夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#7 オケアノス突入前ブリーフィング

 

【side:オルガマリー】

 

「揃ったわね。それじゃあブリーフィングを始めるわよ」

 

 私、オルガマリーの宣言が管制室に響く。招集に応じたのはマスターであるフジマルと、クラスカードの専門家であるアンジェリカだ。彼女の方は相変わらず仏頂面を貫いているが、フジマルの表情も若干険しい気がする。

 その原因を作った私としても少し居心地が悪いが、甘んじて受け入れるしかない。カルデアの敵に回ったとされるマシュ・キリエライトの対応に対して、フジマルの甘えは致命的な隙を与えかねない。この先も一人で戦うのであればいつかは言いつけなければならないことだ。

 

「フジマル、調子はどうかしら。それとあの件、ちゃんと分かってるわよね?」

 

「……調子は大丈夫です。トレーニングも続けてるし、いつでも行けます。けど、俺はやっぱり嫌です。マシュの命までは奪えないし、奪いたくない」

 

「そう、まぁいいわ。私としてはあの盾さえ手に入ればいいんだから。その状況にならないことを祈りなさい」

 

 セプテム帰還直後と変わらず、私の言葉に首を縦に降ろうとはしなかった。けど、戦いたくないとは言わなかったのでそれ以上は踏み込まないことにする。時間が経つにつれ、どうするにしても衝突は避けられないことを認識したのだろう。なら今はきっとそれでいい。

 

「話を戻しましょう。私たちはこれまでにオルレアン、セプテムと二つの特異点を修正してきたわ。もうじき第三特異点、オケアノスにレイシフトする準備が整います」

 

「セプテムの時よりちょっと時間かかってますね。やっぱりそれだけ難しいんですか?」

 

「まぁそれもあるけど、その辺りの事情は後で話すわ。まずは先に私たちが現在行っているグランドオーダー、その現状についておさらいしましょう」

 

 私の進行に違和感を感じたのか、フジマルが不思議そうな顔をする。私も今更と思わないわけでもないが、今回はこの場にいる者での確認の意も含まれている。都合がいいので彼にも参加してもらおう。このまま立ちっぱなしで聞かせ続けるのも退屈だろうし。

 

「確認だけど、私たちが特異点で行う作戦目標は三つあるわ。フジマル、答えなさい」

 

「え、えーっと、聖杯の回収、マスターの保護、カードの回収、です」

 

「よろしい。聖杯を回収するのはそれが特異点の基点となっている為。そして爆発事故と同時に各地に流出してしまったマスター及びカードの保護・回収ね。それぞれ聖杯や地脈の影響を受けてしまっているケースも複数確認されている、と」

 

 それだけは幸い中の不幸とでもいうべきか。冬木へのレイシフト実行中に起こった爆発は当時コフィンに入っていたマスター達全員に猛威を振るい、その全てをどこかへと飛ばしてしまったのだ。それが分かった当時は本当に生きた心地がしなかった。今はしているかと問われると答えづらいが。

 

「でも、なんで特異点でマスターが黒化英霊になってるんですか? やっぱりカードをもってるから?」

 

「はい、フジマルの言う通りです。特異点に持ち込まれた聖杯は願望器である前に高濃度の魔力塊。それだけで特異点内の魔力濃度は上がります。加えてそこが破滅の危機に瀕することで地脈も活性化し、溢れた魔力がマスターの持つカードを暴走させてしまう。私が調査した範囲での推察はこんな所です」

 

「じゃあアレって特異点の影響じゃなくてカードの暴走だったんですか?」

 

「正確には両方です。カード自体にそういった安全装置が組み込んであるのは事実ですが、マスターすら核にしてしまうのは想定外です。マスターを取り込んでいることで顕現時のランクや英霊自身の自我すらも引き出してしまっていた。あれでは所長の目指す境界記録帯と言った方が近い」

 

