晩秋を前に日が落ち切った夜の街は冷える。彼がズボンのポケットに手を突っ込むのは癖ではあるが、暖をとるためにもなっていた。
ここら一帯は彼の古巣であり、街灯を頼らずとも月明かりで充分なほどに道を知っている。
「ほら、こっちだ。亜梨主」
「どっちよ。よく見えないんだからちゃんと言って」
「声を頼りにしてくれよ。にしたって笑える話だ。二人揃ってスマホの充電がミリしか残ってないなんてな。ま、勝手は知ってるから安心しろって」
夜の闇に慣れる人間は少ない。昼間来た道も夜帰る時には様変わりしているように、丸で受ける印象が異なる。彼は夜の街の顔も覚えているほどには遊び慣れていた。
「しかし、亜梨主がゴルフクラブに興味持つとは思わなかった。その下見をしたいなんて言い出した時は驚いたもんさ」
「なによ、悪い?」
「いいや、別に?」
これはいい点数稼ぎになる。そう思って彼は誘ったのだった。突然の誘いにも対応できるこの街に。
「で、いつまで歩かせるつもり?」
「急かすなって、渋谷までもうちょいなんだから」
「こんなに遅くなっちゃって。此処まで遠出するなんて聞いてなかったわよ、もう」
「学校終わってすぐ行った割には早く帰れた方だ、これでも。それに、うっかりサツに出くわして補導、なんてこともあり得ないし」
「……ホント、よく知ってるのね」
「まぁな。ここら一帯は縄張りみたいなもんよ。いつ、だれが、どうするのか、大体のパターンは体が覚えてる。経験則ってヤツ」
「ふぅん? じゃぁこの辺りは滅多に人が来ないって事?」
「気味悪がって誰も通ろうとしないぐらいには真っ暗だからな、この辺は。警邏もこの時間帯は別ルート行ってるし」
「あっそ。それで、慧梨主のことなんだけど」
「わかってるって。惚れた弱みだ、ちゃんと言うさ」
「そう、なら、良いのよ」
生返事気味に言葉を返す。そろそろ“丁度良い”スポットに近づけるのに頭が一杯だった。
彼は送り狼になる気満々で、そもそも男女が夜遅くにこんな暗い街で二人きり、なんて、“そういうこと”をしろとでも言わんばかりのシチュエーションじゃないか。それについてこれっぽっちも言及しないのは危機感が足りないのか、誘っているのかの二択だろう?
仮に悪友が苦言を呈そうものならそう返す程に、煩悩に塗れながらも理知的であった。欲に忠実に動けるように脳細胞が回転していた。
それ故に、亜梨主がどんな顔をしていたのかも、口の箸から零れた言葉さえ、頭の中に入ってはいなかった。彼女が大きく振りかぶったもの以外は。