・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
「つかれた! ねぇ肩車してくださらない?」
「……何故私なのですか?」
「だって一番たかいところから見渡せそうなんだもの」
「今は遊んでいる場合ではありません。よって却下です」
「えー! じゃあ不思議なお兄さん、お願い」
「そして自分に来るかー」
「フジマル、分かっていますね?」
「アンジェリカさん圧が! 圧が増してます!」
現在はロンドンの地下深くへと潜っていく最中であり、遊びに使う暇などない。ありすに甘そうなフジマルに軽く釘を刺すくらいは必要だろうと判断しただけだが、思った以上に効果が出てしまったようだ。
「
「あー。……ごめんね、警戒しなくちゃいけないから肩車はできないや」
首を振るフジマルにありすが肩を落とした。
彼女には悪いが当然だ。状況を理解して言葉を返したフジマルによく言ったと返そうとして、
「なのでおんぶで我慢してほしい」
「うーん、じゃあがまんしてあげる」
『いいわけないでしょそれも駄目だから!』
私たちの発言を無視してするするとフジマルの背中に登ったありす。くっつくと言うよりはフジマルの腕を踏み台にし、肩に手を置いて遠くを見渡す姿勢で楽しそうに笑った。
「最悪首とか肩を掴んで貰えば両手も使えるかなと」
「なんでおんぶしたままの戦闘を想定したんだよ」
「肩車からでも両手は使えますが、バランスが悪いですもんね」
「そういうことでもないだろ姉さん」
微妙に観点のズレた姉との漫才を繰り広げるカウレスはさておき、問題はありすだ。元々戦闘員としての期待はしていないが、足手まといになるようなら対策は必要だ。フジマルが変に疲労するくらいならいっそ私の時に承諾するべきだったか。その時は余計に調子にのりそうではあるが。
「別に大したことじゃないから、大丈夫ですよ」
『あなたが良くても、私たちからすれば良くないのよ』
「なによ、カルデアって随分ケチなのね!」
『なんですって?』
「所長も子どもの言うことを真に受けないで! あとありすも言い過ぎだから!」
ぎゃあぎゃあと騒がしくなるが、この雰囲気もどこかありすは居心地よさそうで。根拠はないが、何となくそう見えた。
「ここを襲撃されたら更に大変そうですね」
「言うなよ姉さん。多分それフラグだから」
その後実際に戦闘に突入するのだが、それはまた別の話だ。
この時から彼女に感じていた不信感。フジマルはただの子どものように接していたが、私たちには――否、私にはそう思えなかった。
私のことを人形と呼ぶ、この――を。
☆
「きゃあ!」
「くっ!」
ありすの悲鳴と、私の舌打ちに近い声が漏れ出る。
高純度の魔力が時には弾丸として、時には光線として私たちの命をつけ狙う。脅威なのはその攻撃力と発動速度、そして手数の多さだった。
「あの宝石、キラキラだけど怖いわ! 流れ星もこんな感じなのかしら!」
『星に匹敵するかは知らないけど、これほどの宝石魔術が使えるだなんて何のカードよアレ!』
「使えるものは使う。例え知己が高めた術であってもだ」
ゾォルゲンの周囲に出現する五つの光。それぞれ異なる色を放つことでその属性を主張していた。握った宝石の剣で操るそれが幾つもの熱を、冷気を、雷を、岩石を、疾風を生み、私とありすを脅かしていた。
「五つの属性、アベレージ・ワン。ならそのカードは!」
「知ったところでどうにもならない。明快な結末をくれてやる」
『周囲に警戒しなさい! ここはアイツの工房内と見ていいわ。何が来てもおかしくない!』
「どうなってるの、もう!」
巨大な蒸気機関を守る為の呪詛の罠が周囲に張り巡らされており、接近すらままならない状況で魔術攻撃を避け続ける。その為ライダーのカードの高い敏捷性を選ぶことになった。脇に抱えられたありすはこの状況に混乱しているようだが、気にしている余裕はない。
(アーチャーで撃ちあってもすぐに押し切られる。ありすを抱えたままでの接近は困難。ありすのカードは……)
「
「声は震えているようですが?」
「ちがうわ、お姉ちゃんに揺られているからそう聞こえるだけなんだから! こんなゆりかご初めてよ!」
彼女の顔を見ている暇はないが、声だけで頬を膨らませているのが分かる。カードも戦闘に向いていない生身のありすが何をもって大丈夫というのだろうか。自衛できるだけの力が彼女にあるのなら取れる選択肢もまた変わってくるのだが。
「
「………………あなたにそれだけの力があると?」
「もちろん!」
『アイツの罠の所為でどんどん逃げ場がなくなってる。あまり時間は残ってないわよ』
「やはり、そうでしたか」
