夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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 ~Attention~

 ・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
 ・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#1 始終のオルレアン

 

【side:オルガマリー】

 

「ふぅ……。戦闘終了、と」

 

『……フジマル、ひとまず切り抜けたことは褒めておくわ』

 

 私、オルガマリー・アニムスフィアが管制室で見つめる画面に映るのは一人の少年だ。

 白を基調としたカルデア制服を身にまとい、崩れた街で倒れ伏すワイバーンを前にしてやり切った顔を浮かべていた。私の顔を見てもその笑みのままということは、まだ何が言いたいのか気付いていないらしい。

 

「はい、ありがとうございます! 野良ワイバーンくらいなら何とかなるようになってきました」

 

『えぇ、それは確かのようね。クラスカードの扱いにも慣れてきたようだし』

 

「なら──」

 

『だけど、無駄な戦闘を避けろとも言ったわよね? カードの回収もまだ残っているし、竜の魔女まで余力は残しておくべきなのよ!?』

 

 フジマルの笑みが消え、不服そうな目になるが私は気にしなかった。そもそもがたった一人の任務なのに、勝負所を間違えるなどもっての外だからだ。

 

「所長、俺が気を引いている内に避難できた人たちがいたはずです。だから、無駄な戦闘なんかじゃない」

 

『フジマル、あなたの任務はその特異点の解決及び聖杯の回収、そしてクラスカードとマスターの捜索よ。いずれなかったことになる人の生き死にに関わっていられる余裕はないの。優先事項を間違えないで頂戴』

 

「…………分かりました。ムニエルさん、次はどっちに向かえばいいですか?」

 

『よしきた、次の反応は──』

 

 言うだけ言って溜飲が下がったと思われたのか、あっさりと引き下がるフジマル。誘導を引き継いだ観測役のムニエルがこちらに視線を投げて様子を伺ってくるのが凄く鬱陶しい。

 私の小言も、もう何度目か分からない。フジマルはずっとこの調子で私の指示外の行動、現地民への介入を行っている。その度に私が咎めているが、正直私ももう聞き分けてくれるとは思っていない。押さえつけてへそを曲げられても困るのはこっちなのだ。まぁ実際にこのお人好しがそんな態度をとるとも思えないが。

 

「お人好し、ね……」

 

 ふと自分が彼に下した評価につい辟易してしまった。それは彼の人柄をある程度知った今だからこそ出た言葉であり、それを知らなかった頃に初めて見たのが寝ぼけ面だったことを思い出したからだ。

 

 

 

『ちょっとあなた、最前列で堂々と居眠りとはいい度胸してるわね?』

 

『……ふぁい?』

 

『一体どこの所属? ……なによこれ、ただの一般人じゃない! ちょっとこっち来なさい!』

 

 

 

 今のカルデアに残る最後のマスター、フジマル。彼との出会いは今思い出しても腹立たしいものだった。緊張感のあるミーティングの出鼻を挫かれたこともそうだし、その出来事があったから今私がここにいるということも含めてだ。

 

 

 ☆

 

 

『そこだ、フジマル! その部屋から魔力反応がある。恐らく聖杯だ』

 

「つまりここに聖杯と、それを守る魔女がいるってことか」

 

 オルレアンに佇む古城、その広間。フジマルはそのドアに手をかけ、一息ついてから再度力を入れた。その奥に待ち受ける敵には、奇襲など効きはしないだろうからだ。

 一瞬、闇がいると思った。無論光の届かない深淵などではない。そうと見間違う程の漆黒に染められた鎧を纏う、一人の聖女の写し身だった。鈍い闇を輝かせて、侵入者をただ見据えていた。

 

「竜の魔女、ジャンヌ・ダルク。俺は貴方を倒しに来た」

 

「……はっ、実際に見ても信じられないわね。アンタみたいな奴が、あの邪竜を退けたと? ふざけてる。私なんかよりもよっぽどタチの悪い、おとぎ話でも見ているのかしら!?」

 

「くっ!」

 

 怒りに満ちた声が広間に響き渡り、同時に噴き出した灼熱が二人を照らし出した。建造物の悲鳴など、怨念に駆られた魔女の耳には届かない。

 

「たった一人の、人類最後のマスター!? ただのガキじゃない!」

 

