夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#10 取り扱い注意なものたち

 

 その瞬間、同じく戦いに身を投じていた女海賊ドレイクも動きを止めた。

 

「今度はなんだってんだい? どいつもこいつも訳の分からない恰好じゃないと出てこれないのかい?」

 

「お前が言うのかよ、お前が……」

 

 ドレイクに聞こえないよう小さく呟いた間桐シンジは、尻餅をついた状態でドレイクに銃口を向けられていた。多少の隙では逃げられないと分かっているから、シンジもドレイクが振り向いた方向に視線を向ける。

 

「なんだ、あいつ? 僕たちの世界にもあんな奴は……」

 

「お前さんも知らないのかい? ならフジマルたちの知り合いであると嬉しんだけど、ねぇ」

 

「がっ!?」

 

 突然の銃声とうめき声がシンクロする。躊躇なんて微塵もない一撃。それだけで間桐シンジは胸に風穴を空けて倒れこみ、二人の戦いはあっけなく幕を閉じた。

 

「能力は大したもんだ。多少頭も回る。だがまだまだ甘いんだよ」

 

 諭すような口ぶりだが、既に息絶えた少年に届くことはない。ドレイクも分かっていてなお、そう呟いた。

 二人の勝敗を分けたのは、ここが船の上だったことだ。自分の船であることを差し引いても、足場である船をばかすか撃ち抜こうとはしなかったシンジに対して、沈没への配慮や容赦一切なしに射撃を行ったドレイク。つまりは自分の陣地だったことが仇となったのだ。

 

「さて、次だ次だ! フジマルたちと合流しなきゃね」

 

 敵であるはずなのに妙な感慨にふけてしまった自分を切り替えるように、ドレイクは少年の亡骸に背を向けた。

 

 

 

【side:アンジェリカ】

 

 カルデアAチーム。

 それは本来であれば第一陣として特異点にレイシフトする為の集団だ。ミッションが遂行できると判断されるだけの適性、能力を有しているのは言うまでもない。当初の特異点Xの時もそう運用され、そして真っ先にロストしてしまったメンバーたちでもある。

 

「芥ヒナコ……!」

 

「誰かと思えば、人形の」

 

 仮面の所為で表情は読めないが、確かに聞き覚えのある声だった。

 芥ヒナコ。Aチームのメンバーであり、読書が趣味で物静かな人物。

 私は役職上、多少言葉を交わしたことがある為にその正体を確信した。逆にほぼ接点がなく、初対面に近いであろうフジマルは未だ呆けたままだった。

 

「ちょっと驚きです。確かにまだ役者不足だとは思っていましたが、まさかお姉さんみたいな存在が登板しているだなん、てっ!」

 

 ギルが言い終わるよりも速く、甲高い音が響き渡る。それは目にも留まらぬ速さで突撃した芥の一閃を、ギルが剣を出現させて防いだ音だった。

 

「……あなた」

 

「いやいや、こんな所にお兄さんの仲間が他にもいたなんて。とんだサプライズです」

 

「黙りなさい」

 

 笑顔を浮かべ、拍手の1つでも送りそうなギルに対して芥の声音が少し低くなる。それ以上は言葉ではなく、刃でもって斬りかかる。

 縦横無尽、舞うように行われる怒涛の連続剣撃。その精度と速度はまさしくAチームに相応しい、いやそれ以上に人間離れすらしている動きだった。しかしそれを防ぐギルもまた人を超えた存在だ。尽きることのない財によって、その悉くを凌いていく。

 その間にフジマルも立ち上がって体勢を整え、私もそれに続いた。

 

「動けますね、フジマル」

 

「はい。だけどあの人との間に割り込めるかどうか……」

 

 戦況は変わった。芥ヒナコという戦力追加があれば撃退までは不可能じゃないと目を見張る。しかしフジマルの目からも、彼らの戦いが高度なものであることは理解出来ているのであろう。横やりをどう入れるか、私にもまだ最適解が浮かんでいなかった。

 どんな私たちを置き去りにするように、ドンと響いた銃声と共に割り込む影が1つ。

 

「よう、どこの誰だか知らないけど、敵じゃないと思っていいのかな?」

 

「……まぁ、そうね」

 

「よしきた! なら、後はこのちっこい暴君を何とかしようじゃないか!」

 

 有無を言わせない形で合流してきたドレイクが最低限の確認を済ませると、その二丁拳銃の矛先をギルに定めて宣言した。それを合図にするように私も火縄銃を、フジマルが静かに剣を構える。

 

「あらら、貴女が来たってことは僕の上司はやられちゃいました?」

 

「生憎ね。だがあんな雇い主から解放されたと考えれば、少しはマシに思えないかい?」

 