迫りくる魔力弾を更に姿勢を低くして回避するが、もう大きく距離を取ることが出来なくなっている。弾幕を張るのと同時に罠を起動し、更には障害物を作成して場を操作する。ゾォルゲン本人の力かカードによるものかは不明だが、着々と仕留める為の手順が進められていた。
「…………」
ただ無言でゾォルゲンがこちらを見やっている。決して警戒を怠らず、反撃の目を与えないとしているのが明白だが、だからこそ打てる手は少ない。
「……敵はおそらく生粋の魔術師。クラスカードもキャスターと見ていいでしょう。厄介ではありますが、接近さえ出来れば可能性はあります」
『オケアノスと同じってわけ? あの英雄王に比べればマシかもしれないけど』
「それもそうですが、今回は私とありすしかいない以上仕留める役目は私しかできない。だから――」
「まかせて、人形のお姉ちゃん。
「そうですね、無事に終わったのなら或いは」
周囲で多くの魔術が牙をむく中で、そんな口約束を交わす。それだけで笑みを零すこの少女がどこまでも不思議で、全くもって分からない。もしかしたら、敵であるゾォルゲンよりも。
「……ですが何故です? 私を気にかける理由が、私と共に戦おうとする理由があなたにあるのですか?」
「あら、そんなことが気になるの? かんたんなことよお姉ちゃん」
空気が変わる。ゾォルゲンが持つ宝石剣が僅かに震えだしたのだ。罠をばら撒き終えたことで決定打へと着手し始めたというのに、私の意識が少女の小さな言葉に奪われる。
「――むずかしくなんてない。ただあそびたいの。ウサギを追いかけるのといっしょ、それだけでいいんだから!」
『来るわ!』
準備は整った。練り上げられた舞台か、その上で繰り広げる即興劇か。蒸気機関だけが見つめる戦場の幕が、所長の声と共に上がったのを感じた。
☆
キャスター『パラケルスス』。それがゾォルゲンの持つカードの真名であり、計画を遂行する為に振るわれている力の名だった。伝説的な錬金術師として知られ、五つの属性を持つアベレージ・ワン。そんな強力なカードを一流の魔術師が持つとどうなるのか。その答えがこの力の奔流だ。
「宝具解放。真なるエーテルを導かん――我が妄念、我が想いのかたち」
突き出した宝石剣を中心に魔力が渦を巻く。それは次第に背後に浮かぶ五つのエーテルを巻き込んだ後に収束する。その終わりが合図だと全員が理解していた。
「
選択したのはアーチャーのカード。既に周囲は起動した呪詛の罠に囲まれていて回避は難しい。ならば正面からの迎撃を狙う以外の道はなかった。
「『
「『
煌めく五色の光が螺旋となって一直線に放出される。オケアノスでのドレイクの砲撃を優に超える威力をもって、私の一斉射撃とぶつかった。
「その程度で、押し切れるとでも」
「まさか――威力が殺されて!?」
大きな力の衝突によって地下空間全体が揺れ始める。しかし一点に集中させた弾の群れをもってしても、敵の魔力の奔流の勢いを僅かに減少した程度。迫りくる光が否が応でも私を身構えさせた。
「きゃああああああ!」
「くそっ!」
咄嗟にありすを庇いながら受け身を試みるが、全身を叩く魔力で大きく吹き飛ばされる。罠を幾つか巻き込みながら、数メートル転がった事実をぼんやりと認識していた。
『アンジェリカ!』
「……しぶといな。致命的なダメージは避けたか」
「はぁ、はぁ……。無事ですか、ありす」
「う、うん」
抱かれたまま私に不安そうな目を向けたありす。ヒビが入ったオケアノスの時と比べれば大したことはない。手足に力を入れると走る痛みも、魔力を通す際のバチリとした痺れも、活動に支障をきたす程ではないのだから。
「ならばこれで終わらせよう」
『もう一発来るわ、やれるわね!?』
「はい、これで出し惜しみはなしです」
だが二度はない。これ以上の負傷は認められない。そんな覚悟がカードを持つ手につい力を入れる。そんな様子が伝わったのか、再度ありすが私の目を見た。
「人形のお姉ちゃん、さっきの
「……行きましょう」
更なる力の集まりが空気を揺らす。一撃目を超えた威力を搭載した魔力の塊、真エーテルの放出準備を終えたゾォルゲンと目が合った。きっと、あちらも分かった上で備えている。
「
コマンドカードを上乗せして少しでもこちらの威力を上げておく。そして姿が変わり、手に鎖が握られたことを確認して即座にこちらの宝具を起動した。
「今度は足りているのだろうな?」
「無論です。――『
同時に召喚した天魔に跨り、ゼロから瞬時に加速して突撃を開始した。背後に残したありすの視線を感じながら、目の前の激流を突破することに意識を集中させる。
「試してやろう。我が想い、友の想いよかたちづけ。『
それはかつて聞いた黒き星の息吹に届くかもしれないもの。
すさまじき轟音が、私の駆ける宝具とぶつかった瞬間に地下空間にこだました。
(やはり威力が殺されている。あの宝石剣の力ですか。なら――!)
