夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。



#12 再び臨むはこの地にて

 

【side:アンジェリカ】

 

 気持ちのよい青空と心地よさすら感じる涼しい風が、どこまでも広がり吹き抜けていく。

 初めてドレイクの船に乗り込んで海原へと繰り出したあの時を思い出すようだが、その時とは見た目も中身も大きく変化していた。

 

「なんか、感じる揺れが減った?」

 

「みたいだね。アタシもアタシの船じゃないみたいに感じるよ。まぁこれはこれで悪くないけど!」

 

 自分の船が飛竜という未知の素材で補強されたことも、既にドレイクは受け入れているようだった。彼女からしても自分の船が頑丈になって嫌な気持ちはしないだろう。むしろこれでリベンジがしやすくなったと考えている可能性もある。

 

「…………」

 

 無論メンバーも芥ヒナコが加わったことで戦力的にも申し分なくなっている。単純に頭数が増えただけでなくその力量も踏まえるとかなりの安心材料となっていた。最も、今回対峙する相手のことを考えるとそれでも十分かどうかは分からないのだが。

 

「それでこの船はどこに向かってるの? あの二人の居場所って分かってないんじゃ」

 

「その心配は不要です、フジマル」

 

「その通りだアンジェリカ。やっぱりアンタも気づいてたか」

 

「それってもしかして……」

 

『10時の方向に反応アリよ! 警戒!』

 

 所長の通信とフジマルがその方角を向くのと同時に、その先で何かが瞬いた。その小さな点を認識してから、そのシルエットが船であると気づくのにそう時間はかからなかった。

 

「また別の海賊船!?」

 

「アタシたちがこうして船を直してたんだ、奴さんも似たような準備をしてたんだろう。二人しかいないくせにどうやって用意したのかは問い詰めたいところだよ」

 

 ドレイクの『黄金の鹿号』ともまた違う造形、恐らくは更に古い時代の船。そして放たれた砲撃をもろともしない異常性が、その船がこの特異点におけるイレギュラーであると告げていた。

 

「野郎ども、速度を上げな! 衝角をぶち当ててどっちの船が強いか勝負と行こうじゃないか!」

 

「「「おう!」」」

 

 ただの大砲では無意味と見たドレイクが号令を下す。どのみち近づかなければこの戦いは意味を為さない。何故ならば――

 

「姐御、なんかヤバいのが飛んできてます!」

 

「なんだいもう来たのかい! この海にいるんならもう少し海賊らしく――いや手段を選ばないのがアタシたちか!」

 

「いやはや、どうもそうらしいですね」

 

 聞き覚えのある少年の声。しかしそこに感じるのはあどけなさではなく、絶対的強者故の余裕だ。私たちが辛酸を舐めさせられた相手が、空飛ぶ黄金の船によって姿を見せたのだった。

 

「ギル君……!」

 

「こんにちは、カルデアの皆さん。まさか飛竜を使って船を修理どころか補強してくるとは、その途中も含めて悪くない見せ物でした。あんなタイミングで語りかけるなんて、なかなか楽しめましたよお兄さん」

 

『何も言い返せないわね……』

 

「はい、痛いところを突かれました」

 

「え、そんなに言われるほど!?」

 

「少し違えば数年語り継がれる名言だったかもしれないですね、えぇ」

 

 言い出す内に思い出したのか、朗らかに笑うギル。外見年齢相応の無邪気さをみせる彼に、なおも一切の隙はない。仕掛けた瞬間、あの砲門が顔を出すのだろう。

 そうして動きのない私たちの反応が興覚めだったのか、やれやれとばかりに本題を切り出した。

 

「さて、一応ですが言伝を1つ。『聖杯を渡すなら命は助けてやる』、だそうですよ? 今更こんな言葉で首を縦に振る人はいないと思いますが」

 

「無論NOだが、そう聞けばアンタはどう動くんだい?」

 

「もちろん沈めます。正直今回の結末も見えてますけどね。けど、少しは楽しませてくれるんでしょう、カルデアの皆さん?」

 

