・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
「事故、ですか」
私、アンジェリカは火縄銃の上でその言葉を反芻した。間桐シンジと英雄王がこの特異点で敵対する理由として語られた言葉。故意である事件ではなく事故であるとのたまうことの真理を、問い詰めなければならない。
「そう。別に僕たちが率先して世界を滅ぼそうだとか、その為に動いてるわけじゃないんだ。その片棒を担いでることは否定しないけどね」
「…………」
「ちょっと、芥ヒナコさん? 別に嘘なんてついてないんだから剣に力込めないでくれない?」
芥ヒナコの剣によって船の玉座の背板に縫いつけられたままの状態でクレームを入れるギル。対する彼女はクレームを無視して、無言のままに続きを促していた。
「本来であれば僕がこの姿で呼ばれることもなかった。不完全な召喚、そして突発的な役割。僕からしたら、いや彼からしてもこれは事故みたいなものなんだ。仕方ない事情は色々とあるけどね」
「不完全な召喚とはどういうことです。あなたを召喚したのは間桐シンジではないのですか? それに今の言い方では、あなた達に役割を与えた何者かがいるということになりますが」
「問題点を洗い出すのはいいけどね、人形のお姉さん。僕はあなた達の求めるヒントを全て与える義務はないんですよ?」
「…………」
「……僕は一つくらいヒントを、と言ったんです。まだ舞台は中盤なんですから、山場に差し掛かる前にネタばらしはそれこそ興覚めですし」
それに、と不意にギルが視線を頭上に向けた。気づいた芥ヒナコが剣から手を離すのと、空からの飛来物によって船が揺れるのが同時だった。
「ちっ!」
「ふん!」
芥ヒナコが握りなおして振るった剣を、その男は片手で受け止めた。着地してすぐの奇襲にも動じずに、芥ヒナコへと小さな驚きと失笑を浮かべる。
「おや、まさかキミの顔をまた見ることになるとはな。全くどいつもこいつも好き勝手に動き回るものだ、反吐が出る」
海原にそぐわぬ厚手の緑コートを纏い、不機嫌そうな顔を帽子の陰から覗かせるその男を見て、真っ先に通信音声が響く。
『レフ! なんであなたがここに……!』
「それはこちらの台詞だよ、オルガマリー。尻ぬぐいの為にこんな所まで出向くことになるとは思わなかったさ。私も忙しいんだがね」
人類を裏切り敵となった男、レフ・ライノール。第二特異点で現れた時のように悠々とした態度で私たちと対峙していた。
「何故このタイミングで現れたのかは問いません。覚悟してもらいます、レフ・ライノール」
「フッ、あの引きこもりが出てきたと思ったら随分威勢がいいじゃないか、アンジェリカ。大方マリーに引っ張り出されたんだろうが、残念なことだ。私としてもキミのことは評価していたんだ」
「ありがとうございます。しかし今更がすぎますね」
レフを見据えながら、裏で再び不意をつくべく火縄銃を用意する。ギルとの戦闘での疲労はまだ癒え切ってないが、泣き言は言えない。
「全くだ。マリスビリーの気紛れで工房に籠っていれば見逃してやったものを」
「あのー。それで確認したいんだけど何しに来たんですか、2017年の担当者さん?」
「……失敗作とはいえ、やはりあの英雄王ではあるようだな。令呪で縛られていてなおそこまで傲岸不遜に振る舞うか」
「生憎そうしない理由がないもので。他人を尊重こそすれ自分を抑える必要なんてないですし」
縫いつけられたままのギルは突然の闖入者に全く動じていなかった。そんな態度も気に入らなかったのか、レフは乱暴な手つきでギルの細い首を掴み言う。
「カルデアのクソ共には感謝せねばならないな。この扱いの困る暴君を適度に痛めつけてくれた。おかげで処置が施しやすいというものだ――」
「おい。何を履き違えている?」
