・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
日光がジリジリと肌を焼く。日焼けだなんだをあまり気にすることはない私だが、後日運動性能に影響がある可能性を考慮するのなら、あまり率先して当たろうとは思えない。
それでもこうして私、アンジェリカ・エインズワースが太陽の真下に立っているのは、あまり日を遮るものがない船の甲板の上にいるからである。
「へぇーこれが船旅か! ちょっと日差しがキツいけど、思ったより楽しい!」
「そうかい? こちとらこの風景が日常なもんでね。素直な奴がいると、自然とこちらも気が上がってくるねぇ!」
フジマルの年相応なリアクションがお気に召したのか、快活に笑うドレイク。つい先日戦ったとは思えない程の関係が既に築かれているように見えた。
彼女に限った話ではないが、フジマルの人の良さは万人を惹き付ける。私には真似できない芸当なので、そういった意味でフジマルの価値は高い。
「今のところ波も穏やかだ。だからって気抜くんじゃないよ、野郎共!」
「「「うーっす!」」」
「ところでドレイク、この船はどこに向かってるんだ?」
「さてねぇ。今の海は海路も何もかもがぐちゃぐちゃでね。次の島か船が見えることを祈って進んでるだけさね」
「とんでもなくアバウトだった!?」
驚きを顕にしているフジマルには悪いが、行き先が特に決まってないことは明白だった。そもそもか特異点、どこの時代の海にも当てはまらないのだ。しかしどこかに原因があるのもまた事実。こうして甲板で目を光らせているのはそういった事情からだった。
「前のポセイドンの野郎だって、巻き込まれた嵐の中での出来事さ。結局、海賊が何かやろうってんなら海の上に行くしかないのさ」
「そうなのかな……?」
微妙な顔でふと上を向くフジマル。同時に日差しが遮られ、一瞬熱気が和らいだ。
僅かに遅れて私も空を仰ぐ。まさかと思った懸念が現実のものになっていた。
船の上空に、船底が。すなわち別の船が出現した。
「はぁっ?!」
「させない!」
咄嗟の判断で船全体を覆う程の面積の空間を置換する。しかしあまりに一瞬かつ大規模の魔術行使の為、すぐ隣の空間にスライドさせるのが精一杯だった。
大質量の船、髑髏の旗を掲げるもう1つの海賊船が着水したことによる衝撃と水しぶきがガシャンと響き、私たちを襲う。
「どうなってんだい、こりゃ! とうとう船が空を飛ぶようになったってかぁ?!」
「いえ、間違いなく敵の攻撃でしょう。フジマルも、警戒を」
「アンジェリカさん、さっきので消耗したんですね!?」
軽く膝をついた私を心配するフジマルだが、正直私よりも敵船の警戒に意識を割いてほしかった。確かに咄嗟の置換魔術で必要以上の魔力を消費したことで多少動きは鈍るだろうが、そういった不確定要素を含んだものが戦闘だ。そこを見逃してくれる程敵も甘くはないだろう。
「ははははは! いいザマだな、フランシス・ドレイク!」
揺れが収まってきた敵船から嘲笑が響く。そこにいたのは紫髪の男。目や口を大きく歪ませ、慌てふためく私たちを無様だと笑っていた。
「むしろよく対応したと褒めてやる。やるじゃないか、お前ら」
黒い外套はドレイクが纏うそれを思い起こさせ、高く上げられた右手の甲には鋭い爪のようなフックが装着されていた。
正体は分からない。人間なのか、英霊なのか、サーヴァントなのか。けれど、私たちとは相成れない明確な敵であることに、間違いはなかった。
「はっ、威勢がいいのは変わらないねぇシンジ。海賊家業が随分と似合ってるようじゃないか?」
「お前を上回るって意味ならそうかもな。今この海を統べる一番の海賊は、この僕なんだからさぁ!」
「いいねぇよくぞ言った! それでこそぶっ飛ばし甲斐があるってもんさ!」
シンジと呼んだ男の発言で、ドレイクの顔が笑みを浮かべた獣のそれになる。強く握られた銃から今にも弾が出そうな勢いだった。もし先ほどの衝撃と水飛沫で弾が出なかったとしても、そのまま殴りかかりそうなくらいには。