 ガキンと響く金属音。風切り音と共に射出された一振りの剣が、夢幻召喚を済ませていた芥ヒナコによって弾かれる。それを合図に私もカードを取り出した。

 

「行ってくださいドレイク、フジマル」

 

「分かってるよ! 聞こえてるねお前ら!」

 

「「「おう!」」」

 

 ギルの登場に驚いていた船員たちが再び動き出し、船が加速を始める。それを妨害するべく放たれた武器の雨の悉くを、私たちの剣や銃で弾いていく。同じく夢幻召喚で剣を握ったフジマルが私たちの方を見た。

 

「アンジェリカさん、芥先輩。頼みます」

 

「…………そうね」

 

「作戦通りに、フジマル」

 

 短い言葉のやり取り。それで十分だと、一歩下がるフジマル。彼の役割、彼の戦いはこの先にあって、今この場面ではないからだ。

 

「おや、今回お兄さんは来ないんですか。それだとちょっと物足りなくなりそうだけど、大丈夫かな?」

 

 その物言いには、本心からの心配が混ざっているような気がした。前回の圧倒を思い出すのならそれは間違いではないのかもしれない。現に射出される大量の宝具を撃ち落とすだけで四人とも手一杯になりかけている。だが、乗り越えるにはこれしかないと決めたのだ。

 

「芥!」

 

 降り注ぐ剣の合間を縫うように、芥ヒナコが跳躍する。私の顕現させた火縄銃も足場にして、若き暴君が待つ船へと肉薄していく。

 

「接近してくるとしたらやはり貴女だと思ってましたよ。名前は芥ヒナコでいいんですよね?」

 

 やはり接近自体は望ましくないのか、狙いが彼女に集中し始める。剣が斧が槍が、ありとあらゆる伝説の原典たる武器が彼女に牙をむき、次第に鮮血が散り始める。

 

「っ!」

 

 ギルが射出した武具の雨の中に、強引に人が通れるだけの活路を開く。言葉にすればそれだけのことを実行するために、私たちが持てる限りの力を尽くさなければならない。瞬時に迫られる決断を何度も下す中で、全ての攻撃を撃ち落とすことは難しいだろう。

 

「…………!」

 

 タイミングの重なった剣と槍。撃ち落とせないと見た芥ヒナコが、瞬時に身体を傾けた。既に船から海の上へと飛び出している私たちにとって、下方向への回避は落下と同義である。

 だから、そうならない為に私がいるのだ。

 

「ふんっ!」

 

 迎撃のために顕現させていた火縄銃の内の一丁。その銃身を芥ヒナコは片手で掴み、鉄棒の要領でくるりと回る。その間の攻撃も辛うじて打ち払い、また別の火縄銃を足場にまた前進を再開する。

 

「へー、まるでデタラメだ。船も離れた海の上でアクロバティックなんて、どこまでも人間離れしたお姉さんたちだね」

 

「あなたがそれを言うのか、ギル」

 

「おっと、そういう意味ではお互い様かもしれないですね」

 

 空中の私たちを撃ち落とさんとする無数の武具。もはや狙いは私たちだけに絞られており、難を逃れたとばかりに船は新たな敵船へと向かっていく。奇妙なことにその後ろを狙い撃つ気も、また飛行船を動かして追うこともまたなかった。

 

「何を狙っている? これも上司の命か?」

 

「今日はよく喋りますね、エインズワースのお姉さん。やっぱりそれも『作戦』なのかな?」

 

「……あなたの存在はあまりにも異端です。そもそも、なぜこの特異点にいる? なぜ間桐シンジに従っている?」

 

 迎撃と足場の為に何丁もの銃を操りながら、口を動かす。必要なことと分かっていながら、戦いながら話していたあの時のフジマルを思い出して不可解な気分になる。

 

「質問が多いなぁ。うーん、この何もない海じゃあ君たち以外で退屈を紛らわせるものもないし……」

 