 魔女の手に握られているのは旗だった。描かれているのは竜の紋章であり、魔女として従わせる力の象徴。それをギリギリと音を立てながら握りこみ、爆発したような速度で接近する。

 

「アンタなんかに、私を終わらせてなるものか!」

 

 ワンテンポ、視線が交錯する。僅かに体を硬直させ、構えの遅れている少年。その瞳にはまだ怯えが、恐怖が残っていた。それでいて、真っすぐに相手を見据えていた。

 

夢幻召喚(インストール)!」

 

 下げられていたフジマルの手から光が零れる。言葉を紡ぐのと同時に一本の剣が顕現した。レイピアのように刀身の細い、頼りなさすら覚える剣。けれどそれは確かに、憤怒の炎を纏う旗と拮抗する──! 

 

「なによそれ、出し惜しみ? 舐めてくれるじゃない! その程度の煌めき、一瞬で呑み込んであげるわ!」

 

「出し惜しみなんかじゃない、これが俺の全力だ!」

 

 夢幻召喚(インストール)。クラスカードを介して英霊の力をマスターの身体に宿すことで戦闘を可能にする、フジマルがマスター足る由縁。しかし一般人に毛が生えた程度の魔術回路では完全武装に届かず、武具だけを具現化させる限定展開が関の山だ。けれど付加される戦闘能力自体に変わりはない。

 リーチに倍以上の差がある二つの武器のぶつかり合いが白熱していく。打ち合いが起こるたびに、魔女の表情が歪む。納得のいかないといった表情のまま振るう旗は、けれどフジマルには届かない。当人もずっとギリギリではあるのだけれど。

 

「英霊でもない癖に、私に並ぶっていうの? 馬鹿げてる。ふざけてる。どこまでも癪に障るわね……!」

 

「おおおおお!」

 

 もはや言葉を口にする余裕すらなく、剣を振るうフジマル。相手の攻撃をいなすのではなく、決定打を叩き込む為の隙を作る為に更に速度を上げる。彼の体がついてこれる、限界の速度まで──! 

 

「ちぃっ!」

 

 鈍い金属音が響く。旗を打ち払われ体勢を崩す魔女と、その瞬間を確かに作り出したマスター。二人の視線が再び交錯した瞬間。確かに魔女はその口を歪ませた。

 

「これは、憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮──」

 

 隙を狙っていたのはどちらも同じ。体勢だなんて話ではなく、隙を作ったと思わせての油断。まんまと罠にかかったのを見たからこそ、魔女は口角を上げたのだ。

 

「──吼え立てよ、我が憤怒!」

 

 切りかかろうとするフジマルの周囲を囲むように、黒い剣が出現する。

 魔女たる由縁、呪いの旗の力であり、受け止めた攻撃を膨張させ反射する宝具。

 二人の距離があと二、三歩程度の距離だったとしても、次の瞬間には串刺しにされた人間の肉体がその活動を停止すると誰もが思った。フジマルが剣を持つ右手に対して、もう一枚のカードを持つ左手が見えていなければ、私もそう思っただろう。

 しかし、これこそが切り札。

 カルデアがたった一人のマスターを送り出すに叶った唯一の勝算なのだから。

 

追加召喚(チェイン)!」

 

「馬鹿、な!」

 

 無防備なはずの腹を狙う黒剣を、フジマルはギリギリのところで身をひねって回避した。

 もちろん彼が本来持ちうる力ではなく、たった今追加召喚した二枚目のカードの保有スキルによるものだ。それでも完全な回避は出来ずに擦れてしまっているが、問題は最早そこではない。

 魔女が必殺の宝具を使い勝利を確信した刹那。フジマルが望んだ隙は確かにこの瞬間、この場に出現したのだ。

 

「確かに俺には、何の力もないかもしれない」

 

 左手も剣に添えて、両手で構える。身体に対して垂直に、横薙ぎにするように刃を走らせる。

 繰り出す技は必中。相手の回避も防御も凌駕する魔剣である。

 

「でも、皆が戦ってる。それぞれの戦いがある。だから俺も、自分の戦いをするんだ──!」

 

「っ──!」

 

 疑似宝具 燕返し。

 

 使い手が未熟な為に不完全な魔剣だが、魔女への手向けには十分だった。

 倒れこむ魔女と、膝をつくマスター。

 辛勝ではあるが、この特異点をずっと一人で戦ってきたのだ。それまでの疲労を踏まえての最後の戦闘と考えれば、この結果はむしろ手放しで称賛されるべきだろう。

 

