夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#11 ワイバーンの途中だが話をしよう

 

【side:アンジェリカ】

 

「芥先輩! ワイバーンの途中だけど話をしましょう!」

 

「…………は?」

 

 回転斬りでワイバーンの首をバッサリと落とした芥ヒナコが動きを止める。周囲を埋めつくすほどのワイバーンの群れよりも、今耳に届いた言葉の方が信じられなかった為に。

 

「フジマル……?」

 

 魔力で火縄銃に弾を込めながら、私の視線も発言者に向けられてしまった。

 突拍子のない話を切り出した彼は、剣を構えつつもまた口を開いた。

 

 ――発端は、島の上陸時まで遡る。

 

 

 

 

『さて、状況を整理しましょう』

 

 大部分が海で占められている特異点内の島の一つ。何とか上陸を果たした私たちは浜辺に拠点を作り、集まっていた。それを確認した所長が音頭をとり、ミーティングが始まった。

 

『敵は私たちを襲ったあの二人組。一人はあの英雄王ギルガメッシュってだけで頭が痛いけど、もう一人の間桐シンジ、あれは何者? ドレイクは何か知っているみたいだったけど』

 

「生憎どこの誰なのかは知らないよ。ポセイドンの野郎を倒した帰りにちょっかいかけてきやがったから、適当にぶちかましただけの仲だ」

 

「やっぱりドレイクの持ってた聖杯が目当てってこと?」

 

「さてねぇ。そもそもなんでアタシが持ってること知ってんだって話だし、どうにも胡散臭い奴だよ」

 

 気に食わないと言わんばかりに鼻を鳴らすドレイク。面識があっただけで事情までは把握していないようだ。

 

「そもそもこの時代の人間ではないのでしょう。カードも使っていたとみて間違いないはず。この共通点はやはり……」

 

『岸波白野を思い出すわね、やっぱり』

 

 頷くフジマルの脳裏にも私たちと同様に、あの栗毛のマスターが浮かんでいるのだろう。彼女と同じ漂流者なのだとすれば、ひとまずこの時代にいる理由には説明がつく。

 

「でも、なんで俺たちと敵対するんだろう? やっぱりレフ教授の仲間?」

 

『……可能性は否定出来ないけど、ならなんで聖杯を奪おうとしているのよ。自前の聖杯を持っているんじゃないの?』

 

「いえ、彼らから聖杯の反応はありませんでした。手放したか奪われたのかは不明ですが、少なくとも今は聖杯を持っていないのではと」

 

『じゃあこの特異点は今何を基点に成り立っているのよ。芥は何か情報はないの?』

 

「…………」

 

 無言で首を横に振る芥ヒナコ。流石に本は開いていないが、つまらなさそうな表情を隠そうともしていなかった。

 

「芥先輩はいつからこの特異点に?」

 

「覚えてない」

 

「何か見ました?」

 

「何も」

 

「何食べてました?」

 

「忘れた」

 

『何よこの一問一答。まるで中身がないわ』

 

「所長、船上では返事すらなかったので進歩はしています。仕事であれば最低限は返すということなのでしょう」

 

『じゃあ社交辞令みたいなものじゃない……。けど何も知らないのは確か、よね?』

 

 全くもって積極的ではないが、わざわざ隠す理由もないはずのでその通りだと判断する。もし語っていない事実があったとしても、私たちを誘導する意思はないとみれば問題はないだろう。しかしそれはマイナスではないだけで、プラスとなる要素はまだ1つもない。

 

「う~ん、分からないことが多すぎる……」

 

 一通り芥ヒナコへの質問が尽きたフジマルが首を傾げる。不本意ながらも場の結論となりかけたその言葉に対して、拳を船に叩きつけた人物が一人。

 

「ええいまだるっこしい! アイツらがけしかけてきたのは間違いないんだし、ぶっ倒して首根っこ掴んでから細かい話を聞けばいいさ! そしてその為にも!」

 

