夢幻召喚で戦うカルデアの話   作:棚木 千波

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~Attention~

・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。


#24 迸る思いは交差して

 

【side:フィオレ】

 

 薄暗い地下通路を高速で進んでいく。これだけでも、かつての私からすれば考えられない状況だ。場所はロンドンの地下であり、隣には別の世界の少年が同じくらいのスピードで追随している。その速度も人間の限界を越えたものであることもそうだが、それよりも。

 

「私がこんな風に走れるようになるとは、分からないものですね」

 

「そうなんですか?」

 

「あ、聞こえてしまいましたか」

 

 思わず零れた呟きにフジマルが反応を示した。耳がいいというよりはずっと私を心配しているのかもしれない。有り難いと思う反面、先ほどの動揺した様子からなのではと思うと面映ゆくなってくる。

 

「……カウレスから私の足のことは聞きましたか?」

 

 聞かれたからには仕方ないと思い、そのついでに確認をとることにした。元々私の足は生まれつき変質した魔術回路によって、一切の動きを許さなかった。その所為で車椅子での生活を強いられ、ついには聖杯大戦に参戦する理由となっていた。

 その聖杯大戦で色々あった結果、私は魔術回路を手放すことで自らの足を取り戻した。その後リハビリを経てどうにか歩けなくもない状態になったのが、今の私だった。

 

「はい、少しだけ。車いすが必要なくなったからって動きすぎだってぼやいてました」

 

「ははは、あの時の私だとそうかもしれませんね」

 

 正直カードに捕らわれていた時のことはあまり覚えてないのだが、何をしていたのかは分かっている。このロンドンに来てからこの人たちには恥ずかしい所しか見せてないなぁと頬が熱くなりそうになる。だけどそんな思考になるくらいには頭が冷えてきたようだ。

 

「実際、元の世界でも車いすはもう使っていません。だけどまた杖を使って歩くのがやっとで、走ることは出来ないんです。そもそも走る必要もない日々なのですが」

 

「え、遅刻しそうな時とか走ったりしないんですか?!」

 

「時間に余裕を持つのは当然ですから」

 

「すごい優雅……。じゃあ今みたいに走るのは本当に珍しいんだ」

 

「実はそうかもしれません。これもカードの力だと思うと不思議ですけど」

 

 今の私の核となっているカードを想いながら、自らの胸に手を当てる。あのアーチャーの力がそこに感じられるような気がして、それが私を走らせているのかもしれないとすら思う。

 

『カウレスの反応が地上に到達したわ。急ぎなさい!』

 

「とばしましょう、フィオレさん」

 

「えぇ、早く地上に戻らないと――!」

 

 カルデアの所長からの伝達を聞いてフジマルと顔を見合わせる。今は少しでも早く地下通路を駆け抜けてカウレスに追いつかなければならない。今度は私がカウレスの目を覚まさせる番だ。

 

『姉ちゃんは、もう魔術師にならなくていいんだ』

 

 弟が私に放った言葉がフラッシュバックする。それは私が手放したモノを引き受けた者からの優しさ、そして頼もしさの表れだ。それに助けられたから一般人として生きる私がいる。そんな私が再び戦いの渦中に飛び込むことを弟は拒み、私自身もまだ抵抗を感じていた。だとしても、だ。

 

(それでも私は、もう一度戦ってみせるから)

 

 そんな決意で気を引き締め直して若干の不安と恐怖を飲み下しながら、地上を目指して歩を進めた。

 

 

 

 

 地下の冷たく湿ったような空気から、ピリピリとした空気に変わったことを肌で感じる。それは緊張による比喩ではなく、物理的な現象としてロンドンに現出していた。

 

「来たんだな、二人とも」

 

「カウレス……」

 

 バチバチと音が鳴る霧に囲まれながら、その中心で待ち構えるように佇むカウレスのもとに私たちは辿り着いた。それを望んでいたとでも言いたげな安堵の色を見せる弟の姿がどこか歪に見えて、私の中で警鐘が鳴り始める。

 

「カウレス、今自分が何をしているのか理解はしているの? とても正気には見えないのだけど」

 

「理解はしてるつもりだ。その上でどうにもならないんだ、そこは悪いと思ってる」

 

「やっぱり、操られてる?」

 

「……手短に言う。あまり時間があるとは思えないからな」

 

