・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
セプテムから数日が経過した。
私、アンジェリカの担当しているカード分析が完了し、数分の休息をとっていた。精神的疲労はないが、指先に僅かな違和感を感じた為である。
特異点に流出し回収したカードを分析し、座との繋がりに不備はないか、使用時のバグはないか等の確認をすることが主な仕事内容となる。エインズワースの領域である為他の者は関与出来ない。それは私がここにいることを許している唯一の楔だった。英霊召還が現実のものとなった時、私は用済みとなるのだろう。少なくともそれまでは、身体の不調を理由にペースを落とすことは出来なかった。
「…………」
端末の着信音が鳴り、先ほど送信した報告メールの返信が来たことを悟る。いつも通り問題はないと言い合う形式だけのものと思っていたが、今回は異なっていた。
『相談したいことがあるので、クラスカードを持って執務室に来ること』
命令の意図が読めず困惑する。今までは報告に漏れがあったとしてもメールの一文で済まされていた。対面を望むと言うことは面と向かって言わなければならないことになるのだが、どんな内容ならそうなるのか全く分からない。しかし、仮に説教だとしてもこれ以上の思考は不要と判断し、席を立った。
☆
カルデアの廊下を進む。何度か職員とすれ違うが、軽い挨拶を済ませる程度のものだ。以前は奇異の視線ばかりだったので、ある程度の馴染みは得られたと言うことだろう。
「出歩いてるとは珍しい。ご苦労様」
「ご苦労様です、ムニエル」
彼らが私のことをどう思うかについての興味はないが、嫌悪されているということはないだろう。一部女性職員からよく分からないことを言われたような気もするが、それも過去の話だ。
「あ、アンジェリカさんこんにちは」
「こんにちはフジマル。ご苦労様です」
「へ、いやご苦労様、なのかな?」
「違うのですか? この時間はトレーニングに勤しんでいると聞いたのですが」
フジマルは今やカルデア唯一のマスターであり戦闘要員だ。珠に発生する微少特異点への派遣以外の日々はトレーニングに費やされている。今日もそうなのだろうと思っていたが違うのだろうか。
「今日はこれからなんですけど、戦闘訓練なのでちょっと気が楽なんです。魔術の鍛練は全然なので……」
あははと笑うフジマルの目は途方にくれている。
元より魔術師の私には分からない感覚だが、一般人だったフジマルには魔術回路を開くだけでも精一杯なのだそうだ。意図的にクラスカードを使えるようになるまで苦労の連続だったそうなので、その時の経験から苦手意識があるのだとか。
「アンジェリカさんもコツとか知りませんか? 参考になるかなと思って皆に聞いてるんだけど」
「そうですね、自分の手足を動かす感覚を表現したことはありませんが……。強いていうならブレーカーを上げるようなものでしょうか」
魔術回路はその持ち主が最初に開いた時のイメージに準ずるものらしいので、あまりこの行為に意味があるとは思わない。しかし少しでも手がかりが欲しいのだろうフジマルは、参考になったとばかりに目を輝かせる。
「ありがとうございます、明日はそれで何とかやってみます!」
「因みになのですが、フジマルが初めて回路を開いた時はどんなイメージがあったのですか?」
「うーん、よく覚えてない。体を通る何かが増えたというか、割り箸を割ったような感覚というか」
「割り箸?」
「そう、あのパッカーンというか、綺麗に割れて少し嬉しいあの感じ?」
「……イメージを変えた方がいいのではないでしょうか」
割り箸というもの自体は知っているが、魔術回路をそんなものに例える者はフジマルくらいだろう。所長が聞いたらどんな呆れ顔をするか。
「はい、所長にもそんな顔でそう言われました」
ある意味では杞憂だった。そしていつの間にか自分の表情にも出ていたようだ。それを見たフジマルがまた、小さく笑う。
「アンジェリカさんもそんな顔するんですね。ずっと無表情なのかと思ってた」
「特に意識してはいませんでしたが……」
フジマルにそう言われても実感がない。動かすつもりは元より、気にしたことすらなかった。よってさしたる感慨も湧かない。
「あ、邪魔しちゃってすみません。そろそろ俺も行きます」
「はい、ではまた」
フジマルがシミュレータールームに行く途中だったことを思い出したことで会話は終わった。走り去る彼の後ろ姿も程々に、私も歩行を再開した。
「表情、でしたか。意識した方がいいのでしょうか」
意味のない音が口から零れる。きっと、彼らとの会話で発生した小さな弊害だ。今は必要ないと判断し、それ以上は考えなかった。
☆
「失礼します、所長」
「いいわ、入りなさい」
ノックの後に扉をスライドさせる。最近見慣れ始めた所長の姿よりも、ここが初めて訪れる場所であることに注意が向いた。
別に特筆する箇所のある部屋ではない。大きな執務机にデジタル化されていない本の棚。持ち主の趣味を主張するカーペットや装飾がされているだけの部屋。カルデアのトップが居座る部屋なのだからこれくらいはあって然るべきだろう。
