・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定もあります。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
「邪魔するぞ」
「へぇー、工房なのにきちっと片付いてるのもアナタらしいかも~」
「そうでしょうか? まだ少し机にモノが残っているのですが」
「いいんだアンジェリカ。俺たちの清潔感はもうおかしくなってるから、こんな感想が出てきてしまうんだ」
それはいつも通りの私の日々において、珍しい記録を残すことになる一日だった。
普段はカルデアの端にあり、客足なんて殆どない私の専用工房。部屋の主である私と時折カードの調整に来るフジマル以外通したことがなかったゲートを通って、三人の職員が入室を果たしていた。
「けど本当によかったの? その、これもエインズワースの秘匿技術なんでしょう?」
「無論見せられない箇所は多いですが、今回手伝っていただくのは夢幻召喚の簡易的な実施試験だけですので問題はありません」
事の発端は数日前に遡る。オケアノスから帰還後は通常業務に邁進していたが、その途中にあるアイテムの開発を行うことになった。発起人は所長で、戦力アップを目的としたそれに数日を費やすことになった。私に発注されたものは無事に完成したのだが、話はそこで終わらなかった。
『すまん、助かったよ。こういうのもなんだが、頼ってみるものだな』
『構いません。断る理由もありませんでしたので』
同様の命令がカルデア技術班にも下されており、その助っ人を頼まれたのだ。元よりカルデアは人手不足であり、私にとって専門外であっても対応が出来るようにしていたのが幸いと言える。因みにやったのはマナプリズムの圧縮作業で、効率化した結果早すぎると高評価を頂いた。
『この埋め合わせは必ずしよう。そうだな、アンジェリカは逆に手が必要だったりしないか?』
『……そうですね、では――』
当初は頼む気など更々なかった。けれど何故か、先ほどの言葉を思い出して無下に断ることを良しとしない自分がいた。そして気づけば、助力を要請していた。
相手もそんなすぐに頼まれると思っていなかったようで面食らっていたが、それは私も同じだった。
「普段はカードを使うフジマルやアンジェリカが主に行う実施試験を俺たちも、ってことだったよな」
「はい、三つの特異点を経て回収出来たカードが増えてきましたので。いつでも使える状態であることの確認ですね。ある程度夢幻召喚の難度が低いものを選んでおきました」
そういって彼らに何枚かカードを手渡す。各々がそれを怪訝な、或いは楽しそうな顔で受け取っていた。フジマルもそんな顔をしていたかは定かではないが、これもまた新鮮な感覚だった。
「俺は魔術師というか魔術使いに近いけど大丈夫なのか? 相性もあると聞いたが」
「恐らく問題はないかと。比較的召喚しやすいものですので」
「名だたる英霊を私たちでランク付けするっていうのも変な感じだけどね」
「あくまで夢幻召喚の難度なので、それがスキルや使いやすさに直結はしていません。フジマルは例外ですが」
彼の適性100%は伊達ではない。私でさえ扱いが困難なカードであってもフジマルであれば使いこなせるようになる。もっとも最初から思うままとはいかないので、今この時間もそうなるべく訓練に明け暮れているのだが。
「じゃあいくか。
「夢幻召喚」
「夢幻召喚!」
夢幻召喚に必要な手順・感覚のレクチャーを終えてから、三者三様のテンションでカードを使用していく。全員の服装が変わっていくのを確認しながらデータを取っていく。
「これが夢幻召喚か。実際に体験するとやはりとんでもない技術だな……」
一人はアサシンのカード、シャルル=アンリ・サンソンだ。全身を覆うほどの黒コートが彼の元々の渋めの容姿とマッチしている。本人は夢幻召喚による力の漲りの方に意識が向いているようだ。
「……なるほど、悪くないな」
笑みを隠しきれていない彼にはモーツァルト、キャスターのカードを使用してもらった。こちらも黒を基調としてはいるが、そこにエメラルド色の細工が施されることによってより華々しい印象を与えていた。一切戦闘には与しないが、演奏家の要素がそうさせるのだろうか。
「あれっ思ったより露出が……!?」
少し頬を朱に染めている彼女が使っているのもアサシンだが、こちらはマタ・ハリのカードだ。ストリップダンサーだった彼女の力によって水着もかくやといった布面積になっている。因みに私が使った時も同じ姿になったので、誰が使っても同じ力が発露するとみてもいいのだろう。
「いえ、そうとは言い切れませんか。……ひとまず皆さん、気づいた点があれば伺いますが」
「気づいた点というか、未だに理解が追いつかない。今なら思った通りに身体が動きそうな、いや本当に動くんだろうなきっと」
「そうだな、この英霊とやらの力も昔から知ってるような感覚がある。どんな曲だって朝飯前にやってのけるはずだ」
「私もそんな感じなんだけど……。一番得意なこととはいえちょっと勘弁して欲しいかな、これは」
夢幻召喚がもたらす恩恵を、三人とも畏怖すらしているような物言いだった。どんな英霊であっても、今の自分より強大な力を得ることには違いがない。今は目的もなく夢幻召喚している為に余計にそのギャップがもどかしいのだろう。
「力の発露に関しては恐らく問題ないでしょう。ありがとうございます、
「こうか、送還」
「ふぅ……」
「ていっ!」
夢幻召喚が解除され、全員が元の制服姿に戻っていった。名残惜しそうだったり満足気だったりとリアクションは色々だが、三人とも好奇心を刺激された研究者の顔でもあった。
