夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#21 変わらない答えの為に

 

【side:カウレス】

 

 フォルヴェッジ家において、俺はずっと姉のスペアとして扱われていた。そのことに異論はなかったし、ユグドミレニアになっても、聖杯大戦へ参加することになってもそれは変わらなかった。

 数多の英雄が呼ばれる聖杯大戦において、自分はあまりにも無力。それを理解した上で立ち回ったが、結果としては早々にバーサーカーを失うことになった。

 

「俺は、アイツに、何もしてやれなかった」

 

 事件ばかりだったあの日々の中で、最も色濃く焼きついているのは間違いなくあの日のことだ。繋がりの消えた右手の甲を見つめたあの夜。諦めと後悔と、無力感をいつまでも握りしめていた。

 

 アイツはもういないし、また召喚するようなこともきっとない。だけどアイツに胸を張れるようにならないと駄目だと思った。その為に俺が出来ること、果たすべきことを為さなければならない。

 姉さんから魔術刻印を引き受けることを決めた時もそうだった。空中庭園に残ることを決めた時も、それが俺の役割だと思ったからだ。最期のユグドミレニアとして、当主の責任を全うする。それが俺の決めた道だった。特異点であっても、それは同じはずだった。

 

『えぇ、はっきりしたわ。あなたと私は違う世界のお互いを知っているだけのようね……』

 

 けれどカルデアから、俺の知らない俺がいることを知った。聖杯大戦に参加することなく、バーサーカーとも出会うことのなかった自分がどうなっているのか、興味が湧くのは当然だった。結局時計塔のあの教室にいるとは思わなかったが。

 

『姉が突然出奔したせいで、弟のあなたが後継者として留学することになった。私はそう聞いてるわ』

 

 そして俺が時計塔にいる代わりとして、その事実が存在した。別の世界であっても、最終的に姉さんは魔術師を辞めて人間に戻っているということだ。それだけならいいが、あちらの世界の姉さんは突然出奔したらしい。

 

「その世界の俺は、どう思ったんだろうな」

 

 そのことを聞いても別にショックとかはなく、ただ純粋な疑問が湧いた。でもすぐに答えは出たから、ただの定義づけと言った方が近いかもしれない。

 だって何がどう違うのかまでは分からない。けれど変わらない部分もあるはずだ。姉が魔術師を辞めるきっかけが聖杯大戦だったか、そうじゃないかの違いではないだろうか。そうであるのなら俺の考えは、きっと。

 

「変わらないよな、結局」

 

 

 

 

【side:アンジェリカ】

 

 地上ではあるが日の光は見えず、未だに霧に覆われたままのロンドン。その舗装路の真ん中で私は一人佇んでいた。カードも使用せずにだらりと腕も下ろしたままの状態で、けれど周囲の気配を探ることに全神経を集中させる。

 

『来たわ!』

 

「来ましたか」

 

 通信越しで反応を捉えたと報告が上がり、瞬時にカードを手にする。まずは囮の役を全う出来たようで何よりだが、作戦はここからが始まりだ。警戒度を高めるのと同時に夢幻召喚を行おうとした矢先。

 

夢幻召(インストー)――」

 

「させない、わっ!」

 

 カードを使うまでの刹那を、当然の様にアサシンがその手に持つナイフで突こうとする。最速であっても最早間に合わない程に接近を許してしまっている辺り、相当に気配遮断のランクが高い。

 私を中心とした半径30mから得られるデータを常に数値化し、その僅かな揺らぎを接近の合図とする。夢幻召喚が間に合えばいいが、私たちの策を上回る速度を持っていた場合。その時の対策が、既に到着していた。

 

「――こっちの台詞っ!」

 

「なっ!?」

 

 私の胸を抉るまで数ミリの所で、砲弾のような衝撃がアサシンごとその凶刃を弾き飛ばした。私のすぐ横に到達した影を目視しつつ、夢幻召喚を完了させる。私の夢幻召喚が間に合うくらいの援護射撃でいいと言ったのに、文字通り飛んでくるとは大げさだ。

 

「助かりましたフジマル。いけますね?」

 

「もちろん!」

 

 左腕に盾を、右手に剣を構えたフジマルが不敵に笑う。私の手にも火縄銃が握られたことで体勢は整った。それを見たアサシン、いやフィオレの動きが止まった。

 

「誘いこまれたのね、わたしは。分かってはいましたが、煩わしいことこの上ない。だけど仕方のないことでしょう? もう残った獲物も少なくなってきたんだから」

 

