夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。

・本編「夢幻召喚で戦うカルデアの話」をお読みいただくと入りやすいかと思われます。
・今作は過去、二月十四日に投稿したものです。その為意識だけ二月十四日にレイシフトしていただくとお楽しみやすいかと思われます。


第三特異点 オケアノス
EX-1 所長とバレンタイン


 

【side:オルガマリー】

 

「あ、お疲れ様です所長!」

 

「あら、お疲れ様。って何よそれ、どうしたの?」

 

 ある日のカルデアの廊下にて私、オルガマリー・アニムスフィアに陽気な声をかけてきたのはオレンジの髪をサイドで結んだ一人の少女。持ち前の明るさは相変わらずで、鬱陶しさすら感じていたのも昔のことだ。しかし今はそれよりも、彼女が手にしている小包の方に意識がいった。

 

「あれ? 所長、今日は何の日か知ってますか?」

 

「え? えっと、なんだったかしら」

 

 慌てて頭の中でスケジュールを確認するが、特に思い当たる予定はない。けどカルデアを纏めるこの私が何の日か分からないのは何だか癪に障る。

 

「あぁ、ムニエルの誕生日だったかしら?」

 

「違いますよー、バレンタインデーですよ」

 

「……確認しただけよ。そうね、今日はバレンタインデーだったわね」

 

 持っているのはプレゼントだと見当をつけるまでは合っていたのに。2月14日がバレンタインデーであることは時計塔時代に知ったはずなのだけど、そもそも今日が何日なのかすらも人理焼却後は関係ない事象だと思って把握していなかった。

 

「確かあなたの故郷では特別な異性に渡す、とかそんな文化じゃなかった?」

 

「まぁそうですね。でも最近は友チョコとか義理チョコとか、とにかくお菓子を作ってシェアする日、みたいな感じなんですよ」

 

「ふーん、そうなのね」

 

「なので、はいどうぞ!」

 

「へっ?」

 

 持っていた手包みを差し出され、変な声が出つつも受け取る。手元でよく見るとそれは、可愛らしくラッピングが施されたモノだった。

 

「日頃からお世話になってるし、所長の分です――って何してるんですか!?」

 

「え? 危険物かどうか見てるんじゃない」

 

 慣れた動作で鑑定魔術を発動させ、爆発物かどうかや妙な魔術が仕込まれていないかをチェックする。以前は従者にやらせていたが、いつしか自分の手でも行うようになっていた。結果は白。ただの洋菓子で間違いない。

 

「リアクションよりも前に荷物検査されるとは思わなかったですよ……」

 

「わ、悪かったわね。贈呈品にはいい思い出がないの。ただでさえ気にする立場なんだから仕方ないでしょう!?」

 

 天体科のロードの娘として、毒殺謀殺といった脅威は日常茶飯事だった。以前会った次期ロードの少女とも互いの苦労を語り合ったこともあるくらいだ。魔術師としてこの疑心暗鬼は誰もが通る道だと少なくとも私はそう思う。

 

「このチョコの安全は私が保障します! ちゃんと頑張って手作りしたチョコですから」

 

「手作りですって? 本当に大丈夫なのこれ?」

 

「失礼な! 私が何をするっていうんですか!」

 

「この前のワイバーン定食を忘れたとは言わせないわよ! あれやっぱりあなたの提案だって証拠が上がってきたんだから!」

 

 いつの間にかカルデアの食糧事情が大きく変わっていることに気づいた時は愕然としたものだ。確かに安定した供給が望める個体なのは認めるけど、いきなり食堂のレギュラーにまで登り詰めなくてもいいじゃない。

 

「むしろ所長以外の皆は歓迎してくれましたもん! マシュだって美味しいって言ってワイバーンハント手伝ってくれましたから!」

 

「やっぱりあの子もあなたから変な影響を受けてない? というか強制させてないでしょうね……?」

 

 人形の様に温かみが薄かった彼女も昔の話だ。コイツとの人理修復が始まってからは年相応の人間味を見せているそうだ。あまり私から接触することはないが、それでもそんなマシュを見かけることは少なくない。

 

「このチョコもマシュが作ったって言われた方がまだ信用出来るわよ」

 

「私の信用そんなに低いんですか……。ショックです」

 

「いやその、信じてないわけじゃないけど、日頃の行いっていうのがあるでしょう?」

 

 ちょっと萎れた顔になるが、ここで騙されてはいけない。数多の特異点を超え、その途中で無人島生活やらクリスマス大作戦やらまでも乗り越えてきたマスターだ。言い過ぎとはまだなるまい。

 

「私のチョコ、嬉しくないですか?」

 

「……そうは言ってないでしょ。いいわ、ちゃんといただくから。その代わり仕事はちゃんとしなさいよ?」

 

「もっちろんです! では所長、お疲れ様です!」

 

