・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
「14騎どころかルーラーも二人いたのかー。本当に波乱しか起こってないね、聖杯大戦」
「構図も途中でだいぶ変わったからな。俺たちユグドミレニアと魔術協会との戦いだと思ったら、いつの間にか世界がまるごと変わっちまう所だったんだ。つくづく大聖杯っていうのは規格外だと思い知らされたよ」
『そんな――が元はあの冬――にあったっていうのも信じ難いけど。……やっぱり通信――がよくないわね』
大英博物館の地下に侵入して暫く。カルデアからの通信にノイズが乗り始めたことに所長が顔をしかめた。予想していたことではあるが、あまり情報面での支援は期待出来ないだろう。
もっともそのことに気づいているのかいないのか、フジマルはカウレスに聖杯大戦のあらましを語らせていた。
「スパルタクスにブラド三世、カルナ、ジークフリート、アストルフォにアタランテと凄い面子だろ? 俺の人生でもかけがえのない時間だったのは間違いないな」
「色んな英雄たちに会えたんだな。いや、大戦中でそんなに気軽な空気じゃなかったのかもしれないけど」
「まぁな……。大戦が始まってからずっと、むしろ終わってからも目が回るような忙しさだったけど、今思い出してみるとやっぱり感慨深いな」
「終わってからもですか? 何とか勝利を収めたとのことでしたが」
「あぁ。その後入ることになった教室での日々で同じくらい大変な目にあってな……。その辺は省くけど、世界はまだまだ広くて、思ったよりも複雑で単純ってことだな」
「一体何が……」
「遠い目になりましたね……」
フジマルの聞き方が上手いのか、カウレスの話も留まる所を知らなかった。私も他世界の話には興味をそそられるので、最低限の警戒を維持しているのなら構わないのだが。
「けどエルメロイ教室かぁ。そっちもちょっと気になるかも」
「興味があるのか? フジマルはどうだろう……。しっくりくるような、ちょっと怖いような」
『同感ね。あのロードのことだから妙な素質を見つけか――いわよ。まぁそんなものなくても教室で間違いなくやってい――だけの性格ではあるけども』
「その教室のことは良く知らないけども、褒めてないのは分かったからね!?」
聞けばその教室は数多くの優秀な魔術師を輩出する名門でもあるのと同時に、問題児たちの巣窟でもあるとのこと。所長は無論所属していたわけではないが、その実体を目の当たりにした一人ではあるらしい。カウレスもエルメロイ教室の一員なのはどちらの世界でも同じようだが、もしかしたら彼も問題児扱いされていたのだろうか。
『確か――残念美形トリオの一角だったわ――よね、あなた』
「なんだその不名誉極まりない通称は!? トリオってことはあの二人と同じ扱いされてるのかそっちの俺!?」
『染まっていったんでしょうね、あの二人に』
「朱に交われば赤くなる、というわけですか」
「よし良いことを聞いた。絶対そうはならないからな……!」
謎の決意を固めるカウレスだが、その様子だとこの特異点での記憶が本人に還元されるのかは不確定のはずだったことは頭から抜けているのかもしれない。
「というかなんでそっちの俺もエルメロイ教室に参加してるんだよ。聖杯大戦が起こってないのなら、姉さんの従者的な扱いなのか?」
『……私もそこまで交流があったわけじゃないの。又聞きでいいなら伝えるけど』
「なんか気になる言い方だな……。いや聞かせてくれ、別の生き方を知るって意味では貴重な機会だし」
所長が言葉を濁したことで少し構えた様子だったが、意を決して先を促すカウレス。
荒い通信越しにそれを確認した所長が、淡々と流れるように伝える。それは含みを持たせてしまったことへの謝意を込めたのか、或いは受け止めやすいようにとの配慮だったのか。それを聞いたカウレスの反応は――
『姉が突然出奔したせいで、弟のあなたが後継者として留学することになった。私はそう聞いてるわ』
☆
「ここだ、間違いない」
奥へ下へと暫く進んだ先、重く閉ざされた扉の前でカウレスが足を止めた。見たところの材質は木材のようだが、見かけ以上の何かをその扉、或いはその奥から感じさせていた。