 砲門から打ち出される音が止む。王が座る船の先端に、仮面の剣士が到達する。

 少なくない負傷で装束のあちこちを紅に染めながら、それでも同じ場所で王と敵対者が相対した。そんな二人を火縄銃の上に立ったまま見つつ、彼女を送り届けるべく行ったハイペース射撃の疲労で息を吐く。

 

「なら、僕に一矢報いてください。その時は一つくらい、ヒントをあげるのもまた一興ですから」

 

 結局はハンデ、慢心なのだろう。土足で船に立つ無礼を咎めることもなく、ただ気まぐれで彼はここにいる。そんな高い壁を乗り越える為の第二ラウンドが、また始まろうとしていた。

 

 

 

 

【side:なし】

 

「なんだよ、やっぱり来たのか」

 

 アンジェリカと芥ヒナコの二人がギルの猛攻を搔い潜っている裏で進んだ船は、とうとうもう一つの海賊船、その船長の顔が分かるほどに接近していた。

 

「当たり前だろう? アンタが持ってる財宝、今度のは情報って奴かもしれないが、まだ奪ってないからね」

 

「だから力ずくってか? ホント、海賊やってて生き生きしてるよお前」

 

 間桐シンジ。詳細が不明のままに襲撃を仕掛けてきた謎のマスター。しかし以前戦った時の黒い外套を羽織ってはいなかった。

 

「まさか、別のカード?」

 

「あぁコレ? いやぁ、あのカードも悪くなかったんだけど、やっぱり僕って自分で戦うタイプじゃないからさ。より船長に相応しいカードにしたってわけ」

 

 嬉々として自分の恰好を語る姿に、ドレイクの目が段々と残念なものを見るそれに変わっていく。

 確かに金の装飾が肩や腕に装着されていて見栄えは悪くないが、船乗りというよりは貴族の方に近づいてしまった印象を受けたからだ。これならまだ海賊ぶっていた方がマシだったんじゃないの?と思うほどに。

 

「……なのに妙にしっくりきているのはなんでだろうね? 髪はワカメのままなのに」

 

「おい、お前までワカメ呼ばわりは止めろよ! なんか思ったよりグサッときたんですけど!」

 

「確かに船ごと落ちてきた時は髪が濡れてて、それっぽかったかも」

 

「このタイミングでカミングアウトとか、いい度胸だなお前……!」

 

 ついうっかり、といった様子でフジマルが手で口を抑える。流れるような罵倒で顔をしかめたシンジが、そんなフジマルに視線を向ける。

 

「本当、お前を見てるとむかつく奴を思い出すんだよ。平凡な面して、僕と同じ場所に並び立ってさ。場違いだって思ったりしないわけ?」

 

「……思わないわけじゃない。けど、自分がやるべきことは分かってるから、俺はここにいるんだ」

 

 一瞬固まったように見えたフジマルから出た返答に、シンジは片足でトントンと甲板を鳴らした。

 

「はぁ。その顔、その目だよ。確かな自分(モノ)があるって感じがさぁ、鼻につくんだよね。まぁいっか。今度はその顔をぐしゃぐしゃに出来るってことだろ?」

 

 大きく見開いた目でフジマルを捉える。そこに怒りはなく、恨みはなく、ただの破壊衝動だけがその影をのぞかせていた。

 

「お前は、キミは誰なんだ。どうして俺たちを狙うんだ」

 

「おいおい、忘れたのか? お前らの持ってる聖杯を寄越せって言ったじゃないか。これもそういう意味では聖杯戦争なんだ。マスター同士で争う戦場が、それ以外のなんだって言うんだよ!」

 

 バッとシンジが腕を上げた途端、どこかから小さな音が響いた。

 

「来るよ!」

 

 飛んできたものが矢であることを認識してからようやく、それが弦の緩む音であることに気づく。

 

「狙撃!?」

 

 重量のある鉛玉よりも早く、軽い音と共に矢が甲板に突き刺さった。未知の攻撃にフジマルとドレイクの警戒が高まっていく。

 

「あのカードはアーチャーなのか!? でも何かしたようには……!」

 

「カードとやらを使えば魔法みたいなのが使えるんだろう!? ならとっととケリをつけることを考える方が早い!」

 