 受け取ってもらえると分かるや否や、パッと笑顔になってそのまま去っていった。人付き合いが達者な彼女のことだ、他にもこうやって渡す職員がいるのだろう。それでいてマスターとしてやるべき業務もなんだかんだでこなしているのだから器用なものだと思う。

 

「バレンタイン。誰かにチョコを渡す、ね」

 

 こうして手元にモノがあるのに、何だかふわふわしている。純粋な好意から何かを受け取ることなんて久しくなかったから、嬉しいよりも驚きの方が勝っているのだ。しかしいつまでも廊下に立っているのも疲れるので、これに合う紅茶でも貰おうかと思い食堂へ向かうことにした。

 

 

 

 

「あら、あなたがここにいるなんて珍しいわね」

 

「お疲れ様です所長。確かにそうですね」

 

 食堂に入った所から甘い香りが鼻孔をくすぐり、何事かと厨房を覗くとエプロン姿のアンジェリカが立っていた。調理の為に長い髪を後ろで纏めているのも、そもそも厨房はおろか食堂にすら顔を出さない彼女が厨房にいるというのも新鮮だった。

 

「驚いたわ、あなたもバレンタインに参加するのね」

 

「はい、チョコを貰ったのなら返礼品を贈呈するのが習わしであると聞いたので」

 

 アンジェリカも早朝にチョコを貰い、折角だからと工房から出てきたそうだ。何でも卒なくこなす彼女のことだ、何を作ってもまず失敗はしないだろうと思いつつも目を向ける。

 

「それはクッキーかしら? よくできてるじゃない」

 

「ありがとうございます。初めての製作ですがレシピ通りにできていると思います」

 

 甘い香りの元は皿の上に積まれているチョコクッキーだったようだ。今もオーブンで焼き上げているようで、その間の空き時間を利用して片づけを始めようとしている所に私が来たらしい。

 

「そうね、ならきっと味についても心配ないわよ。アイツもきっと喜ぶはずよ」

 

「そうでしょうか。その辺りがやや心配なのですが」

 

 アンジェリカの目尻が僅かに下がる。今日は珍しいモノをよく見る日だと思いつつも、その理由が気になるので相槌を打つ。

 

「人の良いアイツが何か貰えて喜ばないはずないと思うけど。そうじゃないってこと?」

 

「はい。そこは高確率で大丈夫だと思うのですが、レシピ通りのものを貰ってそれ以上の満足感を感じていただけるのかと」

 

「それこそ問題ないわね。自分のことを想った行為をまっとうに嬉しく感じることが出来る、アイツはそういった人間だから」

 

 そもそもよっぽどのモノを貰わなければ微妙な顔すらすることはないだろう。アンジェリカの不安は全くの杞憂と言える。貰ってすぐに何かを返礼しようとした時点で彼女は私とは違うのだ。

 

「……そうね、ちょうどいいかもしれないわね」

 

 ふと、どうしようかと思っていたことを思い出す。少しだけ安心したような気がする様子のアンジェリカに、私は一つ頼み事をすることにした。

 

「ちょっとそのスペース使わせてもらっていいかしら?」

 

 

 

 

「わぁ、ありがとうございますアンジェリカさん!」

 

 その日の夜。そこにはカルデアのマスターにクッキーを渡すアンジェリカの姿があった。

 

「感謝するのは私の方です。あのチョコも大変美味でしたので、せめてもの返礼にと」

 

「いやーどうもどうもー! あれ、もしかしてこれって手作りですか?」

 

「はい。今日作ったものなので消費期限は大丈夫かと」

 

「アンジェリカの手作りなんて私のよりよっぽど貴重なんじゃないですか?! 美味しくいただきます!」

 

 包装を開けて幸せそうに頬張る彼女へと、アンジェリカがもう一つのプレゼントを取り出した。

 

「あれ? もう一つあるんですか?」

 

「はい。私の返礼品ではありませんが、これを渡してくれと頼まれましたので」

 

 不思議そうな顔のまま受け取ったマスターが、その中身を取り出す。

 

「これもクッキーですね。バタークッキー?」

 

 アンジェリカの作ったチョコクッキーとは対照的な、満月のように綺麗な黄金色のクッキーが数枚収められていた。

 

「あれ、なんかクッキーと一緒にカード入ってる。なになに? 『マスターとしてこれからも励みなさい。チョコ美味しかったわ』って、これ……」

 

 名刺ほどの大きさのカードを裏返してもそこに差出人の名前は見当たらない。けれどピンと来た顔で、カルデアのマスターはアンジェリカにこう尋ねた。

 

「喜んでました?」

 

「恐らくですが。食堂でティータイムを満喫しているように見えました」

 

「そっか、そりゃよかった」

 

 

 

 

 その日の食堂では、お茶請けとしてチョコと少し焦げた黄金色のクッキーを口に運ぶオルガマリー・アニムスフィアの姿が見られたそうな。

 

「――甘いわね、全く」

 




季節ネタシリーズその1。
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