「あはは、答えにくいですね。あれでもいい所はちゃんとあるんですよ?」

 

 それに、とドレイクの方を見てギルは言い淀む。変わらず笑みを浮かべてはいるが、何か変化があるように思えた。彼は今、本当にドレイクを見て話しているのか? そんな違和感が警鐘として浮上する。

 

「それに今回は彼なりに頑張ってるみたいなんで、これ以上は本人の前では言えませんね」

 

「ドレイク!」

 

「!?」

 

 フジマルが叫ぶのとドレイクが身をよじるのが同時だった。

 

 一閃。

 

 数コンマ遅れてドレイクの腹部があったその空間を、フックが鋭く切り裂いた。

 

「くそ、おいギルガメッシュ! お前わざと僕のことばらしただろう! せっかくこいつの腹をかっさばいてやれたのに!」

 

「いやいや、今のは本気で惜しかったと思いますよ? それ以上にシンジさんの姿が鬼気迫るものだったので、賞賛せずにはいれなくて」

 

「……おいおい、こいつはどういうことだい?」

 

 悪びれる様子のないギルに悪態をつくのは、ついさっきドレイクが仕留めたはずの間桐シンジその人だ。腹部を弾丸に貫かれたはずの彼が、何でもないようにそこにいた。無論その胸の傷は見る影もなく、やや筋肉質な胸板がそこにあるだけだ。

 フジマルと同じ人間であるのなら、思い当たる原因など一つしかない。

 

「まさか、夢幻召喚のスキルで?」

 

「……夢幻召喚であれば一定のダメージでカードが強制排出されるはずです。しかしダメージを無効化したと言うより、これは」

 

「なんだっていいよ、それよりこいつはどうしたもんかねぇ?」

 

 何とか距離をとったドレイクがフジマル達の近くに寄ってくる。そして結果的には仕切り直したような、それぞれが向かい合う構図となっていた。

 

「僕としてはまだまだ興味が尽きないので、このままやってもいいのですが」

 

「仕方がない、撤退するぞギルガメッシュ」

 

「だから真名で呼ぶなと……。先ほどの雄姿とその判断でチャラにしてあげますけど」

 

「おいおい、正気かい? 自分の船に乗り込まれておいて逃げるも何もあったもんじゃないだろうに。二人して泳ぐっていうのなら、是非とも見せて貰おうじゃないか」

 

「はっ、言ってろよ海賊女。お前に一度殺されたぐらいで逃げたりしないさ。そもそも、何の為にお前らを船までおびき寄せたと思ってるんだよ?」

 

「……アンタ、まさか」

 

「いや、一度殺されたからという意味では間違ってはないかもな。僕だって本当はこんな手段取りたくなかったんだぜ?」

 

 間桐シンジが一本のマッチを取り出した。ちっぽけな火を灯したそれを、彼は何でもないように床に落とした。

 

「退避!!」

 

 ドレイクの声が響く中、全員がそれぞれの船を目指して飛ぶ。

 

 しかしそれよりも早く落ちたマッチの火が、甲板の下に潜っていく。その先にあるであろう、大量の火薬に向かって走っていく。

 

 そして数秒もたたずして、一帯を爆発が包んだのだった。

 

 

 

 

「ば、爆発オチなんてさいてー……」

 

「えぇ、とんでもない手を使うものです」

 

 息も絶え絶えなフジマルがぽつりと呟く。言葉の意味はよく分からなかったが、海の上で自分の船を爆発させるなんて暴挙には私も言葉がなかった。

 

「その上まんまと逃げられるなんて、やるじゃないかアイツ! 敵ながら見直しちまったね」

 

「ドレイクはそれでも元気そうだね」

 

「そう見えるならアタシの勝ちだね。こうでもしてないとこの惨状はやってられないんでね!」

 

 やけ酒でも呷りそうなくらい憤っているようにも見えるが、無理もないだろう。

 そもそもが乗り込む為に二つの船が接近していた。その状態で一方が爆発したのだから、当然もう一方も無事で済むはずはない。というより船の形を保っているのが奇跡だった。フジマルと芥ヒナコの張った魔力障壁がなければ、それこそ木端微塵だっただろう。

 そんな事情から、ドレイクの船『黄金の鹿号』もまた満身創痍の低速運転で進んでいた。

 

「アンジェリカさんも大丈夫? 水飲みますか?」

 

「いえ、気遣いは不要です。フジマルこそ休める時に休んでください」

 

「この状況だと流石に……」

 

 フジマルの歯切れが悪い。私の負担を思ってのことなのかもしれないが、ここは自分の身を第一に案じてほしいものだ。

 船の状態に関して言い加えると、船の形は保っていたものの航行するのは絶望的だった為、船の下部分の梁を私のクラスカード『織田信長』の持つ火縄銃で支えて、強引に浮かせていた。多少の魔力消費はあるが、背に腹は代えられない。

