夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#15 最悪な彼ら

 

【side:???】

 

 ずっと、悪夢の中にいるようだ。

 

 あの別れから覚めることのない悪夢を見続け、終わりのない絶望を味わい続ける毎日。

 悠久の時の中を流れ続けても、失ったあの方のことだけを考え続けるだけの存在。それが私だった。

 

 あの男の口車に乗り、いつしかカルデアなんて組織に腰を落ち着けていた。何もかもが偽りだけど、それでも見出してしまった微かな希望の為に『この私』を受け入れた。

 

 レイシフト。英霊召喚システム『フェイト』。

 

 そのどちらも人間の手には余る代物だ。けれど私の望みに届くかもしれない細い糸だったことに変わりはない。最も、その糸がちゃんと繋がっていればの話だが。

 

「そう。…………そうか」

 

 英霊召喚は出来なかった。システムの精度だ安定性だなんだはどうだっていい。その一点だけで私の視界は色褪せていった。むしろ色褪せるだけの余地があったことに驚いたくらいだ。

 

 当たり前だ。遥かに強大な力を持つ英霊を人間が使役するなどあまりにも傲慢。けれどそんな奇跡の光を求めてしまっただけに、それを見失った後は悲惨だった。

 

 カルデアにいる理由の半分がなくなったのだ。過去に飛ぶレイシフトもあるが、よほどの事態にならなければあの地へと赴くことも出来ないだろう。それを悟った私は、ただ役割を果たすだけの存在になり果てた。

 

 マシュと言う名の少女に宿った英霊の盾があれば可能性があるそうだが、それもいつになるのか分からない。無感情に、無機質に、流れゆく時に身を任せ続けていた。

 

 

 

 そして運命の日。初めてのレイシフトが決行され、コフィンの中に身を押し込めていた最中、その事件は起こった。正確には熱と衝撃で意識が飛んだことで初めてその事態に陥ったことを認識したのだが。

 

「ここは……」

 

 気が付くと私は青空の下に立っていた。照りつける日の光で細まった目が大海を捉え、小さくない動揺の波を感じた。まず間違いなくここはカルデアではない。そして本来レイシフトするはずだった冬木とかいう極東の町でもない。どこかの島の砂浜のように見えた。

 

「一体なんなの、よ……?」

 

 混乱のあまり頭を抑えようとして、ゆらりと身体が揺れる。それが立ち眩みに近い現象だと気づき、改めて今自分が置かれている状況を再認識した。

 体力魔力の類を失い、とてつもなく消耗している。その気になればガス欠とは無縁であるはずの私でも、今奇襲を受ければどうなるか不明瞭になるくらいには危険な状態だった。

 

「レイシフトしたから……? いや私でこうならただの人間に耐えられるはずがない。なら別の要因か」

 

 記憶というよりは身体に刻まれた記録を呼び覚ましていく。元より自身の肉体が■■しても■■出来るのが私だ。今までの経験と合わせて、意識が飛んでいても何をされたかくらいは嫌でも分かる。

 

「爆発に巻き込まれて、レイシフトして、魔力を奪われた……。いやどういうこと?」

 

 そうして何をされたかは突き止めても、どうしてかが分からない。恐らくその流れで気を失い、時間経過で回復した魔力によって覚醒したのが今現在なのだろう。

 結局その全ては終わった話であり、解明にはそれこそ過去に戻る以外の方法はないように思えた。

 

「周りに気配はなし、連絡手段もない。空気もどこかおかしいし、どうしたものかしら」

 

 見知らぬ地に一人の現状だが、辟易とはしても一抹の不安もなかった。元より私の立ち位置は変わっていない。考えようによってはカルデアともこれで縁が切れるかもしれないと思うと、どこか気が楽にすらなっていた。思うところがないわけでもないが、煩わしさから解放されたという感覚の方が強かったからだ。

 

「これからどうするにしても、もう少し情報がいるわね」

 

