ねえ、知ってる? ヤマタノオロチってさ……   作:麦わらぼうし

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???「つまり、古事記と日本書紀は、類感魔術を使う為の触媒だったんだよ!」

???「そうだったの!?」

???「僕は、そんなことの為に古事記を編纂したんじゃない」

???「そりゃそうだろうね、だって嘘だし」

???「嘘なの!?」

???「さて、どっちだろうね? 君の好きな方で解釈してくれ」

???「えぇ……」

???「なんだこの胡散臭い奴は……」


理由は違っても、結果は一緒

 長い間、お勤めご苦労さま。

 

 いや、君としては特別に何かをしていた訳じゃないから実感は無いだろうけど。君がここに居ること事態が、彼らへの情報伝達になるからね。

 

 だが、それも今日でようやく終わりだ。もうすぐ君の『迎え』が来るだろう。

 

 寿命、という意味ではなく。正しく君の待ち人が、君を引き取りにやって来る。

 

 残り少ない貴重な時間だ。

 

 それだと言うのに、私のところに来るとはね……。

 

 君の出自(しゅつじ)を考えれば、彼らのことを知りたくなるのも分からなくはないが。

 

 何度も言うようだけど、私の話は妄想でしかないよ。なんせ、私では証拠を出すことが出来ないからね。

 

 証明の出来ない推論は、どうやっても妄想にしかならないさ。

 

 それでも良いのかい?

 

 ……わかった。

 

 それならば、君のお迎えが来るまでの間、最後の無駄話に付き合ってくれたまえ。

 

 

 さて、いつものように前回のおさらいから始めようか。

 

 ヤマタノオロチは古事記と日本書紀で、漢字の表記が異なっていた。

 それはスサノオノミコトが出会っていない世界のヤマタノオロチを、類感魔術で呪殺する為のモノだった。

 

 しかしこの方法での殺害は、地続きとなって死後の世界から戻って来られる神代に置いて、肉体を取り戻す可能性がある。故に、もしかしたら現代でも肉体を持ったヤマタノオロチが、どこかの平行世界では居るかも知れない。

 

 と、こんな感じだったかな?

 

 

 では今回は、その続きからだ。

 

 ヤマタノオロチが肉体を取り戻した平行世界が、実際に存在したとしよう。

 

 だがそうなると、その世界は何かしらの形で、別の世界との違いを埋める、辻褄(つじつま)合わせが必要だ。

 

 なんせ、その世界ではヤマタノオロチは呪殺されはしたけど、直接スサノオノミコトが殺していないのだから、天叢雲剣は彼の固有結界の中に残ったままだ。

 

 このままでは、天叢雲剣が人間の手に渡らない。それは日本の歴史そのものが変わって、世界の平均から大きく離れることになるだろう。つまり、剪定(せんてい)されてしまう。

 

 平行世界として残る以上、どこかしらで天叢雲剣はスサノオノミコトに渡らなければならない訳だ。

 

 では、天叢雲剣はどうやってスサノオノミコトの手に渡ったのか?

 

 考えられる内容としては、やはりヤマタノオロチが黄泉の国に落ちた時かな?

 

 類感魔術によって呪殺されたヤマタノオロチは、黄泉の国から脱出する為に、地上へ繋がる黄泉比良坂(よもつひらさか)を目指した。

 

 しかし、そこはかつてイザナギノミコトが、イザナミノミコトに追って来られないように岩で塞がれた場所だ。

 

 たどり着いたヤマタノオロチは、岩を退かすのが面倒だったのか、固有結界(自分の中)から天叢雲剣を取り出し、岩をぶった切って外に出たのさ。

 

 そして地上に戻ったヤマタノオロチは、天叢雲剣を黄泉比良坂の入口に投げ込んだ。

 それが、天叢雲剣を失敗作だと思って捨てたのか。

 それとも、大岩が壊れたことを知って様子を見に来たイザナミノミコトを、敵と思って攻撃したのかは分からない。

 

 だが、それによって黄泉比良坂にあった入口は壊れて塞がり、地上に彼以外の亡者が出てくることはなかった。

 

 その後、天叢雲剣を回収したイザナミノミコトは、自分に会いたくて高天原を追放されたスサノオノミコトに剣を譲渡した。

 

 ―――辻褄合わせとしては、こんなところかな?

 

 そしてヤマタノオロチは、自身の肉体があった場所に戻ったけど、死んだことで『怪物』の定義を満たせなくなった彼はバグを起こした。

 

 彼は、明確な自我という名の頭脳体を獲得し、機能停止した肉体を持って虚数空間に住処を移した。

 

 彼からすれば、戦ってもいないのに死ぬような場所に長居する理由もないし。現世や常世どころか、星の裏側にすら居たくなかったんだろうね。

 

 そしてヤマタノオロチが肉体に戻って来るまでに、機能が停止した肉体から抜け落ちた、大量の(うろこ)やら何やらが形を成して、伊吹童子や酒呑童子などの分霊となった。

 

 これが、ヤマタノオロチとスサノオノミコトが出会わなかった平行世界の流れだ。

 

 そしてこの後、虚数空間に行ったヤマタノオロチが、実数域に戻って来ることはなかった。

 だからこそ、その平行世界は平均から大きくズレる事もなく、剪定されなかったのさ。

 

 

 ……しかし、いったい何故この世界では、ヤマタノオロチとスサノオノミコトは出会わなかったのかな?