「分かってはいたが、戦闘はしないんだな。もちろん戦えと言われてもしないが」
「そこまでは流石に厳しいので、感覚の有無で良しとしました。実際の特異点で使用する可能性が低いカードなのもありますが、戦闘自体は可能でしょう。むしろ出来なくては意味がありません」
「そりゃそう……いや、このキャスターはどうやって戦うんだ? 音楽家だろこの英霊」
「それを言ったら私が使ってたアサシンはどうなるのよ。あ、踊り子なら肉弾戦が出来たりするのかしら」
「そちらのアサシンはその通りになりますね。そもそもがアサシンなので不意をつく形にはなりますが。キャスターの方は百聞は一見に如かずと言いますので、限定展開」
返却されたカードの一枚、キャスターを限定展開する。余談だが限定展開には媒介となる魔術礼装が必要となるのだが、今回開発した専用のコマンドカードを装着することで実質不要とした。
「音楽家だから武器はタクトか」
「これを振るって使い魔のようなモノを召喚して戦うようです。作家系と同様に本人が戦うタイプではありませんね」
「へぇー、ホントだ。キャスターといっても色々あるのね」
試しに一体だけ呼び出してみると鳥のような使い魔が空中に現れた。しかし意思などはないようで、手をひらひら振られても特に反応を示さなかった。
「カードによって特色というか、使い勝手が違いすぎないかコレ。瞬時に使いこなせるようになるとしても、何枚も使ったら混乱する未来しか見えないぞ」
「フジマルの訓練風景を見ることもあったが、同時に二枚以上のカードを使ってるんだろう? その凄さがようやく分かった感じだよ」
「二枚以上同時使用は私も出来ませんから。代えがたい存在です」
彼の存在は不幸中の幸いという他ない。あの爆発事故を免れた上で、カードを使った戦いにおいて唯一のアドバンテージを持っている。いっそ奇跡とすら言えるのかもしれない。
「それであのバングルってわけか。人類史を守る為には、フジマルのパワーアップが不可欠だと」
「理にはかなってるわ。だからこそ所長も命をくだしたんだろうけど」
「あぁ、これなら納得だよ」
「何にですか? ダストン」
「いやな。如何せん、俺から見ると子供を戦わせているように見えて妙に心配性になる。それが煩わしくもあったんだが、やってたことのハードルの高さを知るとおこがましいと分かってしまうな」
「アナタ、バングルの設計を聞いてあまりいい顔しなかったものね」
「馬鹿言え、理解はしてるさ。それが正しいとは分かっても、それをどう感じるかの話というだけだ」
「急に変な父性出すなよ。アンジェリカが困惑してるぞ」
「……いえ、そんなことはありませんが」
何でもないように取り繕うが、内心では言葉を嚙み砕こうと思考を割いていた。
目的の為に我々は動いている。その為の行動が正しいとするのなら、何を感じようと関係はないはずだ。けれどその先を考えようとして、一瞬返事が遅れてしまった。
「けど今回みたいなデスマーチなスケジュールは勘弁してほしいわ……。結局助けを借りなきゃ間に合わなかった気がするし」
「事情は分かるんだが、俺たち職員のことちゃんと見てるのかねあの所長は。今の状況で大変じゃない奴はいないだろうに」
「まだどこか地に足ついてないのかもしれないな。それでも組織のトップなら、しっかりするよう願うしかないが」
「なるほど、そう所長に伝えましょうか?」
「いやいや、これ以上プレッシャーかけちゃダメだから」
他人から見た所長の評価を聞くのも初だったので、収穫だとばかりにそう思ったが全員から止められた。お互い所長のことを思っているだろうに、解せないと閉口した。
「それよりも、他には何かあるか?」
「そうですね、もう何度か夢幻召喚していただきたいのですが」
逸れた思考回路を元に戻す上で、先ほど考えていたことを思い出した。ただの確認事項の一種だが、力の発現方向を正確にする意味で捨て置けない問題だった。
「今度はどれを夢幻召喚すればいいんだ?」
「先ほど使ったアサシンのカードを男性であるあなた方二人のどちらかに使っていただければと」
「え」 「おい」
「何か不明な点がありましたか?」
「いやすまない、それがなさ過ぎてダメなんだ。いや、どうしてアサシンのカードなんだ?」
「アサシンって、ダストンがさっき使ってた奴なんだよな? そうだよな?」
「いえマタ・ハリの方です。私が使う分には問題ありませんでしたが、フジマルが使ってもそうとは限りません。その確認がそもそもこの実施試験なので、男性にも夢幻召喚して形態を確認してもらおうかと」
「あーなるほどそういう。じゃあ私ももう一枚夢幻召喚してもいい? それこそサンソンのカードとか!」
「別に構いません」
「よっしゃ! マタ・ハリの方はよろしくね、二人とも~」
「くそ、他人事だからって……」
「どうしたものか……」
サンソンのカードを持っていった彼女が妙に楽しそうなのも、男性陣二人が真剣な表情でじゃんけんを始めた様も、私にはまだまだ理解が及ばなかった。これも正しさと感情の話なのだろうかと些末な思考が頭を過ぎったが、じゃんけんが終わったようなので頭を切り替えることにした。
因みにどちらになったのかは明言しないが、した方がより寡黙になったとだけ記しておく。
その後も職員に夢幻召喚の実施試験を手伝ってもらうことが何度かあり、それが職員のささやかな楽しみになったりするそうなのだが、それはまだ先の話である。
☆
「いや私初耳なのだけど、それ」
「なのでこうして報告にあがりました」
「はぁ……。まぁ問題がないならいいけど」
今作のカルデアスタッフは名前こそ一応原作に出てきたものを設定していますが、基本的にはオリキャラだと思ってください。
それはそれとしてヘルツ要素はない。