・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定もあります。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
#17 霧の中での邂逅
【side:オルガマリー】
[グランドオーダー 実証を 開始 します]
アナウンスが管制室に響き渡り、私を含めた職員全員に緊張が走る。もう何度繰り返したか分からないが、始めの一歩で躓かないとも限らない。そもそも一大事業であるレイシフトを頻繁に行っている今の状況の方がおかしいのだが。
『こちらフジマル、レイシフト完了です!』
「オーケー、こちらでも確認したわ。アンジェリカもいるわよね?」
『はい、こちらも異常ありません。これより作戦行動を開始します』
「よろしい。まずは付近の状況を確認なさい」
二人の対照的なトーンの返事で僅かな安堵が私たちにもたらされる。それと同時に、第四特異点の攻略が始まったことを再認識した。
今回の舞台は18世紀のロンドンだ。魔術師にとってロンドンは外すことの出来ない要所なのだが、フジマル、アンジェリカ共に初ロンドンなのだとか。今回ほど私がレイシフト出来ていればと思ったことはない。
それはさておき、事前調査から前回のオケアノス程立地が悪いということはないはずなのだが、さて。
『所長、濃い霧で全然見えないです。霧の都ロンドンってこういうことだったんですね』
『この霧の濃さはそれだけではない気がしますが――フジマル、あまり霧を吸わない方がいいかもしれません』
咄嗟に口を塞いだアンジェリカが警戒を促す。フジマルもよく分かっていないままに真似して手を口に当てている。
「正解よアンジェリカ。この霧は人体に有毒と観測結果が出たわ。普通の人間ならまず無事じゃすまないでしょうね」
『夜じゃないのに人の姿がないのは、この霧のせいだと。全然分からなかった……』
『私でもすぐに有害だと気づいたのですが、そう感じなかったと?』
『むしろ比較的近代に来てちょっとわくわくしてました』
「楽しそうなのはいつもでしょう……?」
鈍感なのか耐性があるのか、そのどちらでもあまり不思議じゃないのがコイツなのだった。そもそも吸っていいとはならないが。
「ひとまず礼装の保護機能を強化しておきなさい。それに単に有毒なんじゃなくて、霧に魔力の込められていることに起因しているようね。これがこの特異点の異変ということかしら」
『地味だけど、ずっとこの霧がって考えると確かに大変かも。じゃあこの霧の発生源を探る感じですか?』
「ひとまずの方針はそれでいいでしょう。もう少し情報を集めないと何とも言えないし」
ついでにこの霧を魔霧と命名して、移動を開始させる。
けれどすぐに何か見つかるだろうと確信していた。人類史を揺るがす程の規模の魔霧の中を動けるのは一部の魔術に関わる者だけ。それが首謀者であっても、解決に動くこの時代の誰かであっても、私たちの探す答えを持っていることには違いない。
『人気のない町ってのが不気味だ……。ゴーストタウンみたいな』
「勘がいいわねフジマル。予想通りのゴーストの反応がいくつかあるわ」
『やっぱりいるのかー。驚くことも少なくなってきたよもう』
「別に無理に戦う必要はないわ。反応をみて回避しなさい」
流石に今のロンドンにはそういない存在だが、特異点ともなるとそうはいかない。私の手元にも贈られてくるデータから迂回ルートを出すようスタッフに指示した。
余談だが司令官たる私の端末には二人のバイタルデータや周辺のスキャン結果が表示されるようになっている。そこから私が口を挟むこともあるが、今みたいに具体的な道順を伝えるのは、私ではなく他のスタッフの業務になる。シルビアとか。
「んん? これは……」
「どうしたの? 何かデータに気になる点でも?」
その内の一人が小さく唸ったので、軽い調子で問い詰めてみる。当人としても聞かれると思っていなかったのか、微妙にたどたどしくも違和感を述べた。
「いえ、周辺反応に一瞬揺らぎが生じたような……。今はもう何もないんですが」
「分かったわ。恐らく気のせいでしょうけど、軽く警戒するように――」
言いかけた直後。
アンジェリカの背面に黒い影が実体を伴って、その凶刃をきらめかせた。
『アンジェリカ!』
私の声が通信機ごしに響くのと同時に、彼女の身体が前方に飛んだ。
「――っ! 敵襲ですフジマル、警戒を!」
「無事ですか、アンジェリカさん!?」
「数ミリ切られた程度で支障はありません。ですが全く気配を感じなかった」