 いつまでも炎天下に身を晒し続けるのも嫌だったので、とりあえず動き始めることにした。

 今いる島は決して大きいわけではなく、数刻と経たずに何も見つけることなく一周してしまった。

 その時に浜の端で見つけた小舟に人間の存在を感じて少しテンションが下がったが、ならばと乗り込んで適当に海を進むことにした。どこかに港町があるかもしれないと、淡い期待を抱きながら。

 

 

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

 それは全くの偶然だった。何とか辿り着いた島の港町。騒々しい海賊どもを避けた路地裏に、響く少女の声。聞き間違いかとも思ったが、漏れ出る青い光がその疑いを否定した。

 

「聖杯の寄る辺に従い、人理の轍より応えよ」

 

 この時代で聞こえるはずのない、そしてそもそも出来るはずのない召喚。それを行おうとしている時点で異常事態だ。急ぎ足で、それでいて隠密に近づいていく。慣れでつい人目につかないように動いていたが、近づくうちに間違いではないように思えた。

 

「人理の轍より応えよ、天秤の守り手よ――!」

 

 気づかれないギリギリの距離を保ってその行く末を見守る。光が収まっていくにつれて、新たな人影が一つハッキリとしていった。小さな金髪の少年が、不思議そうな顔を浮かべていた。

 

「おや? この姿で呼ばれるなんて珍しい。というより全部がおかしいのか」

 

「おい、コイツがあの英雄王ギルガメッシュなのか? 僕より小さいじゃないか」

 

「失礼ですね、ってアナタが僕のマスターなんですか。……えぇー、本当に不可思議な状況ですね」

 

 金髪の少年にマスターと呼ばれたのはくすんだ青髪の若い男だ。二人とも見たことがない顔だったが、その場にいるもう一人は見知った顔を僅かに下に向けていた。

 

「やはり召喚する条件が安定しませんね。けどもう少しすれば、きっと……」

 

 決意を新たにする一人の少女。カルデアAチームの一人であるマシュ・キリエライトがあの盾と共にそこにいた。しかしその時点で私の理解要領が限界になっていた。

 

(なんであの子がここに? 一緒にいる奴らは誰? いやそんなことはどうだっていい。肝心なのは英霊召喚を成功させたってこと。じゃあ、もしかして――)

 

 細かい理屈は意識の外に飛び、ただ望みが叶うかもしれないという光に目が眩みかけていた。これは言わば不意打ちで与えられた希望だ。だからこそ我を失い、動揺を隠せなかった。

 気づけばあの三人の姿はなく、新たに明確な目的を持った私だけが残されていた。

 

「どこへ行ったの、マシュ」

 

 取り出したカードに力を込めて夢幻召喚を行う。舟なんてもう使っていられない。すぐにでも後を追いかけて英霊召喚を行わなければならない。それこそ私がカルデアに来た理由の一つだ。目の前にぶら下げられて、手を伸ばさない道理はなかった。

 

 

 

 そうして海原を駆けて辿りついた船上であの二人を見つけ、割り込むようにして甲板に着陸する。そこにいた人間が見覚えのある恰好だったから、何となくそちら側に立っていた。

 

「――全く、くだらないわね」

 

 その時点で初めて、この二人と敵対してしまったことに気づく。あの時姿を隠していたこと、とっさにカルデア側に立ってしまったこと。煩わしいと思って無意識に流されていたことが存外影響を与えていたことが分かって、本当に辟易した。けれどマシュの姿もなかったので、ただこの状況をどうにかすればいいと冷静な思考が回りだした。

 

 こうして私はカルデアと合流してようやく正しい状況を理解した。けれどそんなことよりもマシュとの合流だけを主題として、その方が手っ取り早いと判断して行動を共にすることを決めた。場合によってはカルデアを裏切ることすらも視野にいれたから、必要以上に関わるまいとして距離をとることにした。……結論から言って、あまり実りがなかったのだが。

