・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け。
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:アンジェリカ】
~第二特異点突入前~
私にあてがわれた工房に来訪者を告げるベルが鳴り響く。入り口の方に目を向けて、その呼び鈴が間違いではなかったことを確認した。
白いカルデア制服を纏った少年であり、唯一生き残った最後のマスター。名前は確か――
「すみません、ここに来ればクラスカードの調整をしてもらえると聞いたんですけど」
「その通りですが、今までは遠隔で調整を行って特に不都合はなかったはず。それほどまでに緊急の用事なのですか?」
「いや、そんなことはないんですが。せっかく余裕も出来てきたし、お世話になった人の顔くらい見てみたいなと……。駄目ですか?」
「別に迷惑ではありませんが……」
思ってもみなかった訪問理由に調子が狂う。今までそういったアプローチをする人間など存在しかなった為に、どう対応すればいいかが分からない。そんな私の心境など知らない彼は、改めてと自己紹介を始めていた。
「藤丸立花です、クラスカードについてお世話になってます」
「アンジェリカ。アンジェリカ・エインズワースです」
久しぶりの客は、まさしく未知との遭遇だった。
「アンジェリカさんは、カルデアの人じゃないんですか?」
「はい、あくまで外部の人間による顧問という扱いになっています」
エインズワースの
”契約に基づき、クラスカードの技術を提供しろ”
それだけの命令を受け、気付けばカルデアにいたのだ。エインズワースの秘奥であるクラスカードの技術の一部でも他の魔術師、ひいては別の家に流出してしまうことを許した真意も、分からないままに。
「カルデアのレイシフト実験の際の自衛手段の1つとして採り上げられたそうです。そう決まって以来、私がクラスカードの作成及び調整をこの工房で行っています。最も、作成風景をお見せすることは契約により出来ませんが」
「本当にここで作ってたんですね! 凄いです!」
「それで、目的は雑談だけですか? まだしたいのであれば付き合いはしますが」
「え? あ、1つ聞きたいこともあって……」
自分の経緯などに何の興味があるのかも不明だったので、彼の本題に入ることにした。私の発言で彼の目尻が数ミリ下がったが、すぐに元に戻して口を開いていた。
「自分は夢幻召喚しても姿が変わんないんです。英霊の技量自体は自分の身体に降りてきているので戦闘に問題はないんですが……」
「それは貴方の魔力不足が原因だったはずです。武器と技量の具現に魔力を回すのが精一杯で防具や装束にまでは届かない。クラスカードの欠陥ではなく貴方に原因があると話したはずですが」
「うっ、それについては面目ないです。その所為という訳ではないんですけど、未だにこのクラスカードの真名が分からなくって。アンジェリカさんなら分かるんじゃないかと」
「真名が分からない?」
ある意味工房に藤丸立花がやってきた時以上に不可解だった。私がカルデアに提供したカードは本来のクラスカードのダウングレード版であり、カードに宿る英霊を特定していない。Aチームのカードこそクラスだけは固定していたが、他のものはマスター本人に英霊を召喚させる方式をとっているはずだった。
「最初に召喚した時に報告したはずでしょう? その時のことを忘れてしまったとでも?」
「すみません、カルデアに来てから暫くは記憶が曖昧で……」
「命を預けた剣の使い手すら知らないとは驚きです。なら霊基グラフと確認するのでクラスカードを渡してください」
まさか最後のマスターが真名隠しに遭っているとは思わなかったが、カルデアで作られたカードであれば私の管轄だ。そう思って手渡されたカードを一目見て、早くもその自信にひびが入った音を聞いた。
「クラスが、潰されている……?」
「はい、最初からこの状態でした。夢幻召喚すると剣が出てくるのは間違いないんですけど、持っている武器でのクラス判定は難しいと最近分かったので」
「例のアサシン、佐々木小次郎でしたか。確かにその通りですね。武具から英霊のクラスの判定は容易ではない。因みにクラススキルも?」
