば、生前のヤマタノオロチは、そう成らなかった理屈があったとしても不思議ではない訳だ。

 

 まぁ、全ての意識が完全に協力関係として一致団結していた可能性も無くはないけど。

 

 平行世界である以上、どこかしらで彼らには、必ず差異がある筈だからね。

 それが全て(まと)まっているよりは、自我が無かったと考えた方が、納得しやすい。

 

 そして実際に自我が無ければ、言葉も喋らず、死なず、目的を達成するまで決して止まらない怪物の完成だ。

 

 そんな彼が止まる為には、それこそ『バグ』ってしまうようなナニカがないと無理だね。

 

 

 さて、そんなヤマタノオロチを殺したスサノオノミコトが、どうやって彼の性質を見抜いたのかは不明だけど。知らずに倒した、という可能性は無いだろうね。

 

 何故か、って?

 

 これもちょっと魔術的な話になるんだけど。

 

 前回で私が、ヤマタノオロチの名前に『表記揺(ひょうき ゆ)れ』があることは話したかな?

 

 ヤマタノオロチという文字は、古事記と日本書紀で漢字が異なるんだ。

 ちなみに、スサノオノミコトも古事記と日本書紀で字が違う。

 

 古事記では『八俣遠呂智(やまたのおろち)』と『須佐之男命(すさのおのみこと)

 

 日本書紀では『八岐大蛇(やまたのおろち)』と『素戔嗚尊(すさのおのみこと)』だ。

 

 スサノオノミコトに関しては、もっといっぱいあるね。

 

 それで神話的に見れば「表記揺れ」は、1つの存在に複数の意味が内包されていることを示すのに用いられやすいんだけど。

 

 ヤマタノオロチの場合は、ちょっと意味合いが違うんだ。

 

 どちらの表記でも、読み方は同じだろう?

 

 天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)草薙剣(クサナギノツルギ)のように、字と読みが違う(わけ)ではなく、字だけが違う。

 

 まるで「ヤマタノオロチ」という名前の存在が、複数存在した(・・・・・・)とでも言うようにね?

 

 そう。これは一種の類感魔術(るいかんまじゅつ)なんだ。

 

 呪いの藁人形をバラバラにすることで、呪った相手がバラバラになるのと同じ。

 

 こっちの世界で『八俣遠呂智(やまたのおろち)』が『須佐之男命(すさのおのみこと)』に殺された。

 

 あっちの世界で『八岐大蛇(やまたのおろち)』が『素戔嗚尊(すさのおのみこと)』に殺された。

 

 つまり『ヤマタノオロチ』は『スサノオノミコト』に殺されてしまった存在だ。

 と世界に刻み付けることで、別世界のヤマタノオロチを呪殺する為の表記揺れなんだ。

 

 まぁ、神の権能とか、相当な数のヤマタノオロチを殺すとか。かなり無理をしないと成立できない方法だけどね。

 

 それでもスサノオノミコトは、その方法を使った。そこまでして、ヤマタノオロチを殺そうとしたんだ。偶然である筈がない。

 

 

 でも、なんでこんな方法を使う必要があったんだろうね?

 

 まさかヤマタノオロチが、1つの世界に2匹いた(・・・・・・・・・・)訳でもあるまいし。

 

 考えられる可能性としては、平行世界によって(しょう)じた差異によるナニカが、問題になったのかな?

 

 平行世界とは、if(もしも)の世界だ。『例えば〜だったら』の世界。

 

 もしかしたら、どこかの平行世界では『ヤマタノオロチとスサノオノミコトが出会わなかった世界』があったのかもしれないね?

 

 出会っていないなら、その世界ではスサノオノミコトがヤマタノオロチを殺すことは出来ない。

 

 しかし、ヤマタノオロチはどこかの平行世界に1匹でも残っていれば復活してしまう。

 

 だから、そんな世界のヤマタノオロチを殺す為に、スサノオノミコトはこんな方法を使った、とか?

 

 うーむ。

 

 実際にどうだったか、はさて置き。「無い」とは言い切れないよね。

 

 ただ、この方法で殺されたのなら、その世界のヤマタノオロチは、生前(せいぜん)の肉体が残ったまま、黄泉(よみ)に落ちたことになるね。

 

 神代では、現世と死後の世界は地続きだから、戻ろうと思えば戻れるし。

 

 どこかの世界では、概念的には「死んだ」としても、現代まで全盛期の肉体を持っているヤマタノオロチが2匹(・・)ぐらい居たかもしれないよ?

 

 そしてもし、そんなヤマタノオロチが居たとしたら、いったい何が差異を(しょう)じさせたんだろうね?