 明確な返事はなくとも、私たちと向かいあって話すこと自体がその証明だった。万が一も消えたことを認識しつつ、表面上を取り繕いながらその言葉に耳を傾ける。

 

「今の俺をバッキンガム宮殿上空に到達させること。それがアイツらの設定したゴールだ。カードと一緒に与えられたそのオーダーに、俺は逆らえない」

 

『それはその状態が関係してると見ていいのね?』

 

「そうだ。この雷が魔霧を活性化させる力を持ってる。だから俺があの場所に行く前に止めてほしい」

 

 歯ぎしりすら浮かべそうな顔で懇願するカウレスに、胸が締めつけられるような感覚を覚える。

 そんな精一杯の訴えと共に一つの雷玉が弾けた。それを合図にしてプラズマが天へと続く階段を作り出す。あの先がきっとこの特異点、ひいては人類史の終着点となるのだろう。

 

「……こんな気分だったんだな、姉さん」

 

 戦いが始まる寸前で、敵となった少年が呟いた。風が吹けばあっという間に流されてしまいそうな程に小さい声は、確かに私の耳に届く。

 

「ええ、きっとそうなのでしょう。でも私に戦うなとは言いませんよね?」

 

「本当は俺も逃げたいくらいだけどな」

 

 けどそれは出来ないとお互いに理解していた。そもそも与えられたカードによって行動は縛られているし、それを止める為にきたのが私たちだ。

 

『この魔力反応、アルテラやあの時の芥に匹敵する数値よ。全力で行きなさい!』

 

「そんなにか……。手加減とかも無理だよね?」

 

「生憎、今なら()()()()()()にも勝てるかもしれないくらいには力が漲ってる。それでも何とか出来るんだろ、カルデアなら」

 

「言ってくれるなぁ。分かった、全力でいく!」

 

 覚悟を決めたフジマルが剣を抜く横で私も弓矢を手にした。かつて自分と共に戦ってくれた、あの英雄の持ち物をこの手で使うというこの事態にはまだ慣れない所もあるけれど。

 

「力を貸してくださいアーチャー。弟を助ける為に!」

 

 もう魔術師ではないとしても、姉として戦うのにそれ以上の理由は必要ない。そんな決心が私の身体を突き動かし、矢を射る動作を始める。それを流れるように行う中に彼の力添えを感じた。

 

 

 

 

「行くぞフジマル、姉さん!」

 

 真っすぐ放たれた矢をあえてスレスレで回避するカウレス。お返しとばかりに二つの電波投射を行った。

 

夢幻召喚(インストール)、ライダー!」

 

 私の矢以上の速さを持った雷撃を、フジマルが盾で横に弾く。見てから反応したと言うよりは予想していたから対処できたと言う方が近いようだ。つまりは視認してからでは間に合わない程に速い攻撃が、私に向かっても飛ばされており――

 

「! 守護者の錫腕(ユーピタ―)か」

 

 そんな雷撃の一つが金属腕で瞬時に巻き取られる。このように来ることさえ分かっていれば対策は可能であり、後は接続強化型魔術礼装の装着が間に合うかどうかだった。

 

「それでもやはり速いですね。フジマル、いけますか!?」

 

「分かった、合わせる!」

 

「させるわけないだろ!」

 

 カウレスが腕を振るのに合わせて更なる雷が地を走る。道の舗装を砕きながら迫りくる雷撃を避けるべく、放たれる前に私とフジマルは地を蹴っていた。

 

「くぅっ! 弾幕が辛い!」

 

 カウレスが行う攻撃は基本的に雷を飛ぶ凶器として扱っている。つまりは電気の持つ性質も上乗せされており、それが飛来速度とその数に影響していた。つまりは私たちの接近を許さんとする雷の棘だ。その突破はまさしく困難を極めるだろう。

 

追加召喚(チェイン)、ランサー!」

 

 だからフジマルは槍を選んだようだ。左腕のシールドと合わせて数多の雷撃を弾き、或いは振り払う。フジマル自身がまっすぐ突き進む槍となったように、カウレスとの距離を詰めていく。

 

「アーチャー、あなたの弓矢をお借りします」

 

 私には接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)による自動防御があるが、それでもまだ接近するには足りない。そこで魔力を貯めた矢を使った爆風も加えながら、歩を進めていく。

 