 

「…………」

 

 ぱらり、とまたページをめくる音がする。私たちの近くで読書にふけっているのは言わずもがな、芥ヒナコだ。どこからもってきたのか、小綺麗な皮の装丁が施された本を静かに読み進めていた。

 

「何の本読んでるんですか?」

 

「…………」

 

「あ。さっき使ってたカードって、あれはどういう奴なんですか?」

 

「…………」

 

 時折フジマルが問いかけるが、返事はない。フジマルも踏み込み過ぎないようにしているのか、それでいて彼の言葉だけが一方的に響く時間が続いた。

 

『相変わらずみたいね、芥は』

 

「そうですね、所長」

 

 そんな二人の様子を見ている私に所長が通信越しに話しかけてくる。彼女も芥ヒナコに対しては手を焼いているようだった。

 

『カルデアにいる時もずっと本から目を離していなかったもの。ここまでくると人を避けてるのは明確よね』

 

「人嫌い、ということですか。元々Aチームに加入したのも適性を見込まれてと聞きましたが」

 

『えぇ、その辺りは私よりもお父様の方が詳しかったのだけど……。やはり私にも話してくれないみたいだし、どうしろっていうのよ』

 

 今は音声だけで見えてはいないが、握りこぶしに力を入れている所長の姿が頭に浮かんだ。

 

 爆発事故によって消えたマスター、それもAチームの一人が無事だったことは朗報なのだが、それまでの経緯を彼女はあまり語らなかった。気づけばこの特異点にいて、小舟で彷徨っているうちに見つけたとのことだが、鵜呑みにするには信憑性が些か足りない。

 

『今までに見つかったAチームの中で、唯一の生存者なのがよりにもよって芥だなんて。つくづく運がないわね』

 

「所長、口が過ぎます。戦力としては申し分ないのですし、フジマルであれば或いは……」

 

『そんなアイツでも苦戦してるみたいだけど?』

 

 先ほどから間隔をおいて聞こえてくるのはフジマルの声だけで、件の芥ヒナコは結局一言たりとも声を発していないのだった。フジマルも少し諦めたのか、芥ヒナコから少し離れた隣で海を眺めていた。

 

「助太刀にきたことも、爆発の際に魔力障壁を張ってくれたのも事実です。力ずくで聞き出す程ではないでしょう」

 

『……そうね。今はこの特異点に集中してもらいましょう。それ以外のことはいずれね』

 

 芥ヒナコについての話題がひと段落する頃、フジマルが再び口を開いた。

 

「そういえば、芥先輩もマシュを探してるんですか? あの時そんなことを言ってたけど」

 

「…………」

 

「先輩も、やっぱり心配なんですか?」

 

「……違うわ」

 

 返ってきたのは否定だった。たまたま読書がひと段落ついたのか、いい加減鬱陶しくなったのかは分からない。しかし確かな意思が込められた一言だった。

 

「心配じゃないって、どうして……」

 

「ただ、必要だからよ」

 

「マシュがって、ことですか?」

 

「私がここにいる、最低限の理由として」

 

「それは……」

 

 フジマルが言葉に詰まる。何を言えばいいのか迷ったのではなく、再び読書に戻った芥ヒナコに圧倒されてのことだ。十数センチの本で見えない巨大な壁を作っているかのような、明確な拒絶がそこにはあった。

 

『最低限の理由? 何よ、それ』

 

 理解できないと言うように、所長が小さく呟く。

 なぜ芥ヒナコがあの質問に対して返答したのかは分からない。会話と言えるのかも分からないやり取りを終えたフジマルが、私の方にやってきた。

 

「芥先輩の機嫌、損ねちゃったみたいです」

 

『そういうものなの? アレ。むしろ言葉を引き出しただけでも大したものよ』

 

「そうですね。そういう意味ではフジマルの勝ちとも言えるでしょう」

 

「いや勝ちって……。流石に読書中に声をかけすぎたかな」

 

『芥は読書していない時を探す方が難しいわ。戦闘中のコミュニケーションが取れるだけマシと思いなさい』

 

「うーん。先輩って言ってたし、聞きたい話もあったんだけどなぁ。昔の所長の話とか」

 

『なんでよりにもよってそれなのよ!? さては結構余裕あるわねアナタ!?』

 

 所長をからかうようなフジマルの声で、少しだけ船に活気が戻る。

 突然の奇襲に負った損害は計り知れないが、それでも新たな生存者も迎えた一行を乗せた船は島に向かって大海原を行くのだった。




警戒心ほぼマックス。
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