 マスケット銃を抜いてすぐさまドレイクが引き金を引く。早撃ちではあったが的であるシンジは動こうとはしていなかった。よって狙い通りに鉛玉が彼の眉間に到達する、はずだった。

 

「僕を守れ」

 

 パチンと指を鳴らしたかと思うと、黒い風が吹き荒れた。

 

「なんだい、これは……」

 

「巨人……?」

 

 シンジを守る様に姿を表したのは、そう思ってしまうほどの黒い巨体。それがシャドウサーヴァントと呼んでいたものであることを思い出して、更なる脅威に僅かにフジマルの思考が停止した。

 

「別に大したことじゃない。このカードはこの船に、アルゴー号にいたかつての船員を呼べるってだけ。それに残念ながらその力の一端だけとかいう残念仕様だよ」

 

 でも、とその男は静かに笑う。固まるフジマルがおかしいのか、その圧倒的戦力を手に入れた自分に酔っているのか、その両方か。

 

「けどさ、僕としてはこっちの方がしっくりくるんだよ。英霊っていう自分より強い存在を使役するのが、僕の知ってる聖杯戦争のマスターなんだ」

 

 黒い巨躯と、弓矢での狙撃を含めて二人。いつの間にか奪っていた数の有利を手に、間桐シンジはもう一度、きっぱりと口にした。

 

「さぁやろうぜドレイク、それにカルデアのマスター。魔術師同士の殺し合い、聖杯戦争って(ゲーム)をさぁ!!」

 

 

 

 

 ドレイクにとって間桐シンジとの戦いはこれで三度目である。

 一度目の戦闘は撤退戦、二度目は真正面からの戦いでこれを制している。そこで把握したのは、持つ力とその扱い方に差があることだ。カードとやらの話を完全に理解したわけではないが、その力を自分の身体で振るう分には隙がある。そのはずだった。

 

「狙撃と打撃、どっちも厄介すぎる!」

 

「ええい、急に戦い方を変えるんじゃないよ全く!」

 

 現状は一変した。

 どこからともなく放たれる矢と魔力弾、そして猛威を振るう巨躯の嵐。近づくことも離れることもままならない状況に二人は追い込まれつつあった。

 

「ははははは、いい気味だなおい! どうせギルガメッシュには勝てないから、マスターである僕を倒しに来たんだろう? 甘いんだよね!」

 

 突如として飛んできた光弾がフジマルの頬を掠める。矢と違って被弾した瞬間に爆発するため、魔術師とは呼べない力量のフジマルでは回避しか選択肢がないのだ。

 

「■■■!!!」

 

「重いっ……!」

 

 そんな弾幕を抜けて接近したとしても、待ち受けるのは近接に特化したシャドウサーヴァント。己と同じ大きさを誇る、塊のような剣が驚くべき速度で叩きつけられるのだ。

 

「フジマル!」

 

 大砲が直撃したかのような衝撃と共に、フジマルの身体が木製の甲板を突き破る。姿を消したフジマルを案じるドレイクだが、やはり彼女も矢と魔力弾の弾幕により打てる手が狭まっていた。

 

「アンタ、まだ戦力を隠し持ってたってわけかい!? 随分と余裕があるこった!」

 

「どこかの誰かさんがこの僕を倒すくらい強かったからさ、僕も更に強い戦力を用意するしかなかったんだよ。対抗策を用意してくるのはゲームの基本だろ?」

 

「へっ、わざわざご苦労なことだよ! そんなに負けたのが気に食わなかったかい」

 

 自分の右側に砲塔を出現させ、大砲の口径をもって矢と魔力弾もろとも吹き飛ばす。生じた僅かな煙幕を纏うように接近し、シンジに向けて引き金を引いた。

 

「あぁそうさ! せっかくこんな世界にいるんだ、英雄にくらいならなくちゃ駄目だろう? あのフランシス・ドレイクを下し、聖杯を奪ってやるのさ!」

 