「あなたがどういう人なのか、弟さんから聞きました。今のあなたは正気じゃない、何かに操られているんだ」

 

「正気じゃない? あぁそうなのでしょうね。獲物を狩るために町を駆ける今のわたしが、狂気じゃなくてなんだと言うのかしら」

 

 未だその影は朧げで表情まではよく見えていない。楽しんでいる様にも、落ち着いているにも見える。そのどれが本心なのか分からないのが彼女の現状なのだ。フジマルとカウレスが躍起になっているのもその辺りなのだろう。

 

「だからこそ、あなたをここで止めます」

 

「そうですか。でもわたしがそれに応じる必要は――あら」

 

「勘がいいようですがもう手遅れです。誘いに応じたのは軽率でしたね」

 

 何かに気づいたフィオレが周囲を見渡す。恐らく抜け道を探しているのだろうが、無駄に終わることだろう。既にこの一帯は封鎖されており、そしてそれはただの結界ではない。

 

「固有結界……。こんなものまで用意するなんて、本気なんですね」

 

 自分が閉じ込められたことを認識してもフィオレの態度は変わらない。固有結界とはいえその効果が目に見えるわけではないことが起因しているのだろう。

 

「けどあなたたち二人、いや三人でわたしの相手が務まるのですか? そこがどうにも心配です」

 

「敵の心配とは、随分と余裕があるのですね」

 

 誘い出された所で力の差は変わらない。ならば負けることはないと言わんばかりだ。確かに前回は翻弄されっぱなしもいいところだったが、今回は違う。同じ結果になるはずがない。

 

「その余裕がいつまでも保つとは思わないことだ」

 

「まずはその霧を剥がして見せる!」

 

「悪くない啖呵です。ですがごめんなさい、この私はアサシンなの」

 

 金属音。私たちの背後で鋭い音が弾けるのを聞いた。それはフィオレを逃がさない為に固有結界を展開するありすが隠れている場所からだった。咄嗟に振り返りながら、私たちはその声を聞くことになった。

 

「――だろうな。姉さんならそれくらいはするだろうさ」

 

「!?」

 

 落ち着いた声が、フィオレの驚愕を誘った。その驚きは不意打ちが失敗したことと、その不意打ちを防いだ人物に対する者だった。

 

「カウレス……。 やっぱり来てしまったのね……」

 

「姉さんだって俺がいることは分かってたんだろ? 今度こそ逃がさないからな」

 

「あぁ、あぁ……!」

 

 バーサーカーの持つ雷撃の力による速度を持って現れたカウレスが自分の姉、フィオレを真っすぐ見据える。そんな弟とは対照的に、その視線を避けるように顔を背けるフィオレ。

 

「……あなたとは戦いたくなかったのに。今のわたしじゃカウレスを殺してしまうから」

 

 殺気が爆発し、広がる。そして明確な凶器になって迫りくるのと同時に、私たちも駆け出した。

 

「作戦通りに、それを思い出せ!」

 

「まずは俺が!」

 

 カウレスの号令でフジマルがいの一番にフィオレへ接近する。黒ローブで周囲に溶け込みやすくしているが、まだその姿は補足出来ている。その内に刃を交えて場に抑え続ける算段だ。

 

夢幻召喚(インストール)、ランサー!」

 

「射程を伸ばしましたか」

 

 フジマルの握る剣の柄が伸び、大幅に射程を伸ばした横薙ぎがフィオレに防御を取らせる。そのまま持ち方を変えて突く形でフィオレに攻撃を加えた。

 

「ですがまだまだです。お釣りが来ますよ?」

 

 その声に呼応するように、彼女の背中側から新たに金属音が発生する。

 新たに出現した金属腕がフジマルとの攻防に参加したことで射程の有利さが打ち消され始める。まさしく何本もの腕で刃を振るうかのような攻勢が始まりかけていた。

 

「チャージ、完了!」

 

「もちろん見えていますよ。それに二人増えた所で状況は変わりません」

 

 フジマルが強く打ち込むことで僅かに生まれた金属腕の隙間を突くように、カウレスのメイスが唸りを上げて強襲する。けれどフィオレはそれを半ば無理やり受け止めた上で、小さく笑いすらしていた。

 カウレスのカードは魔力切れこそ起こさないが一撃の攻撃力がどうしてもネックになってしまう。それをチャージしての強打スタイルでカバーしている分、連撃は出来ない。そんな空白をフィオレが見逃すはずはなかった。