「くっ、これは」
『良いわアンジェリカ、魔眼は効いてる!』
宝具を使用したままに石化の魔眼の発動。当然効率は良くなく多量の魔力を消費していた。それを度外視してでも今は相手の宝具の出力を下げなくては、ここは突破できない。
「この程度、押し負けるとでも!」
「くぅああああああああ!」
出力は拮抗し始めた、否、僅かにこちらが勝りだしている。けれど相手もそれを許すほど甘くはないだろう。だから先手をうつしかないと再度覚悟を決めた。
「コマンドセット、ライダー
「!」
唐突な宝具の解除にゾォルゲンが驚きの声を上げた。押していた所で自分から手を緩めるように見えたからだろう。そんな一瞬生まれた空白をカード切り替えのラグを極力抑えるクイックコードによって打ち消した上で、更なる手を打った。
「クイック『
即座に切り替わったアーチャーの宝具を起動した瞬間、再度ライダーで追うように宝具を使用する。重なる二つの衝撃をもって、真エーテルの疑似再現を打ち破る為に――!
「宝具の重複発動だと、ふざけた真似を!」
「ここだ!」
二度の加速をもってついにゾォルゲンへと肉薄する。ライダーの敏捷をもってすれば速度を保ったまま切り込むことが出来る。握った短剣でその身体を刺し貫こうとして――
「――対策は十分。お前の負けだ」
鋭い痛み。突如はしったそれによって私の身体が硬直する。左肩の辺りによぎった小さな黒い影が原因だと遅れて理解した。
「蟲、か――ガッ!?」
そして比べ物にならない程の衝撃と共に、なにかが私の胸を貫いた。
『アンジェリカ!?』
「接近されただけなら、負けてなどいない。ならばその時の策も練っておくだけのこと」
なんてことはない。この男もただ備えていただけだ。蟲の不意打ちで動きを止め、迎撃用の罠を起動し仕留める。あの宝具が全てだとは誰も言っていない。その上で手札を伏せていた、ただそれだけの話。
「カードの使い方、見せてもらったぞ。この戦いは、無駄ではなかった」
「……、……」
指先から、足から力が失われていく。身体が限界を迎えたことが分かる。そのことを認識する自分がそこにいた。
「だめよ、人形のお姉ちゃん」
少し遠くにありすの声がする。ゾォルゲンの宝具の余波は届いていないことが分かって、安心して、最期にふと彼女の言葉が頭をよぎった。
「――越えて越えて数多の世界、たからもの探す果てなきゲーム」
絵本を持った少女が唄う。いつの間にか手にした絵本を開き、まさしく自分の世界にいるような。
「――走って走って鏡の迷宮。みじめなウサギはサヨナラね?」
「なんだ――まさか!?」
空気が変わる。その場の全員がそれを理解し、ゾォルゲンが目を見開く。
――だが取り戻した感覚をもって振るわれた、私の短剣がその直感を上回った。
「! キャスター
「これで本当に、終幕です!」
突撃時の速度はもうなかったけれど、ここで私が上回る為に作られた隙だ。出遅れるわけにはいかなかった。そうして鮮血が舞い、初めてゾォルゲンに苦悶の表情が色濃く浮かんだ。
「が、がぁあああ!」
「させません!」
横腹を貫かれてなお力を振るおうとしたゾォルゲンを鎖で素早く縛り上げる。いつの間にかその姿は茶色のパワードスーツに身を包んだものとなっていた。ただし装着よりもこちらの短剣が身を貫くのが速かった所為か、その部分だけ装甲に穴が空いていた。
「もう一枚カードを持っていましたか。やはり侮るべきではなかったですね」
私も二枚のカードを使って策を練ったが、それもこの男と同じだったのだ。それを未遂で終わらせられたのは僥倖であり、その事実に少し胸をなで下ろした。
『アンジェリカ、無事なの!?』
「はい、破損もしていません。多少は覚悟もしていましたが」
自分の胸に手を当てても、そこに穴など空いていない。確かにその感触を味わった上でこれなのだから、どうにも違和感がぬぐえなかった。
「はぁ、どきどきしちゃった!」
終わったと見たありすが小さな歩幅で近づいてきた。一応近づきすぎないよう手で静止しつつ、確認の為に口を開く。
「これがあなたのカードの宝具ですか。回復というよりはもっと別の現象のようですが」
「宝具?っていうのはよくしらないけど、まだお開きになるのはイヤなんだもの!」
『分析の結果的には、巻き戻しが一番近いみたいね……。あの一瞬でありすとあなたの状態が数分前に戻った。だから追撃が可能になったみたい。なかなか馬鹿げた現象だけどね』
「巻き戻し、そんなことが……」
所長からの報告に驚きを隠せず、そのままありすへと視線を向けてしまう。当の本人は得意げな笑みを浮かべるだけだったが、そんな姿を見てふと気づいたことがあった。
「ありす、あなたはいつからカードを使っているのですか?」
「カード? あのときお姉ちゃんに見せた後にまたもどしてそのままよ?」
「カードの長時間使用、そのせいでカード自体に何か変質が……?」
「もう、むずかしいお話はたくさんよ!」
思案にふけようとした私の手を掴んで無理やり気を引くありす。つまりは接近を許してしまっているのだが、そこを指摘する前に気になることをありすが口にした。
「人形のお姉ちゃん、約束は覚えてる?