 ガギン、と一瞬でドレイクの放った鉛玉が黒い塊のような剣に弾かれる。

 聖杯によるブーストがあるとはいえ、銃の弾込めには数秒のラグが発生する。そんな僅かな隙であっても、音速をもって迫る攻撃であれば届いてしまうのがこの戦場だ。

 

「お前を、倒すんだよ――僕が!」

 

 間桐シンジの敵意が質量と速度と破壊を伴い、ドレイクに襲い掛かった。

 

 

 

 

【side:アンジェリカ】

 

 傍から数えれば、30秒とかかっていないだろう。しかし私たちの体感ではその倍はある気がしてならない戦闘だったと、後にしてそう思う。

 

「行け!」

 

 芥ヒナコが進むべき距離もそうだろう。10mとない船を縦断するために、これから二人分の死力を尽くさなければならないからだ。

 

「さて、ショーダウンです」

 

 私の号令と芥ヒナコが駆け出すのと同時に、ギルが指を鳴らす。

 その瞬間、船をぐるりと囲うようにいくつもの波紋が出現した。

 

「…………」

 

 芥ヒナコの勢いは一切緩まない。つけた仮面から覗いているのは対象ただ一人だけだと言わんばかりに、絶対的な死地で距離を詰めていく。だからこそ、その露払いが私の役目だった。

 

三千世界(さんだんうち)――!」

 

 持てる魔力のありったけを宝具開帳に注ぎ、百を優に越す火縄銃が爆発したかのような勢いで出現した。ギルの宝具射出とまでは行かなくとも、それにはない圧倒的な射撃密度を誇る火力を二人に向かって放つことで、宝具射出をその瞬間から弾く。無論、芥ヒナコだけには命中しないように。

 

「へぇ、まずは悪くないカードですね」

 

 ギルにもやはり動揺はない。ただニタリと笑い、一瞬アンジェリカの方向に目を向けただけだ。数コンマのズレも許されない調整で軋む頭で、それを認識した直後。

 

「!!」

 

 それだけで、自分の周囲にも同じ波紋が球状に出現した。

 それは警戒に値することへの賞賛か、宝具への返礼か。平等に与えられた終わりへの秒読みが、自分にも課されたことを意味していた。

 

「まだまだ、こんなもんじゃないでしょう?」

 

 未来の暴君の片鱗を魅せる少年が、不敵に語りかける。

 

「――舐めるなよ、英雄王」

 

 判断ミスは許されない。何百もの火縄銃を扱う負荷で身体、特に目の奥が燃えるような錯覚を覚えながらも、私は最適解を選出する。

 

 ――送還(アンインストール)夢幻召喚(インストール)。そして上書き(オーバーライト)

 

 まだ火縄銃から放たれた光線すら対象に届いていない刹那。撃ち出したという結果だけを残して、それ以外の火縄銃は一瞬ブレたようにしか見えない数刻。所持していた複数枚のカードを感覚だけで使用する。

 

「驚いた。そこまで出来るんですね――!」

 

 クラスカード・バーサーカー。このカードの効果である狂化故の特性。普通に上書きしただけでは別の英霊に置き換わるだけだが、バーサーカークラスからの上書きだけはその限りではない。英霊は置き換わるが、そのクラスはバーサーカーのままに継承される。

 

 すなわちその英雄の、更に別側面の顕現が可能となる――!

 

波旬(はじゅん)変生(へんじょう)――」

 

 身体の熱が尋常でなく上がっていく。否、まさしく自分自身が燃えているのだと遅れて理解する。視界が燻って霞むけれど、遂行すべき事象はまだ見えている。束の間の犠牲で勝ちが拾えるのなら、それこそ私が負うべきものなのだから。

 

三千大千天魔王(さんぜんだいせんてんまおう)――!!」

 

 私を囲む宝具の檻を、全方位射撃を持って打ち砕く。もはや火縄銃の域になく、熱をもって伸びる死そのものだ。あらゆる神仏を否定するその熱線が、今度こそ対象である船に着弾を始めた。

 

「これは、神をも毀す魔王の熱か! たかだか人形が持つには火傷するでしょうに!」

 

