「ひとまず、伊地知さん達を探さないと。あんまり得意じゃねぇんだけど」
そう言って、虎杖は空気に溶けて、霧がすごい勢いで広がっていく。
「すげー吸血鬼って感じ。始祖とかですか?」
『そだよ』
「うっわマジカ……」
果たしてイッチは虎杖を人間に戻せるのか。
でも、アルビノを眷属にしちゃったので、それも人間に戻すのは難しいだろう。つまり詰みだ。
叫んでゴロゴロ転がりたい気分だが、さっき約束をしたので、人々の救助はすべきだろう。何せ、俺たちは素人。縛りと約束の区別はつかないからだ。
避難誘導だけならば、なんとかなる……といいな。
『俺が誘導するから、お前らは呪霊と呪詛師の排除を頼む』
無茶振りきました!
「俺たちよえーぞ」
『俺がお前らを隠すから、一定以上攻撃力があればいい。それに、俺の娘達もいるみたいだしな』
「娘?」
『元太陽神教会聖堂騎士三姉妹、そんで俺の可愛い闇騎士三姉妹。俺にはわかる。近くにいる。絶対に転生してまた会おうって約束したしな』
「人間関係複雑骨折の予感! もしかして、無理やり眷属にして闇堕ちさせた?」
『そうだよ。……うっわ俺の中で現世と前世の良識が取っ組み合いを』
「是非とも虎杖くんが勝ってどうぞ」
とにかく霧を使って幻影を投影する事により、群衆を誘導、特級呪霊と呪詛師を撹乱、そして廻廻奇譚の一行が迎撃を始めた。
イッチマジで何とかしろよ。
さて、その頃血塗は、呪詛師に協力すると見せかけて、間一髪で補助監督を守っていた。
「なーにしてんだよ。良心がとか言っちゃうつもり? 呪霊が? その面で?」
「この気配、おとーさまだ! おとーさまが来てんのか!!」
血濡ははしゃいで呪詛師を切って走る。
「おとーさま!! 俺はここだよ! 今度こそ殺してあげるね!」
そのしばし後、脹相の所にも霧が届く。
「頭が痛い……。現世のお父様を片付けたと思ったら、今度は前世のお父様か。転移したのか、スペシャルズのメンバーにいたのか。なんにせよ、必ず殺してやる。それに悠仁も保護しなくては。ああ、その前に血塗と合流だな」
「もしかして、兄さんの前世は……姉さん!?」
「壊相? そうか、来世もともに、という願いは叶ったか……。呪われた姿で生まれたのは罰なのだろうな。どちらにせよ、父を倒さねば平穏はない。いくぞ、壊相」
「わかったよ、兄さん」
脹相と壊相は前世で仕えていた神に祈りを捧げる。
その祈りは、通ってしまった。
異界の太陽神のパラディン、爆誕である。
そして、二人が駅から出たタイミングで。
アルビノが目を覚ました。
「目出度く俺も化け物かぁ……」
ぼーっとして、動く背の上、覚は呟いた。
悠仁の背ではない。
駆けつけてくれた廻廻奇譚のメンバーの一人の背中だ。
あれほど何を犠牲にしても、と渇望していた未来は無くなってしまった。
特に呪力がどうというのはないが、自分でさえ感じた強力な違和感を、あの五条悟が気づかないわけはないだろう。
戻ったら秘匿死刑まっしぐらだ。
絶対的に絶望しかないが、思考は高揚感でぐちゃぐちゃだった。
嬉しくて誇らしくて笑い出したい。
恐らく、人間を辞めた弊害だろう。
無敵になった気がする。もちろん、それは嘘っぱちの感覚だ。
人間を食べたいと思わない事は幸いだった。
「アルビノ、目を覚ましたか。大丈夫か? 血を飲みたくなったりしない?」
「大丈夫。ああ、でもお酒に酔ったような感覚がすごいかも。ここは血の匂いが強すぎる」
「大変なとこ悪いけど、やっぱりお前がいないとダメだ。指示出ししてくれ」
何せ、ここにいるのは素人の寄せ集めなのだから。
「……状況は」
「メロンパンを殺した。五条悟は無事。悠仁は救助活動をしてる、廻廻奇譚の皆も。呪詛師は倒した」
「なら、避難一択だな。撤退だ。後は当主様に任せる。呪詛師達は大丈夫。あいつら、すぐに逃げていくだろうから」
「とりあえず、うちに来いよ」
「助かる。虎杖と九相図も回収しよう」
四兄弟が驚愕の再会を果たすのはすぐであった。
こうして、メロンパンを討伐して、渋谷事変は終わった。
後始末という、新たなる戦いが始まるのだ。
状況説明
虎杖前世→吸血鬼始祖。太陽神の教徒と仲がめちゃくちゃ悪い。
脹相・壊相・血塗→太陽神の聖堂騎士で義姉妹。後に吸血鬼始祖に噛まれて眷属となる。
三姉妹で前世でも一緒だよと約束をしていた。