 

 まぁ。今も昔も、怪物が変わる理由なんて似たようなモノだけどさ。

 

 ヤマタノオロチの正体がなんであれ、彼が『災害()』であることに変わりはない。

 

 アルビオンのような竜種は、物事の(とら)え方、観測の視点が人間と異なる。

 

 彼らは『運命の相手は、見た瞬間に分かる(・・・・・・・・)

 

 人間とは違って、相手の「これから」を全て()て、つがいを決める存在だからね。

 

 彼らにとっての『運命の相手』とは、それだけ重い言葉なんだ。

 

 もし、ヤマタノオロチにそんな存在が現れたとしたら、どんな相手なんだろうね?

 

 ヤマタノオロチの分霊である伊吹童子や酒呑童子が気に入っている坂田金時(赤竜の子)みたいに、碧眼(淨眼)を持っていたり、金髪だったりするのかな?

 

 いや、姿形は関係ないか。竜種は、全てを観て判断するんだしね。

 

 そして、そんな竜の宝物に手を出そうとすれば、それはまさに『竜の逆鱗』に触れる行為だった訳だ。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 剣を創る。剣を創る。

 

 少年は1匹、自分の世界で剣を創る。

 

 (いま)だ担い手には程遠(ほど とお)く。しかし、いずれ自分を()えると確信している少女を思い、少年は究極の剣を創り続ける。

 

「……ダメだな」

 

 そして新しく創っては捨て、また新しく創っては捨てるを繰り返していた。

 

 少女が担い手に相応(ふさ)しくなるには、まだまだ時間が掛かるだろう。

 

 だが、必ず彼女はソコに(いた)る。

 

 世界の誰もが彼女を知らなくても、少年だけは、その未来を信じて疑わない。

 

「アイツが自分(テメェ)の力を理解して、完全に使いこなせるようになれば。誰もアイツを(はば)むことは出来ねえんだ」

 

 その姿を想像する。その戦い方を想像する。

 

 イメージを形に変え、現実の剣を創り出す。

 

「そん時に足りねえモノを補うのが、(オレ)の剣だ。今は無理でも、必ずソコまで導いてやる」

 

 少女を想い、少年は剣を創り続ける。

 

 少年は、それしか知らないから。

 

 怪物だった少年には、それ以外に少女へしてやれることが思いつかないから。

 

「ん?」

 

 唐突に、少年は剣の製作を止めた。

 

「やっと戻ってきたか………だが、こいつは誰だ?」

 

 どうやら、固有結界の外に出ていた少女が戻って来たのを察知したようだが。それと同時に、別の誰かが固有結界の中に入ってのも、少年は感じ取った。

 

「ヤーくん、ただいまー!」

 

 文字通り、光の速さで少年の所に飛んできた金髪碧眼の少女が、元気いっぱいに声を上げる。

 

「おう、おかえり………アホ毛が分かんねえぐらい、髪がボッサボサになってるぞ」

 

「はにゃ?」

 

 指摘された少女は、いま気がついたとばかりに自身の髪をいじり始める。

 その姿を見て少年は軽く溜息をすると、すぐに(くし)を創って少女の髪を()かし始めた。

 

「せっかくキレイな髪をしているんだから、もう少し気を使え」

 

「あはは、ヤーくんは金髪が好きだもんね~」

 

「は?」

 

 身に覚えのない言われように、少年は思わず声を漏らした。

 

「覚えてないの? 僕がこの姿なのは、大きかった頃のヤーくんが『固定化の呪い』を掛けたからだよ?

 だから僕は、ちっちゃいままなの。

 特に金髪と碧眼は、絶対に変えられないぐらい何重(なんじゅう)にも掛けられたんだから」

 

「………覚えてねぇ」

 

 少年は怪物の頃、自我が(ほとん)ど無かったので、覚えていることは少なかった。

 

「ふ〜ん。

 まっ、別に良いけどね!

 あの時と違って、今はちゃんと僕のこと見てくれてるし!」

 

「……そうか」

 

「そうだよ」

 

 そう言いながら少女は、少年の胸に、自身の頭を(こす)り付けた。

 

 怪物だった頃の少年が、少女を通して別の誰かを見ていたことは、彼女も分かっていた。

 

 それが今は、他の誰でもない自分を見てくれていることが、少女には堪らなく嬉しかった。

 

 少年が、少女を見る目が明確に変わったのは、突然に居なくなってしまった彼を見つけ出した『あの日』だろう。

 

 しかし、彼が怪物から、少年に少しずつ変わっていった最初の切っ掛けは、きっと『どうでもいい存在』に呪いを掛けた時に違いない。

 

 その呪いは、少女にとって間違いなく祝福だったのだ。

 

「えへへ〜」

 

「なんだ、今日は随分と甘えん坊だな…………というか。いい加減に、そいつの紹介をしてくれないか?」

 

 甘えてくる少女の頭を撫でながら、少年は少女と一緒に固有結界(ここ)に入ってきた侵入者に視線を向ける。

 

「おや。(わたくし)のことに気付いた上でイチャついていたのですか。

 そうですか、そうですか。殺殺(コロコロ)しちゃうぞ♪」

 