 カードが中身を、魔術回路を持ったマスターの身体が器を提供した結果の召喚。しかしマスターという楔のない状態であるための暴走。それが特異点で遭遇した黒化英霊の正体だと私たちは見ている。アンジェリカの出した推察だが私からみても間違いないと思う。

 

「じゃあなんで彼らは特異点を崩壊させようとしたんですか? オルレアンの魔女とか、セプテムのロムルスとか」

 

「恐らくレフ・ライノールの仕業でしょう。特異点を崩壊させるべく、より力を持った存在に聖杯を渡すことで異変を起こそうとした。その時既に出現していた黒化英霊を利用したのでしょう」

 

「オルレアンではうまくいったみたいだけど、フジマル一人で何とか出来る程度の……失礼、事態があれ以上悪化する前に間に合う程度で収まったんだもの、あまり賢いとは言えないけどね」

 

 逆にセプテムでは、ロムルスがその立場にいながら聖杯を受け取らなかったのだろう。だからこそレフ自身が最後の一押しをしなければならなかったのだ。それがまさか英霊召喚だとは思わなかったが。

 

「ただ、レフは英霊召喚を行えることを私たちに示した。これからは利用されている黒化英霊だけじゃなく、本物のサーヴァントすら障害となってくるでしょうね」

 

「もしかして所長、セプテム以来トレーニングが更にきつくなったのはそういうことですか?」

 

「当たり前じゃない。こんな事になっていなかったとしても負荷を増やしていくのは規定路線よ。精々励みなさい」

 

 私の言葉に冷や汗を流すフジマル。私たちにフジマルを遊ばせておく暇はなく、次の特異点に向けてあれこれを訓練をさせている。その最中にちょっとしたイベントもあったのだが今は割愛しておく。

 

「障害という意味ではマシュ・キリエライトも今後遭遇することがあるでしょう。備えておくに越したことはない」

 

「そうね。オルレアンでは隠密行動を主としてもらったけど、正面からの戦闘も増えていくのは間違いないわ。クラスカードの扱いもより熟練してもらう必要がある」

 

 フジマルの特性は状況打開の切り札ではあるが、それは文字通り使える手札が多い程有利になる。その為には特異点で回収したカードをある程度使いこなしてもらわなければならない。

 

「それでフジマル、早速トレーニングの種目を追加するわ。今日もこのブリーフィングが終わり次第行うからそのつもりで」

 

「更にきつくなるのか……。それで具体的には何を?」

 

「これから増えるのは英霊との戦い。カードがあろうとなかろうとそこは変わらない。ならその経験を積んでもらうわ。――アンジェリカ」

 

 無言で頷いたアンジェリカが前に出る。そのまま振り返って横にいるフジマルの方を向いた。状況が飲み込めないフジマルはキョトンとしていたが。

 

「行うのはアンジェリカとの模擬戦よ。カード、場所、時間、あらゆる状況で対応できるようになってもらう。覚悟しなさい?」

 

「え。ちょっと待ってください! アンジェリカさん戦えるんですか!?」

 

「当たり前じゃない。なんならカルデアの筆頭戦力と言えるかもしれないわね」

 

「これでもクラスカードを司るエインズワース家の一人ですので、醜態をさらすことはないかと」

 

「うん確かに凄く強そう迫力ありそう! じゃなくて!」

 

 一回り迫力の増したアンジェリカに少し圧倒されているフジマルが首を振る。

 

「だったら今までのレイシフトについてきてきてくれても」

 

「それが無理だったのよ。理由はいろいろあるけど、アンジェリカがカルデアから離れるわけにはいかなかった。だからあなた一人を送り出すしかなかったの」

 

「そんな……」

 

 これはまぁ、本当のことだ。本人に伝える必要がないため詳細は言ってないが、彼女にレイシフトしてもらうことは出来なかった。しかしこれは今までの話。状況が大きく変わったのなら、私たちの体制も変える必要がある。

 

「安心しなさい、それはセプテムまでの話だから。次の特異点であるオケアノスからは同行してもらうわ。フジマルとアンジェリカの二人チームでの作戦、分かったわね?」

 