 

「だから、俺がいる!」

 

「! ……まさかその為にカードを?」

 

 甲高い音が響き渡り、フィオレの攻撃が届かなかったことを全員が理解する。肩代わりしたのが射程を伸ばしたフジマルの槍であることから、フィオレがその事実に到達して小さな驚愕をこぼした。

 

「俺が知ってる奴よりも腕が多いな。それもカードの効果なのか?」

 

「答える必要はありませんね。いっそ、幾つまで対応出来るか試してあげましょう」

 

「まだ増やせるのか……!」

 

 彼女の宣言通り、3人を襲う金属腕が更に増加した。周囲に偏在する霧から不意に放たれる攻撃をそれぞれが凌いでいく。チャージの必要があるカウレスだけが回避の一手しか選べない所を、フジマルが伸びた射程を活かして凌いでいく。いつの間にか役割が変わっていることにフィオレも勘づき始めていた。

 

「そのカードのスキルで守護を強化しているのですか。考えたものですね」

 

「何かを守る戦いが得意な英霊だからね。カウレスのサポートならこれが一番だよ」

 

「つまりあなたが攻撃の中心ではないと。自ら戦略の一端を晒すなんて、そちらこそ随分と余裕があるのね?」

 

「……こっちに余裕なんてあるわけないだろ」

 

 カウレスが肩で息をしながら呟く。彼の攻撃の全てが避けられているわけではなく、受け止めた金属腕から時折軋むような音がしていた。いつか攻撃がガードを突破することもあるはずが、それまでにカウレスの体力がもつかどうかは怪しい所だ。

 

「きゃあ! ちゃんとこちらも狙ってくるなんて、なんてきんべんなのかしら!」

 

「暴れないでください! 相手は既に気づいています!」

 

 わたわたするありすを脇に抱えて移動する私にも金属腕が迫ってきていた。フジマルとカウレスの相手をしつつ、逃げ場を塞ぐ固有結界を維持しているありすも見逃さない。その両方を可能とするその戦闘スタイルが厄介この上ない。

 

接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)、カウレスの知るものより遥かに強力になっているとのことでしたが……!」

 

「多すぎるわ! タコの手足でももうすこしマシなのに!」

 

 ありすのいう通り、私たちを襲う金属腕の本数は異常だった。この数を同時に使役できるという一点で苦戦を強いられているのは間違いない。私の銃で援護をと思っていたが、それも難しい状況だ。

 

「しかし攻めきれなくなっているのはお互い同じですか」

 

「みたいね。お兄ちゃんたち、がんばってる!」

 

 私とありすが猛攻を凌いでいる間に、あの三人の戦いは段々と拮抗し始めていた。一つはフィオレのカードが真っ向勝負に向かないアサシンであること。加えてフジマルがランサーのカードを用いて守備に専念していることが要因だろう。

 

「どうした姉さん、底が見えてきそうだぞ!?」

 

「カウレス、あなたがここまでやるなんて……」

 

 そしてもう一つ。阻まれ続けるカウレスの攻撃の熱が徐々に増してきているのだ。血のつながり故か、フジマルを上回る速度でフィオレの繰り出す攻撃に慣れ始めている。それが状況を拮抗へと持ち込んだ最大の要因となっていた。

 

「きゃっ!?」

 

「カウレス!」

 

「いくぞ姉さん、覚悟を決めてくれよ――!」

 

 均衡が崩れる瞬間、カウレスのメイスがガードを突破した瞬間にその動きのギアが更に上がる。フジマルがその肩に叩きつけたコマンドカード、『瞬間強化(ブーステッド)』を受けたカウレスが距離を詰め、同時に稲妻がその音を鳴らした。

 

磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)!」

 

 立ち上る雷撃が瞬時に周囲のモノを一切の区別なく焼き尽くす。敵味方すら関係なかったそれへの対処は三者三様で刹那的なものだった。

 

「うおおおおっ!?」

 

 当然近くにいたフジマルにも被害が及ぶ。出していた盾で受け止めながらの全力回避だが、少なくないダメージが彼を襲っていた。

 

「ああああああああっ!」

 

 攻撃を放ったカウレスに直接的なダメージはないが、彼のもつ魔力の多くを馬鹿食いする技なのは間違いない。熱によって吹き出す汗がそのまま彼の代償を表わしていた。

 

「やる、じゃない……!」

 