ギリギリで回避が間に合ったのが幸いだ。相手の切っ先は彼女の首を断ち切り、腹部をかっさらう形で薙ぐものだった。奇襲で容赦なく急所を狙うこの戦法、敵は見えなくともクラスの特定は容易だった。
『まずアサシンと見て間違いないわ。けれど初撃は凌いだのよ、このまま白兵戦に持ち込んで押し切りなさい!』
「それはその通りなんだけど……!」
「霧が、更に深く……?」
背中合わせで臨戦態勢に入る二人を囲むように、周囲の霧が更にその濃度を増していた。街灯の光すらもその輪郭をぼんやりとさせる中、その火蓋は相手の方から切られることになった。
「――仕方ないですね。あの一撃で事切れていれば、苦しむことはなかったというのに」
「どこ、だっ!?!?」
響いた女の声に気を取られた瞬間、ありとあらゆる方向から刃が二人を襲った。それは投擲されたものではなく、刃が取り付けられた金属製のアームが異常な速度で折り曲がりながらも距離を詰めるものだった。
「ライダー!」
「アーチャー!」
フジマルは盾を、アンジェリカは火縄銃を咄嗟に展開して防御に徹する。しかし一度弾かれた程度でその勢いが収まることはなく、壁や街路に当たって跳ね返る形で何度も二人を刈り取るべく動き回る。ガンガンと鳴り響く音に包まれながら、必至に周囲へと目を走らせる。
「いました、8時の方向!」
「ファイア!」
死の腕に抱かれそうになりながらも、アンジェリカが僅かに捉えた敵の影の方向へフジマルが発砲した。『ビリー・ザ・キッド』の追加召喚で放たれた弾丸がめり込む音と共に、暴れていた腕がその動きを止めた。
「所長、反応は!?」
『霧で判別しづらいけど、恐らくまだ健在よ。気配が殆ど追えなくて詳細な位置が特定出来ていないから、警戒して!』
金属腕の包囲からは脱出出来たが、これでは最初の状態に戻っただけで進展はしていない。完璧な奇襲はもうなくとも、次の一手を読めない緊張が二人の精神をじわじわと削るのが見てとれた。
「この霧もアサシンによるものなんでしょうか」
「そうだと仮定するのなら、霧で特異点を覆うだけの魔力を有していることになります。撃破出来れば状況は好転しますが……くっ!」
「そうじゃなかったとしても、この霧を少しでも何とか出来れば――うおっ!」
不意に訪れる攻撃に防御を余儀なくされる二人。それもやはり金属の腕によるもので、出所がどれも安定しない。包囲を抜けてもこれでは近いうちにジリ貧だ。それを分かっているから、フジマルが行動を起こした。
「なんか至近距離でぶっ放してばっかりだなこの大砲! ――追加召喚!」
選んだのはオケアノスで回収したライダーのカード。海賊黒ひげの力を宿したフジマルが上空に打ち出した砲弾に向けて、即座に『ビリー・ザ・キッド』を追加召喚して弾丸をぶつけた。
「なんですって!?」
魔力で作られた砲弾が爆発し、その衝撃と熱風が周囲5mに広がることで僅かに霧が薄まる。普通の爆発ならただでは済まないが、そこはコマンドカードで上手く調整したようだ。作った本人としてもいきなりこんな使用方法とは思わなかっただろうが。
『見つけたわ、その街灯の上よ!』
「正体を見せろ、アサシン!」
アンジェリカの放った『メドゥーサ』の鎖が金属腕の一本を絡めとり、それを操る本体ごと引き寄せた。すぐにパージして距離を取ろうとするが、最も距離が縮まったこの瞬間を逃がすフジマルではない。
「どうやら、他の方たちとは違うのね」
「アナタは一体何者だ。このロンドンで何をしている?!」
「何をしている、ですか。奇遇ですね、私もそろそろ分からなくなってきた頃なんです」
「何を言って――」
何度かの打ち合い、それでも素顔の見えない相手へ再度問おうとするフジマルの周りに、再び濃霧が充満し始める。けれど逃がすわけには行かず、更に踏み込んでいく判断をフジマルは下した。
「この霧を生んでいるのもアナタの仕業か!? レフの手先なのか!?」
「質問が多いですね。けれど答えてほしいのなら――これを凌いでからにしてくださいませ?」
霧にまかれる――否、霧に溶けるように気配を消したアサシンが不敵に笑った。それは強者故の余裕であり、必殺を確信した者の自信に満ちたものだった。
「見失った、いや違うこれは――」
『逃げなさいフジマル! その霧は周囲のモノとは質が違う、ソイツの宝具よ!』
「もうおそいわ、無残に潰えなさい!」
何かしらの条件による必中効果が存在するのか、恐ろしい程の精度の攻撃がフジマルに迫った。とっさに『ブーディカ』の宝具を起動しようとしても間に合わない程の速度。
だから、何が起こったのかの理解がすぐに及ばなかった。
「見つけたっ!」
「何?!」