 そこに居たのは、黒いキツネの耳と尻尾が生えて、赤色の水玉模様が浮かぶ黒い浴衣(ゆかた)を着た、小さな女の子が居た。

 

「僕の友達の『コーちゃん』だよ!」

 

「お前、友達いたのか」

 

「酷い!」

 

 少女は、ガーン! とショックを受けていた。

 

「見た目は妖狐(ようこ)だが、九尾(きゅうび)でも天狐(てんこ)でも無いな、お前?」

 

「はい♪ 私は妖怪ですが、(きつね)の妖怪ではございません♪

 私の名は『黒陽(こくよう)』と申します。以後、お見知り置きを♪」

 

 ずっと笑顔のまま会話を続ける女の子。

 

 しかし、それは次の少年の言葉で崩壊した。

 

「あぁ、なるほど。お前は『空亡(そらなき)』か」

 

 

「あ゛?」

 

 

 少年の言葉を聞いて、女の子は常人(じょうじん)が聞けば身体が凍りつくような怒気を(はら)む声を出した。

 

「自己紹介したでしょう? 私は黒陽(こくよう)です。

 人間どもが付けた空亡(そらなき)でも空亡(くうぼう)でもねぇんですよお分かり?」

 

 声調は元に戻ったが、今の女の子の笑顔には明らかに、(いか)りマークが付いていた。

 

 彼女の妖怪としての名は、確かに『空亡』だったが。彼女自身は、そう呼ばれることを激しく嫌っていた。

 

 空亡とは、百鬼夜行絵巻に描かれている太陽を、妖怪と解釈した存在だ。

 

 そんな太陽の写し身として「こんな姿」になってしまった女の子からすれば、その名は蔑称(べっしょう)でしかなかった。

 

「そうか、それはすまん。

 それでお前さんは、いったい何の用で儂の固有結界(ここ)まで、やって来やがった?」

 

 ここは少年の固有結界。言ってしまえば、彼の腹の中だ。

 

 基本的に少年は何も食べない(・・・・・・)ので、少女以外には、さっさと出て行ってもらいたかった。

 

「いえいえ。

 私の(・・)百鬼夜行メンバーである、私の(・・)彼女がお世話になっているようですので、こうしてご挨拶に参りました」

 

 

「あ゛?」

 

 

 今度は、少年の方から怒気を含んだ声が出る。

 

「? コーちゃん、なに言ってるの? コーちゃんと僕は友達だよ?」

 

「はい♡ 私の百鬼夜行メンバー()は、生涯貴方だけです♡ そして貴方の友も、私だけで十分ですよねぇ?」

 

 怖気の走るような声音で、女の子は笑う。

 

 前半は少女の方を見ていたが、後半は明らかに少年に向けての言葉だった。

 

「そうかそうか。儂の(・・)運命の知り合いだったのか。なら特別に、鍛治(かぬち)として何か作ってやろう。

 そうだな、黒いキツネの毛皮で作った首巻きなんてどうだ?」

 

「えっと……ヤーくん?」

 

「いいですねぇ。でも私、今は別のモノが欲しいです。

 蛇の(かわ)で作られた財布とか、素敵だと思いません?」

 

「コーちゃん?」

 

 ニコニコ笑顔で、彼らは少女を(はさ)んで会話をする。

 

 お互いに、怒りマークが頭に付いていた。

 

「ヤーくん! コーちゃん! 喧嘩(けんか)しちゃダメ!」

 

 

「「そうだな(そうですねぇ)」」

 

 

「ひぇ……」

 

 言葉自体は肯定されたが、彼らの声には一切の熱がない。

 

 ガチギレしている2匹に(はさ)まれた燕の幻想種(原因)は、生きた心地がしなかった。




???「このままだと、人類が全滅してしまう! お願いです、彼女を派遣してください!」

???「いや、確かに彼女はコッチの所属だけど、まだ死んでいないし、そっちで直接言ってよ。
 というか、そろそろコッチも限界なんだけど、何時になったら独り立ちするの?」

???「いや、なんで私に言うのですか? 私、人間は大嫌いなんですけど。
 まぁ、彼女が人間を助けても、私は何も言いませんよ」

???「(オレ)が、アイツに言うことはもうねぇ。後は、アイツのやることを見守るだけだ。加護ぐらいは付けてやるがな」

???「え? やだよ。だいたい人間が、生存競争に負ける訳ないでしょ? 僕たちから、霊長の座を勝ち取った存在だよ?
 だから僕は、絶対に人間には手を貸さないよ。
 あ、ヤーくんとコーちゃんが、人間を助けたら僕が斬るからね!
 その後は、僕も死のうかな? ヤーくんが居ない世界で、生きていても意味ないし」

???「そんな、どうすれば……そうだ!」


「「「は?」」」
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