「フジマル、アンジェリカ、よぉく覚えておきな。あれが間桐シンジ。これからあの憎たらしい顔は鉛玉で陥没して、二度と見れなくなるからねぇ?」
☆
二つの海賊船の距離は十メートルと少し。英霊が入り混じるこの戦場においては、あってないようなものだった。
「野郎ども! 撃ち合いで負けたら承知しないよぉ!」
「「「あいあい、キャプテン!」」」
「おいおい勝てると思ってるのかよ、僕の船にさ!」
至近距離での撃ち合いが始まる。大砲が、銃弾が、船員すらが2つの船を行きかう。着弾するもの、海へと墜ちていくもの。そのどちらも僅かにこちらの方が多い。
「弾に当たった敵が消えていく……。これってあいつの宝具なんでしょうか?」
『半分正解ね。アレの言葉の通り、きっと海賊の英霊のカードを使っているんでしょう。それだけじゃなくて、この特異点の影響を受けて海賊という概念が強化されているわ。そんなに強くないとはいえ油断は禁物よ』
軽く観察した感じ、まさしく所長の言う通りだ。この場合は単体の強さよりも魔力から成る存在であることがネックになっている。
「まずいですよ姉御、あいつらいくら落しても飛んでくる弾の数が変わらねぇ! 何人乗ってんだよあの船!」
「撃っても撃っても減らないってかぁ!? 弾は当たるくせに亡霊みたいな連中だね!」
恐らく減ったところで即座に補充されているのだろう。フランシス・ドレイクには悪いが、あちらとの撃ち合いは分が悪いと判断する。
「飛びましょうフランシス・ドレイク。大元を叩く以外に術はない」
「おうよまさにそうしようと思っていたところだよ。野郎ども踏ん張りな! 何人いようが頭を倒しちまえばこっちのもんだ!」
「「「ひゅう! 頼もしいぜ我らが船長!」」」
「じゃあ、行きましょう!」
フジマルが頷いたのを合図に、軽い助走をつけて甲板を蹴る。潮風をより強く感じながら、今度は自らを弾丸として敵戦に接近していく。
「みすみす飛び移らせるかよ!」
当然敵の頭たる男、間桐シンジの号令で私たち三人に向けて砲弾が襲い来る。
「はぁっ!」
「ふっ!」
「甘いねぇ!」
先ほどよりも速く迫りくる死の宣告などものともせず、それぞれの武器でもってねじ伏せる。気持ちフランシス・ドレイクのものより小綺麗な甲板に、足が届こうとしたその一瞬。
「駄目じゃないですかお兄さん、迎撃とはこうやるんですよ?」
――少年の声と共に、空中に波紋が生じた。今の海の波よりは穏やかな、それでいて確かな揺らぎが、私たち三人の闖入者を取り囲んだ。周囲の空間そのものが牙をむいたように。
「防御!」
とっさに二人へ警告という名の命令を下し、再度置換魔術を行使する。私たちの周りの空間から更に一回り小さい円状にポートを設置し、反射するように仕向ける。その直後。
ズガガガガと、決して軽くない音が甲板上に連鎖した。あちこちに突き刺さった多種多様な武具が、今の迎撃の危険度を無言で伝えていた。
「あれ、置換魔術とは珍しい。……いや、そういうことですか、お姉さん」
一切の油断なく声の主を見据える。声に感心するような色が入っていても、発声者が年端のいかないような金髪の少年だったとしても、気を抜くことが敗北に直結するような、そんな緊張が走った。
「そんなに怖い目で見ないでください。僕自身にあなた達をどうこうしたいという気持ちはないんですから。ただ今回は立場が悪かった、それだけの話なんです」
「おい、生意気言うなよギルガメッシュ! お前は僕の部下だろう!? むしろ率先してこいつらをぶちのめせっての!」
「ギルガメッシュ!?」
『嘘よ、その名前は……!』
「……その名前で呼ぶなって言いましたよね? 今の僕はその名前とは一線を画す存在、ただのギル君だと。雇い主とはいえ、貴方の国の言葉で言う仏の顔はなんとやら、ですよ?」
場を更に強い緊張が走った。少年が目を細めた瞬間に、味方であるはずの間桐シンジすら委縮していた。そのプレッシャーはまさしく、あの英雄王と呼ぶにふさわしいものだった。
「フジマル、ドレイク、二人は間桐シンジを。ここは私が凌ぎます」
「……いや、俺も行きます。ドレイク、あいつの相手をお願い出来る?」
「どうってことないね。万全な状態であんな坊主に遅れを取るとでも?」