 流石のギルも防御を展開する程の熱が、炎が周囲に走り始める。降り注ぐ衝撃でもびくともしないギルの船が、僅かに熱を帯び始めた。

 

「そして貴女もですか、どっちも期待以上で嬉しいなぁもう!」

 

 炎の雨を抜けたもう一人の刺客が、とうとうギルの目前に浮上する。

 無傷ではすまないどころの話ではなかった。あちこちに宝具が突き刺さり、当たらなかったはずの熱も気に介さずに突き進んだ結果としてあちこちが燃え焦げていた。

 

「来てやったわよ、クソガキ」

 

 既に限界を迎えて夢幻召喚も剥がれ落ちている。それでも両手に握る炎の剣を携えた芥ヒナコが止まる理由なぞどこにもなく。二人の距離は今、ここに焼け落ちていた。

 

「ぐっ! いやぁお見事、です……」

 

「手間かけさせてくれたわね、ホント」

 

 縫いつけるようにギルの肩に剣を突き刺した芥ヒナコが、もう一振りの剣を首元に添える。磔の形になった小さな暴君が、またも楽しそうに笑う。

 

「まだ笑うのね、お前」

 

「そりゃあ、そうでしょう……! こんな形で、こんなところにまで召喚された甲斐があったんですから、その末の悦びを噛みしめなくて、なんだって話、でしょう?」

 

「英霊って、まさかお前みたいなのばっかりじゃないでしょうね?」

 

 そんな光景を眺めながら、ようやく私は息を吐いた。既にバーサーカーのカードの夢幻召喚は解いているが、それでも流石に疲労の色が隠せないでいた。しかしまだ、戦闘は終わっていないのだ。

 

「一つ答えると言ったな。お前たちの目的はなんだ」

 

「あぁ、そうでしたね。目的というか、理由を教えると、実はね」

 

 身体の一か所を貫かれているとは思えないままに、小さな王はその答えを口にした。

 

「――事故、なんですよ」

 

 

 

 

【side:なし】

 

 雷鳴が轟く。船の上、晴天の下へと上がっていくその衝撃を、ドレイクは確かに感じた。

 

「くっ!」

 

「!」

 

 甲板から上がってきた攻撃で体勢が崩れたシンジに、ドレイクは瞬時に照準を合わせる。後は引き金を引くだけとなった瞬間に、黒い巨体がピクリと動き始めた。

 

「■■■っ!?」

 

 再びの雷鳴。再びドレイクへと矛先が向くよりも早く響いたそれが、更なる硬直を生んだ。

 

「これでも喰らいなァ!」

 

「ぐああああっ!」

 

 そんな好機を見逃すはずがなく、ドレイクがありったけの弾を瞬時に放った。

 至近距離での着弾による衝撃が響いたシンジがのけ反る。だが倒れこむことはなく、一歩下がった足で何とか身体を支えていた。

 

「くそくそくそくそくそ! やってくれるな、おい!」

 

 夢幻召喚しているために生身よりも耐久値は増しているのだろう。それでもダメージが受け入れられない様子でシンジは下方向、甲板の下へと意識を向けた。

 

「こそこそしやがってうっざいんだよ! 一度落ちたのならそのまま伸びてろっての!」

 

 シンジの言葉と同時に、船全体が大きく揺れる。ドレイクからは見えなかったが、振動が足元からしたことから甲板下での出来事が原因だと推測した。

 

「うわぁっ!?」

 

「フジマル!」

 

 事実、慌てた様子でフジマルが甲板下から飛び出してくる。確実なダメージが手足に見て取れるが、まだ戦えることに違いはないとドレイクは判断した。

 

「さっきは助かった! けど本当に大丈夫かい?」

 

「……多分。ちょっとだけ痺れが残ってるけど、戦えます」

 

「いいねぇ、悪くない顔つきだ! 男ならそうじゃなくちゃね!」

 

 激励の意も込めてドレイクがフジマルの背中を叩く。ちょっと倒れそうになったフジマルが苦笑で返した。

 