「…………」

 

「まずはアタシの船の修理をする! それでいいかい?」

 

「まぁ確かに」

 

「その通りですね」

 

『……そうね』

 

 座礁しかけたように思えた会議は、船長の一声で何とか方針を固めることに成功した。本当にただ現状を共有しただけに終わったが、少なからず不審な点を洗い出すことは出来たのでよしとしよう。

 

「しっかし修理はしなきゃならないが、こんな島じゃあどうしたもんかね」

 

「木が全然ないです、この島」

 

 額に手を立てて遠くを眺めるフジマルの言う通り、何とか上陸した島は草原が広がるばかりだった。申し訳程度にぽそぽそと木が見えるが、それで船の修理に足りるとは思えない。

 

『そうね、残念だけどこの島に森と呼べるものはなかったわ』

 

「では、どうしましょうか?」

 

『安心しなさい。一つ朗報があるのよ』

 

 森はないと言った所長の声は淡々としたものだった。しかし決して悲観したものではなく、それ故に何か代替物が見つかったのだと予想するのは難しいことではない。そう思って促すと、その答えがすぐに通信越しにやってきた。

 

『そして喜びなさいフジマル。ワイバーンハントの時間よ?』

 

 

 

 

「こいつがドラゴンって奴かい? 本当にトカゲみたいな奴だねぇ!」

 

「よかった、まだ数はそんなにない……!」

 

「…………」

 

『本当よ、芥。オルレアンはもっと酷かったから』

 

 うんざりとした様子を更に二割増しにして不満を表す芥ヒナコ。ボイコットまではしないが、その態度の一切は隠す気がないようだ。

 

『ノルマはそうね、30頭くらいかしら? えぇ、とっとと片づけちゃってちょうだい』

 

「確かにそれくらいなら何とかなりそうに思えてしまう自分が怖いです。どうしましょうアンジェリカさん」

 

「やるしかないでしょう。私としても、経験豊富なフジマルには期待させていただきます」

 

 なんだか微妙にやる気の欠けたパーティメンバーがこれからハンティングするのは、もちろんワイバーンの群れだ。

 木材の他に幻想種でもあるワイバーンの素材で船を補修するというプランの元、ワイバーンの集まる地点に赴いたわけである。文字通り巣を突きに来たのがバレたのか、騒ぎ立てるように旋回する大量のワイバーンに囲まれて、私たちは武器を手にとっていた。

 

「来ます、注意を!」

 

「オレが行きます! 芥先輩も!」

 

 こくりと首を縦に振ったのを確認して、フジマルが大群に向けて飛び出した。それを追うように芥ヒナコが突撃し、私とドレイクは射撃を開始した。

 

「GAAAAAA!!」

 

 単身でやってきたフジマルを恰好の的とみたのか、何頭ものワイバーンが急激な滑空からの突進を始めた。牙や爪、或いはその巨体のいずれもが人一人を殺傷するには十分な威力を秘めている。

 

「ふっ――!」

 

 しかし夢幻召喚したことに加えてオルレアンで培われた感覚が、フジマルにその間合いとタイミングをいとも簡単に掴ませる。

 

「一つ、二つ!」

 

 フジマルとワイバーンがすれ違う一瞬で、丸太のように太い飛竜の首がボトリと落ちた。或いは切断まではいかないだけの致命傷で、空から引きずり降ろしていく。仲間の仇を討とうとする竜がその後を追い、また一匹とその命を散らしていった。

 

『流石にワイバーン相手なら慣れてるわね。その調子よ』

 

「感じるところがないわけじゃないんですけどね!」

 

「驚いたね、こりゃ。船の上の時とはまるで大違いじゃないか! 本職は竜殺しだったりするのかい?」

 

「職業かはともかく、悪名高い邪竜すらも倒しています。なので竜に対する経験値は相当のものかと」

 