「あぁ、負けたのね、私。あまつさえ英霊の力を我が物とするに飽き足らず、いいとこどりまでするなんて。どこまでも傲慢なマスターね」

 

「……違う、色んな人に助けてもらってるんだ」

 

「はっ、ホントかしらね? 精々抗って、その先で絶望しなさい。たった一人のマスターが出来ることなんて、たかが知れてるんだから──」

 

 そう言葉を残して、魔女は消滅した。後に残ったのは特異点の核である聖杯、一枚のクラスカード。そのすぐ傍に横たわるのは──

 

『所長、この反応はやはり……』

 

『……最悪ね』

 

 ──カードを繋ぎとめる楔として利用された、カルデア戦闘服を纏ったマスターの一人だった。

 

「大丈夫です、息はあります」

 

『よくやったわ、フジマル。これで特異点は自動的に修復される。その前に聖杯とカードの回収とマスターの保護をしてちょうだい。いいわね?』

 

「了解です。……痛っ」

 

『……流石に負傷が酷いわね。回復礼装はまだ残っていたはずよ?』

 

「いえ、先に回収しちゃいます。何かの拍子に奪われてしまっても怖いですし」

 

『そう、ならいいわ』

 

 そういってフジマルは作業を始めた。専用の礼装に格納したり、或いは取り付けたりとそれ自体はさして苦ではないだろうが、けれど私には違和感があった。身分や生きてきた世界だけじゃない、もっと別の違いがそこにはあるような気がして。

 

 

 ☆

 

 

 その後ちょっとしたごたごたもあったけれど第一特異点は無事修復され、フジマルはカルデアに帰還した。あの爆発からカルデアは復旧を果たし、ついには人理修復の第一歩を踏み出したのだ。

 それでも、まだまだ私の気は晴れないままだった。当たり前だ、特異点はまだ6つも残っており、カルデア内の問題も依然として山積みでとても気の休まる暇はない。だから、どうしても彼のことを思い浮かべずにはいられない。

 

「レフ……、なんで……」

 

 レフ・ライノール。例の爆発事件を起こし、人理焼却を行った張本人。けれど、私の心の支えでもあった存在だ。既に道が分かたれた事はもう何度も突き付けられ、打ちのめされてきた。もう敵であることは認識している。それでも、共にあった時間は今も私の内に焼き付いている。

 

「私はちゃんとやれてる。第一特異点も修復できた、私は間違ってない。大丈夫よ、大丈夫……」

 

 空っぽな励ましの言葉を何度も呟く。もう誰も私にかけてくれない言葉だから。

 元々私の指揮能力なんてたかが知れている。それは人理焼却前後で変わりがなく、ただ事態が切羽詰まっていることを理由に思いつくだけの仕事を降り割っているのが現状だ。レイシフトによる物資調達が安定すれば次第に、少なからず不満が出てくるだろう。うまくやれる自信なんてない。頼れる誰かなんて、もうどこにもいないのに。

 

「…………なのに、あいつは」

 

 最近カルデアにやってきた、新参者である彼を思い出す。

 自分のように無力だと思っていた素人のマスター。印象も最悪、とっとと排除してしまおうとも考えたあの一般人は、けれど確かにその価値を証明した。

 高いレイシフト適正と破格のマスター適正。ボロボロになりながらも現地民を助けつつ特異点を修復したこと、更に持ち前の人の良さも相まってカルデアでの振舞いも盤石になりつつある。私とは大違いだ。

 

「私だって戦ってる、ええそうよ。出来ることはやってる。カルデアを守り、人理を修復するのが私たちの、いや私の戦いなんだから……」

 

 そんなフジマルは自分の戦いをしていると言った。皆戦っていると、自分にはそう見えていると。なら、私の戦いとは一体なんなのだろう。彼にはどう見えているのだろう。

 

「誰か、教えてよ……」

 

 その声は誰かに届くこともなく、部屋の暗闇に消えていった。

 




夢幻召喚(インストール)で戦うカルデアの話。
基本的に主人公はこの二人になります。

この度こちらでも投稿してみることに致しました。なので反応いただけるとモチベ的な意味で嬉しいです。
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