「ああ、そうだろうな。姉さんもフジマルもこれくらいで怯んだりはしないよな」

 

『まずい、魔力の充填速度も比じゃないわ!』

 

 通信からの警告と同時に、カウレスの姿が搔き消える。否、そうと見紛うほどの高速移動でフジマルの眼前に出現していた。その手に宿る高電圧の雷が、フジマルの胸を貫かんと波打った。

 

「――壊音の霹靂(サンダラー)ッ!」

 

「ぐっ、カウンターか!」

 

 プラズマが弾けたような音と共にフジマルとカウレスが距離をとってよろめく。フジマルが咄嗟に放った弾で一方的な損害から痛み分けまでの持ち込みに成功していたのだ。フジマルの反射速度にも驚きつつ、私もカウレスに向けて矢をつがえることを始めた。

 

「うっかりしてた。お前はカードのスペシャリストなんだった。その気になれば宝具すら重ねてくるんだったよな?」

 

『手の内は知ってる、とでも言いたいの?』

 

「いや、警戒にこしたことはないってだけだ」

 

 同じ手は食わないとばかりに再び雷撃を浴びせ始めるカウレス。そのバリエーションも壁や地面に伝わせる、自然物の様に上空から降らせると多岐に渡りだす。東の方に聞く雷神の如き猛威だった。

 

『分析が完了したわ! カウレスが夢幻召喚(インストール)させられたのはアーチャー、『二コラ・テスラ』。神の権能だった雷電を人のモノとした、ドレイクと同じ人類史の開拓者!』

 

「ドレイクと同じ!?」

 

「もう何のカードかも分かったのか。制作者がいる利点は大きいな」

 

 フジマルはその正体に、カウレスはカードの真名を看破した早さに驚きを露わにした。聖杯戦争経験者として真名の露呈は致命的なものだ。そこから弱点や宝具の性能が看破される危険性があり、だからこそクラス名で呼ぶのが当たり前だった。

 そんな真名が明らかになるのは看破された時の他に、もう一つ存在することを私は失念していた。

 

「――なら、一気にフルスロットルだ!」

 

 猛獣が唸るような雷の音が周囲で繋がり始める。周囲の霧はその在り方を雷雲へと変え、必死の凶器として秒読みを始めだした。

 

『宝具が来――』

 

「『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!」

 

 それは人類の歩みすら星の歴史から見れば僅かなものであるように。

 

 刹那として私たちを襲った。

 

「ぐうううううっ!」

 

 上下左右、常人の知覚出来る範囲を越える熱量が神速を伴い破壊の嵐を組み上げる。弓矢を収納して防御姿勢のまま後退しても身を焼く熱が離れない。だけど不意にそれが弱まった。

 

「『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』ッ!」

 

「フジマル!?」

 

 眼前に飛んできた戦車が壁となって雷撃を散らしていく。僅かな間だがダメージが軽減されているのを感じながら、救いの手を差し伸べた少年を見て目を見張った。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 それは荒波に揉まれる小舟どころではない。不規則に波打つ雷の海を、その身一つで駆け抜ける影だった。槍を櫂の代わりにしてコンマ数秒発生する隙間を通れるようこじ開け進むフジマルが、宝具使用中という隙を生んだカウレスに近づいていく――!

 

「この感じ、まさか勘だけで避けてないかお前!?」

 

「心眼と言って欲しいな!!」

 

「そんなことが――いや」

 

 わたしもカウレスと同様に驚いてから、その可能性に気づいて落ち着きを取り戻す。

 確かにフジマルが用いているのは心眼スキルなのだろう。けれど真名解放された宝具の全てを回避するなど不可能だ。実際致命的なモノ以外は被弾を許しているが、それでも歩みを止めないでいられる理由。それがフジマルの特異性に由来するものだとすれば。

 

「宝具だけじゃなく、保有スキルの上乗せ!」

 

「何枚カード使ってるんだよそれは……!?」

 

 焦りを声に乗せてなおも宝具を放ち続けるしかないカウレスをフジマルの槍が捉える。その射程を活かすべく、攻撃を繰り出そうとするフジマルが更なる一歩を踏み出した。

 

「くそ、()()()()()()()()()()()……!」

 

「いけない、フジマル!」

 

