夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#20 仕方ないではすまなくて

 

【side:ありす】

 

 さいしょの光景は、霧につつまれた知らない町。暗くてしずかでつめたくて、周りに誰もいなくてがっかりしちゃった。ふしぎと居心地は悪くないけど、遊びあいてがいないのはもっとイヤ。

 

あたし(アリス)も、いないのね」

 

 あたしを誘ううさぎの背も、追いかけてくる兵隊さんもまったく見えない。月で出会ったあたしのお友達もいなくて、あたしはひとりぼっちだった。

 

「なんで、なのかな……?」

 

『心配しないで、あたし(ありす)

 

「えっ!?」

 

『ほら、こっちよこっち』

 

 誰もいないはずなのに聞こえるこえ。きょろきょろと周りを見渡して、それがポケットからだときづいて慌ててひっぱりだす。そこにあったのは一枚のカード。トランプかと思ったら違うみたい。

 

『お願いしてみてあたし(ありす)。念じるように、夢見るように。それできっと、叶うから』

 

「うーんと、えいっ」

 

 言われるままに力を入れる。聞こえる声は、あたし(アリス)の声だ。あたし(ありす)はひとりぼっちじゃない。それが分かったから、まよったりはしなかった。

 

「これ……すごい、すごいわ!」

 

 カードが消えたと思ったら、いろんなことが一気にあたまにとびこんできた。なつかしいこの感じ、まるで、あの月の海の時のような――。

 

「だけど、そうなのね。あたし(アリス)はここにはいないのね」

 

 だからこそわかっちゃった。あたし(ありす)のお友達はここにはいないこと。あれがきっとさいごの一節。あたしがみた、せつなの夢だったんだ。そう思うと胸のあたりがしめつけられるような、そんな切なさがもくもくと湧き出そうだったから、あわててきもちを切り替えた。

 

『――――』

 

「ううん、せっかくのロンドンなんだもの。きっとだれかいるんだから!」

 

 ひとりだけどひとりじゃない。それがわかったから、お散歩を楽しもうと張り切ってこえをだして、あるきだす。あのときだってそうやってお姉ちゃんを見つけて、お友達のあたし(アリス)と会えたんだから!

 

 ――だからきっとだいじょうぶ、なんだよね?

 

 

 

 

【side:ア■ジ■■■】

 

「駄目だよ、ありす」

 

「え?」

 

 こえがした。

 

 もうだれかは わからないけど その少年は しずかな口調で そういった。

 

「強要はよくない。無理矢理言うことを聞かせようとするのはダメなことだ」

 

「どうして? どうしてなの?!」

 

「どうしてって、そんなことされていい人なんてそうそう――」

 

「違うわ、お説教じゃない! どうしてあなた、迷子じゃないの!?」

 

 そんなことはアリエナイと こえを荒げる少女。たしかにソレは おかしいこと のはずだ。

 少女いがいのだれもが■■をうしなった。もう一人のメガネの少年も 茫然自失にうつむいて ばかりだ。なのに このしょうねんだけが。

 

「確かに自分の■■はもう分からない。だけど、自分が何者かを表わすものがあれば、迷ったりはしないよ」

 

「分からないわ、何を言っているのかさっぱりだわ!」

 

「…………いや、俺には、ちょっと分かる気がする」

 

 ブンブンと首をふるしょうじょの代わりに めがねの少年がたちあがりながら答える。

 

「要するにこれは、ことば遊びなんだろう? さっき尋ねたよな、『あなたはだあれ?』って」

 

「嘘、嘘よ!」

 

「■■を失うのがこの固有結界なら、ないはずの■■があればそれは打ち消せるはずだ」

 

 ソレは いっしゅの矛盾だ。だからこそ不可能で だからこそ固有結界をけすことにツナガル。だけどその方法が いったいドコにあるというのか。否 タドリツイタからこそ このふたりはたちあがれたのだろう。

 

「俺はカウレス・フォルヴェッジ。バーサーカーの手前、それだけは忘れるわけにはいかないんだよ!」

 

 意味不明なはずのもじれつを けついと共にせんげんしたしゅんかん。周囲のくうきが一瞬ゆらいだ。その隙をつくように わたしのつうしん礼装からノイズが響いた。

 

『……フジ…ル、アンジェリカ……!』

 

「……アン、ジェリカ……そうだ、ワタシは……!」

 