「通信は……ダメですね、これ以上は期待しない方がいいでしょう」
試してみても返ってくるのはノイズばかり。軽く通信礼装を小突いているフジマルの方も同様のようで、仕方ないとすっぱり諦めていた。
「そんなに下ってきた感じはしないけどなぁ」
「流石に原因は特定できないが、魔術協会の地下だからってことで納得するしかないな」
「魔術協会、厄介だね……」
情報支援は受けられないということは、私たちの認識外からのものに対応出来るかが分からなくなる。対応範囲が狭まってしまうのは痛いが、泣き言をいうわけにもいかない。
「この部屋の中には誰もいない、よね?」
「まさか俺たちを召喚した奴がまだ残っているとは思えないが、警戒するに越したことはないだろ」
「まぁその通りなんだけど。……この開ける時のドキドキ感、ちょっとオルレアンを思い出す」
「オルレアンって、確か最初の特異点だったか?」
「そうそう、あの時もこうやって――」
口ではそう言いつつも、用心しながら力を入れて扉を開いていた。三人とも何があっても対応出来るように構えていたからこそ、その光景に目を見開いた。
「これは……」
またも別の世界に迷い込んだようだった。
僅かに揺れる枝葉と共に、花の香りが僅かに届く。生い茂る木々に囲まれた花園を、地下にあるはずのない日光が眩く照らし出していた。地下通路が薄暗かったせいで、余計に光で刺されたようにその光景が目に焼きついた。
「カウレス、あなたが呼ばれた時からこの様子でしたか?」
「そうだったら俺も今面食らってないだろうな……待て、中心に誰かいる!」
「「!?」」
「あら?」
カウレスの声が聞こえたのか、小さな影が花畑の中からぴょこりと起き上がった。大きな目でこちらをぱちくりと見つめるそれは、人形のような少女だった。
「
「え、俺?」
お兄ちゃんと呼ばれたカウレスが自分を指差す。その困惑が不思議だったのか、少女――ありすも一緒に首を傾げた。白いおさげも共に揺れていた。
「もしかしてまた気づかれてなかったのかな。あたし見ていたもの、そこのお兄ちゃんと黒いなにかがこの部屋から出てきたんだから!」
「もしかして、あの時近くにいたってことか!?」
「おいかけてもよかったのだけど、戻ってきた時の驚く顔がみたいと思ったの。すごいでしょうこのお部屋、お茶会のためにはりきっちゃった!」
誇らしげに手を広げ、そのままくるりと回り、楽しげに笑う。見た目相応の無邪気な笑顔を振る舞っているが、それが私には余計に不気味にさえ思えた。
「答えなさい、あなたは何者だ。何故ここにいる」
「怖い顔をしないでお姉ちゃん。人形みたいなお顔がだいなしだわ?」
「ただの一般人が今のロンドンで生き残れるはずがない。それにこの部屋をこうしたのはあなたの力なのでしょう? 疑うなという方が無理です」
見たところ素手のようだが、それは何の判断材料にもならないのは明白だ。現に私たちも常にカードを使用できる状態で目の前の少女を見据えている。そもそもこのロンドンで遭遇できる時点で、ある程度はこの少女の正体についての候補は絞ることが出来る。月の関係者か、カウレスと同類か、果たして。
「あたしは
「月ってことは、白野の関係者か!」
「びっくり、お姉ちゃんを知ってるの?」
正解は前者だった。詳細は不明だが、この少女も放浪者である岸波白野を探す月のマスターの一人なのだろう。まさかこんな少女も聖杯戦争に参加しているとは驚きだが、いやこの発言を真に受けてもいいのだろうか。
「よく分からんが、知り合いか?」
「そうとも言えないんだけど……。えっと、ありすは白野を探してるだけで、俺たちを倒せとか誰かに言われてたりはしない?」
「そんなことは言われてないわ。あたし、お客さんが来るって楽しみにしてたんだもの。怖いけど、さみしいけど、がんばるって決めたんだから!」
ぐっと両手を握りしめて決意を語る姿に敵意は感じられない。そのあどけなさも含めてこの時代、この特異点には不釣り合いで、だからこそ私は気を抜くことが出来なかった。
「ありすだったか。俺と姉さん、いやもう一人が出てくるのを見たって言ってたよな。その前後で誰か見なかったか?」