「はい、ステータスの閲覧も出来なかったので所持スキルも分からない。だから自分から確認出来る所に殆ど手がかりがないんです」
クラススキルとはクラスカードに当てはめられた英霊に付与されるスキルのことだ。例えばライダーなら騎乗スキル、アサシンなら気配遮断スキル、といった具合にそれぞれのクラスの特性が反映される。他にもその英霊たらしめる固有のスキルも存在するが、そのどちらも使用者たる藤丸立花から確認出来ないということになる。ここまでくると最早相性の問題としか思えない。
「……どの霊基グラフとも一致しない。私の作ったカードで在りながら未知とは、厄介なものですね」
「そうですか……。すみません、俺にもう少し魔力があればヒントが増えるのに」
「そうかもしれません。しかし、真名が分からないのであれば宝具も使用出来ないということになる。それなのにこのカードを使い続けるのですか?」
「…………」
確認を終えたカードを受け取った藤丸立花が、無言で夢幻召喚して剣を握った。あまりに細く、下に長い十字架のようにも見える剣。カードが許している力はこの一振りだけだった。その一本に強く力を込めることで、私への返答として示しているようだった。
「他のカードを使用する時に基盤となるので悪くはありませんが、宝具の有無で大きく戦況が変わることを忘れぬように」
「肝に銘じておきます、ありがとうございました」
カードを
「あ、アンジェリカさん。もうすぐ第二特異点のオーダーが始まるんですけど、少しでいいから管制室でモニターしてくれたりしませんか?」
「……何故ですか? 私の仕事はクラスカードに関すること。回収作業に関しても作成した礼装に収納すれば事足りる。管制室まで行ってモニターする必要は――」
「これからのオーダーはきっともっと厳しくなります。特異点に流出したクラスカードが悪用されていないとも限らない。扱いに関して、アドバイスが必要になる時がきっと来ます。その時管制室にいれば他の職員との連携や相談も容易です!」
「…………」
「それに、工房にずっと引き籠っててもそんなにいいことないですよ」
「…………」
意図が読めない。私の仕事はこの工房で完結している。言い分のメリットは認めるが、どれもだからといって無理をして外に出る程とは思えない。ならば、何の狙いがある? この少年は、何を求めている?
「何のつもりですか? 追加の仕事があるのなら受けますが」
「いやそういうわけじゃないんだけど……。折角カルデアの仲間なんだから、他の皆とも顔を合わせた方がいいんじゃないかなって」
「仲間、ですか」
確かに自分もこのカルデアに勤務している人間の一人だ。例の爆発事故で職員が減ってしまった為、いくらか専門外の仕事が回ってくることもあった。彼らとの強力体制をより深いものにするべきだと、そう言っているのだろうか。
「それもそうだし、所長とももう少し話した方がいいと思うんだ」
所長というのはもちろんオルガマリー所長のことだ。彼女からの仕事は大抵メールで飛んでくるので顔をあわせるどころか見かける機会すら殆どなかった。もしかすると、上下関係が希薄になることを懸念しての提案なのかもしれない。
「なんとなく、アンジェリカさんなら所長ともうまくやれそうな気がして……」
「……分かりました。なら次のオーダーの時に何度か管制室に行きましょう。それでいいですか?」
「その方がいいと思います。じゃあお願いします、ありがとうございました!」
私が承諾するや否や、胸をなでおろした様子になり、客人はようやく工房を去った。
結果的に仕事が1つ増えたが、大した問題ではないだろう。そんなことを記憶に留めつつ、オルレアンで回収したカードの分析作業に戻ることにする。次のオーダーが始まるまでに終わらせねばならないと、キーボードを叩く指に意識を集中させていった。
その後始まった第二特異点のオーダー。そこで異境のマスターと私の知らないクラスカードの登場に彼の提案したことのメリットが的中したこと、オルガマリー所長が思ったより小さいことを再認識することになるのだった。身長差と、専門家である為に信頼を寄せてくる感覚。
不意に、これくらいの■がいたような、そんな気がした。
クラスカードの専門家としてプリヤから登場のアンジェリカさんです。
ただプリヤ原作とも背景がちょっと違います。詳細は追々。