「え。……あ、はい!」

 

 少し経って頭の理解が追いついたフジマルの返事に活気が戻る。その後ブリーフィングの終了を告げ、二人してシミュレーションルームに向かっていく。暫くしてからその後を追った。

 目的は2つだ。1つは現在のフジマルのトレーニング成果を確認するため、2つ目は――

 

「はぁあああっ!」

 

「うぉおわああああああああああああ!?」

 

 ――アンジェリカに出した、地獄を見せろというオーダーをちゃんと遂行しているかを見るためである。

 

 

 

 

 蹂躙されるフジマルを見てストレス解消をした後、執務室に戻ろうと廊下を進んでいた時のことだった。前から職員が歩いてくるのが見えたので、なんでもない風を装ってすれ違う。

 

「お疲れ様です、所長」

 

「えぇ」

 

 適当な返事を返して先を急ぐ。別に足を早く前に出す理由はないはずなのに。だってそうでもしないと、また声が聞こえて――

 

『やっぱり、あの所長は駄目だよ』

 

「!」

 

 確かに聞こえた幻聴に、とっさに振り返る。視線の先には遠ざかっていく職員の背中があるだけで、私に向けられた言葉はそこにはない。けれど、また背筋が寒くなる。いつまで経っても消えない不安の波がまた大きくなる。

 

「所長、どうかなされましたか?」

 

「へ? いえ、何でもないわ」

 

 いつの間にか現れていたアンジェリカが尋ねてくる。表情は動かずも怪訝そうな声だったけど、私がそう言うとそれ以上の追及はなかった。

 

「それで、どうしたの? 何か報告でもあるのかしら」

 

「はい。トレーニングが終わったので今後の作戦活動の方針について、もう少し詰めておこうかと」

 

「分かったわ。執務室に来なさい」

 

 そう促すと、アンジェリカは何の感情も見せることなく従う。未だに他の職員に対して対応を図りかねている私にとって、ただずっと平行線でいてくれるアンジェリカは密かにありがたい存在になっていた。さっき感じたような不安が杞憂で終わるからだ。

 

「――特異点で使用するクラスカードは以上です。私としてはこれでも少ないと思うのですが」

 

「諦めなさい。いくらカードの扱いに関して非の打ちどころがないとしても、選択肢が多くて得をするのはフジマルの方よ。それとも複数のカードが使えなければ勝てない、なんてことはないわよね?」

 

 そんなことはないと、アンジェリカは静かに首を振った。そこに苛立ちや諦めの色も全くなく、私がそう言ったからそうなのだと定義し直したように。

 

「基本あなたはサポートになるわ。前線に出るなと言うつもりはさらさらないけど、一歩引いて戦うことを忘れないでちょうだい」

 

「了承しました。フジマルが前衛、私が後衛ですね。今後の戦闘訓練もその様に行いますか?」

 

「そうね。でもすぐに完璧な連携が完成するわけはないし、暫くは頼むわよ」

 

 セプテムとの戦闘で、異境のマスターとの共闘が脳裏に浮かぶ。元々視野が広いのか、フジマルの戦術眼に関しては問題ないと評価している。アンジェリカとの連携が上手くいけば、より安定した盤面となるだろう。

 

「ところで所長、1つよろしいでしょうか」

 

「何? あなたの質問になら時間を割いてあげるわ」

 

 ありがとうございますと小さく頭を下げるアンジェリカ。

 グランドオーダーが始まってから、こうやって話す機会が増えた様に感じる。ハッキリ言って当初は不気味でデカくて圧倒されていた節もあったが、案外私の望む距離感に落ち着きつつあった。そう思って、質問を許してしまった。

 

「何故このタイミングで私の出撃を提案したのかが、どうしても分かりませんでした。オルレアンから私もレイシフトしていればその分成功率も高まったのでは、と。何か理由でもあったのですか?」

 