言葉を発した暴君以外の誰もが呆気にとられる。首を掴まれたと思った瞬間、ギルの怒りが宝具の射出という形を持って為された。もちろんゼロ距離でそれを受けたレフの身体が耐えきれるはずはない。
「ぐっ、がはっ!?」
「この僕はいうなれば観客。お互いの行いに必要以上の干渉をしないのが不文律だろう? 童の姿とはいえその不敬を許す
「英霊、ごときが……!」
「たかが一度殺した程度でしょう? 此度の僕への二度の不敬、それで済むだけマシさ」
私たちと対峙していた時とはまるで違う、王に相応しき冷酷な目でギルは不届き者が消えるのを見届けた。先ほど弾を込めた火縄銃のことも忘れて、その光景を眺めるしかなかった。
『え? レフが、死んだの? じゃあこれで、特異点は――』
「違う、まだ何かある!」
レフ・ライノールが消失してなお、重苦しい雰囲気が霞まない。呆然としながら呟く所長の声を遮るように叫び、距離を取ろうとする。
私と同じように異変を察知した芥ヒナコも退避を始めるよりも速く、それは起こった。
「――顕現せよ。牢記せよ。仮初とは言え僕の身体を使うんです、精々派手なクライマックスを迎えてくださいね?」
自分の身体の輪郭すらも歪ませながら、ギルを中心に禍々しい光が一帯を包み込んだ。
☆
【side:オルガマリー】
「今度はなんだいありゃあ!? あんな黒い柱がいつの間にどうやって建ったっていうんだい」
『詳細は不明、だけど敵性個体であることは間違いないわ。今はアンジェリカ一人で精一杯なの、急いで!』
謎の柱の出現によって、フジマルたちは間桐シンジとの戦いから間髪入れずに移動を強いられていた。各々魔力を消費しているために船での移動に頼らざるを得ないのが、通信機越しに観測している私からしてももどかしいものがあった。
「なんか、空模様も怪しくなってませんか? 風もさっきからおかしいし」
「……あれが原因だってことだろ。おいドレイク、この船大丈夫なんだろうな?」
「アタシの船にケチつけようってのかいシンジ? 乗せてやってる分際で文句とはいい度胸じゃないか。アンタを船から叩き落とせば軽くなって速度が出るかもしれないね」
「おい安定させるなら軽くしすぎるのも駄目なんだからな!? さっきから船員共の視線が痛いんだから船長のお前がそんなこと言うなよ!」
縄で両手を縛られた状態で座らされたまま騒ぐ間桐シンジを見ると、なんだか緊張感が失せるので気にしないことにする。
件の間桐シンジの処遇は無力化した上での捕虜となった。夢幻召喚の解けた状態でカードも没収したため、問題はないという判断だ。彼から聞き出さなければならないことも多いので、命を奪うにはまだ惜しい。
「それで、どうしてアタシたちを狙ったんだい? いい加減に吐いてもらおうか」
「それはさっき言っただろ、お前を倒すためだって。お前が持つ聖杯を奪えばそれが証拠になる。その為にギルガメッシュまで呼んだんだぜ?」
彼は自慢げにそう言うが、先ほどのギルの言葉を信じるのならその証言は怪しいものだ。
『……あなたの言うことが本当なら、あなたはこの特異点にやってきてたった一人で聖杯を手にして英霊を召喚したことになるわね』
「ああ、それが何だって?」
『けど、あなたの部下であるはずのギルはこうも言っていたわ。全ては事故のようなものだ、と』
「! あいつ、簡単に負けた癖にそんなことまでペラペラ喋ったのかよ……!」
実際は一矢報いたレベルの激闘であり、彼の口から語られたのはその一点だけなのだが、間桐シンジにその旨を知るすべはないのだろう。というよりそうやって悪態をつくこと自体が裏付けとなっているのだが、そのことに彼は気づいているのだろうか。
「負けた上にまだ何か隠そうってのかい? 男ならそんなみっともない真似するんじゃないよ」
