・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
意識が明確になるのと同時に、大気の温度がカルデアの気温と比べて上昇した数値であることを認識する。
自分、アンジェリカ・エインズワースが無事にレイシフトしたことを確認し、警戒の為に周囲を見渡す。周りは薄暗い夜の森だが薄く潮の香りがするため、予定通りに小島のどこかに出現出来たということだろう。
「…………」
「無事ですね、フジマル」
「いや、無事なんだけど」
すぐそばにフジマルの姿を目視する。まだ特異点に到着したばかりで夢幻召喚もしておらず、カルデア制服のままだった。その機能の一つである温度調整が上手くいっていないのか、フジマルの顔に汗が浮かんでいるのが見えた。
「確かに海の上に出なくて良かったなとは思ったけども……!」
「今回の特異点はその多くに海が広がっています。数少ない島の上に出現できたことは僥倖でしょう」
「はい、そうなんだけども! こんな状況をラッキーとは言いたくないです!」
「何ぶつぶつ言ってんだぁ? 俺たちの縄張りに入ってくるとはいい度胸じゃねえか!」
悲壮の叫びを上げるフジマルに負けず劣らずの怒号が響く。
私達を取り囲んで、否、輪になっていたところに現れた私たちに敵意を向け、男たちが集まってきていた。その装束からこの時代の人間であり、こんな森の中で集まり、焚火の周りで空の酒瓶と食料を持って赤い顔をしていることから宴会の最中だったと予想する。しかし一人一人は大した脅威ではないため、フジマルの状況確認を優先していた。
『よかった、無事レイシフト出来たみたいね』
「多分無事ではないんですけど!」
『あら、ちょっと場所が悪かったみたいね。けど、現地民なんて大した事ないでしょう? アンジェリカを見習ったらどうかしら』
「……確かに。今回は一人じゃないんだった」
「おう、聞いてれば言ってくれるじゃねえか! たった二人で俺たちと相手出来ると思うなよ――!」
早い者勝ちとばかりに一人が突撃し、他の者たちもそれぞれの武器を片手に迫ってくる。
けれど走り方、構え方、どこをとっても脅威と見るには弱すぎる。精々数が多いだけで長くはもたないであろうと判断する。
「フジマル、左は私が受け持ちます。右の方をお任せ出来ますか?」
「了解です。それとアンジェリカさん、程々に」
「分かりました、ではそのように」
通信越しに溜息が聞こえたような気もするが、フジマルの方針に異論はなかった。
元々この程度の敵に全力を出す必要などない。それにそう判断したフジマルもいわば手加減が出来るだけの実力差があり、それを認識していることになる。2つの特異点を超えた経験値は確かに蓄積されているようで何よりだ。
「
一枚のカードを取り出して起動させる。黒い光がかろうじて刀のシルエットを維持している程度の、魔力の塊に過ぎない武装。おおよそ雑魚へ使うにしてもお釣りが来るであろうそれを、接近してきていた男たちに振るう。
「どぐう!?」 「はがはぁ!?」 「ぎゃああ!?」
もはや動く必要はなかった。適当なタイミングで刀を振るって吹き飛ばす。因みに手加減ということで直撃させずに衝撃波だけをぶつけており、どちらかというと鞭を振るうイメージに近くなっていた。いつぞやのフンヌの王もこんな気分だったのだろうかと、余分な思考すら浮かぶ。
「なんだよコイツら! 男の方も強えし、女に関しちゃ近づけやしねぇじゃねえか!」
フジマルの方も上手くあしらっているようで、いつもの剣一本で敵を翻弄していた。
蛇足だがここぞという時に複数のカードを使う戦法や本人の魔力量の問題により、基本は例の剣一本で戦うスタイルがフジマルに定着しつつあった。こういった点からもフジマルの成長が見て取れる。
(? フジマルの成長を何故確認しているのでしょう)
不意にそんな自分に対して疑問が湧く。彼の戦闘能力が向上することは確かにカルデアの得になる。けど何か、それ以外の何かを感じていたような、そんな感触がしたからだ。
「――近づけない? どいつもこいつも頭が回ってないのかい? その腰の重りが何かも分かんなくなっちまったってのか、お前ら?」
「フジマル!」
現れた気配を察知して警告を飛ばす。その直後に響いた銃声、放たれた弾丸を咄嗟の後転でフジマルが回避する。
「さて、どこの誰かは知らないが、アタシたちの縄張りになんか用かい? 宴の最中で機嫌がいいんだ、話くらいは聞いてやろうじゃないか」
「っ、俺たちはカルデアの者だ。あなた達と敵対するつもりはない!」
「はん、カルデア? 星見屋が何しに来たって? 星図を売りに来たにしては、随分と力が有り余ってるみたいだが」