 わたしが新たに矢を射るのと、カウレスが動き始めるのが同時だった。

 カウレスの宝具の波に一瞬凪が生まれる。その直後、水面にモノが落ちたような更なる大波が放射状に広がり始めた。

 

「宝具、疑似連結」

 

 その手には、見覚えのあるメイスが握られている。見間違えるはずもなく、弟のかつての相棒が使用していた武器で、その宝具を起動した。

 

「『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』……!」

 

「やばっ――」

 

 ガラスが割れるような音が最後の一押しとして響いた直後。

 ロンドンに雷の大樹が出現した。

 

 

 

 

「………………フジ、マル?」

 

 あまりの光量に視界が真っ白に染まったような記憶。それからようやく意識が一瞬飛んでいた事実を受け入れるのと同時に、目の前の光景につい言葉が途切れがちになってしまった。

 

「よかった、なん、とか、無事みたい」

 

『全然よくないから。というかよく回避できたわね……』

 

 私の横でフジマルがひっくり返ったまま通信に返事をした。先ほどからわたしの盾になっていた戦車はその形を大きくひしゃげ、どういうわけかフジマルの槍が突き刺さっていた。お互いダメージは負っているが、最悪を凌ぐことは出来たようだ。

 

「クイックコードとバングル一本分使って何とか。正直生きた心地がしない……!」

 

『今無事ならいいのよ、作らせたモノも役立ったみたいだし。それより今の状況の方がまずいわ』

 

「ええ。まさかここまでの力になるなんて」

 

 戦車に背中を預けながらこっそり振り返って、出現した雷の大樹を視界に入れる。かつて聖杯大戦で聞いたものよりも何倍も迫力を増したそれは、周囲の霧をも巻き込んで肥大化しているように見えた。

 

『フィオレの言う通り、アレはロンドンの魔霧を吸収して力に変えている。マキリ・ゾォルゲンから与えられたカードじゃなくて、元々カウレスの持ってたカードがこの特異点の霧と相性が良すぎるのよ』

 

「自分がカードを複数使ってるのを見て気づいたって言ってたような……」

 

「フジマルの影響があったとしても、いずれはこうなっていたでしょうね。きっとこれを見越して彼らは私たちを呼んだはずですから」

 

 確証を得られたわけではないが、私たちの存在と彼らの計画に何か繋がりがあるのはほぼ確実だろう。現にカウレスを使ってこの特異点を破壊するという目的はあと一歩の所まで来ているのだから。

 

『もう一度あの宝具が放たれれば、活性化した魔霧が爆発的に広がってそれで終わりよ。この意味、分かるわよね?』

 

「……次はないってことは分かった」

 

 真剣そのものなカルデア所長からの通信にフジマルは苦笑を浮かべた。そこには変な気負いは感じられず、上司からの圧にただ困ったという色を見せていた。

 

「恐れはないのですね、フジマル」

 

 それはある種の賞賛が混じったものだった。魔術師ですらなかった少年がカルデアのマスターとして踏んだ場数や経験によって屈強なメンタルを得た。そういう話だと思って言ったのだが、

 

「怖さはあります。ああいや、ちょっと懐かしい気もするけど。でもここで自分たちが何とかしないといけないのは確かだし、カウレスを助けないといけないのは変わってないから」

 

 だから怖くてもやるんだと、目の前の少年は確かな口調で答えた。

 

「そうですね、ここで私たちがやらないといけませんものね」

 

 その言葉で私の迷いも断ち切れた。今私が為すべきことはカウレスを縛るカードを破棄して助け出すこと。その達成だけを目指せばいいのだと再確認した。

 

「――それじゃあフジマル、お願い出来ますか?」

 

「分かった、いこう!」

 

 方針は決まった。最後の一歩を踏み出す覚悟は既に持っていたから、立ち上がるのにも苦労はなかった。その足に力を入れられること自体に感謝しながら、接続強化型魔術礼装を起動した。

 

 

 

 

「もう時間がない、頼むぞ……」

 

 カウレスの握るメイスが溢れんばかりの電荷で揺れ動く。必死で抑えているのか、単にまだ充電が完了していないのかは分からない。けれど猶予が残り僅かであることは確かだった。

 

夢幻召喚(インストール)!」

 

 電撃を受け続けていた戦車が役目を終えてその姿を消す。その陰から現れたフジマルと私の姿をカウレスの瞳が捉えた。

 

「来たか!」

 