「うーん、どうだったかしら? 何もないはずのお部屋から出てきたように見えたわ。そのあと部屋に入ってみたら、なーんにもなくてびっくりしたの!」
「痕跡は何もなかったってことかな。それでなんでここで待ってたの? 追いかけるよりも驚く顔が見たいって言ってたけど」
フジマルが体勢を低くして問いかける。カウレスも部屋の中へと足を進めようとしていて、すっかり脅威ではないと見なしているようだった。
「それはね、…………ないしょ!」
「え、ちょ、それはどういう」
「眼鏡のお兄ちゃん、何だか不思議なお兄ちゃん、それにお人形みたいなお姉ちゃん、あたしと一緒に遊びましょ!」
「いや、まぁ、少しなら?」
「気が弱いなお前。上司が見たら怒られるんじゃないのか?」
「所長が見てないからこそ、というわけじゃないけどさ。ちょっとだけなら付き合っても――」
「いけません」
馬鹿なことを言うフジマルに当たり前だと言い放つ。未だこの特異点の全貌を掴めていない今、遊ばせておく余裕などありはしないからだ。それにまだ、私にはこの少女が信用ならないのもあった。何か、彼女の言動には引っ掛かるものがある。
「悪いが俺も賛成だ。ここに姉さんに繋がる手がかりがないのなら、長居する理由はないからな」
「うーーん。ごめんね、ありす。俺としてはやぶさかじゃないんだけど、今はちょっと忙しいかも」
「そんなぁ! ひどいわひどいわ! あんまりだわ!」
「…………ダメだカウレス、ちょっと心が痛くなってきた」
「子供の涙を真に受けるなよ……」
誘いを断られると思っていなかったのか、ありすは大粒の涙をその瞳からこぼし始めた。魔術師でもないフジマルは精神的ダメージを受けているようだが、耐えてもらうとしよう。
「それよりも、ここで待っていた理由を言いなさい。口をつぐむというのなら、子供だとしても容赦はしない」
「アンジェリカさん、それは流石に……」
「なんてこと、まるで本当にお人形みたいだわ! 冷たくて、遊び心もないなんて!」
「何度も見透かしたような口を――」
「でも、いいの。あたし、わかってるの」
少女は涙を拭いながら、そう告げた。一見ただの強がりのようにも感じたが、その言葉は決意と経験故の重みに満ちていた。
「お友達の
「フ■マ■、■ウレ■、警戒を!」
「はい! ……?」
「……なんだ?」
私の言葉で三人ともカードを構えようとして、共通の違和感がその動きを止めた。そもそも私の今の発言も何かおかしくなかっただろうか。何か必要な単語が抜けていたような、喪失、感?
「せっかちなのは分かったわ、おつかいの途中なのよね? けれどいいわ、大丈夫」
「ありす、君は……」
「だってこのお茶会では、あたしたちは誰でもないんだから! ほら、そろそろ思い出せないでしょう? あなたたちはいったいだあれ?」
その宣告でようやく自分にできていた空白の正体が判明した。今この部屋にいる者たちの名前が、自分含めて曖昧になっている。それどころかその存在すら疑わしくなっている。
「もしやここは、固有結界の中!?」
「嘘だろ、そんなものをこんな子が!?」
「見た目で多少油断していましたが、月のマスターということはまず間違いなくカードを持っているはずです。それでなら説明がつきます!」
私が警戒し続けた理由の一つでもあったのだが、ここまでとは想定外だ。先程までなら、もっと早く気づくことも出来たはず、だ。でも、それは、どうしてだっただろう?
「ホントなら身体も消えちゃうんだけど、そこまではしないわ。今は全てを忘れて、あたしと遊びましょう?」
「それ、は」
「まずい、早くここカら出ないと……!」
カ■レ■――眼鏡の青年の切羽詰まった声とは裏腹に、その足は出口に向いてこそすれ、動く気配を見せなかった。なぜ出なければいけないのか、その理由が根底から崩れていくような。そもそもそんな理由も必要もなかったような。
動きの鈍くなった私たちが見えているのかいないのか、場の支配者たる彼女が高らかに告げる。
「心配はいらないわ! ”だってここはもう夢の中。
意識は確かなまま、認識だけが裏返っていく。儚い乙女の涙のように、私たちの自己はこの手をすり抜けていった。
ちょっと短め。
こんなルビは初めて。