鮮やかな赤紫の髪にえんじ色の外套。その顔には大きな傷を残し、そこらの男よりも男らしい女が奥からゆっくりとやってきた。言葉通りアルコールが回っているのか、頬を赤らめている。しかしいきなりの発砲とカルデアの由来に言及するだけの頭を残している辺り、一番の危険人物であることは間違いないだろう。
「この人たちは襲ってきたから撃退しただけだ。誰も殺してない」
「んーまぁそうみたいだねぇ。そこはこの馬鹿どもが先走っただけってことで水に流すとして、それで? アンタらは何しにこんな所まで来たと?」
「今、この世界はどこかがおかしくなってるはずです。どこにも大陸がなく、おかしな海と島だけが存在するこの世界を、修正する為に来ました」
「……へぇ。どうにも胡散臭いが、海について言われちゃあ反応せざるをえないね」
「やはり、あなた達は海賊ですか」
「こいつは驚いた、アタシの名前を知らずにここへ来たっていうのかい! これはどっちの意味でホンモノか、見分ける必要が出てきたかもねぇ」
どこか調子の乗らない様子だった彼女の顔が変わる。いつの間にか両手には拳銃が握られ、敵意はないが殺気だけが飛んできていた。一触即発の雰囲気が、早くも打ち破られようとしているようだ。
「生憎、世界だなんだと言われても知ったこっちゃないのさ。ここは力だけがモノを言う自由の海。面白おかしくやってるアタシたちにこれ以上聞きたいことでもあるんなら、このフランシス・ドレイクを倒してみな。それがここの流儀ってもんだ」
「フランシス・ドレイク!? あなたが!?」
フジマルが驚きに目を見開く。その名前は歴史上の偉人のものであり、かつ男性に付けられていたもののはずだ。しかし目の前でそう名乗る人物は間違いなく女性である。フジマルのリアクションも無理はない。
『いや、確かに驚きだけどセプテムでもそうだったでしょう!? そんなことより二人とも聞きなさい。そのフランシス・ドレイクから、聖杯の反応があるわ!』
「!」
驚きと納得で一瞬言葉が詰まった。銃を構える彼女もこの時代の人間、武装した私たちに匹敵する道理はないはずなのだが、先ほどの弾丸には確かに魔力が籠っていた。そして今、感じる魔力はまさしく英霊のそれに近かったのだ。そして聖杯を所持しているのなら、この場を無血で収めることは不可能になった。
「なんだい、まだ隠れてる奴がいるのかい? それに聖杯と言ったが、これがお目当てだったと?」
そういうとフランシス・ドレイクは胸元に手をかざし、そこから黄金の盃を取り出して、見せつけるように酒を注いだ。無論飲み干すまででワンセットだった。
「先日奪ったんだが、こいつはいい! 弾が尽きることもなく、威力もマシマシ。酒も料理も出し放題だ! そりゃ強盗の一人や二人、来るってもんさ」
「所長、この場合この人がラスボスになるんでしょうか」
『ラスボス? えぇとまぁ、そうね。聖杯を回収しちゃえばきっと、この特異点は解決する、かも』
所長の言葉と同時にカードを取り出す。随分と展開が急だが、確認しないわけにはいかない。ならば早急に仕留めてしまえばいいだけだ。先手必勝の通りに、一枚のカードを展開した。
「
「え、アンジェリカさん!?」
全身に漲る魔力と両手に現れた武装の感覚を確認して、一気に駆けだした。元々10メートルに満たない距離を一瞬で詰め、そのままフランシス・ドレイクの背後に回る。
「おっと、速いねぇ!」
振り返ることすらせず、銃だけを後ろに向けての発砲。魔力の籠った鉛玉を私が鎖で受け止めた一瞬の隙に、再度発砲しながらのステップで距離を取られる。反応速度が夢幻召喚した者に追いついている時点で、彼女の戦闘能力はとんでもなくブーストされているということだ。
「そちらこそ、ただの人間ではないようですね」
「はっ、アタシよりデカく素早い女がよく言うよ。いつの間にか姿も変わって、確かにこの世界はどうかしちまってるようだ! ま、関係ないけどねぇ!!」
彼女の持つ二丁拳銃から装填数以上の弾丸が飛来する。今回はその全てを避けることを選択しているため、確かに今の恰好は最適なものだった。重い鎧などの防具は一切なく、精々が黒い装束と片目を覆う眼帯くらいのものだ。このカードが誇る敏捷性を最大限活かせる姿と言えた。窮屈さもないし。
「援護します、アンジェリカさん!」
遅れてフジマルが参戦するが、私が使用したカードを察したのか後衛を選択したようだ。ライダー・ブーディカを夢幻召喚しての味方への防御力上昇効果付与と光弾での射撃により、僅かに銃弾の雨が和らぐ。
「二人して奇天烈な技を使うじゃないか! 面白くなってきたねぇ!」