 

「何の本読んでるんですか?」

 

 カルデアの指定制服をそのまま着ている所為か特徴に欠ける人間。役割がなければ交わることなぞない世界の住人だ。互いに感じているであろう物珍しさこそあれど、興味は湧かなかった。けれど人間の側は違ったようで、定期的に絡んできて鬱陶しいことこの上なかった。

 

「芥先輩もマシュを探してるんですか?」

 

「……違うわ、必要だからよ。私がここにいる、最低限の理由として」

 

 だからだろうか、そこだけは確かな言葉に表した。仲間だと勘違いしている愚かな人間への通告として、厄介払いの意を込めに込めて。けれどこいつはその後も勘違いをやめなかった。

 

「芥先輩! ワイバーンの途中だけど話をしましょう!」

 

 むしろ勘違いをしていたのは私の方だとすら思った。コイツは馬鹿の類だ。とびきりの阿呆だ。私の思い通りには動かないタイプだということをようやく認識した。それですぐに隙を突かれそうになってるし、何なんだコイツは。

 

「俺は芥先輩が来てくれたことが、仲間になってくれたことが嬉しいなって」

 

 疑いを知らない真っ直ぐな瞳。その瞳が捉えているのはきっと私であって私ではない。コイツとの間に存在する齟齬があまりに致命的なのに、それを知るのは私だけであるというジレンマが余計に煩わしかった。

 

「おまえ達と私は相成れない。私のことなんて知らなくていいの、おまえは」

 

 ありもしない『私』を求めても虚しいだけだ。いっそ憐れみすら込めて私は言葉を投げた。

 

 この手の愚か者は別に初めてではない。永い時を過ごしていれば、私に好印象を抱く変わり者もいなくはなかったからだ。

 けれどその全てと決別した。ある時は裏切り者と罵られ、ある時は化け物と恐れられたこともあった。別に人間であろうとしたわけではない。ただそう見えただけの私を受け入れられなかったというだけの話だ。私から居場所を求めたことなどなかったというのに。

 

「アンジェリカさん、芥先輩。頼みます」

 

「…………そうね」

 

 だからただ一言、言葉を返した。強さと立場、そして僅かな時間での接点から編み出した『私』を信じた愚か者へ、先輩としてせめてもの矜持として。

 

 

 

「マシュ・キリエライトはどこなの?」

 

 気が付けば私は敵対していた。そもそも協力していたこと自体気紛れだったような気もするから、あまり気にする節はなかった。何かが囁くように、己の願いを実現せんとして動き出していた。

 

「その為に私はここにいる。その為に私はここまで来たの」

 

 カルデアの人間ならマシュを知っているだろうと思って合流したが、いつの間にかムカつくガキと戦っていた。別に英霊召喚をしたいだけならこいつらとも戦う必要は別にないし、そもそもカルデアとも袂を分かっているならさっさと一人で行けばいい。それを、こいつ等は良しとするだろうか?

 

「邪魔、しないでくれる?」

 

 そう口にすると、予想の通りそうはさせまいと動き出した。そのしがらみが不思議と今は鬱陶しいとしか思えない。その極めつけが『私』の名前を呼んだ。

 

「芥先輩」

 

 カルデアが有する最後のマスター。やはりこの人間はブレなかった。私が刃を向けても悪意一つ見せずにそう宣う人間を見て、謎の安心感すらそこにあった。私に恐怖を見出すのではなく、その刃を交えることに気後れしたのだ。よくもそんなことにすらためらう人間が戦場にいるものだと感心してしまうほどだった。

 

「必ず、たすけます」

 

 そこまで言われればどんな状態の私でも理解する。コイツは物好きなのだ。どんな理解の出来ない存在であっても、きっとそのありのままを受け入れようと力を尽くす人間だ。

 

「先輩が強すぎて、こんな手しか浮かばなかったんです。だから耐えてください」

 