「はいはい、史実レベルで男と間違われた奴の言葉は説得力が違いてててっ!」
ドレイクに頬を引っ張られて涙目になる間桐シンジが、観念した様子で口を開いた。
「あぁ、そうだよ。僕はこの特異点とやらの形成には関与してない。元々こんな所に放り込まれたのは別の理由だよ。ついさっき思い出したことなんだけどさ」
「こんな所に、放り込まれた?」
「そりゃこんな所さ。海がただ広がるばっかりで碌な町もありゃしない。記憶も曖昧なのにそれでどうやって人を探せっていうんだか」
『外部の者、それに記憶喪失。どこかで聞いた話ね』
フジマルも同様の心当たりがあるのか、私の呟きに頷いた。唯一心当たりのないドレイクが、その核心を突く。
「それで、アンタは誰を探しに来たんだい?」
その名前を問われた間桐シンジが懐かし気に吐き捨てる。
「岸波。岸波白野だよ」
「その名前は……」
「なんだ、やっぱり知ってたのか」
『何となく、そんな気がしていたけども』
そう感じていた別の理由である彼の服装に目をやる。夢幻召喚が解けた下に纏っていたのは黒一色を基調としたズボンと上着、すなわち極東での学生服だった。更にその左胸の辺りに三日月を模したエムブレムが施されている。
「確か月海原学園、だったっけ? その学ランって」
「そこまで知ってるのか……。どこで会ったかは知らないけど、どうせこの特異点にはいないんだろ?」
『彼女と会ったのはセプテム、年代のローマよ。漂流者と言っていたからまたどこかで会うのかもしれないけど、この特異点では会っていないわ』
「やっぱりか。それに漂流者だって? 本当にわけわかんない奴だな……」
尋ね人がいないことは間桐シンジにも分かっていたのか、そう聞かされても驚きはないようだった。けれど視線を逸らしたその顔は、取り残されたことへの寂寥感を思い起こさせた。
「それで? そいつを探してるアンタがなんでアタシと戦ったわけ? それとこれとは関係ないような気がするんだけど」
「うっさいな、僕もよく覚えてないんだよ。ここに来た当初は誰かを探せってことしか分かってなかったんだ。それでも何とかやってた時に、カードとギルを貰う代わりに頼まれたんだよ。お前たちと戦えってさ」
「カードとギルガメッシュを貰った!? どんな大富豪!?」
『なんで大富豪だと思ったのよ。というよりそんなことが出来るのなんて一人しかいないじゃない』
特異点に容易に侵入し、カードと英霊召喚を行うことが出来る人物。そして私たちカルデアと敵対しようとしている者と言われて脳裏に浮かぶのはあの男だけだった。
「確かこう名乗ってたぜ、魔術王の使いだって」
『魔術、王?』
出てきたその単語に僅かに言葉が詰まる。頭の中で点と点が繋がりそうな感覚と、それが信じられないという困惑が同居する。私以外はピンときていないのか、フジマルが先の話を促していた。
「そいつが俺たちと戦えって言って、それに従ったのか?」
「……事情は聞いてないけど、断れる状況じゃなかったしな。ドレイクがいることは既に知ってたから、ちょうど良かったんだ」
「じゃあアンタは、本当にそれだけの理由でドンパチを始めたってのかい!?」
「なんだよここでどうしようたって僕の勝手だろう!? どうせアイツがいないことは分かってたし、カードなんて面白いものもあるんだ。ちょっとくらい戦ってみようと思うだろ!?」
『そんな遊び気分で人理焼却の手助けをされる身にもなってみなさいよ……!』
事情聴取のつもりが思った以上の内容で辟易としてしまう。岸波白野の関係者という時点で敵対する理由に疑問を抱いていたが、よもやここまでとは。
「けど自分で戦ってみて分かったよ。これはやっぱり違う。この僕が前線で自ら戦うだなんて汗臭い真似するもんじゃないね」
「負けたから?」