 

 スサノオノミコトが、ヤマタノオロチを知る切っ掛けは、娘を食べに来る彼を老夫婦から伝えられたからだ。

 

 そうなると考えられるのは、その世界のヤマタノオロチは、娘を食べに来なかった(・・・・・・・・・・)

 

 ふふっ、いったい誰が、自我すら無い彼に影響を与えたんだろうね? 女神の代わりになるような存在が、彼の近くに居たのかな?

 

 

 ………さて、これで私の言える無駄話は全て終わりだ。

 

 なぜか、って?

 

 だってほら、ようやく君の『お迎え』が来たからだよ。

 

 

「よう……お前が『贋作』だな?」

 

 

 

     ◆

 

 

 

「ヤーくん……コーちゃん………大好き…」

 

 少女の姿をした燕の幻想種が、怪物だった少年にひざ枕された状態で、すやすやと寝ながら何やら呟いていた。

 

 その様子を間近で見ていた少年は、なんとなく寝ている燕の頭を撫でる。すると燕は「えへへ〜」と幸せそうな寝顔を見せた。

 

「随分と仲がよろしいことで……」

 

 そんな2匹の姿をジト目で(なが)める妖怪の女は『私、不機嫌です』という表情を隠そうともせず。しかし、寝ている燕を起こす訳にもいかないので、ムスッとしながら静かにお茶を飲んでいた。

 

「場所を変わるか?」

 

「……いえ。私が、その状況になったのなら。自分を(おさ)えられる気がしませんので」

 

「そうか」

 

 ここに居る3匹は、いずれも人間ではないが、妖怪の女は特に自制心が弱かった。

 だからこそ、彼女は大切なモノを傷つけない為に行動を自重することが多い。

 

 それはまるで、酔ってしまう限界値を見極めて、摂取する酒の量を調整しているような感じである。

 

 だが、それはそれとして、意中の相手が自分以外の存在に身を(ゆだ)ねている姿を見るのが面白い訳がなく、現在のような不機嫌状態になっていた。

 

「まぁ、こうして貴方とも長い付き合いですし。多少のお遊びぐらいなら私も目をつむりましょう」

 

「お前は何様だ…………前から思っていたが、どうしてお前は『(オレ)の運命』にそこまで執着する? 燕の幻想種など、こいつ以外にも沢山いるだろ」

 

 少年は妖怪に尋ねる。

 

 燕の幻想種は、個体名ではなく種族名だ。今ここにいる彼女以外にも、複数体存在する。だと言うのに、妖怪の女は、ここに居る燕にしか意識を向けていなかった。

 

「おや。そう言えば教えたことはありませんでしたね? 私がその子を気に入っている理由は、とても単純です。

 その子は……私を見つけてくれたのですよ。まだ妖怪として存在を確立していなかった、皆が恐れる太陽でしかなかった私を見つけて、名を与えてくださいました」

 

「……………あぁ、なるほど」

 

 妖怪の言葉を聞いた少年は、納得がいったとばかりに頷いた。

 

 妖怪(こいつ)は、(オレ)と同じなのだ、と。

 

「だからお前は、人間が嫌いなんだな?」

 

「えぇ……あとになってから空亡(そらなき)だの空亡(くうぼう)だの勝手に名付けやがって。

 そんな名前(モノ)は絶対に認めません。私の名は、この子が付けてくれた『黒陽(こくよう)』のみです」

 

 空亡とは、百鬼夜行絵巻の太陽が妖怪だったら? という仮説から生まれた妖怪である。妖怪としての生まれは、とても古いとは言えない。

 

 しかし、太陽である彼女という存在自体は、百鬼夜行絵巻が作られた時から既に生まれていたのだ。

 

 だが、当時の彼女は妖怪ですらなかった。

 

 ただ『太陽』という性質だけが与えられただけの、実体の無いナニカが当時の彼女である。

 

「皆が、私を恐れて逃げていきました。闇に住まう妖怪にとって、太陽であった私から離れるのは当然ですけど。生まれてからずっと、私には仲間がいませんでした」

 

 百鬼夜行絵巻は、妖怪たちが太陽から逃げるように描かれている。しかし、それは彼女が太陽だから恐れていたのか、それとも凶悪な妖怪だから恐れていたのか。

 