「やっぱりむかつくんだよ、お前。ドレイクさえ倒せれば見逃してやってもよかったのに、なんでそこまでしちゃうかなぁ?」

 

「間桐、シンジ……」

 

「そうだ、お前が悪いんだ。だからさ、倒されてくれよ。――カルデアのマスターァ!」

 

 間桐シンジが、自ら剣を持った。同時に矢と魔力弾が空中に出現し、巨人が甲板を蹴った。

 彼が今持つ全ての戦力。それらを総動員して叩きのめすことを、言外に宣言していた。

 

「来るよ――!」

 

 突っ込んでくるのならとドレイクは砲門を複数出現させ、半ばカウンターの形で待ち構える。

 その前方で剣を構えたフジマルは、その戦力差を正しく看破した。このままでは足りず、敗北は必至であるとどうしてか分かってしまった。だから、空いた手で一枚のカードを取り出し握る。

 

 ――思い出すのは、先日の一幕。

 

 

 

 

「やっぱり芥先輩は凄かったなぁ……」

 

「どうしたのですか? フジマル」

 

 ワイバーンハントを終えた後のこと。手ごろな岩に腰かけて呟くフジマルにアンジェリカが声をかけた。

 

「初めて見たときも思ったけど、俺とは動きが違うなって。Aチームの人たちって皆そうだったんですか?」

 

「そうですね。カルデアの実行部隊として第一線を張るに足る実力は持っていましたから」

 

 よくよく考えてみればフジマルが別のマスターを見ることは珍しいことだと気づく。現状唯一のマスターである以上他の心当たりを見ることは出来ず、それこそ例外としてあの岸波白野と出会えたくらいだろう。カードを得て暴走している黒化英霊よりも洗練されて見えるのは当然と言えた。

 

『そうかしら? 確かに芥の成績は並以上ではあるけど、乱暴な印象を受けたわ』

 

「え? 乱暴でしたか?」

 

『私も芥が戦う姿を見るのは初めてだったの。確かに最良といわれるセイバーのカードに恥じない性能だったけど、それだけじゃないような気がして……』

 

「ひょっとして、霊基再臨(れいきさいりん)のことでしょうか」

 

「霊基、再臨? 何ですかそれ」

 

『おかしいわね、私も初耳なのだけど』

 

「知らないのも無理ありません。そもそもが使用頻度の低いクラスカード、その更なる応用なのですから」

 

 カルデアのトップなのに知らないことをフジマルに突っ込まれてまくし立てる所長を宥めるようにアンジェリカが言う。

 

「クラスカードと使用者には相性があり、それによって引き出せる英霊の側面が違うことすらあります。相性がいいクラスカードを使用者が使い込むことによって、もう一段階上の霊基として自分の身に宿すことを、便宜上霊基再臨と呼んでいます。芥ヒナコはそれを済ませたカードの持ち主なので、動きが違って見えたのかと」

 

「へぇー。流石はAチーム!」

 

『感心してる場合じゃないでしょう!? だったらあなたも霊基再臨するべきに決まっているじゃない』

 

「いや、そう簡単に出来るものじゃないんじゃないんですか!? 俺なんてまだ恰好も変わらないのに……」

 

「はい、私もそう判断していました。所長の言う通りいずれは到達するべきポイントではありますが、今はまだ焦燥かと」

 

 少し申し訳なさそうに目をそらしたフジマルにアンジェリカがフォローを入れる。既にスパルタで訓練を積んでいるのだ。これ以上の詰め込みはマイナスにしかならないと考えられていた。

 

『はぁ、まぁいいわ。けど私も知らないってことは、あと誰が霊基再臨出来たの?』

 

「知る限りでは、Aチームでも数人かと」

 

「なるほど……。ちょっとコツとかないか聞いてきます」

 

『えぇそうね。……え、どんな行動力!?』

 

 

 

 

 迫りくる黒き嵐を、今一度まっすぐに見据える。荒波には逆らうのではなく、いなし踏破する術が求められる。流れるようなその動きを実現する為に思いついたのは、辛うじて一つだった。