 そのくせして容赦ないときた。ある程度本来の力を使う私を相手にして生き残り、撃破までこぎつける手練手管はなるほど最後のマスターとして申し分ない。いっそ笑ってしまうほどに。

 

「…………お前、後で一発殴らせなさい」

 

 いややっぱりムカつく。ただの人間、いやおかしな後輩にここまでされるなんて。

 

(本当に、生意気だわ)

 

 ずっと、悪夢の中にいるような感覚。

 それをこの特異点に来てからは忘れていることに、ついぞ私は気づかなかった。

 

 

 

 

【side:オルガマリー】

 

「アンジェリカさん、芥先輩は……」

 

「意識はありませんが命に別条はないかと。無論一刻も早く治療する必要はありますが」

 

 力なく横たわる芥を診察したアンジェリカが冷静に告げる。その言葉を聞いてフジマルはようやく胸をなでおろした。

 

「とんでもない奴だったねぇ芥は。けどこれで万事解決、だろ?」

 

『そうね。彼女から分離した聖杯も収納したし、あの柱の魔力の反応もないわ。これでこの特異点は――ほら』

 

 フジマルたちの乗る船の揺れは収まり、甲板を叩く雨音も止みだしていた。戦いは終わったが、それを称えようとする元気は誰にもないようだった。

 

「ああ、見りゃわかる。嵐も止んで、この海は終わるんだろう? けどこれは始まりだ。つまりはアタシたちの海が戻ってくるってわけだ!」

 

「「「おおおおーーーーい!!」」」

 

 そんな空気が我慢ならなかったのか、ドレイクが高らかに勝利宣言する。釣られて他の海賊たちも歓声に湧いた。彼らも目に見えない所で尽力した者たちだ。日頃の行いはともかく、これまでの戦いにおいては必要不可欠な存在だった。

 

「って俺たちから消えてるじゃないかー! こっちもそんなに悪くなかったからなー!」

 

「全くだ、こんな冒険久々だった! フジマルも達者でな!」

 

「アンタたちはもう海賊とは関わるなよー!」

 

 一人、また一人と去っていく彼らを私たちは見送っていく。

 海賊なんて乱暴者と知り合うことになるのも大概だが、その別れを微妙に寂しく思う時がくるというのもまた不思議なものだった。フジマル辺りもそう感じているのか、小さな笑みを浮かべていた。

 

「ったくどいつもこいつも馬鹿ばっかりだね。まぁその方がアタシたちらしいけど」

 

「ああ、本当に楽しかった。海賊だったけど良い人たちだった」

 

「そうですね。当初は騒々しいとも思いましたが、あの雰囲気こそ彼らの生き様なのでしょう」

 

「そう見えたかい? ならそのまま胸に刻んどいてくれ。アタシたちはきっと、このことを覚えていられないんだろう?」

 

「……そうなります」

 

 特異点での出来事は本来の歴史から外れた事象だ。そもそもがあり得ないことであり、元通りになればこのことはなかったことになる。私たちから見て過去の住人に、この時間のことを記憶として留めておくことは出来ない。それを理解した上で、構わないと首を振った。

 

「いいよ、こんな面白おかしい冒険が出来ただけでも儲けものだった。いっそ巻き込まれて死ぬ未来もあったんだ。それに比べればこの別れは上々だよ」

 

「そっか。じゃあそんな冒険が出来て俺もよかったよ」

 

「……そういやシンジは? アイツはどうなるんだい?」

 

『彼もこの時代の人間じゃないから白野同様にいずれこの時代を去るでしょう。というか姿が見えないわね。もう行ってしまったのかしら』

 

「ホントだ、いない。もうちょっと話したいこともあったのに」

 

「まだまだ情報を持っていたようですし、逃がしてしまったのは少し惜しいですね」

 

 フジマルとアンジェリカの物言いは微妙にかみ合っていない気がしたが、肝心の本人がいないのなら同じことだ。それに彼のような存在とまた会わないとも限らないし、それまでに打つ手を考えればいいだろう。