フジマルが剣を構えて私の横に立つ。戦力をどう分けるかは微妙な所だったが、フジマルもこちらの方が危ういと判断したのだろう。
結果として数の有利を取られても、ギルと名乗る少年は不敵な笑みを浮かべたままだった。
「あなたがカルデアのマスターさんですか。全くどなたも業が深いですね」
「……君は一体何者だ。どうして俺たちと敵対するんだ」
「先ほども言いましたが、僕のことはギル君とでも呼んでください。それなりの事情はありますけど、今はしがない上司の一兵卒に甘んじている所です。なので上司の命令半分、僕の趣味半分といった所でしょうか」
海賊風の間桐シンジと違い、短パンに前を開けたままのパーカーと私たちの知る現代風の装いの少年。両手をポケットから出すことすらなく、私たちの敵として君臨していた。
「ギル君は英霊本人なのか? それともカードを基にした本人?」
「それもまた半分です。だけどこれ以上説明してあげる義務はないし、そろそろ上司が痺れを切らすところでしょう」
背後で銃声が響き始める。それを合図にして夢幻召喚する私たち二人を前に、待ち望んでいたと言わんばかりの笑みで少年は告げる。
「「
「いいね。お姉さんの家の流儀に合わせるのなら、精々楽しい舞台にしましょう!」
背後で、目の前で、数々の砲門がその顔を見せる。飛ばすものが砲弾か武具かの違いはあれど、舞台のボルテージを上げる演出には違いない。既に秩序のない海の上、流れ弾はご愛敬だろう。
「アンジェリカさん、コードCです!」
「承知!」
右手に剣、左手に新しく拳銃を握ったフジマルが接近を開始する。飛んでくる剣や槍の僅かな間を縫うように移動するフジマルを援護するべく、自分はライダーの敏捷性を活かしてギルの背後に回る。
「おや、てっきり財宝の迎撃に回ると思っていましたが。そのカードでの接近は悪手ですよ?」
ギルの背後にも当然のように波紋が出現し、武具が射出される。無論予想できた攻撃であった為、鎖で巻き取ろうと短剣を振るおうと――違和感。
「同じ、鎖!?」
「同じだなんて言わないでくださいよ。僕の大切な友なんですから」
波紋から伸びる金の鎖が私の鎖を薙ぎ払い、右手首に巻きつく。遅れて置換魔術を発動しようとして、ラグが挟まるのを感じた。
「この鎖、私の何かに反応しているのか!」
「ご名答、神性持ちが僕の前に立っちゃ駄目ですよ。来るのなら、そう――」
私の方を振り向いていたギルが視線を戻す。そこには弾幕を心眼スキルで突破したのだろうフジマルが、あと三歩といった距離まで近づいていた。
「人の力でこそ、立ち向かわないと」
「はぁああ!」
目前まで来たフジマルが声を上げる。剣を横に振るう体制のまま踏み出した足元に、あの波紋が出現する。
「
置換魔術では対応できないと判断、もう一枚のカードを使用する。姿が変わるよりも速く、左手で顕現させた火縄銃の引き金を引く。
「おっと、これは――」
響く銃声は二度。一つは私が放った火縄銃の鉛玉だが、狙いが甘い為ギルの足を狙うのが精々。そしてそれよりも速く放たれたのが、フジマルがもつ拳銃からだった。
「
かつてビリー・ザ・キッドが有したという、正確には三度の銃声が一度のものと聞こえてしまうほどの速度。足元から撃ち上げられた槍を顎先を掠めるほどギリギリで回避したフジマルが放った雷撃のごときカウンターがギルを襲っていた、はずだった。
「怖い怖い。同じアーチャー、いや厳密には少し違うのかな? とはいえ恐ろしい程の早撃ちだ」
感心しきりの声で賞賛する彼が負傷した様子はない。距離やフジマルの使用した宝具の特性から外れたとは思えない。ならば何故。
「いやごめんね、お二人さん。人の力で来いとは言ったけど、生半可な攻撃じゃ僕には届かない。撃ち合いならなおさらね」
ギルが首にかけていた紐をひっぱりあげると、握り拳ほどの金の円盤が顔を出す。何か魔術的な護符で防御したということだろう。恐らくはある程度のランクまでの飛び道具を無効化するような。
「カルデアのお兄さん、世界を救う為のあなたがこの程度じゃないでしょう? もっとあなたの武器を見せてくれないと――少し意地悪しちゃいますよ?」