 初めてフィオレから漏れる苦悶の声。咄嗟に展開した金属腕の壁を貫いたダメージがついに余裕を奪うことに成功していた。他の金属腕も走る電流の被害を受けてその動きを大きく鈍らせている。

 

「どうなった……?」

 

「どきどきだわ……!」

 

「…………まだ、だ!」

 

 雷樹が消えたあと、黒く焦げた街道に立っていたのはカウレスとフィオレの二人だった。

 けれどもこの場で最も消耗しているのはやはりカウレスだろう。宝具を放ったことによる消耗は激しく、追撃せんとするその腕はとてもゆっくりだった。

 

「――こうするしかもう、ないのね」

 

 だから先手をとれたのはフィオレの方だ。

 二人を中心にまた深い霧が吹き出し、殺人の為の舞台が整えられていく。例え今が夜でなくても、何が起きようとしているかは明確だ。それを目視した瞬間に私も接近を開始するが、間に合うかは五分五分だ。

 

「カウレスと戦ったら、こんな終わりなんじゃないかと思ってた」

 

「…………」

 

「あなたじゃ私には勝てない。届くのはあなたのメイスじゃなくて私の刃なの」

 

「……姉さん」

 

「どうしても抑えられそうにないから、避けてきたのに」

 

 深い霧が輪郭すらぼかしていく。二人の距離は元々それほど離れているわけではない。確実な死が近づいてきていても、カウレスが動かせたのは腕だけだった。

 

「宝具のせいで動けないのなら、そのまま楽にしてあげるから。解体(マリア)――」

 

「させないっ!」

 

 振り下ろされる刃とカウレスの間、電撃から復帰したフジマルが割り込む形で攻撃を受け止めた。けれどそれを見たフィオレの反応は、とても落ち着いたものだった。

 

「あなたはまだ動けたのね。けど順序が変わっただけ。知っているでしょう? これは呪いなのだから」

 

「ごふっ、防御が意味を、なさな――」

 

「ごめんなさいね」

 

 剣で止めたはずの攻撃がフジマルの腹部を朱く散らし、よろめいた所を邪魔だとばかりに突き飛ばす。フジマルの懸命も数秒の猶予を与えただけに過ぎないと示すようだった。

 

「宝具を、とうとう使ったな。それくらい追い詰めたってことか?」

 

「そうね。リミッターが残っているとはいえ、あなたも切り札を使ったんだもの。私もこれ以上温存は出来ません。使いたくは、ありませんが」

 

 数歩の距離を詰めるのに、僅かに少女の迷いがあるように見えた。けれどそれも終わり、腕を振るえば一つの命が消える距離に到達した。

 

「やっと顔が見えたな、姉さん」

 

「私としては、あまり嬉しくないのですが」

 

 霧のヴェールもその意味を為さない至近距離。お互いの目を見て姉はその表情を曇らせた。

 

「……何を、狙っているの?」

 

「姉さんなら分かるよな。ここからが、俺の仕事だって」

 

 そして弟は、ボロボロの体で小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

【side:カウレス】

 

「分かってたことなんだ、最初からさ」

 

 言葉だけみれば諦めでしかないが、俺からすればそれは当たり前のことだった。

 自分の才では姉には及ばない。けどそのことに不満も憤慨も抱いたことはない。その上で俺のやるべきことをやるだけだと分かっていた。聖杯大戦でも特異点でも、それは変わらない。

 

 ギィンと鈍い金属音。

 本当は弾ければ良かったんだけど、今は掴んでくれるだけでも大助かりだ。

 

「嘘、なんでカウレスがそれを……!?」

 

「俺にも分からないけど、これが姉さんのだってのは分かったよ」

 

 姉さんのもつ凶器の切っ先が、俺の腹を切り裂く寸前で何とか止められている。俺の命を救ったのは、これまた見覚えのある金属腕だった。

 

守護者の錫腕(ユーピター)、俺が使っても流石の反応速度だな」

 

「私の、接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)……!」

 

 地下で見つけたスーツケースの切り札。今姉さんが使っているものではなく、姉が作り上げ愛用していた本来の礼装。俺が使うことになるとは思わなかったが、それは姉さんにとっても同様のはずだ。

 

「カードもこれも、もっと使いようがあるはずなんだ。だけど俺に出来るのはこれだけだったから」

 

「カウレス……!」

 