 

「じゃあ行きな。フジマル、アンジェリカ、それと芥。まさか時代を救うことになるとは思わなかったが、楽しい航海だった。アンタらも旅の終わりにそう思い出してくれれば、アタシから言うことはないさ!」

 

「旅、その発想はなかったかも。この戦いは旅とも言えるのかな」

 

「そりゃそうだろう。ここ以外も色んな時代、ヒトやモノと出会いに行くんだ。その道中にどんな戦いがあっても、お前さんが進むのは誰もしたことがない前代未聞の旅路だよ」

 

 私にとってもそれは思考の埒外だった。人理焼却によって奪われた未来を取り戻す為の戦いであり、そこに余裕はなかった。けれど実際に現地に立つフジマルは、どんな目でその世界を見ていたのだろう。今更になってそんなことが気になった。

 

「だったら今回の旅、オレも楽しかったです! じゃあ船長」

 

「「よき航海を!」」

 

 最後はお互いに手を振って、フジマルたちも特異点を去った。

 

 こうして新たな時代を開拓した偉大なる海賊との別れを済ませ、カルデアは三つ目の特異点を修復した。港町で保護したマスターとカードに加えて芥ヒナコとも再会出来たが、更なる謎も深まっってしまった。特に戦力に関しては要改善と言えるだろう。それだけは念頭にいれて、まずは帰還したフジマルたちの元へ向かうことにした。

 

「敵は魔術王……いえ、そんなことは……」

 

 

 

 

【side:???】

 

 誰もいなくなった海賊船。カルデアの面々が去った後の甲板に、一人ドレイクが立っていた。

 

「さてと。――いるんだろう? シンジ」

 

「…………なんで分かるんだよ、お前」

 

 一瞬迷った後、ガチャリと船室から姿を現すことにする。困惑顔でしずしずと出てきた僕を見てドレイクは目を見開いた。

 

「いやなんで驚いてんだよ。僕がいるの気づいてたんだろ?」

 

「いや? いなくなったと聞いて本当かどうか確かめただけ」

 

「おまっ……!」

 

 信じられないとばかりに口をパクパクさせたのが愉快だったのか、大きく笑いだすドレイク。僕たちだけの船上で、その笑い声だけが響いていた。

 

「だって坊主、不満たらたらだったじゃないか! それなのにとっととおさらばなんてするわけないと思ってね」

 

「なんで僕が不満げなのか分かって言ってるだろお前!」

 

「どうせ負けたことをまだ引きずってるんだろう? 女々しい奴だよ全く」

 

「お前の所為、もあるんだからな?! どんな度胸してるんだよって、今更か」

 

 思えばあの頃からそうだ。マスターの僕に従順さの欠片も見せず、むしろ主導権はこたらだと言わんばかりに僕を振り回していた。そのくせして、コイツは――

 

「死ぬのが怖くないんだな、お前」

 

「ああん? そんなの当たり前だろう。死ぬのが怖くてこんな所までやってくる奴がいるってのかい?」

 

「それは生き様の話だろう? お前はカードを使って、自分のこの先の運命を知ったはずだ。それでなお、そう言えるのかよ?」

 

「…………はぁ」

 

 心底がっかりしたと言わんばかりにデカい溜息をつくドレイク。凄いムカつく。

 

「そんなこと言うためにわざわざ残ってたのかい? てっきりアタシは不意打ちでリベンジ仕掛けてくるのかと思ってたよ」

 

「してもよかったけど、それで勝っても何も嬉しくないじゃん。僕はゲームチャンプなんだぞ? リベンジするなら正面からやるに決まってるだろ」

 

 それに、と聞こえないくらいの声量で独り言つ。僕の中で勝敗は既についていた。どうしようもないくらい格好良かったんだ、せめてそれに釣り合うくらいのことをしないとダメだと思った。