 聞こえた単語を口にした瞬間に自分の名前、理由、自己が浮上を始める。思考が一気にクリアになるのと同時に、部屋に貼られた結界にヒビが入りだしたことを直感した。

 

「あぁ……名無しの森が……」

 

「名前を失う結界とは大したものだ。ですが、おいたが過ぎるようですね」

 

 私たちの使命すらも忘却させんとした少女の前に立つ。まだ少しふらつく様子のカウレスも、止めるつもりはないようで傍観を決めていた。未だ呆然としているありすだが、またいつ危害を加えるとも限らない。これ以上の憂いは不要、早急に断つべきだ。

 

「待ってください、アンジェリカさん」

 

 そんな私の手首を掴んで止めたのは、やはりフジマルだった。カウレスよりも受けた影響は少ないようだが、あまり手に力は入っていなかった。その所為か、僅かに目を細めてその行動を問い詰める。

 

「フジマル、分かっているのですか? この少女は私たちを陥れようとした。再起不能にするか、せめてカードを奪うべきです」

 

「それは、そうですけど」

 

 フジマルが視線を向けたのは、身体を抱くように縮こまるありすだった。よほどカードが大事らしいが、ならばより効果的だと認識する。だからこそフジマルが待ったをかけようとするのが不可解だった。

 

「悪気がなかったとは言いません。それでも、子供がやったことには寛容であるべきだと思うんです」

 

「この少女はただの子供ではありません。このロンドンで生存出来て、かつて聖杯戦争に参加していた可能性も高い。そして今の所業、十分に脅威に値します」

 

「これはアンジェリカさんの方が一理あると思うぞ、フジマル」

 

 カウレスがこちらに肩入れしたことで、ありすが一瞬ぎゅっと目を瞑った。最早彼女の味方をするのはフジマル一人なのだ。いや他に仲間がいないとも限らない。そもそもカードの真名すらも分からないままなのだ。警戒を解く方がおかしいはずなのに、それでもとフジマルは庇い続ける。

 

「だけど自分たちは今は何ともないはずです。だったらこれ以上は――」

 

「正直に言ってください。フジマル、あなたは理屈ではなく感情で今動いている。違いますか?」

 

「…………」

 

 目が細くなる辺り分かりやすい。私自身は人の感情に疎いが、それでもこれくらいは分かる。既に三度、特異点を修正してきたフジマルがこのことを理解していないはずがない。その上で、彼なりの筋を通そうとしているのだ。

 

「多分、この子は本当に遊び相手が欲しかっただけなんだと思います。このロンドンに恐らく一人でやってきて、何とか出会えた自分たちにその可能性を見出して。少なくとも自分にはそう見えました」

 

「お兄、ちゃん」

 

「だったら、その思いは無下には出来ない。出来ることなら、たすけてあげたいんです」

 

「……もう、この子を敵とは見ていないのですね」

 

 この顔には見覚えがある。かつて記録越しに見たオルレアンとセプテムで。そしてオケアノスで芥ヒナコを助けると言った時のそれと同じものだった。

 

「分かりました、一度だけチャンスを与えましょう。それが私の出来る最大の譲歩です」

 

「ありがとう、アンジェリカさん。あとごめん、カウレスもそれでいい?」

 

「この流れでいいえとは言えないだろ……。まぁ分かってるとは思うが、俺もアンジェリカさんも警戒が続けるだろうから、何かあっても文句は言うなよ」

 

「それはもちろん」

 

 仕方ないとばかりにカウレスが溜息をつく。それで場が落ち着いたのが分かったのか、おずおずとありすが口を開いた。

 

「えっと、その……」

 

「うーんと、とりあえずありす。これ以上は何もしないけど、ここで遊ぶのもダメ。何故なら自分たちは忙しい。OK?」

 

「(コクコク)」

 

「だからありす。ちょっとギスギスしちゃったけど、それでも自分たちと一緒に来ない? 遊び相手は無理でも、話し相手にはなれると思うから」

 

 視線を合わせて、なるべく優しい声音に努めたフジマルが誘う。なんだかちょっと慣れてないだろうか、このマスター。

 

「……誰かにさそわれるなんて、久しぶりだわ」

 

 ぱちぱちとまばたきして、フジマルを見つめるありす。その驚きが、やがて小さな喜びに変わっていき、最後に可愛らしい笑顔の花が咲いた。

 

「ええ、よろこんで!」

 

 

 

 