 姉さんが引き戻したナイフで再度俺を突こうとする。けれど俺の使う金属腕が間に合ってしまう程に遅い。未だに痺れが残る俺の腕でも、辛うじて最期の仕掛けを発動することが出来そうだ。

 

「元々勝つつもりなんてなかった。俺の目的はこれだけなんだよ、最初から」

 

「ま、さか――」

 

強制排出(アンインストール)!」

 

 アンジェリカから貰ったコマンドカードをその身体に押し当てる。使用者から無理やりカードをはく奪する光が、姉さんの全身を包んでいった。

 

「解放してやるから、姉ちゃん!」

 

「ああ、ああ……っ!」

 

 苦悶の声ではない。これは姉さんに取りついた呪い(カード)の叫びだ。だからきっと、これでいい。

 

 元々俺は姉さんを倒すことを手段としか思っていなかった。目的はあのカードにとらわれた姉さんの救出だ。その為に倒す必要があるのならと、悩んだ末に覚悟を決めてロンドンを駆けていた。

 けれどカルデアと出会って状況が変わった。アンジェリカがもつ強制排出魔術とあのスーツケースで必要なピースが埋まったんだ。

 

『カードの強制排出魔術は対象がカードの排出を拒まないことが前提です。暫定のルールマスターである私であっても、暴走状態では必ず排出出来るかは分かりません』

 

『あくまで乗っ取られているだけと言うのなら、本来の人格がある程度浮上すれば、或いは』

 

 だからこれは、ずっと姉さんを呼び続ける戦いだった。姉さんと一番縁のある俺が追い込んで、姉さんの意識を引っ張りあげる。その分危険もあったが、一人じゃないだけマシだ。面と向かって勝てないと言われると流石にくるものもあったけど。

 

「姉ちゃんは、もう魔術師にならなくていいんだ」

 

 姉さんの人格が浮上すればするほどにその攻撃は鈍くなっていった。俺が見切ったのではなく、相手が弱くなっていっただけだ。肉親を殺すことを躊躇わない人間はいない。魔術師になり切れなかった姉さんの手を再び血で染めてはいけない。染める必要も、ないんだから。

 

「間に合って、よかった」

 

 周囲の霧と同じように、姉さんの被るフードが、握るナイフが、少しずつ薄くなっていく。そして霧が晴れた時、そこには少し懐かしい気もする制服に身を通した姉がいた。

 

「大丈夫か?」

 

 力なくふらりと揺れたその身体を慌てて受け止める。やはり相当に消耗しているようだ。俺と違って魔力補充の方法も乱雑だっただろうから、その程度は計り知れないだろう。

 

「何とかね……。あと、案じるのはあなたたちもそうじゃなくて?」

 

「え? ――うわっ、と」

 

 言われてすぐに眩暈がして、視界が不安定にブレ始める。宝具とその後無理した反動は思ったより大きいようだ。

 

「よかった……何とかなった、んだね」

 

「ああ、フジマルもっておい!?」

 

「なんか、思ったよりダメージが酷くて……」

 

 力なく笑いかけるフジマルの腹部は真っ赤に染まっていた。そもそも立ってすらなく倒れこんでいる姿勢に近く、つまりは重症にしか見えなかった。

 

『何やってるのよアンタ!? アンジェリカ、早く治療を!』

 

「分かっています! フジマル、問いただすのはひとまず後回しです!」

 

「それはそれで、勘弁だなぁ……」

 

「苦しそうなのに、平気そうにもみえるわ。やっぱりふしぎね!」

 

 姉さんを何とか出来たと思ったら、不思議と騒がしくなってきていた。あの猛攻を凌いだのにどこに騒ぐ元気があるのかとツッコミたくなるほどだ。そんな彼らがおかしかったのか、姉さんが小さく笑う。

 

「愉快な人たちと出会えたのね。後で感謝を述べないと」

 

「それより姉さんも休むのが先だろ。ほら、歩けるか?」

 

「うーんと、ちょっと難しいかもしれません。魔術回路を使ったから、また足が動かなくなっているのかも」

 

「マジかよ……。分かった、ちょっと我慢してくれよ」

 

 仕方ないとばかりに姉さんを背負う。一時的に昔の状態に戻ったと考えるなら、あの接続強化型魔術礼装もまたしばらく使うことになるかもしれない。その関係でまた聖杯大戦のことを思い出すことが増えそうだとか、そんな他愛もない考えが頭を過ぎった。

 

「本当に、頼もしくなったものね」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「いえ、何でもありません」

 

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