「標的確認、方位角固定!」

 

右手で槍を構えたフジマルが空いた左手でカウレスに狙いを定める。それが認識されるのと同時に彼の肘からのジェット噴射で槍が射出された。

 

「『壊音響け、不毀の極槍(ドゥリンダナ・サンダラードライバ)』!」

 

 それは水平に落ちる雷の如く。轟音と共に放たれる、カウレスの扱う電波投射のカウンター。

 

「――っ!」

 

 ヘクトールの逸話通りなら防御は困難を極める。そう判断して迎え撃とうとメイスを構えたカウレス、その強化された動体視力が目の前の対象を正確に認識した。

 

「ああああああああっ!」

 

「正気かよ姉ちゃん!?」

 

 フジマルが宝具として放った槍、そこに取り付くようにして接近を果たした(わたし)の姿があった。驚愕のあまり敵対していることすら一瞬忘れてしまう程の衝撃だったようだが、自らを縛るカードによって新たな対抗手段を構築し始めていた。

 

「人間ロケットとかよく採用したなとしか思えないが、どっちにしろ撃ち落とす!」

 

 そこでカウレスの握るものが剣だったのなら回避を選択したのだろう。だが打撃による迎撃が可能なこの状況であれば、力を込めるのに躊躇は要らなかったらしい。

 

 走る稲妻と飛ぶ槍の交差する刹那。思考を走らせる時間すら惜しい程の間に決着がつく。そう考えて集中していたからだろうか、気づけば自分からその口火を切っていた。

 

「――勝負よ、カウレス!」

 

 槍の先端がカウレスのメイスの射程に届いた瞬間に、槍から降りて地に足を着ける。靴から火花すら散りかねない程の速度を保ちながら、その武装を展開した。

 接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)

 私自身の手で作成し調整した相棒とも呼べる金属腕を広げ、振り下ろされるメイスへと自ら距離を詰めていく。かつて感じていた恐怖は、既にどこかに置いてきたようで見当たらなかった。

 

限定展開(インクルード)!」

 

 金属腕と槍がメイスとぶつかる瞬間に、私はカードを起動した。二本の金属腕が一瞬にして形を変え、円盾と日本刀として下からカウレスの落とす雷を受け止めた。

 

 それが一度目の轟音。攻撃を受け止められたカウレスの顔に動揺が浮かぶが、余裕がないのは私も同じだった。

 

(カード二枚でも重い……!)

 

 接続強化型魔術礼装を介しての限定展開によって、フジマル程ではないにしろ宝具二つ分の上乗せでも相殺が精々だった。むしろいつ押し負けてもおかしくないと判断して次の手へと移行する。

 

強制排出(アンインストール)!」

 

 金属腕にありったけの魔力を込めてカウレスのメイスを受け流す。フレームの歪む音を響かせながら、生まれた隙をついてカウレスの胴体にカードを叩きつけた。

 

「っ!」

 

 見覚えのある光がカウレスを包み始める。槍から降りてからここまでも瞬く間の出来事で、自然と小さく息を吐いた。

 

「――宝具、疑似連結」

 

 その声が私の僅かな希望と排出の光を打ち砕いた。私を見下ろすその瞳には冷酷さと焦りが入り混じっていた。強制排出が届かなかったという事実を飲み込みながら、アンジェリカの言葉を思い出す。

 

『カードによる強制排出魔術は対象がカードの排出を拒まないことが前提です』

 

 つまり敵のカードによる強制力が排出魔術を上回ったことを意味している。すぐさま左手を戻すが、既にカウレスの宝具は起動状態に入っていた。カウレスもインパクトの瞬間、地面に振り下ろすのではなく横に振り切るように切り替えていたのだろう。つまりそれは、追撃を可能とする姿勢である。

 

『他には夢幻召喚(インストール)状態が維持出来ない程のダメージを与えるか、或いは』

 

 接続強化型魔術礼装は既に限界を迎えている。槍も既に弾かれてその勢いを奪われ、私も速度を失っていた。

 

磔刑の(ブラステッド)――」

 

 終わりをもたらす雷鳴が振り下ろされんとするその一瞬。

 

 余波として広がった電撃が私の皮膚を細かく焼き裂く痛みすらねじ伏せて。

 

 私は、その一歩を詰めた。

 