「おいそこ聞こえてるからな!? なに微妙に調子悪い顔で鋭い言葉のナイフ投げてるんだよ! これはそう、適性って奴だ。僕はプレイヤーとして全体を指揮する役の方が向いてるって話」
ぎゃあぎゃあと叫ぶ間桐シンジの格が私のなかでどんどん下がっていく。こんなのでも脅威にせしめていた立役者であるカードとサーヴァントがどれだけのものなのか、改めて認識出来た気がする。
「まぁそうかもね。悪徳貴族みたいな奴が海賊だなんてぬかして殴りこんできたのはどうもおかしかったからねぇ。アンタは後ろの方でピーチク文句を言ってる方がしっくりくるよ」
「……なんだよ、見てきたみたいに言いやがっ――」
響くのは何かが通りすぎる時のような甲高い音。
『魔力反応よ!』
会話を断ち切る私の声と、接近していた柱から光線が放たれるのが同時だった。
「遠距離攻撃ばっかりだ最近!」
一キロを切った段階で船を狙って飛んできた魔力の塊を、フジマルが
「この距離から撃ってくるのか! ……よし大砲は当たるね! 野郎ども、もうひと踏ん張りだよ!」
「「「おいさー!」」」
聖杯を持つからか、船の改修結果からか、ドレイクの黄金の鹿号の砲撃はあの柱に届いているようだった。出番だとばかりに船員たちが慌ただしく動く中、飛んできた光線をフジマルたちが防いでいく。決定打を与える為にはもう少し接近しなければならない。
「来ましたか、フジマル」
「アンジェリカさん!」
「おお、無事だったか! ……って」
光線かと見紛う速度で船に飛んできたのは長い金髪をなびかせたアンジェリカだ。間桐シンジへの詰問中も空中で柱とやりあっていた彼女は、ようやくまともな足場に着地出来たことで大きく息を吐いていた。
「ギルに一矢報いた所でレフ・ライノールが現れました。彼を仕留めることも出来ずにこの体たらくです、申し訳ない」
「ギルを相手取ってるだけでも凄いから。いやそうじゃなくて! そのヒビは……!」
呆然とした様子でフジマルが指さすアンジェリカの身体には、出血や裂傷を超えてヒビが入りだしていた。しかし当の本人は指摘されて初めて気づいたのか、左腹部に手を当ててフムと唸った。
「いえ、戦闘に支障はありません。感覚も麻痺してきているようですし、問題はないかと」
「ありますよアンジェリカさん!?」
「それよりもあの柱の撃破を急がなければ。気づいていると思いますが、芥ヒナコが取り込まれました。急を要するので行けますかドレイク、フジマル」
「くそ、何がどうなってんだか」
「! 芥先輩……」
皆の視線が柱に向く。フジマルはアンジェリカの負傷を流すまいとしていたが、グッとこらえて目の前の脅威を見据えた。
その視線を感じたのか、同時に柱がその目を大量に見開いた。生物の血が通っているとは思えぬ赤黒い瞳が一斉にこちらを覗く様は、まさしく怪物のそれに相応しい光景だ。
「げぇ! 気味が悪い柱だね全く!」
『おぞましいわね、これがあの魔神柱だっていうの……?』
「所長、何か心当たりがあるんですか?」
『もしさっき言ってた魔術王の使いが本当ならね。けど確証がない今は正体を探るよりも、撃破と芥ヒナコの救出が先よ』
「アレの中に芥先輩が、いる……」
見たことのない魔力反応の中に、彼女の生存を示す信号が僅かに入り混じっていた。けれどそれがいつ消えてしまうとも限らない。フジマルは撃破よりもそこに焦点を置いてるような気がするが、今は同じことだと割り切る。
障害だった間桐シンジに勝利し、高い壁だったギルも謎の柱へと姿を変えた。レフも亡き今残る最後の障害こそこの戦いなのだろう。全員満身創痍もいいところだが、私に出来ることは勝利を祈ることだけだ。
『大丈夫よね、フジマル?』
「……はい!」
先ほどからあまり顔色が優れないフジマルに声をかける。カードを二枚取り出したフジマルが返事をしながらうなずいた。
『気を引き締めていきなさい!』