金の鎖が複数本、私に向かって射出される。それを見たフジマルが意を決したように、カードを複数枚取り出した。
「私に構うな、フジマル!」
自分は心配いらないと言わんばかりに右腕に力を込め、無理やり鎖の拘束から外れる。今使用しているアーチャーのカード『織田信長』は神性を持っていない。その為何とか関節が外れるくらいで済む。
その間にカードを三枚使用したフジマルの手元が、眩い光を放つ。
「
一瞬で剣と銃を一つに重ね、一瞬で放たれる光の一閃。必中効果を上乗せしたあげく、剣から放たれる光弾を射撃スキルで補正し、同時に振り降ろされる二方向からの斬撃射撃を三度重ねた無茶苦茶な攻撃を受け、ギルと名乗った少年は。
「は、ははハはははハハははは!」
衝撃に軽く吹っ飛び、額から一筋の鮮血さえ流しながら、愉快でたまらないと笑い声を上げていた。
「ここまで、ここまでか! 確かにカード自体が人の業ですが、いっそ爽快ですらある! ただの英霊だけでは足りないと、傲慢に限度はないと言わんばかりに!」
「はぁ、はぁ、確かにやってることは滅茶苦茶かもしれない。けどどれだけ助けてもらいながらでも、進むと決めたんだ」
「助けてもらう、ですか。健気、憐憫、傲慢、なるほどあなたがカードを使えるわけです。僕ですら、立場を間違えたかと思ってしまうほどに」
「何を……」
「フジマル!」
襲い来る金の鎖を躱しながら、再度火縄銃の引き金を引く。自分の姿が何故か軍服のそれに変化しているのと先ほどまでの感覚が僅かに残っているせいで動きづらいが、片膝をつき剣を支えにしているフジマルではこれ以上は危険だと判断する。
宝具連結はただでさえ多くないフジマルの魔力を馬鹿食いする切り札だ。三連結をもってして倒せないとなると、もう残された手は撤退しかなかった。
「エインズワースのお姉さんには悪いんだけど、効きませんよ。それこそ重ね合わせでもしないとね」
ギルは負傷こそしたものの、息も絶え絶えのフジマルよりかは遥かに余裕がある。後ろで戦っているフランシス・ドレイクと間桐シンジの撃ち合いも、より過激になっていくばかりで決着がつく気配がない。
「お前が僕に敵うわけないだろう!? ほらこっちだぜ!」
「はっ、借りてるだけの坊主がよく言うよ! 海賊を名乗るのなら思い切りが足りないんじゃないかい!?」
「言ってろよ、お前が何をしようとこの盤面はもう積んでるんだからさぁ!」
「……やれやれ、海賊っていうのは野蛮でよくない。ですがこれも仕事です。そろそろ仕上げてしまいましょう」
海賊二人に溜息をついた後、再びいくつもの波紋が出現する。無論照準はフジマルに合わせたものだ。
「お兄さんの進む道はひどく険しい。なら、ここでエンドマークをつけておくのも悪くはないかもしれませんね?」
『フジマル、逃げなさい!』
間に合わない。彼の足でも、私の置換魔術でも、ライダーのカードでも。あまりの戦力差を履き違えた結果がこの結末なのかと、後悔の念が私の内で燻り始める。
射出された剣が、まさに、フジマルの身を貫かんと――
「――全く、くだらないわね」
ガキンと激しい火花が散り、必殺の一撃が海に弾かれる。
フジマルとギルの間に、新たな人影がそこにはあった。
「おや、あなたは」
ギルの目が驚きによって開かれる。きっと私も、同じ表情をしていることだろう。
「え……」
「なんだ、マシュはいないの」
『この反応、嘘でしょう!?』
「この声、オルガマリーね。なら間違いじゃなかったのかも」
窮地を救ったその人物はおおよそ海賊とは見えない、アジア風の装いをしていた。勾玉をあしらった装飾にも目が行くが、一番気になるのはその仮面だった。角が生えた鬼とも龍とも見える金の仮面をつけたその女性は、無防備にもギルに背を向け、膝をついたままのフジマルと向かい合った。
「あなたは知らない顔だけど、カルデアの制服よね、それ。なら私の後輩だったりするのかしら」
第三特異点オケアノス、その海の上。
出会ったのは行方不明だったはずのAチーム、そのマスターの一人だった。
キャラを動かすのはやっぱり難しい。