『――或いは、夢幻召喚状態であってもその意識を刈り取り無力化するくらいでしょうか』

 

()――がっ!?!?」

 

 メイスを振りかぶったカウレスの動きが止まり、その瞳が驚愕によって見開かれる。その視線はその胸元に衝撃をもたらした私の右拳に注がれた後、私の顔へと移動した。

 

「たあっ!」

 

「ぐっ!」

 

 隙ありと見てその顎に左の掌底打ちを叩き込む。お互い強化された身とはいえ僅かに心が痛むが、私の動きは止まらない。その動きは私も知らなかったものであり、それでいて今は難なく実践が可能な戦闘技術。

 

「パンクラチオン、アーチャーの――!」

 

「はああああっ!」

 

 左足を軸にして振りぬいた右足のミドルキックが突き刺さり、カウレスの身体がくの字に曲がる。渾身の蹴りによる衝撃がカウレスに膝をつかせ、地に落ちたメイスが重い音を響かせた。

 

「……そう、だよな。夢幻召喚なら、あり得るよな」

 

「意識はまだあるのね。加減を間違えてしまったかしら」

 

 どの口が、と薄く笑うカウレスに動く気配はない。気を失わせてカードを排出させるまでにはいかなかったようだけど、再起不能にすることには叶ったようだった。

 

「はやく排出(アンインストール)を、させてくれ。また動けるようになる、前に」

 

「そう、もう抵抗はしないわね?」

 

 息も絶え絶えなカウレスにカードを向け、今度こそあのカードを分離させる。それでようやく身体を縛る力が消えたのか、そのまま後ろに倒れ込むカウレス。

 

「もしかして、本当に加減を間違えて?」

 

「……多分これ、核に亀裂か何かが入ってるんじゃないのかってくらいのダメージだな」

 

「ごめんなさいカウレス!? 体術を決め手にするなんて初めてだったから!」

 

 慌ててカウレスに近寄って、やってきたフジマルの手も借りながら治療に着手し始める。因みに私とフジマルも消耗していたけど、カウレスの容態がそれを悪い意味で上回っていた。

 

「どっちかっていうと、姉さんが殴る蹴るしてきたって事実の方が衝撃的でさ。それで動揺して身構えすら解いちゃったんだよ。予想はすべきだったのに」

 

「肉弾戦を仕掛けたのがそんなに意外? 確かに私も肝が冷えたけど」

 

 接続強化型魔術礼装を使った戦闘とは全く異なる射程、感覚での戦い。アーチャーの力があったとしても万全とは言えなかった。だけどあの時意表を突く為にはコレしかなかったのだ。実際本人も必要以上に驚いてくれたみたいだし。

 

「そりゃそうだろ。いずれ歩けるようにはなるとは知ってたけど、その過程を飛ばしてあの動きは流石にな」

 

「確かにすごいキレだった」

 

「言っておくけど、そんな趣味はありませんから」

 

 弟とフジマルからの賛美が微妙に気恥ずかしくてやや筋違いの否定の言葉が口を出る。正直あんなことは最初で最後だと思いたい。弟が相手だったこととは関係なく、人に直接暴力を振るうあの感覚はあまりいいものではなかったから。

 

「なら安心だな」

 

 力なく笑うカウレスに先ほどまでの雰囲気は感じられない。排出されたカードもフジマルが回収したみたいだし、それでやっと終わったのだと思って大きく息を吐いた。カウレスじゃないけど、そのまま倒れ込んでしまいたいくらいに。

 

「その前の人間ロケットも無茶しすぎだ。それで退避してたフジマルもヤバかったけど、姉さんも突撃してくるなんて思わないだろ普通」

 

「あの雷撃を抜けるにはそれくらいしかなかったんだから。それにカウレスが私を助ける時も近いことをしていたし、お互い様じゃなくて?」

 

「いや、そうだったか……?」

 

 少なくとも私はそう思っている。まぁフジマルがそのまま突撃するという案もあったがそこは譲ってもらったし、フジマルもそのつもりだったようだ。何故と問うのは野暮だろう。

 

「フジマルもありがとう、助かりまし――」

 

 その時の恩も含めて礼を言おうと、振り返った矢先。

 

 

『フジマル、アンジェリカが!』

 

 

 切羽詰まった通信音声が霧の街に響き渡った。

 




宝具の扱いがどんどん雑になっていく……。
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