「そんな中で私を見つけてくれたのは、この子だけでした。直視すれば目が潰れる太陽の私から目を逸らさず、私を見つけてくださいました。私を見つけたのは、人間ではありません」

 

 空亡と定義されるずっと前に彼女を認識した、目の前で穏やかに寝ている燕の幻想種。

 黒陽という名前も、その時に付けられたモノであり、彼女にとって初めての、大切な(おく)り物だった。

 

 それを後になってから人間に、お前は『空亡だ』と定義づけされたのである。

 

 ふざけるな! という気持ちと同時に、何があっても人間とは関わりたくないと彼女は思った。

 

 故に、彼女は燕を自分の百鬼夜行(仲間)に加えたかった。

 

「私の百鬼夜行には、この子だけが相応しい。私から逃げる有象無象なぞ願い下げです」

 

 どいつもこいつも『空亡』としての自分しか知らない中で、黒陽だった自分に接してくれるのは燕だけだった。

 

 だからこそ、この妖怪は、この燕に執着している。

 

 そして、それはまるで、少年が怪物だった頃に接していた時の事と同じであり―――少年は、どこか(ほこ)らしげに寝ている燕を見ていた。

 

「こいつはそういう奴さ。見えない筈のモノを(とら)える。世界を渡る(さか)い目の壁を認識できるように、見つかる筈のない(オレ)を見つけ出した」

 

 だからこそ、と少年は燕を見つめる。

 

「今はまだ無理でも、必ず届くだろうさ。

 空間を超え、時間を超え。因果だろうが、概念だろうが、見えない筈のモノを全て(とら)えて斬り捨てる。異能を持たない『最強』にな……」

 

「よく分かりませんねぇ……だいたい『最強』になるって、そんなに重要ですか?」

 

 少年が燕に対する想いは、妖怪には理解出来なかった。

 

「当然だろ? ここまで丹精に育てたんだから『最強』程度にはなってもらう。そうで無ければ、(オレ)が喰うに値しねぇよ」

 

「黙らっしゃい、この絶食爬虫類が。

 炉心が動かなくなった貴方の結界維持に必要な魔力を、星の裏側まで行って取って来ているのは誰だと思っているのですか?」

 

「その代わりに、固有結界(ここ)に居ることを許可しているんだろうが。実数域(そと)に居るより、よっぽど快適だろう?」

 

「その通りですよ。この蛇型、高級リゾートホテル!」

 

 少年の言う通りだった。

 

 ここに居る人外の3匹は、虚数空間に居る少年の本体の中で作られた固有結界に居ることで、神代がとっくに終わった現在でも、問題なく活動できている。

 

 その結界維持の為に、妖怪は時々 肉体をここに置いて星の裏側に出向いて魔力を収集し、少年に渡していた。

 

 それは決して少年の為ではなく、燕の為である。

 

 肉体を完全に捨て去って、星の裏側に行ってしまうと、星の抑止力(ガイア)に強く縛られてしまい、燕が成長できなくなってしまうらしい。

 

 その理屈は妖怪には分からなかったが、全てを()た少年は、そう断言した。

 

 それを詳しくは教えられなかったし、妖怪も聞く気は無かった。

 

 だって、いくら妖怪が説得したところで、燕は少年から離れなかっただろうし。だからと言って、ちからづくで無理矢理に連れていけば嫌われるから、やりたく無かった。

 

 少年の方も、妖怪の女の有無に関わらず、その無駄にバカでかい身体を少しずつ魔力に変えて消費することで、燕が成長しきるまで、肉体を持ったまま過ごせる固有結界を維持させ続けたことだろう。

 

 それを理解した妖怪の女は、呆れて溜息が出た。

 

「貴方って、本当にバカですよね……」

 

「まともな奴が『最強』なんて目指す訳ねえだろうが」

 

 それは確かに、と妖怪は納得する。

 

「それはソレとして、ちょっとコッチに来い」

 

「なんです?」

 

 特に警戒する様子も見せずに、妖怪は少年に近づいた。そして、次の瞬間

 

「は?」

 

 妖怪と少年の位置が入れ代わっていた。

 あまりに速すぎる少年の位置変更に、妖怪はひざの上に頭を乗せる燕の温かさを感じてから、ようやく再起動する。

 

「…………なんのつもりです?」

 

「そろそろ『迎え』に行く必要があるんでな。その間、そいつの面倒は頼んだ」

 

「迎え?」

 

 妖怪は首を傾げる。

 

「あぁ、贋作の回収だ」

 

「………なんのことかは分かりませんが、お気をつけて」

 

 その言葉を聞いて、少年は肉体を置いたまま虚数空間を後にした。

 

「私、あの爬虫類が戻って来るまで、耐えられますかね?」

 

 妖怪としての本能か、目の前に居る最高のごちそう(燕の幻想種)を喰ってしまわないかだけが、彼女としては心配だった。




罪なき者のみ通るがいい……。
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