「クラスカードの分析報告、特に問題はなかったわ。次の特異点までにフジマルに使わせても大丈夫よね?」
「はい。相性はありますが、あれほどの適性を持つ彼ならほぼ失敗はないでしょう」
適性100%という破格の適性を誇るフジマルなら、差はあれど夢幻召喚出来ないカードはほぼないと判断している。実際セプテムでは現地で回収したセイバーのカードを使っていたので、この推論はより強固なものになった。
「まぁそうね。それがあいつの価値なのだからそこはいいわ。いえ、そこが重要なのよ」
「どういうことでしょう?」
「クラスカードは誰でも英霊になれることが特徴の魔術礼装。フジマルが使えても他の者が使えなくては特性として異常がないとは言えないはずよ?」
「……まぁ、確かに」
所長の意図が分からない。メールを受領した時よりも困惑が強くなってきた。その程度のことを確認していないと思われているのだろうか。その旨もメールに記載しなかった故の今この瞬間なのかと邪推してしまう。
しかし所長が得意気なのも不可解だ。まさか誘導尋問を受けているのか。その兆しも感じられないが、これはそれほどまでに高度なものなのか。
ふと先ほどのフジマルの言葉を思い出し、顔に力を入れる。万が一表情から思考が読み取られることを警戒してのことだ。よく分からない感覚だが、私は今初めて無表情を意識していた。
「そこでよ、アンジェリカ。一つここで夢幻召喚しなさい」
「…………」
「え、出来ないの?」
「いえ、そんなことはありませんが」
いけない、無表情を意識するあまり返事を忘れてしまった。やはり疲れが溜まっていたのかもしれない。ワンテンポを遅れつつも、持ってきていた一枚のカードを取り出す。
「
一言口にした瞬間、私の姿が変わる。他の職員も着用しているカルデア制服から半裸の兜姿に変わり、手にはごつい感触が伝わってくる。それは槍とは思えない木の塊であり、セプテムにおいて猛威を振るったランサー・ロムルスのカードだと分かる。
「うぇ?! ……驚いたわ、ここまで露出度が上がるなんて」
「そうでしょうか? ハクノやネロも似た露出になっていたと思いますが」
「た、確かに。アルテラもそうだったし、実は英霊って皆薄着なのかしら?」
「それは分かりませんが、服なぞ最低限の防寒を果たしていれば十分ですし、彼らもきっとそういう地域の者だったのでしょう」
「やっぱりあなたの性格に合わせてるんじゃないかしら」
確かに防御値は下がっているかもしれないが、そもそもが夢幻召喚だ。肉体の耐久度も高まっているし、それ以前に当たらなければいいだけの話だ。個人的にはカルデア制服よりやや窮屈に感じなくなったくらいのものなので、どちらでもいいのだが。
「…………」
何故か所長の顔が険しくなったが、原因が分からない。
「まぁいいわ。それで宝具も起動する? スキルに不備は?」
「全て問題ありません。ロムルスの力を振るうに態勢は万全と言えます」
「よしよし、じゃあ戦闘も可能なのね。因みになんだけど、あなたは戦えるの? アンジェリカ」
「可能です。出来ればアーチャーのカードがいいのですが」
「ふんふん。そういえばアンジェリカ、あなたレイシフト適性もあったわよね?」
「所長、それはもしや」
矢継ぎ早に繰り出される質問、そこに秘められた所長の狙いはもはや明確だった。私の反応に所長は小さく頷き、はっきりと口にした。
「えぇその通り。アンジェリカ、あなたも次のレイシフトに参加してもらいます。いいわね?」
元々拒否する権利もその気もないが、それ以上に驚きだった。レイシフトすること、ではない。そう言った所長の目がどこか思い詰めた末のものであったこと、そしてそのことを認識出来ている自分に対して、私は驚きを隠せなかった。
☆
所長室を出て、自分の工房に戻ってくる。所長からレイシフトを要請され、そのことをフジマルにも伝えた翌日。そしてあの時聞けなかった理由について、聞いた直後だった。
これ以上時間を無駄に使うことは出来ない。自分もグランドオーダーに参加する以上、戦闘訓練や自分のカードの調整などの仕事が押し寄せる結果となった。元々潰すだけの暇などないスケジュールだが、より多忙となったことは間違いない。
それでも、十数分前の所長との会話を回顧する。どんな意図があったのかと思えば、それはフジマルの身を案じてのものだった。それはとても合理的だ。フジマルが失われればこのグランドオーダーは頓挫する。その危険性や人員補充によるリスク軽減をセプテムで再認識したのだろう。そういう意味では岸波白野に感謝するべきかもしれない。
しかし、なぜこのタイミングなのかは結局曖昧なままだった。この程度のリスクについて当初から思い当たっていないとは考えづらい。その理由については所長が時期を見ていたと言っていた。納得は出来るのだが、それでも疑問は残ったままだった。
「いえ、これ以上は無駄でしょう」
言葉に出して音として耳にも届け、強引に思考を打ち切る。休眠に入る前の仕事に取り掛かるべく、端末前の椅子に腰を下ろす。
頭を切り替える為とは言え、独り言を言うくらいには彼らの影響を受けていることに私が気づくことはなかった。