 

 力を入れて、握る感触を確かめる。今一度、内なるものと向き合う為に。

 

「あなたの技、貸してください――」

 

 一呼吸。目蓋の裏を過ぎる背中に手を伸ばす。

 一呼吸。彼の構え方をなぞる様にトレースし、(かたな)を水平に保った。

 

『よく知ってたから。それだけ』

 

 霊基再臨を為していた彼女がくれた手がかりはそれだけだ。けど、まさしくそれが正解なのだろうとフジマルは感じた。クラスカードで自身に置換する英霊。彼らのことをよく知らなければその力をより引き出すことなど出来ないだろう。

 

 模倣では足りない。音速の凌駕に神速を持って応えるように。その域に足を踏み入れる為のカードにもう一度力を込めた。

 

夢幻召喚(インストール)――」

 

 自身に別の力が宿るのを感じる。だけどそれだけじゃ足りないから。今必要なのは英霊もどきではなく、真にその力を振るう英霊そのものだ。だけど今ここにいるのは自分だけだから。

 

 だから、その技に自分の全てを委ねるように意識を注いだ。

 奇しくもその姿勢が件の英霊が境地に至る際の気概に通じるモノであり、新たな扉を開く鍵と認められたことには気づかないままに。

 

燕返し(つばめがえし)……!」

 

 突進を止める為に繰り出された目にも止まらぬ斬撃が、全く同時に三方向から現れる。今度こそは完全なる対人魔剣が、唸る猛攻を両断した。

 

「■■■っ!!!!」

 

 しかし勢いまで殺すことは出来ず、フジマルの目前にその巨体がそのまま砲弾の様に迫りきていた。一度振り下ろした剣を戻すその一瞬すらも見越したような一手に対し、フジマルが打てる手はない。

 

「ここ、だぁ!」

 

 だからこそドレイクが、その間に割って入る。甲板に対して並行に放たれたドレイクの大砲が無理やり巨体を弾き出した。

 

「この僕を舐めるなよ、お前らぁ!」

 

 頼みの綱が千切れたことを知って、今度はシンジ自ら剣を握って雄たけびを上げた。しかし距離を詰めるフジマルの目は冷静にその動きを捉えていた。

 

「――遅い」

 

 その言葉が自分の口から出たものであることに気づくよりも早く、勝敗はついていた。剣を振りぬいた体勢のままのフジマルと、剣を取りこぼしたシンジ。一拍遅れて血しぶきが舞い、弾ける音と共に夢幻召喚が解除されていった。

 

「くそ、くそ! なんで僕がまた、こんな……!」

 

 呻き声と恨み言が混じるシンジの姿を、振り返ったフジマルが視界に捉える。鮮血に染まる胸元を必死で抑えた苦渋の形相の彼と目が合う。

 

「あ、れ……?」

 

 何か信じられないモノでも見たかのようにフジマルが青い顔になったのを見て、シンジがふざけるなとばかりに口を開いた。

 

「なんだよお前、勝った奴がなんて顔してんだよ。どこまでも僕をおちょくりやがって……っ!」

 

 怒りに震えた声が、ドレイクがシンジの頭に銃を突きつけたことで中断される。

 

「さてと、これで死ぬのは何度目だい? どういうからくりかは知らないけど、いい加減死んでくれると嬉しいんだけど?」

 

「お前だけには言われたくないね! そもそもなんで僕がこんな所にいると思って――」

 

 衝撃音。しかしドレイクは引き金を引いていない。シンジでもフジマルの仕業でもなく、その場の3人がその音の方を向いた。

 

「おいおい、今度は何だって言うんだ!?」

 

「知らない、僕もあんなの見たことないぞ!?」

 

 何もないはずの海から空へと伸びる謎の物体。煤のような黒い柱にいくつもの目玉が模様として渦巻く混沌が顕現していた。

 

「アンジェリカさん、芥先輩!」

 

 彼女らが戦っていたはずの方角に、安否を問うフジマルの声が空しく響いた。

 




勢い。
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