 私も夢幻召喚して呼び出した火縄銃に魔力を込めつつ、横のドレイクに軽口をたたいていた。無論私たちを狙うワイバーンもいたのだが、それよりも二人の狩人の振るう剣の方が早いのでかなり余裕があった。

 フジマルが立ち回り、僅かな隙を芥ヒナコが埋める。そんな彼らを私とドレイクで包囲し、撃ち落としていく。数の不利こそあれど、展開は終始一方的なものとなっていた。

 だからこそだろうか。フジマルがそんなことを口走ったのは。

 

「芥先輩! ワイバーンの途中だけど話をしましょう!」

 

「…………は?」

 

「フジマル……?」

 

 耳を疑うような発言に私と芥ヒナコの動きが止まる。ドレイクは引き金を引くことを止めずに、ただ視線だけを彼ら二人に向けていた。

 

『ちょっとフジマル!? いくらなんでも気が緩んでるんじゃないの!? 確かにもうワイバーンの半数は狩ったみたいだけど……!』

 

「いや、そんなに余裕綽々ってわけじゃない、けどっ!」

 

 疲れで反応が鈍っていたのか、一匹のワイバーンに接近されたフジマルがその爪を剣で受け止めている。そうやって意識が向いた飛竜の背中に、芥ヒナコが剣を突き立てた。

 

「ごめんなさい、助かりました!」

 

「……何がしたいの? おまえ」

 

「いや、結局会話らしい会話が全然出来てなかったなって」

 

 剣を握りなおしたフジマルが、数が減って消極的になったワイバーンの一頭に接近する。芥ヒナコも一瞬の瞬きの後、その背を追った。

 

「けど、さっきの現状確認の時は少し話してくれたから。なら戦闘の合間も少しくらいなら口をきいてくれないかなって」

 

「…………鬱陶しいがすぎるわよ、それは」

 

 芥ヒナコの口元が歪む。夢幻召喚状態なので仮面で表情が分かりにくいが、それでも顔をしかめていることが容易に想像がついた。

 

「私に何を期待している? カルデアの一員として協力はするけど、それ以上を私は望まない」

 

 フジマルが傷を負わせた飛竜をまた一頭、芥ヒナコがトドメをさした。そこにはコンビネーションなんてものはなく、ただお互いが最善だと思うままに動いているように見える。

 

「先輩が俺たちのことを拒絶しているのは分かりました。けど、俺たちはこうして一緒に戦ってるんです。もう少しくらい、その人のことを知っておきたいなって」

 

「だからそれが、鬱陶しいと言っている」

 

 ワイバーンの腹の下で突き刺した剣を引きぬき、裏手で強引に腹部を引き裂いた。その手際にも言葉にも、芥ヒナコは僅かに怒気を込めていたような気がした。

 

「どうしても、駄目ですか?」

 

「……案外しつこいのね。無害そうな顔してるくせに」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ワイバーンは残すところ僅かとなっている。私とドレイクはもはや銃を構えておらず、ただその顛末を眺めるだけとなっていた。

 余裕があるからこそ、意識をさく必要がないからこそ、そのことを意識せざるをえないこの空気。再び無言に戻った芥ヒナコの攻撃が激しくなり、いつの間にかフォローする側とされる側が逆転していた。

 

「やっぱり、芥先輩は強いや」

 

「……何、突然」

 

「オルレアンで散々ワイバーンを倒したんです。だから俺の方が沢山倒せるのかなって思ってたけど、芥先輩の方が全然慣れてるなって」

 

「まさか、おまえの方が強いとでも思ってたの?」

 

「助けてもらった時から、そんなことは思ってないです。だからこそ少しくらい、張り合ってみたいなって」

 

「…………」

 

「ついでみたいな形になっちゃったけど、あの時は助けてくれてありがとうございました」

 

「……見えたから来ただけよ」

 

「だとしてもです。俺は芥先輩が来てくれたことが、仲間になってくれたことが嬉しいなって」

 