アンジェリカを、フジマルを、アサシンを超える速度で現れた雷撃がその刃を受け止めた。ターゲットと共に条件が急に変更された所為か、思った通りの効果を発揮しなかったことにアサシンが顔をしかめたのも一瞬。
「来たのね、カウレス……!」
「随分手間かけさせてくれたな、姉さん!」
アサシンの女が悔やむような声で来訪者の名前を告げた。そんな彼女を姉と呼んだのは、眼鏡をかけた少年だ。そばかすの所為で子供っぽく見えるが、フジマルと年はあまり変わらないように見えた。と言うより、その年齢の時の彼にしか見えなかった。オッドアイに頭の角、側頭部から突き出すコイルのような金属部品を踏まえても、確かに見覚えのある顔だったからつい叫んでしまった。
『カウレス!? あなたカウレスなの!?』
「誰の声だ、ってアニムスフィアの!? いや、そんなことより今は……!」
彼も私のことを知っていたようで私同様に驚きを露わにしていたが、目の前のアサシン、いや彼の姉を前に再度その武器を握り直した。
彼が両手で構えていたのは金属球のついた棒、すなわちメイスだ。服装も白色でどこかセプテムで岸波白野が一瞬着ていたドレスを思わせるものだった。無論それを連想させたというだけで、ベースはむしろフジマルのカルデア制服に近いのだが。
「カウレス……カウレス! 来て、来ないで。助けて、見ないで――!」
「本当にどうしちまったんだよ……! いやいい、ここで正気に戻してやる!」
「かえって、かえって、かえらせて、かえってっ!」
急に駄々をこねる様に叫び、それに答えるように金属の腕が再び猛威を振るう。やってきた時の速度がもう出ないのか、応戦するカウレスには疲労の色が強く出ていた。それでも決意の方が強かったのか、あちこち切り裂かれても気にせずにその距離を詰めていった。
「ぐっ、ああああああっ!」
あと一歩というところで、再び彼女を中心にして吹き出すように霧が出現した。しかし二度目ともなればそうはさせないと、アンジェリカがカウレスの腕を掴んで霧から引き剥がす。けれど彼は不満そうにアンジェリカの方を向いた。
「何するんだよ!」
「冷静になってください。あの霧がきっと宝具のトリガーになっているのでしょう。先ほどはターゲットではなかったからこそ介入できたのでしょうが、きっと次はありません」
「それでも俺はっ……!」
バッと視線を戻したカウレスの瞳には、既にくらませた彼女の行方を隠す霧のベールしか映らなかった。宝具の霧に入らなかったことをいいことに、脱出用の手段として使われてしまったようだ。
「くそっ、逃げられた! 本当に厄介だな……!」
『落ち着きなさいカウレス。あの感じ、何かよくない影響を受けているんでしょう? あの、アサシン……あら?』
ふと思考が止まる。話そうと思ったのに言葉が出てこない。いつの間にかついさっきまで戦っていたはずの敵に関して、言及することが出来なくなっていた。
「それがあの英霊のスキルなんだよ。目撃者と対戦相手の得た情報が消されるんだ。だからやっと見つけたこのタイミングで何とかしたかったんだよ……」
「つまり何度か逃げられているということですか」
「あぁ、ロンドン中を走り回ってるよ。なんか黒いサーヴァントみたいなのもいるし、ホント、どうなってんだか」
「なんか凄い虚ろな目をしてる……」
私たちの知らない所で相当苦労したようだ。それだけこの特異点の事情に詳しそうではあるが、まさか今度は知人に出会うことになるとは……。
「だけど、さっきは助かりました。ありがとうございます」
「いいんだよ、俺だって姉さんを人殺しにはしたくなかったから」
「……その辺の事情も含めて、協力出来ませんか? 俺たちは、この特異点の問題を解決する為にやってきたんです」
「そうだな……。オルガマリーさんがいるのも気になるし、俺一人じゃあやれることに限度があるしな。見つけたセーフハウスがあるから、そっちに行かないか?」
『拠点があるのね。なら一旦そちらを使わせて貰もらいましょう。案内してちょうだい、カウレス』
「……成長するとこうなるんだなぁ、オルガマリーさんって」
「二人は面識があるのですか? お互いに名前を知っているようですが」
「あ、それ俺も気になってた」
アンジェリカの疑問に賛同するフジマルらを見て、そういえば言ってなかったなと気づいた。別に自分も多少面識がある程度なのだが、あの教室の一員だったことで遠慮がなくなっていた。
「そういや自己紹介もまだだったか。カウレス・フォルヴェッジだ。まだ三日とちょっとの先輩だけど、ロンドンにようこそ」
あのお姉さん絶対あんなこと言わないとは思いますが、敵に回っているからこそ弊害ということで。