「そういえば、そうでしたね」
「よかった、ちゃんと覚えててくれたのね。だけど安心して、もうとっくにお姉ちゃんと
屈託のない笑顔だった。だから妙に気になってしまって、つい問い返してしまった。
「わたしとあなたが、友達ですか」
「ええそう。お人形みたいにきれいな顔のお姉ちゃんと、
小さな右手を向けながら言うありすの言葉でようやく一つ、私の中で疑問が解消される。
ありすは自分だけの世界で生きている。それだけが全てであり、それ以外に意味はないのだ。だから考えすぎる必要はなく、ただそれを壊さないように扱えばいいのだろう。子どもとはそういうものだと、遅れながらに理解した。
「ありすが私を人形と呼ぶのは、もしかしてエインズワースを知っているからですか?」
だからだろうか。ずっと気になっていたことを、素直に口に出して尋ねていた。急な発言に驚いたのか、先ほどよりも不思議そうな顔でありすが答えを返した。
「そのなまえのことは知らないわ。でも、はじめて会ったときに思ったの」
一番関連のある理由が違うとなると、いよいよ本当に分からなくなってしまった。諦めて、素直に初めて会った時、あの地下の部屋での出会いのことを思い出す。
「表情の動かない様が、私の在り方が本物の人形みたいだとでも?」
「うん、そうよ。そんなはずはないのに、
ほんものと言ったその一瞬だけ、その眼が遠くなったように見えた。それが知識ではなく体験として覚えているとでも言いたげに見えたのは、馬鹿げた感想だろうか。
「
「……だから勝てたと言うのなら、それは良かったと言うべきでしょうか」
あまり要領を得た話ではない。だけど彼女の中で私がそんな立ち位置だったから巻き戻せたのだと、ありすなりの考えを整えてどうにか噛み砕く。
「それはわからないわ。でもわるものをこらしめて、お友達もできた。これをめでたしめでたしって言うのよ、人形のお姉ちゃん。ほら、むずかしいお話はもうおしまい!」
私にビシッと指を突きつけてそう言い切ると、満足した様子で私の持つ鎖の先、すなわち縛られたゾォルゲンを見て小さな首を傾げた。
「それで、このおじさまはどうするの?」
「……そうですね、ひとまず知っていることを聞かせてもらいましょう」
ありすの言葉を鵜呑みにするわけではないが、今すべきことをないがしろにするわけにもいかない。件のゾォルゲンは腹部の傷で息も絶え絶えになっているが、無論生きている。ならばと尋問を視野にいれつつ話を聞き出すことにした。
しかしどう考えてもありすに見せていいものではないので、また遠ざけようとしてありすに視線を合わせる。
「イヤよ、ありすも手伝う! せっかくのお友達なのにわざわざはなれるなんて、ぜったいイヤ!」
「……生意気ですね、本当に」
呆れてものも言えないとはこのことだ。手伝うとは言っているが、これから何をするのか本当に理解しているのだろうか。まぁ分かった上で言われてもそれはそれで別の問題がある気がするが。
「あら、お姉ちゃん? なんだかとっても――」
所詮は特異点で出会っただけの異邦人だ。そんな人物に勝手に人形だ友達だと言われて困惑しか浮かばない。ただ純粋にそう宣う彼女に対してなんて、それ以外の感情なんて浮かぶはずがない。
――浮かぶはずが、ないのだ。