「…………」

 

 一頭、また一頭と数を減らしていく竜。ギリギリ形を為している二人の会話も、戦いが終わるのと同時に途切れてしまうのだろう。綱渡りのような言葉のやり取りの果てが、遠目から見ている私たちにも分かってしまった。

 

「これで最後のようですね」

 

「アイツらは何やってんだか。何とも面倒な感じがするよ」

 

 フジマルが振り下ろした剣によって最後の竜が息絶え、ハントが終了した。最後とばかりに口を開いたのは、意外にも彼女の方だった。

 

「これだけは言っておくわ。おまえが何を思おうと、何をしようと。おまえ達と私は相成れない」

 

「……芥先輩」

 

「だから何も知らなくていい。私のことなんて知らなくていいの、おまえは」

 

「それは……」

 

 フジマルが言葉を返すよりも早く、芥ヒナコは夢幻召喚を解いていた。そこにあるのはただの無表情であり、先ほど垣間見せた不満の色も怒気も、それ以外の何かも見当たらなくなっていた。

 

 

 

 

「駄目でした……」

 

『むしろなんでイケると思ったのよ』

 

 ワイバーンハントの疲れよりも、会話が上手くいかなかったことの無念さでフジマルが肩を落としていた。もはやワイバーンくらいなら相手にならないくらいにはなったことを褒めるべきなのか、だからこそ突拍子もないことをするなと窘めるべきなのか、判断がつかなかった。

 

「ハンドル握ったら豹変するタイプもいるじゃないですか。最初助けてくれた時もまだ喋ってた方なのでもしかしてと思ったんですけど」

 

「フジマル、背後で芥ヒナコが物凄い目でこちらを睨んでいます」

 

「あぁっ!? すみませんすみません!」

 

 口を滑らせたフジマルが慌てて平謝りを敢行するも、芥ヒナコは不機嫌そうなままに読書に戻ってしまった。例え会話が出来るようになっても、やはり彼女が心を開いてくれるとは思えない惨状だった。

 

『馬鹿な事言ってないでとっとと休みなさい。船の修理が終わり次第まだ出発なんだから』

 

「そうともさ。手酷くやられたから修理に時間はかかるが、これだけの材料があるんだ。安心して待っときな。まぁカードを使えるアンタたちにも手伝って貰いたくはあるんだけどね」

 

 岩場に座って船の修理を眺めていた私たちに、指示出しをしていたドレイクが寄ってくる。全体の監督役を担う彼女からすれば、百人力とも言えるカード使用者である私たちも魅力的な人材に見えるのだろう。

 

「俺も手伝います。荷物を運ぶくらいなら――」

 

「いいっていいって。確かにそうは言ったが、あれだけの仕事をやった奴にこれ以上働かせるほどアタシも鬼じゃないさ」

 

「ドレイク……」

 

「船のことは船乗りがやる。だからお前さんもやるべきことをやるといい」

 

 立ち上がったフジマルの左肩に手を置いて笑顔を浮かべ、すぐに踵を返して修理に戻っていくドレイク。彼女にも狩りに参加したことの疲れはあるはずだが、船のことに口を出さずに休もうとは思わなかったのだろう。

 

『そうね。私たちがやるべきこと、分かっているわよね?』

 

「晩御飯の準備ですね?」

 

『そんなわけないでしょ対策よ! あの二人をどう相手にするか、その作戦会議!』

 

 馬鹿言わないでとばかりに所長の声が響き渡る。その反応を面白がって笑みを浮かべるフジマルと、対照的な白けた目を向ける芥ヒナコ。それを見つめる私もきっと無表情のままだ。

 けれど、フジマルが笑っているだけで場の雰囲気は随分と違うように感じる。私たちの誰もが他人には必要以上に踏み込もうとしない中、彼だけがその境界を跨ごうとしている。そのことが、今更ながら気にかかった。




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