・オリ設定乱立なので何でも大丈夫な人向け
・FGOシナリオ既読前提です。プリヤ、EXTRA、アポクリファの設定も出てきます。そちらは未読でも大丈夫ですが、無論読んでいただいた方が理解しやすいです。
【side:フィオレ】
「行っちまったか」
「ええ、そのようです」
「お兄ちゃん……」
光が消えていく。彼らがこの時代にいたという証明が力を失っていく。カルデアのレイシフトが終わり、ロンドンの地下空間に三人が異物として残された。
「しんぱいだわ、大丈夫かしら」
「止血が間に合うことを祈るしかありませんね。フジマルがあんなことになる前に、間に合えばよかったのですが」
仕方ないと分かっていてもつい悔やむ声が出てしまう。やっとの思いで地下に辿り着いてみればそこには右手を失ったフジマルが倒れていたのだ。出来ることなんてなかったとしても、そんな惨状を前にすれば自責の念を感じずにはいられなかった。
「マシュって子が相当強かったからな。二人がかりでもやっとだったんだ、これ以上は厳しいだろ」
そう言うカウレスの目も下を向いていた。彼女の所為で私たちも地下に行けなかったとすれば、どちらが地上で足止めしていたか分からなくなってしまう。ひょっとしたらそれも彼女の目的だったのかもしれない。
「そのマシュにも逃げられてしまいましたし、アーチャー達のようにはいきませんね」
「マシュって、さいしょにあのおじさんといた仮面のひと?」
「ああ。地下に入っていったのを見て俺たちも来たんだが、見てないか?」
首を横に振るありすも知らないのならここにも来ていないか、或いは既にこの特異点にはいないのかもしれない。確かめたとしてもそのことを伝える術がない以上、せめて当事者であるフジマルが無事であれと願うばかりだ。
「その辺りはフジマルとアンジェリカを信じるしかないな。オルガマリーさんもいるみたいだし、アレで何とかしてくれるだろ」
「だといいのですが……」
後は彼らに委ねる他ないと実感する矢先、唐突にそれは始まった。
「! 地下が、いやこの特異点ごとですか」
「フジマルたちが言ってた通りか。異変はこれで終わりなんだな」
直後に空間全体が段々と軋み始める音が響く。ただの崩落ではなくこのロンドン全体を閉じる為の動き、すなわち特異点の修復が始まったことをその場の全員が悟った。
「……この場合、俺たちはどうなるんだ?」
「そうね、どのみち私たちもずっとここにいられるわけではないでしょうから、いずれ元の世界に戻るのでしょう。それがサーヴァントのような退去なのか、巻き込まれて死んでからかはわかりませんが」
「いや怖いこと言うなよな」
カウレスが顔を引きつらせるが、真に受けてはいないだろう。そこまではカルデアにも観測できない彼岸の景色であり、当事者である私たちがその身をもって体験するほかない。けどそれが未知であるにも関わらず、漠然とした不安はあっても恐怖はなかった。
「
「……あなたもこの時代の人間ではありませんでしたね。」
私以上に不安そうなのはありすだ。彼女の経緯はよく知らないままだが、異邦人なのは私たちと同じだろう。そうなら彼女も元の世界に帰るはずだと言おうとして、
「ううん。
「あなたは……」
童話のような自分の終わりを告げる少女は、最初からそれが分かっていたようだった。けれど別の終わりを夢見るように、その儚いつづきを語り出した。
「だけど、だけどね、
「……そうだな。約束もあるし、俺たちもまだ終われないか」
「ふふ、そうかもしれませんね」
笑ってみせた少女につられて、私たちも小さく笑みを零す。
実際に私たちがまた会える保障はない。全員が誰かの意志によって呼ばれた身であり、サーヴァントのような再現体に過ぎない。だけど、そこに関する謎もまだ残っているのだ。巻き込まれた一人として、真相を知る権利はあるはずだ。
「こんど会ったときはまたお茶会をしましょう! きっと楽しいわ!」
「その時はフジマルも一緒に。きっと立ち直ってくれるはずです」
「俺たち全員を一度は倒したんだ、きっと大丈夫だろ。……お茶会は普通の奴で頼むぞ?」
私たちの決意とは裏腹に、もう終わりが近いのを感じる。どうやら特異点の修復と同時に私たちも退去してしまうらしい。それまではここでの記憶を脳裏に刻みつけておこうとして、ふと思う。
(そういえば、どうしてありすはあの場所に……?)