地を、木を、海賊の男を、一瞬の足場を経由しての高速移動でフランシス・ドレイクの隙を伺う。接近すべきではあるが、まだ何か奥の手を隠している。仕掛けるのならその予兆を察知してからの方が望ましいと考えた。さて、どのタイミングで仕掛けるべきか。
「先に行きます!」
フランシス・ドレイクを中心にちょうど私の反対側、彼女の背後を取ったフジマルが一歩距離を詰めた。二対一の利点を活かし、同時に仕掛けるべく私も武器に力を込める。
「二方向は無理だとでも!? 舐めてくれるじゃないか!」
心底から愉快だと笑みを浮かべながら、彼女はフジマルに向けて何もない空間から大筒を出現させた。本来であれば船の窓からのぞかせる、人の半身ほどの直径を誇るそれを、ただ一人の人間に向けたのだ。
「行ってください!」
私が魔術を発動させようとした寸前に届いたフジマルの声。その一言で迷いを打ち消し、行動選択を完了させ、それをトリガーにする様にフランシス・ドレイクへの対処を開始した。
私の使用したカードはライダー『メドゥーサ』である。その詳細は省略するが、今回採用にかなった理由はその武装、鎖のついた二本の短剣にある。そのまま斬りつけるのも有効だが、鎖を使った更なる高速移動や鎖を活かした対象の拘束と応用が効きやすいからである。
「はぁっ!」
「甘いよ!」
投擲した瞬間に、私の目の前にもカルバリン報が出現した。短剣もろとも撃ち抜く算段だろうが、それこそ甘い。私の扱う手札はカードだけではないのだから。
「ふっ!」
エインズワースの真骨頂、
「ぐうっ! 何がどうなってんだい……? あり得ない方向から出てきたじゃないか」
「大したものではありません。我々は負けるわけにはいかない、それだけです」
「返事になってないよ全く! 相棒の方は気にもかけないってか?」
「その必要がないので。では」
鎖で拘束したフランシス・ドレイクの胸元に手を伸ばす。外部から強制的に取り出せるかは疑問だったが、軽く魔力を込めただけでその形が出現した。
「聖杯、回収完了です。――フジマルも、無事で何よりです」
「はい……。アンジェリカさん、流石でした」
気配に気づき振り向くと、少し疲れた様子のフジマルがそこに立っていた。目立った外傷はなく、彼が自身の術でもって身を守った証拠だった。
「私はやるべきことをやったまでです。それに咄嗟の決断をあなたに助けられた。誇るべきはあなたです、フジマル」
「そんなことは……いや、ありがとうございます。そうします」
一瞬考え直したフジマルが、小さく笑う。
あの時先に行くとは行ったが、例えフジマルが三手早く動いたとしても、夢幻召喚した私の方が速かったのだ。それなのに先に行くと口にする必要はどこにもない。つまりはブラフ、囮になることの宣言だったのだ。しかしフランシス・ドレイクの奥の手が想定以上であった為、彼の防御に手を回しかけた所をフジマルの言葉で軌道修正した、ということである。なので目的の為に真に動いた彼は賞賛に値すると判断したのだ。
『ふう、全く……。危ない橋を渡ったことは事実だけど、大したケガがなかったから不問とします。それにアンジェリカ、気づいているわよね?』
「えぇ。やはり特異点に変化はありません。この聖杯は特異点の楔ではないのでしょう」
「あー、やっぱりそうなんですか」
「おや、フジマルも気づいていましたか」
「いや、こんな早く解決したりはしないだろうなって」
「…………」
つい自分の目が細まったような気がした。レフ・ライノールが配置した聖杯はその時代を狂わせるポイント、或いは人物に渡されるものだ。こんなところで宴会を開いて酔いつぶれるような人物はそれに該当しないとふんでいたのだが、フジマルはもっと直感的なアタリをつけていたようだった。
「じゃあ、この聖杯はどうしますか?」
『そうね、回収しても精々がウチの魔力リソースになるくらいかしら』
「それなら、このままドレイクに返すのは駄目ですか?」
『…………まぁいいわ、好きにしなさい』
後で聞いた所、何故か出現していたポセイドンを沈めて奪ったものらしく、まさしく彼女が聖杯の正しい所有者だったことが判明する。それを聞く前に元の持ち主に返そうと提案したフジマルにそれはそれは所長が呆れた反応をするのだった。強引に奪われたと思ったら唐突に返されたフランシス・ドレイクも似たような表情をしていたが。
「こちとら海賊で、勝負に負けた身だ。結局聖杯も返ってきたが、どうもこのままだと座りが悪い。なんでアンタたちの話を聞くってことでいいかい?」
その後、きっかけは不明だが再度の宴会に発展し、経緯はともかくフランシス・ドレイクとの協力関係を築くことに成功するのだった。
今作のアンジェリカさんはプリヤ原作よりは力が制限されているはずなんだけど、置換魔術があまりにも便利。