 一瞬、思考が止まる。そしてすぐになるほど合理的だと内心苦笑した。私情を一切挟まずストイックな彼女のことだ、そのことに関して疑問に思うのは当然だ。

 

「あぁ、そのことね。別に大したことじゃ、いえそれなりの理由があるのよ」

 

 これまで散々想定外のことに悩まされてきたことの弊害なのか、勝手に口が回りだす。そんな理由なんてないのに。

 

「いくらあなたも戦えるとはいえ、本業はカードの調整よ。扱いとしては非戦闘員になっている」

 

「そうですね」

 

「それにいきなりカードの扱いに長けたあなたがいると、フジマルの成長が疎かになるでしょう? 調査の段階でフジマル一人でも可能であると判断して、それでオルレアンには一人で行ってもらったの」

 

「ふむ、なるほど」

 

 なんだかアンジェリカの眼が微妙に細くなっている気がする。なんか返事も彼女にしては適当じゃないだろうか。

 

「セプテムでハクノという存在と出会ったことでフジマルの技量は更に増した。けれどまだちょっと不安だし、この先敵も増えるし、これ以上は戦力の増強を優先するべきだと思ったのよ」

 

「つまり、心配になったということですね」

 

「……もうそれでいいわ」

 

 なんだかアンジェリカが納得顔になっていたが、これ以上は無理だと頭を抑えて俯く。

 そうだ、結局は思い付きだ。後半は本音が零れていたような気がするが、当初はそんなこと考えもしなかった。グランドオーダー前は殆ど工房から出てこず、連絡も文面のみでほとんど接点がなかった相手。戦えることすらさり気なく聞いて知ったくらいだ。そんな相手にどうして戦ってこいと言えただろうか。

 このカルデアにおいて、戦闘員とはマスターのことを指す。前線で戦うのは彼の役目だと信じていた。セプテムで最後にフジマルが浮かべた、あの顔を見るまでは。

 

「悪いけどアンジェリカ、そろそろ貯まってる仕事を片づけたいの。もういいかしら?」

 

「ありがとうございました、所長。失礼します」

 

 そういって彼女が立ち去った後、改めて大きくため息をついた。先ほどの質問が彼女なりの非難に思えてきたからだ。アンジェリカを出撃させなかったことは、私の判断ミスではないのかと。

 

「……うるさい。仕方ないじゃない、そんなこと思いもしなかったんだから」

 

 私だってフジマル一人に戦わせることが最善だとは思っていなかった。けれど、彼はたった一人でオルレアンを攻略してみせた。だから間違ってなかったのだと、そう思い込んでいた。

 セプテムで彼女らと別れる時の彼の顔を覚えている。その顔には見覚えがあったからだ。今も電源のついていない液晶に、鬱屈とした私の表情が写っている。

 

「次の特異点、負けたらただじゃおかないわよ……!」

 

 それは僻みと言っていい感情だった。だってこれで、あなたは一人じゃなくなった。仮にアンジェリカがいなかったとしても、ハクノのような現地協力者と出会えるかもしれない。その時点で、私とは違うのだから。

 

「はぁ……。駄目、今日はもう止めましょう」

 

 落ち着かないままの仕事はなかなか進まない。それなりに疲労感も溜まってきたので、上がってきた報告に通す目を休ませようと寝室のベッドに向かう。不安や弱音は今も留まることを知らないけれど、今は無視する様に睡魔に身を任せる。

 

「あいつは、こんなこと思いもしないんでしょう、ね……」

 

 最前列で居眠りをするような図太い精神の持ち主だ。こんな悩みとは無縁なのだろうと、思考力の落ちた頭でついそんな馬鹿なことが頭を過ぎった。

 全く馬鹿げている。つい先ほど彼の弱さを見つけたばかりなのに。同じ人間であってほしいのか、そうじゃないのか。同族、強者、弱者、そのどれに彼を当てはめたいのか。ぐちゃぐちゃの頭でそれ以上に思考が及ぶ前に、今度こそ私は意識を手放した。




シリアスとコメディのバランスが難しい……。
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