「さっきはむりやりで、ごめんなさい」

 

 フジマルに、ではなく私とカウレスの方を向いてありすが頭を下げた。

 それはそれとして悪いことをしたと思うのなら謝罪は必要だ、というフジマルの言葉を受けてのものである。今更謝罪一つで態度を変えたりはしないので別に構わないのだが。

 

「謝る気があるというのなら、一度カードを見せなさい。別に没収はしませんから」

 

「アンジェリカさん、なんかちょっとありすに当たりが強い気がする」

 

「……そうでしょうか? 特に意識はしていませんでしたが」

 

「カウレスはどう思う?」

 

「なんでそこで俺に振るんだよ。いや、警戒してる相手にとる態度としては間違ってないだろ」

 

「カードって、どうやって出せばいいの? 人形のお姉ちゃん」

 

「そんなことも知らないのですか、全く」

 

 カードを夢幻召喚出来るのにその排出方法が分からないとはつくづく想定外だ。長時間カードを使っているうちに夢幻召喚していることを忘れでもしたのだろうか。

 

「カードの強制排出魔術を使います。じっとしていてください」

 

「なにかしら、ちょっとこわいわ」

 

「別に痛いものではありません、ほら」

 

「んっ……」

 

「力を抜いてください。警戒されると発動出来ないので」

 

 肩に手を置くのと同時に魔術を使用し、一瞬光がありすの全身を包み込む。しかし姿は殆ど変わらず、白黒混じったドレスから黒色だけが抜けたような感じになった。それの代わりに現れたカードのクラスはキャスター。

 

「『ナーサリー・ライム』、ですか。また特殊な英霊を呼んだものですね」

 

「ちがうの、あたし(ありす)がよんだのはお友達のあたし(アリス)なの!」

 

「サーヴァントを友達扱いしてたってのか。そいつは何とも……」

 

 ()()()()するありすにカウレスが反応を示した。曰くサーヴァントとマスターの関係はその主従によって変わるとのことなので、そういう形もあるのかと感心したそうだ。

 

「けどさいごに声がきこえてから、もう会ってないわ。だからさびしかったの。また会えるかしら」

 

「また会えるよ。そのお友達にも、きっと」

 

「やさしいのね、不思議な……お兄ちゃん」

 

 カードを返すと、即座に夢幻召喚してまた黒白の姿に戻ってしまった。彼女にとってカードの英霊の存在はまさしく自分の半身なのだろう。それほどまでに英霊と心を通わせていたということに表れなのかもしれないが。

 

「じゃあそろそろ地上に出ないか? 結局この部屋には姉さんがああなった手がかりとかはなさそうだし」

 

「それもそうだね」

 

 この部屋にはありすがいただけで、彼女が来る直前もフォルヴェッジ姉弟以外は誰もいなかった。そのことが分かったのなら、もうここにいる理由はなかった。

 

「あら、そういえば」

 

 部屋を出ようとする私たちの後ろで、ありすが思い出したとばかりに声を上げた。振り返った私たちの視線から逃げるように、壁際へと近づいていった。

 

「もしかして、本当はなにかあった?」

 

「そういやあの時何か言い淀んでたな! おい、本当のことを言ってくれ。頼むから」

 

「こ、こわいかおしないで、メガネのお兄ちゃん。もうかくしたりしないから」

 

 微妙に怯えた顔のありすが隅から何かを引っ張ってくる。

 余談だが、カウレスがちょくちょく勢いづくのはそれほど姉が大事なのか、はたまたバーサーカーのカードの影響が入っているのか、カードの専門家として少し興味が湧いた。

 

「だれもいないとおもったら、これが床にころがっていたの。あたし(ありす)にはよくわからなかったけど、ごぞんじ?」

 

「これは――姉さんのスーツケース、か? なんでこんな所に……」

 

 カウレスが受け取ったのはやや大きめの古びたスーツケースだった。どうやらカウレスの姉の私物のようだが、彼が驚きのままに受けとったそれこそが、探していた手掛かりになるのだろうか?

 

「中身は聞かない方がいいかな、やっぱり」

 

「いや、別に本当に旅行に使うようなカバンじゃないんだ。だけど……」

 

 少し顎に手を当てて思考を走らせるカウレス。やがてスーツケースを持つ手に力を入れながら、私たちに向けて言った。

 

「これなら姉さんをどうにか出来るかもしれない。手伝ってくれ」

 

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