浮かんだ疑問が解消されるよりも早く。特異点と意識に終止符が打たれていく――。
☆
【side:???】
「おや、目覚めたか」
身体が何かによって揺れている。それが肩に担いで運ばれているからだという事実を、その男は覚醒して最初に理解した。でもそれが新たな疑問を生んだ。
「なに、大した理由ではないさ。あなたから話が訊きたくてね」
「……何者だ、お前は」
「名乗ってもいいのだが、あまり時間も残されていない。この特異点が消去されればその記憶は消えてしまう。崩落から助けた義理で話してくれると助かるね」
「……何が訊きたい」
気づけば思考が不鮮明のままに相手の提案を呑んでいた。自白剤のような暗示をかけられているのかもしれないが、それでも構わないと思う程度には自暴自棄になっていた。
「あなたの魔霧計画はかの王との接触から始まったものだ。聖杯を使ってロンドンに魔霧を充満させ、最後に起爆してヨーロッパ全体を破壊する。それが当初の予定だったはずだ」
私が諦観の果てに企てた計画をまるで見てきたように男は語る。どこから、どうやって、その事実に辿りついたのか。この男の正体に思考が及ぶより早く、問いが投げかけられる。
「その起爆剤としてあの姉弟を選んだのは君か? それとも別の誰かなのか?」
「……それはあの盾の娘だ。私ではない」
「ふむ、なるほど……やはり……」
たった一言。それだけ聞いて用は済んだと言わんばかりに口を噤み、思案にふけるその姿。自己中心的で気に食わないが、やはりそれが文句として口から出ることはなかった。
「終わりだ。私は間に合わなかった」
「さて、それはどうだろうね」
代わりに出た諦観の言葉に、その者は待ったをかける。けれどその男にとってそれは不変の事実だった。自分は敗北し、この特異点は幕を閉じる。自分の手はもう届かず、後はどちらの手によって終わりがもたらされるかの違いしかない。人類史はどのみち行き止まり、行いの全ては無為に帰すとなれば、意味を見出す意義がないと男は感じていた。
「この時代の魔術師でありながら、あなたはこの時代を起点に終わらせようとした。その絶望は想像するに余りあるのだろう」
「…………」
「あなたの想像通り、どちらが勝利してもその先は何もないのかもしれない。だとしても、その終わり方はまだ確定していないのですよ。あなたが真に世界を憂いて動いたのなら、その思いを汲ませてはくれないだろうか」
「……お前に、何かを託せと?」
「あなたが知る情報を、より詳しく話していただきたい。ここからは仕事としての聴取ではなく、趣味の範疇での要望だ。生き様と言い換えても構わないが」
ガチャリとドアを開ける音で入室したことに気づく。中も相変わらずの石畳で、冷ややかな湿気が表面を僅かに覆っている。その中心部に微かに残った陣の跡を見て、ここがどこかを理解した。
「多少状態が変わってしまったのは大目に見てほしい。確認作業の為に固有結界を開かせる必要があったものでね」
「何故、ここに」
「ここであの姉弟を召喚したのでしょう? その時、マシュ・キリエライトと何を話したか、お聞かせ願いたい」
肩から下ろされ、ようやくその者と顔を合わせる。全てを見透かすような瞳に見つめられながら、気づけば男はその全てを喋っていた。
「――感謝を。これで次の現場へ向かうことが出来ます」
「お前は……」
「あなたはこの時代の人間だ。特異点が消えれば元の歴史に収束する。例え全てなかったことになったとしても、あなたの戦いの証拠はここに受け取った。あとは楽にしているといい」
「…………ふっ」
そう言って姿を消した後、男は一人苦笑した。
最後まで勝手な奴だったと吐き捨てて、或いはそんな者にいいようにされて終わる自分に愛想がつきて。そのまま倒れ込んで、最期までそのままでいることを選択した。
「……急がなくては。まだまだこの事件には謎が多い。それでいてどちらの仕事もこなす必要があるとはね。相棒の一人でも欲しくなるものだ」
コツコツと靴音が通路に響きわたる。いつしかそれは残響へと変わり、静寂となったことで音の主が不在となったことを表わしていた。
以上が、この特異点における来訪者の最後の記録である。
誰なんやろなぁ……。