 

「人ってのはいつか死ぬ。それは海賊であってもそうじゃなくても同じことだ。穏やかな最期を迎えるには、アタシはどうしたってもう手遅れだ。だからこの今を――」

 

「楽しく生きる、だろ? 刹那的でいいよなそれ。羨ましいったらありゃしない」

 

「お前さんはそうは思わないと? いやなんか知ってる口ぶりじゃないか、シンジ」

 

 それは当たり前だろう。その言葉を聞くのは初めてじゃないのだから。

 

「別に? いや今はそう思わないといけないからかな。知ってるだろ? この特異点はもう終わる。お前は元の時代に帰れるけど、僕は違うんだよ」

 

 ドレイクの眉がピクリと揺れる。それに気づかないまま、僕は現状をぶっちゃける。

 

「つまりは片道切符しか貰ってないわけ。そもそもこの僕自体が分身みたいなもんなんだってさ。だから僕は消えるだけなんだよ」

 

 こうして口にすると案外冷静な自分に内心びっくりだ。けどこの感覚には覚えがある。月の裏のあの時も、こんな心境だったような気もする。

 

「そりゃまた唐突だ。それで? そんな自分を慰めてほしいとでも言うのかい?」

 

「冗談だろ。けど折角の機会だから、文句の一つでも言っておこうと思ってさ」

 

「へぇー。いいよ、言ってみな」

 

「お前、僕のサーヴァントだったって言ったら信じるか?」

 

「……確かマスターってのが主人で、その配下がサーヴァントだったっけ? それで私がサーヴァントで、マスターが坊主?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

「あっはっはっはっは!! そんなおかしい話があるのかい! アタシなんかが英雄扱いされるのもおかしいし、しかもマスターがお前さんって、あっはっは!」

 

 大爆笑だ。一人で腹を抱えて、本当にそう形容するしかないほどの笑いっぷりだった。本っ当にこの女は……!

 

「大概にしろよお前!? しかも一回戦で負けたんだからな、お前のせいじゃなくてなんだっていうんだよ!」

 

「そりゃ、お前さんの指示なんだろ? それならまぁ、ねぇ?」

 

「僕の所為って顔やめろよ! その程度で力出しそびれたっていうならやっぱりお前の所為だろ!?」

 

「いやそれここにいるアタシじゃないし。そんなことをアタシに言われても」

 

 それはその通りなんだけど、顔も中身もライダーなんだから言ってもいいだろ。ここで言っとけばまた違う未来に――いやそうじゃない。

 

「やれやれ、わざわざ言いに来たのは不良品への文句ってわけだ。そんなにサーヴァントのアタシはダメだったのかい?」

 

「あぁ、酒飲みで、がめつくて、馬鹿で、どうしようもなかったさ!」

 

「前半はあまり反論出来ないけど、とりあえず撃っとくか?」

 

「そうそう、それくらい乱暴で、とにかく最悪だったよ!」

 

 海が、空が、ところどころ崩れ出している。終わりの時がいよいよやってきたようだ。日の光と世界の粒子が視界に広がっていく。それに呑まれながらも言葉を紡いでいく。もう後悔はこれで終わりだから、せめて最期くらいは。

 

「へっ、そいつは悪かったね! そんな奴と当たっちまったお前さんを恨みな!」

 

「ああ、全くだね! ホント最悪だよ! ――ホント、悪かったよ」

 

「…………はっ」

 

 最後に顔を逸らしたから、アイツがどんな顔をしたのかは分からない。けど言いたいことは言ったからスッキリした。数秒後に意識がなくても、構わなかった。

 

(サーヴァントの最期も、こんな感じだったのかもな)

 

 こうして間桐シンジは消失し、フランシス・ドレイクは元の時代に戻っていった。カルデアの記録には残らない、未来のある主従の邂逅の一幕である。




彼らなら、違う未来もあったのかもしれませんね。
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